12
夜会の翌日。
花音様が龍王様に呼ばれ謁見しに行った。内々の話でもあるのか、侍女も護衛も必要ないと言われ時間が空いてしまった。レーナさんからも特に仕事はないといわれ突然の半休だ。
夜会の後、遅くまで片付けに参加していた身としてはありがたい。
しかし、眠っている場合ではない。
昨日壊れてしまった“番隠し”をまた買ってこなければ。
8日ほどで壊れてしまったので、残り2つでは心もとない。
団長への気持ちを自覚したが、気持ちを伝えるつもりも番を名乗り出るつもりもない。
ただ、思っているだけは自由だ。
レーナさんの言葉に救われたような気がして、気持ちは明るかった。
城下町へ出て裏通りを中心に歩き回る。
前回“番隠し”を売ってくれた露店はいなかった。
「はあ。番隠しってそんなに取り扱ってないものなのかな。」
何件か回ったが、どこにも置いておらず思わずため息が出る。
これは今あるもので持たせるしかないのか。
1つ目が8日程度で壊れてしまったので次もそのくらいだと考えると…
「聖女様の護衛があと3日。その後1週間で配置換え…してもらえるかな?」
アルバート殿下の遊学は1週間の予定なので、彼が帰国すれば任務も終わる。
最悪の場合はラビオリ先生に話して獣性抑制剤を処方してもらおう。
劇薬だと言っていたから怒られるかもしれないが、事情を話せばわかってくれる、はずだ。
そんなことを考え、そろそろ帰ろうかとした時だ。
ふと、視界を銀色がかすめた気がして振り返った。
狭い裏通りのさらに奥。
細い路地裏に黒いフードを被った人物が入っていく。
顔はわからないが、外套の下からわずかに覗く銀色の剣鞘。
あれは、パピノリア王国の?
先日の視察の時、アルバート殿下の護衛であるロイド卿が持っていたものに似ている気がする。
ロイド卿はこの国では珍しい銀髪で、白髪のシイラはなんとなく親近感を覚えたのだ。
その時に腰に銀の剣を刺しているのを見て、剣まで髪色とお揃いなんだ、とちょっと面白く思った。
なんでこんなところに…
そっと気配を殺して後を付けてみることにした。
相手は聖女を狙っているという国なのだ。怪しい動きは見逃せない。
物陰から窺っていると、道の中ほどでロイド卿らしき人物が足を止めた。
何かを探しているのか、キョロキョロと辺りを窺っている。
と、路地裏に面した店の扉が開いて小柄な人物が出てきた。
こちらもフードを被っており顔がわからない。
しばらく話し込んでいる様子だったので、物陰に隠れながらゆっくり近づいてみる。
「……で……だな。」
二人の声が微かに聞こえる位置まで来たが、内容まではわからない。
ロイド卿と思われる人物が色々と確認し、小柄な方がそれに相槌を打っている。
もう少し…息を殺してもう数歩近づく。
「ええ。流れはそうです。詳細はこちらで詰めておきます。」
小柄な人物がそう言って、店の扉を閉め中へ戻っていった。
「はあ。」
残された方はため息をついて頭を掻いた。
その拍子にフードがずれて銀髪がわずかにこぼれ出た。
やはりロイド卿で間違いない。
でも、どういうことだろう?
聞き間違いでなければ、もう一人はレーナさんの声だった。
結局、その後も尾行を続けようとしたが、夕方の人並みに紛れて見失ってしまった。
レーナさんとロイド卿は面識がないはず。
なぜ二人が?
聖女を狙っているというパピノリア王国。もし聖女の侍女を味方につけていたら攫うのは容易いだろう。
しかし、それはレーナさんが国を裏切っているということだ。
真面目で自分にも他人にも厳しいレーナさんがそんなことをするとは思えなかった。
私の聞き間違いだろうか。
こんな時に“番隠し”を付けていたことが悔やまれる。
獣性を抑えていなければ二人の匂いでわかったかもしれないのに。
もやもやしながら寮へ帰宅すると、同室のリコリスが飛びついてきた。
「シイラっ!待ってたのよ!!さあ、行くわよ!!」
「え?ええ?ちょっとリコリス?どこ行くの?」
リコリスは手をぐいぐい引いて部屋の外に行こうとする。
「夜会の慰労会よ!メイド達みんなで先輩の部屋に集まってるの。あんたも手伝ってくれたんだし、参加するでしょう?」
「えええ、いいよ。私は明日も仕事だし…」
「そんなのみんな一緒よ。でもいいの。今日は特別なお祝いも兼ねてるんだから。」
「特別なお祝い?」
「ふふふ。あんたんとこの団長さん!もう本当、ナイスって感じよ!!今まで夜会の度にメイド達にちょっかいかけてきた厄介な貴族令息がいたんだけど、今朝ダンデリオン家からそいつらに辺境警備の推薦があったんだって!!」
左遷だやっほい!ざまあ見なさい!
リコリスはそう言いながら拳を突き上げた。
よっぽど恨みが募っていたらしい。
「そ、そうなの。」
貴族令息と聞いて昨日の3人組が頭をよぎった。
まさかね。
「というわけだから、大きな声じゃ言えないけど私達的には祝杯をあげたいのよ。そいうわけで慰労会、ね?」
リコリスにパチリとウインクされる。
「しょうがないなあ。」
そう言いながら後に続く。
「ダンデリオン団長は今までもモテたけど、これでメイド達のハートは鷲掴みね!」
「ははははは。」
「何よ、あんたの自慢の団長さんが褒められたのに。あ!さては、焼きもちね?やっと認めたのかしら~?」
リコリスがにやにやしながら頬をつついてくる。
思わず言葉に詰まってしまった。顔がじわじわ赤くなるのがわかる。
「え?もしかして…本当に自覚した感じなの?」
その反応にリコリスがびっくりしたように動きを止めた。
「う、その……私そんな分かりやすかったかな?」
自分の気持ちをはっきり自覚したのは昨日なのになぜこうも筒抜けなのか。
「そりゃ、シイラの口から出る話ってだいたい団長さんの話だし、褒める時は団長さんが基準だし?」
リコリスの言葉に墓穴を掘ったことを確信した。
なんだそれ。だいぶ恥ずかしいやつじゃん。
「でも、そっかあ。散々からかっておいて何だけど…なんでこんなタイミングで…」
リコリスが急に真面目な顔で声を落とした。
花音様と団長が婚約したという噂は城の誰もが知っている。
「いいのいいの。思うだけで十分だし、婚約のことがなくたって叶うような相手じゃないんだから。まあ、さすがに結婚式は見たくないから、近々私も地方に行こうかとは思ってるんだけどね。」
暗くならないよう笑ってそう言うとリコリスも少しほっとしたように表情を緩めた。
「そっか。……よし!今日は飲むわよ~!!」
そう言って思い切り肩を組まれた。
「わかった、わかった。私のことより、リコリスもでしょ。ベイルは本気だと思うけど?」
「なっ!私のことはいいのよ!」
騒がしく話しながら慰労会へ向かう。
明るいリコリスのおかげで先ほどまでのもやもやした気持ちは晴れていた。




