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「やあ、初めまして。パピノリア王国第二王子、アルバート・フォン・パピノリアです。」


金髪碧眼の美少年。スラッとした身体に金色の刺繍で飾られた白い礼服。その姿はまさに絵本に出てくる王子様のようだ。少し幼さが残るような顔立ちは15~16歳の成長期ならではだろうか。にっこりと笑うとどこか可愛らしさも感じる。


「は、始めまして。沢村花音です。」


差し出された手を見て、少し緊張した様子の花音様が手を握り返す。


「ドラゴニア王国の聖女様にこうしてお会いできるなんて光栄です。汚染区浄化の話は我が国にも“奇跡の乙女”として伝わっているんです。」


憧れをこめた瞳を向けられて花音様が照れたように身じろぎをする。


「そ、そんな。奇跡なんてものでは…。その、たまたまです。本当に。それに聖女なんて柄じゃないので、普通に花音と呼んでください。」


「では、私もアルバートとお呼びください。」


にっこりと笑ったアルバート殿下は花音様を質問攻めにしそうな勢いで話している。それでも王子としての品位はしっかり保たれていて、不躾だと感じさせないのは流石王族、といったところだろうか。

その様子を見ながらシイラは内心ため息をついた。


話が違う。

もっとこう、聖女を狙う悪どい感じの王子が来ると思っていたのに。もしくは色仕掛けみたいな軽薄な奴。


それなのに、なんだろう。

この、憧れのヒーローに初めて会った子どものようなキラキラした感じは。

第二王子が来ていると知り花音様には近づかせない、と思っていたのに。

これでは子どもの夢を壊すようで非常にやりづらい。




急に入った視察という名目の聖女と第二王子との交流。そのために花音様と私、そしてアルバート殿下と護衛のロイド卿、その4人で城下町へ向かう。


あれ?おかしい。狙われているんじゃなかったのか?クロダイン副団長の“囮”という言葉が頭の中で蘇ってきてちょっとげんなりする。まさかね。


馬車が到着すると護衛のロイド卿が降りて周囲を確認するように見回した。問題ない、というように頷き馬車へ視線を向ける。寡黙な人のようで移動中もほとんど口を開くことはなかった。

アルバート殿下が降りて花音様をエスコートする。

その後に続こうとすれば、護衛のロイド卿が手を差し出そうとしたので少し首を振って必要ないことを示した。エスコートなどされ慣れていないので困るし、手を握れば剣だこがバレてしまうかもしれない。


昼前の城下町は市が立ち並び賑やかだ。


「花音様と視察に来れるなんて本当に嬉しいです。」


ニコニコと笑うアルバート殿下は企みを持っているようには見えない。

念のため賓客の護衛ということで第一騎士団が数名付いているが、向こうの騎士はロイド卿だけである。腕の立つ騎士だとしても何かを企むには少なすぎる。


「私も町へはまだ少ししか来たことがなくて。うまくご案内できるかわかりませんが、頑張りますね。」


楽しそうな殿下につられ花音様もだいぶリラックスした表情で会話している。


「獣王国は魔力に頼らない生活を進めていると聞いています。我が国ではなかなかない発想なので興味深くて。」


「そうなんですね。私の国では魔法なんて全くなかったから魔法が使えるっていう方が不思議な感じがします。」


そう言いながらキョロキョロと物珍しそうに辺りを見ていく。時折店主に質問をしたり、珍しい道具を買い求めたりしている。


なんか、本当にちゃんと視察だな。

拍子抜けしたような感じがしながら二人の後についていった。




城下町に詳しい者が少なかったため、主にシイラや護衛の騎士達が店に案内する。

青果店やパン屋、鍛冶屋や雑貨屋など一通りの店を回ったところで昼食にしようという話になった。


しかしこの辺りは庶民街で一国の王子が入れるような店はない。貴族街へ行くにも馬車まで戻り移動するとなると結構な時間になってしまうだろう。


どうしたものか、と悩んでいると道行く人達が食べていたケチャというサンドイッチを見たアルバート殿下が「あれが美味しそうだ」と言い出した。

まさか王子に食べ歩きをさせるわけには、と思ったが本人はあまり気にした風もなくいそいそと屋台に並ぼうとしている。


慌てて広場のベンチへ案内しアルバート殿下と花音様をそこに座らせケチャを買いに走った。


ケチャはスパイスを効かせた肉を薄切りにして野菜と一緒にふかふかの生地で包んだものだ。具材やソースも自分の好みで選べ安価なため庶民には昼食として重宝されている。

嫌いなものがあったか確認し忘れた、と思っているとロイド卿が手伝いに来てくれた。


二人で殿下と花音様、護衛騎士たちの分までケチャを買っていく。

シイラが注文した後、ロイド卿も続いたがこの国に来たのが初めてのわりに随分とスムーズに注文していた。


要領のいい人なのかな。


シイラの注文方法を見て覚えたのかもしれない。

そんなことを考えていると、店主が熱々のケチャを3ついっぺんに寄越したものだから落とさず運ぶことに全神経を集中させなければいけなかった。









「美味しいー!」


花音様の嬉しそうな声にアルバート殿下も頷いて同意する。


「本当に。自国ではなかなかこうやって食べることはないので、新鮮です。」


まあ王子様が買い食いはしないだろう。

内心でツッコミをいれる。


「アルバート様は王子様ですもんね。パピノリア王国はどんなところなんですか?」


花音様が無邪気に問いかけた。


「そうですね。ドラゴニアより北にあるのでこちらより寒い国です。冬は雪景色がきれいですよ。雪で色々な彫刻を造って魔法の明かりで一晩中照らすんです。」


「わあ。雪まつりみたい!素敵ですね。パピノリア王国の人はみんな魔法が使えるんですか?」


「いえ、残念ながら。昔は誰でも使えたらしんですが…。代わりに魔晶石という魔力のこもった石を使って魔法を使っているんです。私のブローチなんかも魔晶石を加工したもので護りの魔法が込められているんですよ。」


へえ、と花音様が興味深そうに殿下のブローチを覗き込んだ。


「宝石みたいで綺麗なんですね。」


「いろいろな形や色があるのでアクセサリーとしても人気なんです。小さな物なら…丁度侍女さんが着けている指輪みたいに加工して恋人にプレゼントするのが人気らしいです。」


僕も人づてに聞いただけなんですけどね。

と苦笑しながら殿下が付け足す。


「あ!そういえばシイラも可愛い指輪を着けてるものね!恋人からのプレゼント?」


突然自分に話が振られ焦った。

番隠しです、なんて言えるわけがない。


「いえ、私はそのような相手はおりませんので、自分で購入したものですよ。」


「そうなのね。」


どことなく残念そうな花音様はおそらく恋バナを期待していたのだろう。

期待に添えるような経験がないので諦めてもらうしかない。


「花音様が気に入ったのであれば、後日プレゼントしますよ。または、私がダンデリオン騎士団長に原石を送っておくのでアクセサリーへの加工はそちらにお願いしてはいかがでしょう?」


アクセサリーであれば婚約者様からもらった方がいいでしょうから。


アルバート殿下にそう言われ、花音様はポッと頬を染めた。

団長から指輪を渡される場面を想像したのかもしれない。


二人の会話から外れるようにそっと後ろへ下がった。








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