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女郎花




「母さんも父さんも、疲れちゃったよ」




 母の発言はその通りだと、臍を噛む。

 悲痛な顔をしているのだろう。

 実際には俯いていて見えないが、断言できる。


 空中でも、地中でも、果ては宇宙に逃がしても、あいつらは執拗に父母を追いかけて、利用しようとする。


 何度。

 何度、身体に負担をかけてきた。

 何度、声を殺して泣かせてきた。

 何度、目を覆いたくなる光景を見せてきた。


 疲れた。

 この一言がすべてを語っていた。


 潮時、か。


 傷跡だらけの手をやわく握り、口の端を上げて、満面の笑顔を母に見せた。

 言おう。

 もう、やめるって。


「警官やヒーローの素早い避難誘導とあんたの視野の広さのおかげで人的被害がないのは幸いだけどね。あんたが住宅やら会社やら商業施設やらを壊すたびに、大勢の人に迷惑をかけてお金出してもらって、修復してもらって。母さんも父さんも肩身が狭いんだよ。だからね、母さんも父さんも修復術と逃亡術、それと各々の適正技術を習得する事にしたよ」

「え」


 まだ俯いている母は怒涛の如く言葉を吐き出したかと思えば、大きな溜息を出して、顔を上げた。

 満面の笑顔だった。


「あんたのおっしょーさんに相談したら、紹介してもらえたから。あんたはあんたで頑張んなさい」

「やめてくれ」


 荒げるはずだった声音は、か細いものだった。

 もう一度、止めてくれと言った。

 さんざん苦労をかけてきて、まだ積み重ねさせるなんて。


 わかっている。

 やめたところで、犯罪者が自分を襲わなくなるなんてありえない。

 けれど。もう、父母から離れる必要はなくなる。

 父母を護れるのだ。


「母さん」

「助けに来たって。胸を張って言うあんたの輝く姿を間近で見た事がなかった」


 手を握られて瞠目する。

 いつのまに。

 あんなに大きかった手はこんなにも。


「あれ」

「身体を縮こませて待つだけなのはもうやなんだよ」

「あれ。母さんの手って、こんなに大きくて、ほどよく肉がついてて、低反発だったっけ?」


 おかしいな。この年頃の女性は皮と骨の方が目立っているはずなのに。

 首を傾げていると、母が勢いよく立ち上がらせた。

 その力強さに、そして、笑顔の眩さに目を眇める。


 まるで、ナンバーワンヒーローみたいだ。


「さあ。もうあんたの泣きべそを見るのはこりごりだ。一緒に闘うよ」


 溌溂とした言動に息を呑む。

 次いで、眉尻と口の端が下がる。

 紡ぐ言葉は、決まっていた。






















「さてと。お父さん。もうひと踏ん張りしますか」

「ああ。お母さん。破壊は得意だけど、修復は未知だからね」










(2021.8.20)



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