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「ああああ肩が凝ったあ~!」

湊が二階の廊下で言うと、美里が遮るように言った。

「ちょっと!そんな大きな声で、聞こえたらどうするの?やめてよ、あんまり失礼なことをするのは。」

しかし、理久が顔をしかめて言った。

「でもさ、あの人めっちゃ綺麗過ぎなんだよ。リアルでAPP18の人って初めて見た。絶対あれ、18だよな?」

大河が、我が意を得たりと手を叩いた。

「そう!オレもそう思った!リアルで見たら凄いなーってさ。」

女子達にはどうせ分からないだろう、と思っていたら、意外にも二人は顔を見合わせてから、理久と大河を見た。

「…もしかして、あなた達もクトゥルフ神話好きなの?だから来たとか?」

理久が、え、と目を見開いた。

「え。オレ達も、ってことは君達もか?」

すると美里が、胸を張った。

「そりゃあ私達、民俗学をだからやってるって言っても過言じゃないわよ?今回だって、女二人だしどうしようかって思ってたけど、教授が他に三人生徒が来るからって言うから、じゃあ行けるじゃないって喜んで来たの。私はキーパーもするし、弥生はシナリオだって書くんだから。ニクラス教授を見て、リアルニャル様だって、二人でこっそりすっごく喜んでたんだー。来た甲斐があったって。ニクラス教授、ほんとにイメージにぴったり…。」

ほう、と二人は同時にため息をつく。

大河が、興奮気味に言った。

「だったらオレのシナリオも見てくれよ。さっさと風呂入って来て回さねぇか?ダイスも持って来てるし、シナリオだって六日分六つ持って来た。人数多くても回せるヤツだ。」

理久が、慌てて割り込んだ。

「オレだってシナリオ書いたやつ持って来てるよ?じゃんけん!じゃんけんで決めようよー!」

美里が、顔をしかめて腰に手を置いた。

「ちょっと、弥生だってシナリオ持って来てるんだよ?この子のシナリオめっちゃ凝ってておもしろいんだから!」

湊が、このままじゃ収拾がつかなくなる、と慌てて言った。

「ストップ!分かったから、まず風呂、それからじゃんけんで、誰のシナリオ回すか決めよう。でもさ、時間かかるやつだとまずいぞ?掛かるなら掛かるで、いいとこで止めないと明日に差し支えてニクラス教授にも修三にも迷惑が掛かるじゃないか。理久、写真撮りまくるんじゃなかったのか?大河、ここの孤島観を楽しむんじゃなかったのかよ。とにかく、そんなことで揉めないで、明日からどんな仕事が待ってるのか分からないんだし、落ち着いて決めよう!」

一番落ち着いていなさそうだった、湊がそんなことを言うので、理久は神妙な顔をして、湊を見た。

「お前に言われたら駄目だねえ。分かった、確かにTRPGしに来たわけじゃないし。今日のところはお互いのクトゥルフ愛を語り合うだけで我慢しようか。しっかりやったら、リアルニャル様と写真撮れるかもしれないよ?明日から役に立つことを考えて、今日のところはそうしよう!」

ニクラスと写真、と思うと、女子達も言うことを聞こうと思ったらしい。

五人は頷き合って、風呂が終わったら男子部屋の1号室に集まることを約束し、そこは一旦解散したのだった。


風呂は、古いが思ったより綺麗で広かった。ただ、脱衣所が狭くて着替える時には、お互いに腕が当たって避けながらだったので大変ではあった。

そこで今日の疲れを落として、1号室へと帰って来た男子たちだったが、女子は何かと時間が掛かるのかまだ来ない。

なので、三人は持って来たシナリオを見ながら、ここはどうしたらいい、とか、そんなことを話しながら時を過ごした。

しばらくして、女子の二人が訪ねて来て、その理久が書いたシナリオについて、皆で議論を交わした。内容を知ってしまったら、もうこのシナリオはこのメンバーでは回せないのだが、それでもいろいろ改善点が見えて来て、時が経つのも忘れた。

途中、修三が来て明日は朝9時に、裏山を登った島の中央の、村に行って村人に信仰について聞き込みをして来い、と言われた。

朝食は朝7時から準備されているから、好きな時に降りて行って食べたらいいらしい。

降りて、要に言えば、すぐに出て来ると聞いた。

「夜更かしするなよ。」

修三は、それだけ言い置いて、部屋へと帰って行った。

何やらワクワクとした雰囲気を感じたが、修三にとってもここの土着信仰を調べるというのは、興味深くて楽しみらしい。

それは、ここの女子達二人もそうのようで、しっかり調べて論文を書いたら、卒業の時に役に立つかもしれない、と希望を持っていた。

自分達は経済学部で関係ないのだが、ただの興味だけだとしても、今回の旅行は当たりだと思っていた。

思った通りの島、思った通りの人、思った通りの景色。

ザ・クトゥルフの世界、というのが、目の前にあったからだ。

それから、夜中の0時まで話していた五人だったが、あまりうるさくすると、ここの壁はあまり厚くないようだったし、ニクラスにどう思われるか分からない、と話し合い、寝ることにした。

布団は、自分で押し入れから出して敷くのだが、それも真新しい布団で、シーツも真っ新で、フカフカとして気持ちが良かった。

それに、三人で並んで横になりながら、湊は言った。

「なあ、出来すぎだよな。」

湊の言葉に、もう目を閉じていた理久が、目を開いた。

「え?布団がフカフカなのが?」

湊は、首を振った。

「違うって、全てがだよ。オレ達が体験したいって思ってた、クトゥルフの世界まんまじゃないか。まるで、誰かが知ってて作ったみたいだ。…そう思うと、なんだかちょっと不安なような。」

すると、反対側の隣りの、大河が言った。

「逆だよ。」と、身を起こした。「こういうのを見て、誰かが想像を膨らませて、そうして書いたシナリオをプレイしてたからじゃねぇか?オレ達だって、帰ったらここを元にシナリオを書く。どこかの誰かが、それをプレイして同じ世界を見て楽しんでくれたら嬉しいじゃねぇか。だから、多分オレ達が知ってるシナリオの作者も、こういう所を見て書いたんじゃねぇかなあ。だから、完璧だって感じるんだと思うけどな。」

湊は、首を傾げた。

「あの、ニャルラトホテプもか?あんな人、誰も見たことないと思うけどな。この舞台に立ってるなんて、なかなかないぞ?」

理久が、それには苦笑した。

「あれはたまたまだって。オレ達はラッキーなんだ。みんな、ニャル様を想像で思い浮かべてるけど、APP18はなかなか見られないもんな。それに、あの人でもまだ18じゃないのかもしれない。もっとすごい人を見たことがある人だって居るかも。」

大河は、笑った。

「だな。オレ達はあれ以上を見たことが無かったから、あれが18だって思ってるけど、それ以上を見たことがある人だって居るかもだし、そもそもニクラス教授はニャルラトホテプじゃねぇ。オレ達が勝手に想像して勝手に喜んでるんだからさ。どっちにしろ一緒に行動することで、なんか新しいシナリオが浮かびそうで、ワクワクするよ。」

そんなものかな。

湊は、布団に沈み込みながら、思った。ここへ来た時から、何か別の世界へといざなわれているような、そんな感覚がしたのだ。

それが、回りの全てが自分達をその中へと引きずり込もうとしているようで、こうして寝ていても落ち着かない気持ちになる。

だが、そんな不安もここへ来る時に感じたワクワクした気持ちを思い出す事で、湊の中では段々に溶けて行った。

そうして、目を閉じて意識を手放すと、もう全てが上手く行っているのだと、ただ素直に信じる自分しか居なくなって、眠りの世界へと落ちて行った。

…勘が良いな。

小さく、そんな声がしたようだったが、もう誰も聞いていなかった。

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