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3(裏)

要は、二階の奥から二番目の部屋の前へと到着すると、コンコンと戸を叩いてから、声作って言った。

「皆さん、お食事の準備が出来ました。囲炉裏の側へどうぞ。」

中から、彰の声がする。

「では、食事にしようか。これから一週間共に過ごすのだから、早く慣れて欲しいと思う。」

戸が開いて、全員が緊張気味な様子で立っているのが見える。

そうか、普段でも緊張するタイプの人なのに、こんなに美しいとそうなるよなあ。

要は思ったが、宿の主人に徹しようと、愛想良く見えるようにと気を遣って、言った。

「もう一人のお連れ様も今お戻りになりましたよ、ポルシュ様。」

彰は、頷いて言った。

「私の事はニクラスでいい。それより要、明日からの段取りはどうなっている?」

おい、なんで本名で呼ぶんですか彰さん。

要は思ったが、他の者達の不思議そうな視線を受けて、何とか表情を取り繕って笑顔のまま、答えた。

「はい、問題ないようです。許可も下りておりますし…確認されたいことがありますか?」

何か言いたいことがあるのかもしれない。

すると、彰は即答した。

「ある。」彰は答えて、皆を見た。「明日からの島の探索について、この宿の主人の要に一任しているのだ。ここの僅かな住人達に話をつけてくれているのでね。君達は先に降りて食事を始めていてくれ。」

それを聞いた修三という50歳の男は、このままこの、出資先の男より先に降りて食事をしていいのかと逡巡したようだったが、生徒たちは空腹のようで、縋るような視線を修三に向けている。

それに気付いた修三は、ためらいながらも頷いて、言った。

「はい。では、先に降りています。」

学生たちのホッとした空気を背負って、修三は皆を引き連れて階段を降りて一階の座敷へと向かった。

気配が階段を降りて行くのを待ってから、引き戸を閉じ、要は彰に抗議した。

「彰さん、なんで本名で呼ぶんですか。何か他にあったでしょう?ひろしとかたけしとか何でもいいから。」

彰は、ハアと息をついて、肩の力を抜いた。

「どうして君にまで気を遣わねばならないんだ。もう言ってしまったものは仕方がない、どうせ全部うろ覚えになるのだ。君の名前まで覚えてはいまいよ。それで、部屋割りは?どうなった。」

要は、まだ不服だったが答えた。

「1に若い男三人、2に若い女二人、隣りの3が修三という男です。そして5が彰さんで、6がデニスの予定でしょう。」

彰は、満足げに頷く。

「ならば予定通り最初は修三だな。まあ、体力的に微妙だからあれは治験には向かない。最初に脱落するので良かったのではないか。今夜は予定通りにやれと伝えておけ。じゃあ、デニスは下に待機してるんだな?」

要は、頷いた。

「今頃皆と会って挨拶でもしてるんじゃないですか。指示通りに座る位置を皆に促しているはずです。彰さん、すっかり人当たりのいい美人になってますね。驚きましたよ。」

彰は、ふふんと不敵に笑った。

「そこはこれまで学んで来たから上手く嘘も使ってやって行く。では、お互いにヘマをしないように気を付けよう。行くぞ。」

要は、頷いて彰に従って戸を開いた。

二人は、一階へと足を進めた。


そもそもが存在感のある彰が、綺麗に磨かれた状態で入って来たのだから、場の雰囲気が一気に緊張するのは分かった。

彰は皆の様子に気が付いているのだろうが、素知らぬふりで食事をしている。食事の内容は、彰が指示した彰のために計算されたもので、他の者達にはどうか分からない。

そんな自分勝手なところはあるのだが、バレない所なので要は咎めないことにした。

しばらくして、気を遣って必死に話す修三の努力は報われておらず、彰がそろそろ退屈しているのが分かったので、要は、生徒たちから部屋に返すことにした。

「皆さん、お風呂をどうぞ。あいにく温泉ではありませんが、一応岩風呂なんですよ。大きくはありませんけど、男女共に一度に五人は入れる大きさですので、順番にどうぞ。」

生徒たちも嬉しそうだったが、彰もやっと会話を切り上げられる、とホッとしたのか目が微笑んだように見えた。

「なら、君達から先に入って来るといい。私は最後でいいので。明日からの事を、修三と話しておかねばならないしな。」

そんなことを言っているが、ここの風呂になど入るはずがない。

何しろ、彰は超潔癖なので、脇に持って来て小屋に設置してあるまっさらの簡易シャワーブースで体を洗う予定なのだ。

そんなことは知らない、修三が、頷いて生徒たちを見回した。

「そうさせてもらうといい。君達はもう、風呂に入って寝る準備をしなさい。明日の起床時間は、また知らせに行く。」

湊は理久と大河と目を合わせて頷き合うと、立ち上がった。

「じゃあ、また明日からお願いします。」

湊が言うと、彰が頷いた。

「こちらこそ、よろしく頼む。」

そうして、生徒たちが階段を上がって行く音を聞きながら、彰は言った。

「では、明日なのだが。」と、デニスを見た。「今日、着いてからデニスに島をぐるっと見回らせておいたのだ。」

デニスは、頷いてそれを継いで言った。

「はい。ここは島の南、ここから山の方へと入って行くと、小さな村が一つあります。住人は少なく、寡黙であまり我々がうろうろするのは良く思っていないようでしたが、金を積んでいるので特に何も言われることはありませんでした。そこが、どうやら島の中央にあたるようです。そこから、南西へ少し降りた所に、洞窟が一つあります。そこは、神が降りる場所と言われていて、何かの儀式の時以外は村人は立ち入ることはありません。我々が今回調べるのは、そこになります。」

彰が、神妙な顔をして頷く。

「村人には、外までと言ってある。中まで入るのは、どうあっても許可が下りなかった。だが、私は中も見ようと考えているのだ。」

修三は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「それは…確かにここまで来たのですから、中を調査しないことには分からないでしょう。でも、村人は?立ち合わないのですか。」

デニスが、首を振った。

「今も言ったように、儀式の時以外はあのエリアへ立ち入らないと決まっているのだ。なので、彼らは立ち合いは断固としてしないと言っていた。なので、真実我々が中まで入ったのかどうかは、彼らには分からない。だからこそ、好都合なのです。」

修三は、重々しく頷く。信仰関係は、デリケートでなかなかその中心には立ち入らせてもらえないものなのだ。神域もそうだが、その信仰の深い所も、いくら研究していて貴重な資料になると言っても、よそ者には教えられないと口を閉ざして遠ざけられることが多かった。

なので、修三自身もこれまで、入るなと言われた場所に、密かに立ち入って写真を撮ったりしたこともあった。

今回も、どうやらそうなりそうだった。

「…では、明日はその洞窟に?」

彰は、頷く。

「とりあえずは、朝から学生たちに村人たちから信仰について聞き込みをさせようと思っている。その間に、我々は洞窟の中をザッと見て来る。だいたいの構造が分かったら、明後日からは中を手分けしてしっかり調べて行こう。明日の朝、9時頃ならば皆、畑仕事から帰って寛いでいると要から聞いている。その時間帯に、学生たちをそちらへ行かせ、村人たちを足止めさせよう。もしかしたら、禁忌を冒してでも我々の動きを見張ろうとする村人も居るかもしれない。そちらに気を反らして、先に構造だけでも見ておきたい。」

修三は、頷いた。

「はい。では、彼らには朝から村へ聞き込みに行って来るように言います。その間に、我々は洞窟へ。」

彰は、不敵に微笑んだ。

「…では、そのように。」

そうして、スッと立ち上がると、隙の無い身のこなしでスッスと歩いて、二階へと戻って行った。

…後は、今夜からだな。

要は、それを蔭から見ながら、思っていた。

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