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22

朝の光がうっすらと海の向こうに昇りつつある。

湊は、ハッと目を開けた。見ると、隣りには美里が倒れ、その向こうには、大河、理久、弥生がバラバラに倒れているのが見えた。

そうだ、ニャルラトホテプの挑戦…!

「大河!」湊は、急いでその手を握った。「理久!」

温かい。

二人は、特にどこにも傷もないまま、確かに生きていた。

「う…。」

背後で、美里が動く。

湊は、美里を見た。

「美里さん!終わったんだよ、みんな帰ってきた!ニャルラトホテプは、約束を守ったんだ!」

美里は、ハッと目を開いた。そして、慌てて起き上がると、弥生に駆け寄った。

「弥生!」と、その頬に触れた。「ああ弥生…良かった。もう、もう二度と会えないって…。」

目の前で岩に潰されたんだものな。

湊は、思って大河と理久を見た。同じように、目の前で触手に連れ去られていた二人も、こうして戻って来た。嘘のようだが、あれは確かに目の前で起こったことだった。

「…ニクラス教授は、ニャルラトホテプだったのね。」美里が、もはや悟ったように、淡々と言った。「確かに人には見えなかったわ。あまりにも美しくて、賢くて、狂ってて。私、バカだった。ニャル様は甘くはないのに。最後にあなたが呪文を唱えられなかったら、今頃は私達もミ=ゴに脳だけにされてたところよ。ニャル様、自分では手を下さないのは本当ね。最後まで、配下の神話生物にさせて、見ているだけだったもの。ニャル様に本気で来られたら、私達なんてイチコロだったわ。試して反応を楽しんでいたのよ…そう思うと、本気で対峙してもらえなかったのは、悔しい気もするけど。」

湊は、それを聞いて身震いした。あのニクラスと、本気で渡り合うなんて。

「…もう二度と会いたくない。」湊は、心の底から言った。「例え超常的な力を持っていなくても、人としてだって勝てないよ。今回はラッキーだった。ニャル様が面白がってくれたから、助けてやろうと気まぐれに思っただけだろ。そうでなければ、さっさと終わらせて君も言ったように今頃脳だけだ。早くここから離れて、気が変わって捕まる前に帰らないと。」

美里も、ニャルラトホテプの性格を考えて、ゾッとしたらしい。

慌てて、弥生を揺さぶった。

「弥生!弥生、起きて!帰らないと…とにかく、宿に!」

弥生が、まだぼうっとした感じで目を開いて、言った。

「ええ…?なに?美里…?」

湊も、それを見て慌てて大河と理久の二人を揺すった。

「おい、起きろ!とにかく帰るぞ、早く!」

大河が、ウーンと寝返りを打つ。

「なんだよ湊…まだ眠い…。」

湊は、大河の頭を叩いた。

「馬鹿!急げって言ってるの!理久も!早く!」

そうして、まだ寝ぼけている三人を無理やりせっついて、二人は必死に宿へと戻ったのだった。


宿へ着くと、要が出迎えてくれた。

「おかえりなさい。」と、五人の姿を見て、顔をしかめた。「まずはお風呂ですね。そんなに洞窟探検は大変でしたか?」

湊は、要を見てホッとして、その場に座り込んだ。

「要さん…オレ達、洞窟に閉じ込められて…信じてもらえないかも知れないけど、大変だったんです。村の人が言うことは、本当でした。オレ達は帰してもらったけど、デニスさんがどうなったのか分かりません。」

要は、怪訝な顔をした。

「え?デニス?村の人って?」

美里が、横から言った。

「ほら、昨日信仰について話してくれた人ですよ!要さんが連れて来た…。」

要は、訝しげに美里と湊を見た。

「信仰…?確かに、あの洞窟にはすごく昔の信仰の後とかありますけど、それは遺跡で今は誰も世話もしていませんよ。ここは無人島で、でも釣りとかスキューバダイビングなんかに良いから、本土からお客さんが来るんです。私もここにいつも居る訳じゃないし、あなた方が予約を入れてくださったから来ている。村人なんて一人も居ませんよ。」

湊は、愕然とした。村人が居ない?

その村人を、ここで使っているんじゃなかったのか。そう言って、裏から連れて来たのは要じゃなかったか。

「え、ほら、ここで話しているうちにパニックになって、要さんが奥へ連れて行った男の人ですよ。村があるじゃないですか、きちんと畑も手入れされてあって…。」

要は、あくまでもこちらを疑うような目で見ている。どうやら、要をからかっているのかと、探っているようだ。

「…村にも行ったんですね。でも、あそこは廃村ですよ?畑の作物もありません。私も最近、少し運営費を削減しようとあちらを耕したりしてみましたけど、土がもう駄目で。土造りからやらなければならないと思うと面倒で、それから放置してますけど。」と、茫然としている湊を見て、湊が真剣に言っていると判断したのか、気遣わし気に言った。「やっぱり、あんなところで野宿してまで探索なんかしたから、変な夢を見たんじゃないですか?冒険したいって気持ちは分かりますけど…今日は宿でゆっくりなさったらどうですか。」

湊は、首を振った。

「いえ、夢じゃないんです、ほんとに!」と、ハッとした。「そうだ、修三…先生は?!」

要は、もはや息をついて、答えた。

「修三さんは、朝から散歩に出かけると言って、村の方へ上がって行きましたけど。見晴らしがいいですから。帰って来たら朝食を一緒に取ろうって言っておいてくれと。」

湊は、他の四人を顔を見合わせる。修三は、元気なのか。

「でも…!」

湊が更に言おうとすると、美里が遮った。

「いえ、いいんです。」と、湊を見た。「とにかく、部屋へ帰ろう?着替えないと泥だらけだし、みんな酷い有様。ね、落ち着いて。」

要は、気の毒そうな顔で湊を見て、頷く。

「そう、良かったらお風呂にでも。その間に、朝食をご準備しておきますから。」

言われて、皆が靴を脱いで、床へと上がった。湊は、まだ納得がいかなかったが、それでも美里にせっつかれて、戸惑う大河や理久、弥生と共に、二階へと上がって行った。

1号室の前で、美里は階段の方を見て誰も上がって来ないのを確認し、小声で言った。

「…さあ、話しましょう。着替えは後。部屋へ。」

ぐいぐいと自分たちの部屋の1号室に押し込まれた湊は、美里を振り返って、抗議した。

「なんで話を切り上げたんだよ!要さんの方がおかしいじゃないか。村人の男の人を連れて来たのは、要さんだろ?!」

すると、美里は腕を組んで首を振った。

「だから、ニャル様よ。分からない?きっと、デニスさんもぐるだったんだわ。だって、帰って来なかったじゃない。ニャル様が、最初から全部無かったことにしてしまってるのよ。」

理久が、疲れているので座り込んで、言った。

「オレ…あんまり覚えてないけど、なんか引っ張り込まれたのは覚えてる。必死で湊に掴まってたのに、滑って。水に落ちてから、意識が遠くなった。なんか詳しいところが、あんまり出て来なくて…断片的なんだ。」

それには、大河も頷いた。

「オレも。記憶にかすみが掛かったみてぇに。それで、ニクラス教授は?ええっと、ニャル様だったって?」

それには、美里が頷いた。

「そうよ。最後に、現れたのはニクラス教授だった。私達、最初から分かっていたのに。APP18の人なんて、そうそう居ないのよ。」

大河と理久が、そう驚くこともなく、頷いた。

「…まあ…あの人なら、驚かないけど。でも、こうして帰って来れたでしょ?ロストすることもなく。」と、弥生を見た。「弥生さんだって、確かに岩に潰されたと思ったのに、こうして生きてる。五体満足で。もういいじゃないか、ここは帰ることを考えよう。もう、ほんとに疲れちゃって。」

理久は、今にも寝転んでしまいそうな状態だ。

湊は、これもニャルラトホテプの仕業か、と思った。全ては幻だったのか。

美里が、息をついた。

「分かったわ…私も、正直疲れたの。弥生は訳が分からないみたいだし、私からあの後あったことを話しておくし、湊くんもそうして。」と、戸惑っている弥生の手を取って、言った。「行こう。お風呂入って着替えて来よう。」

美里は、そうして押し掛けて来たにも関わらず、またサッサと出て行った。

湊は、もはや何の恐怖もなく、ただ期待に満ちた顔で自分を見上げている理久と大河に、腹が立った。

記憶が曖昧になって楽なのだろうが、こっちはしっかり頭にこびりついて怖いばっかりなのに。

湊は、仕方なく二人を連れて風呂へと向かいながら、二人が居なくなってからの事をコツコツと話して聞かせたのだった。

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