20(裏)
美里が、落ちて行く二つ目の砂時計の砂を見ながら、言った。
「…多分、それらしい物が幾つも混じっていると思うの。」と、石に視線を落とした。「トラペゾヘドロンのような形だって、恐らくは引っ掛け問題だったのよ。波動って言ったわ。だから、本当にこの神の波動がするような石なんだと思う。だって、トラペゾヘドロンは、召喚する道具なだけで、神様の波動なんかしないと思う。だから、それを考えて、探しましょう。」
それを聞いていた、要と真司は、あの大量の石の中で、正解っぽい石がたった四つだけなのを知っていた。
なので、根性でそれを見つけ出す生徒たちには、頭が下がった。
とはいえ、正解と決めているのは、その四つの中の、たった一つだけだ。
如何にも引っ掛け、といった感じに作った物と、不十分な物、これでもかとこのゲームを知っている者なら手にしたくなるような要素を盛り込んだ物、そして正解の物。
これは、こちらが決めた正解なので、確かに賭けだった。
それを引き当てる、運と勘が必要なのだ。
大河が、次は自分の番だと自然流れて来る涙を拭いながら、絶望的な口調で言った。
「そんなもん…波動なんか、オレ達に分かるのか。ミ=ゴには分かるのかもしれねぇが、あいつらは助けてくれねぇ。見た目で分かるのか。」
美里は、じっと、同じようで一個ずつ個性のある石を見つめながら、言った。
「分からなくても探さなきゃならないわ。あなたが駄目なら私達に順番が回って来る。そして、失敗したら結局同じよ。死ぬしかない。」
大河は、仕方なく石を一個一個手に取るが、とても無理だと思っているようだ。
…案外にメンタルが弱いな。
要は、思った。恐らく、ゲームだとしたら、SAN値チェックで失敗を連発して、かなりSAN値がピンチなのではないだろうか。
湊が、まだ痛む腕のまま、言った。
「大河、諦めるな!オレ達だって同じなんだぞ。探すんだ。何かあるはずだ!」
さっきの二の舞をしてはいけないので、ちらちらと砂時計だけは確認している。
要も真司も、感心していた。湊も、皆と同じものを見て同じものを聞いているのに、結構頑張っている。とはいえ、理久と大河が天井に挟まれそうなったことを思うと、まだ狂気に陥るほどにSAN値は減っていないのかもしれない。
大河は、泣きながら必死に一個一個石を拾い上げた。
さすがに、気の毒になって来たが、それでもこういう趣向が楽しい類の人たちだと聞いているし、恐らく後で想い出したら本人にはたまらないのだろう。
「…あった!」すると、脇に居た大河が、叫んだ。「ほら、黒い上に、トラペゾヘドロンだ!黒い色がその色だろう?!」
要は、画面を操作して、拡大してそれを見た。
…ああ、不十分なヤツだ。
またロボットアームが必要だと担当者を見ると、担当者は構えて要に頷いた。分かっているということだろう。
すると、湊が他の石を手に、言った。
「オレも見つけたんだけど、これは?ほら、中に黒いモヤみたいなのがあるんだよ。」
要は、またそれをアップにした。
…それだよ。
「彰さん、出番があるかもしれませんよ。」要が、横を見た。「スタンバイしてください。」
彰は、あーあと立ち上がった。
「なんだ、もう終わりかと思ったのに。まあ、せっかくいろいろ覚えたのに、もったいないなと思っていたのだ。私の役にとっては、ここが見せ場だろ?任せておけ。」
要は、不安そうに言った。
「予定にないことは言わないでくださいよ。段取りしてるのは霧と風と光と熱ぐらいですからね!もし戦闘になっても、他の力は使わないでください!裏が大変なんですから!」
彰は、ヒラヒラと手を振った。
「わかった。」
本当に分かったんだろうか。
要が思ってモニターへと向き直ると、もう大河が池の前に立って、いた。持っているのは、不十分な石。
大河は、その黒い石を握りしめ、池の淵に立った。
「…これで、勝負だ!」
その石は、大河の手を滑り落ちて池へと落ち込んで行く。
少し間を開けて、ロボットアームが飛び出し、逃げて行く大河を追いかける。
「要さん、ちょっとそこで足止めしてください!」
要と真司は、慌てて走って来る大河へとかぎ爪を向けた。すると、大河は急ブレーキをかけて、どちらへ走るか一瞬、逡巡した。
その隙に、アームは大河を捕らえた。
「引っ張れ!」
掴みかかったアームを、一気に引き戻したので、大河は物凄い勢いで池へと飛ぶように引っ張られた。
「大河!」
湊は、驚くようなスピードで池へと引きずって行かれる大河を追って、走った。
だが、池の手前で必死にダイブして掴もうとした大河の手は、するりとすり抜けて池の中へと引きずり込まれて行った。
「うわあ、ぶぶぶうううう…」
「あーあー水飲んでるんじゃないのか。」
それを見たハリーが、脇で面倒そうに言う。
水を飲んでいたら、吐かせて処置して面倒くさいのだ。
湊は、起き上がりながら、美里を見た。あと、一回。
美里は、もう何度も見て鈍感になってしまったのか、それとも単に涙が尽きたのか、感情のない表情で、湊を見た。
「…最後だわ。これで、駄目だったら、私達も同じ。湊くん、石、探そう?」
要は、もうすぐ退場だな、と思いながら、またセリフを言った。
《スナヲ ナガセ。》
そうして、ゲームは粛々と続いた。
二人は、ボソボソと話している。
「…どっちが行く?」
美里が言う。湊は、もうすっかり自分が行くものだと思っていたので、驚いた顔をした。
「え…オレじゃないのか?」
美里は、苦笑した。
「別に、どっちでも一緒なのよ。だって、残ったって私もどうせミ=ゴに処理されるんだと思うし。でも、あなたが行くのね?」
湊は、しっかりひとつ、頷いた。
「ああ。さっき見つけたこれ、大河は選ばなかったけど、オレはこれで勝負しようと思うんだ。他に、ピンと来る奴が無いし。」
おお、そうしてくれたら、彰さんの退屈が紛れて機嫌良く帰れるんだけどな。
要は思っていたが、美里は、顔をしかめた。
「待って。私の命も懸かってるのよ。一緒に考えて。さっきも、大河くんは初志貫徹とか言って、自分のインスピレーションで選んで駄目だったのよ?あなた、本当にそれで間違いないと思うの?私もそれで救ってくれるつもり?」
そう言われてしまうと、自信が無いようで湊が困った顔をする。
美里が、息をついて、一個の石を差し出した。
「これ。いろんな要素を組み合わせたもので、これまで見た中で何よりニャル様の伏線が張られた石だと思うの。トラペゾヘドロンで、赤くて、中が黒い。でも、私の勘だから、さっきは言い出せなかった。湊くん、そっちの石と、これ。どっちだと思う?」
…あー、それは要素盛沢山のやつ。
要は、湊が悩んでいるのを見て、息をついた。出来たら、それは選ばないで欲しい。彰さんが待ってるし、待たされ損だと思ったら、また不機嫌になるのに。
湊は、差し出された石を見た。砂時計の砂は、今半分を過ぎた辺りなのは確認している。
湊は、いろいろと石を見比べて、表面を触ったりと考えているようだったが、最後には心配そうにこちらを見る、美里に言った。
「…ごめん。やっぱりオレは、こっちだと思う。これに命を懸けるよ…もしかしたら、オレは失敗しても、君は生き残るかもしれないじゃないか。そうしたら、その石を使ってくれ。」
よし!
要は、心の中でガッツポーズをした。これで、気分良く帰れるかもしれない。
湊は、まだ三分の一ほど砂が残っているにも関わらず、立ち上がった。
「石を決めた。入れる。」
池へと歩く湊を、要と真司はモニター越しに見た。湊の勘は、ほんものだ。あの子が居て、良かった。
湊は、意を決して石を、池の中へと投げ入れた。




