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20

美里が、落ちて行く二つ目の砂時計の砂を見ながら、言った。

「…多分、それらしい物が幾つも混じっていると思うの。」と、石に視線を落とした。「トラペゾヘドロンのような形だって、恐らくは引っ掛け問題だったのよ。波動って言ったわ。だから、本当にこの神の波動がするような石なんだと思う。だって、トラペゾヘドロンは、召喚する道具なだけで、神様の波動なんかしないと思う。だから、それを考えて、探しましょう。」

大河は、次は自分の番だと自然流れて来る涙を拭いながら、絶望的な口調で言った。

「そんなもん…波動なんか、オレ達に分かるのか。ミ=ゴには分かるのかもしれねぇが、あいつらは助けてくれねぇ。見た目で分かるのか。」

美里は、じっと、同じようで一個ずつ個性のある石を見つめながら、言った。

「分からなくても探さなきゃならないわ。あなたが駄目なら私達に順番が回って来る。そして、失敗したら結局同じよ。死ぬしかない。」

大河は、仕方なく石を一個一個手に取るが、とても無理だと思っているようだ。

湊が、まだ痛む腕のまま、言った。

「大河、諦めるな!オレ達だって同じなんだぞ。探すんだ。何かあるはずだ!」

さっきの二の舞をしてはいけないので、ちらちらと砂時計だけは確認している。

大河は、湊の視線を感じて、自分も砂時計を見たが、泣きながら必死に一個一個石を拾い上げた。あの砂が落ち切ったら、嫌でも自分が理久と同じことになる。だったら、ここで石を探すしかないのだ。

個性豊かな石たちの中で、ふと、黒っぽい石があるのを見つけた。

それは、赤い色なのだが、形は楕円形で中心部分に何やら黒いモヤのようなものがあり、それを囲むように、針水晶の中のような筋が、火花のように赤くモヤを取り巻いていた。

「…あった!」すると、脇に居た大河が、叫んだ。「ほら、黒い上に、トラペゾヘドロンだ!黒い色がその色だろう?!」

湊は、顔をしかめた。

確かに、深淵を覗き込むとか、浅黒い肌とか、ニャルラトホテプが出て来る時は、黒という色がキーワードになりやすい。

とはいえ、かの神は千の顔を持つと言われていて、決して浅黒い肌の姿だけではなかった。

「オレも見つけたんだけど、これは?」湊は、立ち上がる大河に、言った。「ほら、中に黒いモヤみたいなのがあるんだよ。」

それを見た、大河が顔をしかめた。

「え…」と、それを手に取った。「確かに黒いモヤみたいなのが見える。」

湊は、頷く。

「任せるよ。でも、どっちかかもしれないし、どっちでもないかもしれない…まだ、石がたくさんある。」

大河は、悩んで石を代わる代わる見た。トラペゾヘドロンの方は、黒くて所々赤く、血のような生理的に恐怖を覚える色をしている。

対して湊が見つけて来た方は、形は楕円形で、中に黒いモヤがあり、赤い筋が取り巻いているが、中のモヤに恐怖を覚える…。

砂の、残りは僅かだった。

「…こっちにする。」大河は、自分が見つけた石を握り締めた。「初志貫徹だ。これを見た時、これだ!って思ったんだ。きっとこっちだ!」

湊は、頷いて自分が見つけた石を受け取った。

大河は、その黒い石を握りしめ、池の淵に立った。

「…これで、勝負だ!」

もう、犠牲は増やしたくない。

湊は、必死に祈った。どうか、どうかあれでありますように。

もう、神に祈るよりなかった。しかし、自分が祈っている神が、いったいどの神なのか自分でも分かっていなかった。


その石は、大河の手を滑り落ちて池へと落ち込んで行く。

後ろでただ黙ってみているミ=ゴ達は、動く様子もなかった。ただ、こちらを興味深げに見ているだけだ。

一瞬シーンとした後、水面からまた、触手が躍り出た。

「うわああああ!」

大河は、必死に踵を返して凄い勢いで逃げ出す。

だが、触手はどこまで続くのかと思うほどに長く、入り口付近でミ=ゴ達に阻まれている間に追いつかれ、大河に巻き付いた。

「大河!」

湊は、驚くようなスピードで池へと引きずって行かれる大河を追って、走った。

だが、池の手前で必死にダイブして掴もうとした大河の手は、するりとすり抜けて池の中へと引きずり込まれて行った。

「うわあ、ぶぶぶうううう…」

水の中で何かを叫ぼうとした大河の、吐いた泡だけが水面へと浮き上がって来て、その体は水の中へと消えたのだった。

あれも、不正解だ。

湊は、起き上がりながら、美里を見た。あと、一回。

美里は、もう何度も見て鈍感になってしまったのか、それとも単に涙が尽きたのか、感情のない表情で、湊を見た。

「…最後だわ。これで、駄目だったら、私達も同じ。湊くん、石、探そう?」

湊は、悲しんでいる場合ではなかった。

もう、美里と自分の二人しか残っておらず、チャンスは後一回なのだ。これを逃したら、二人ともあの池へと引きずり込まれ、そうして後に、ミ=ゴに脳だけにされてしまう。

そして、永久にミ=ゴに飼われ、ニャルラトホテプはそんな人類が居たことすら、忘れてしまうのだろう。

美里は、乱れた髪を直そうともせずに、ただ黙々と石を確認しては放っている。

湊はしかし、自分が見つけた、あの石を信じたいと思っていた。恐らくは、あれより他に、目ぼしい石がない。

《スナヲ ナガセ。》

ミ=ゴが、もう特にこちらへ何も言わないままに、ゲームを進める。

湊は、一応他も見ておこう、と、美里と共に砂時計を気にしながら、石を探した。


「…どっちが行く?」

不意に、美里が言う。湊は、もうすっかり自分が行くものだと思っていたので、驚いた顔をした。

「え…オレじゃないのか?」

美里は、苦笑した。

「別に、どっちでも一緒なのよ。だって、残ったって私もどうせミ=ゴに処理されるんだと思うし。でも、あなたが行くのね?」

湊は、しっかりひとつ、頷いた。

「ああ。さっき見つけたこれ、大河は選ばなかったけど、オレはこれで勝負しようと思うんだ。他に、ピンと来る奴が無いし。」

美里は、顔をしかめた。

「待って。私の命も懸かってるのよ。一緒に考えて。さっきも、大河くんは初志貫徹とか言って、自分のインスピレーションで選んで駄目だったのよ?あなた、本当にそれで間違いないと思うの?私もそれで救ってくれるつもり?」

そう言われてしまうと、自信が無かった。

美里が、息をついて、一個の石を差し出した。

「これ。いろんな要素を組み合わせたもので、これまで見た中で何よりニャル様の伏線が張られた石だと思うの。トラペゾヘドロンで、赤くて、中が黒い。でも、私の勘だから、さっきは言い出せなかった。湊くん、そっちの石と、これ。どっちだと思う?」

湊は、差し出された石を見た。砂時計の砂は、今半分を過ぎた辺りなのは確認している。

確かに美里が言う通り、見るからに他の石とは違う石だった。トラペゾヘドロンで、赤く、中に黒いモヤが見える。ただ一つ違うのは、そのモヤに赤い火花のような筋がまとわりついていないことだった。

自分の良しは、楕円形だ。艶々としていて、中がよく見える。こうして並べると、確かに要素が多そうな、美里の石の方が有りそうだった。

だが、湊の感覚は言っていた。この、丸い石の触り心地はどうだろう。中のモヤも、こちらの方が綺麗にクリアに見える。

美里の石の方は、頭ではそっちではと言っているのだが、感覚では、あまりに要素が多過ぎて、反って疑わしいように感じてしまう。

心配そうにこちらを見る、美里に言った。

「…ごめん。やっぱりオレは、こっちだと思う。これに命を懸けるよ…もしかしたら、オレは失敗しても、君は生き残るかもしれないじゃないか。そうしたら、その石を使ってくれ。」

美里が感情的に言い返して来るかと構えたが、もう何も言わなかった。

美里も、ここまで皆を失って来て、もう覚悟も出来たのかもしれない。

湊は、まだ三分の一ほど砂が残っているにも関わらず、立ち上がった。

「石を決めた。入れる。」

池へと歩くと、ミ=ゴ達が興味深そうにこちらを見た。

ように思ったが、どこが目なんだろう。

湊は、これで最後かもしれないと、石を握り締めると、一度美里を見た。美里は、こちらを見て頷いた。

湊は、意を決して石を、池の中へと投げ入れた。

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