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すると、こちらの焦りなど全く意に介さない感じで、ミ=ゴが言った。
《コノ モンダイハ 3カイ ノ チョウセンケンリ ガ アタエラレマス。ヒトツメノ スナガ オチキッタラ ヒトリ ダツラク。フタツメノ スナガ オチキッタラ フタリ ダツラク。サンニンメモ ダツラクト ナレバ チョウセンハ シュウリョウシ ゼンイン ショリ シマス。》
だから三つの砂時計があるのか。
さっきよりは幾分大きめの砂時計とはいえ、だったら早く問題を言ってくれないと、考える時間が…!
湊が、叫ぶようにミ=ゴに言った。
「分かった!それで、問題は何?!早く教えてくれ!」
ミ=ゴは、うるさそうにかぎ爪を振った。
《セツメイガ オワッテイマセン。マダ、チョウセンヲ オエテイナイ ヒトガ ヤルヒツヨウガ アリマス。チョウセンガ オワッテイナイ ヒトガ シッパイシタ バアイ ノコッタヒトニハ チョウセンケンガ アタエラレマス。》
つまり、まだ終わっていないと判定されている、理久と大河が先にやる必要があるということだ。
だが、もし二人のうち一人が、まだ終わっていないのにこれに成功したらどうなるのだろう…?
「ここには、二人挑戦しなければならない人が残っているが、もし一人目で成功したらどうなるんだ?もう一人は?」
ミ=ゴは、特に何の感情もなく、答えた。
《ナシテイナイ ヒトハ ショリサレマス。ナシタ ヒトダケ アルジニ ネガウ ケンリガ アタエラレマス。》
湊は、理久と大河を見た。
つまり、どちらが先にやっても、もう一人が犠牲になると言うことになる。
最初に成功したら後の者が、後に成功したら、最初の者は処理されて居なくなる。
「そんな…救いはないのか。」
しかし、ミ=ゴはそれには答えない。
救いなど、無いということなのだろう。
「…やるしかない。」理久が、青白い顔をしながらも、言った。「どっちが先にやる?大河?」
大河は、迷った。問題が分からないのに、答えようがない。
大河は、言った。
「とにかく、問題だ!問題を言え!砂が無くなる!」
そう、砂時計の砂が、もう三分の一ほど滑り落ちていた。
《サイダンニ アル イケニエノ イシノ ナカカラ タッタヒトツノ アルジノ イシヲ ミツケテ クダサイ。ソレヲ テニシタラ ソチラノ イケニ ナゲイレテ クダサイ。セイカイナラ スナハ トマリマス。》
あの数の石の中から、たった一つだって?!
湊は、山と積まれた赤い石を見つめた。修三が、これを一つ持って来て、あんなことになってしまった。
そういえば、村人の男が何か言っていた。あの中に、犠牲を免れる石があると聞いていると。もしかして、それのことか?!
「その石の、特徴は?!」
理久が叫ぶが、ミ=ゴは冷静に答えた。
《アルジヲ ココロカラ ウヤマイ タタエレバ カナラズ ソノハドウト カタチガ ワカリマス。》
えええええ?波動?!
「とにかく早く!まずは探しましょう!見てみないと分からないわ!」
美里が、急いでその、金の大皿へと駆け寄ると、少しためらってから、思い切ったようにその石の中へと手を突っ込んだ。
そうして、一個一個手の平に乗せて見ている美里に、理久も駆け寄って行って石を調べ始めた。
「おい…そんなの、分かるのかよ。」
大河が、戸惑っている横で、理久はじっと石を見ながら、頷いた。
「きっと分かる。諦めたら終わりなんだ。大河も、早く調べて。これだと思ったのを見つけられた方がから、先に池へ投げ入れるってことにしよう。恨みっこなしだ。」
大河は、慌てて石へと寄った。
「なんだって?!」
二人共、命が懸かっている。
だが、この二人が失敗したなら、自分と美里、どちらかが正解しないとクリアできないのだ。
四人は、必死に石を一つ一つ拾っては探した。
湊は、時間が気になってふと、顔を上げた。
…砂が!
「理久!大河!」湊は、叫んだ。「もう、一個目の砂時計の、砂が無くなる!」
ミ=ゴは、教えてくれないのか。
ミ=ゴを見ると、二体で並んでこちらを見ているだけだ。
話すのが穏やかに感じたので、害を加えないと気を許した感じになっていたが、ミ=ゴから見たら自分の主の遊びに参加しているから手を出さないだけで、主の決めた通りに動くのだ。こちらのことなど、毛ほども心配などしていないのだ。
焦った理久が、ふと皿の底へと目を止めた。
そこには、他の石とは違い、表面が角ばっていて、多面体になっている石が、ひとつ転がっているのが見えた。
多面体…トラペゾヘドロン!
理久は、それを叩くように掴み取った。
「あ!」
大河が、声を上げる。
理久は、それを手にして、叫んだ。
「トラペゾヘドロンだ!」
そうか、ニャルラトホテプ…輝くトラペゾヘドロンで召喚できるから!
他の三人がそう思っていると、理久は急いで走って行って、池の前に立った。
「石をここへ投げ入れるんだな?!」
理久が言うと、ミ=ゴが答えた。
《ハイ。》
理久は、そこへ一瞬ためらった後にその石を放り込む。
全員が、その波があるゆらゆらと揺れる水面を、固唾を飲んで見つめた。大河は、悲壮な顔をしている…これが正解なら、大河はミ=ゴが言う、処分の対象となってしまう。
湊が複雑な気持ちで居ると、その潮の臭いがする水面が、ゆらゆらとした揺れを大きくした。
かと思うと、ぬめぬめと黒光りする、まるでタコの足のような、長い触手のようなものが、何本も伸びて、理久へと襲い掛かった。
「きゃー!!」
美里が、声を上げる。
「理久!!」
湊が、必死にその手を掴んだ。理久は、痛いほど強い力で湊の腕を握り締めた。
「あああああ!湊!どうして…トラペゾヘドロンじゃないのか!」
美里は、後ろで茫然と座り込み、ガクガクと震えてそれを見ていた。
…こいつが、ニクラス教授も連れてったのか…!
湊は、そう思った。恐らくは、ニクラスが居たら、面白くないから。きっとニャルラトホテプは、そんな理由で一人で居たニクラスを襲わせたのだ。
「理久…!駄目だ、力が強過ぎて…!」
湊の腕が、悲鳴を上げている。
腕の付け根から、持って行かれそうな力だった。
「湊!湊離さないでくれ!こいつが、足を掴んでるんだ、体も!」と、触手が腕に巻き付いた。そのぬめぬめの粘液のようなものが、腕に絡みついて来る。「ああ滑る!湊ーー!!」
ズルン、と、腕は滑って抜けた。
「ああああああ!!」
理久の悲鳴と共に、触手は理久を巻き込んで派手な水しぶきを上げて、池の中へと引きずり込んで消えて行った。
「理久ーー!!」
湊は、叫んだ。だが、理久の姿が浮かび上がって来ることは、なかった。
ミ=ゴが、言った。
《ツギノ チョウセンガ ハジマリマス。ダツラクシャハ アトデ カイシュウシテ ショリシテ オキマス。》
落ち着いた声だ。
湊は、つくづくこれは、本当に怪物たちとの戦いなのだと思った。理久は、後でミ=ゴに回収されて、そうして脳だけが、あの筒の中へと収められ、生かされるのだろう。
《スナヲ ナガセ。》
ミ=ゴの声が、無情に言った。
二つ目の砂時計がクルリと回り、そうして、また砂が落ち始めた。
残った石の山は、まだまだ全て確認できそうになかった。




