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2(裏)

ここは、裏バージョンです。ネタバレが嫌なかたは、完結してから裏を読むようにしてください。

要は、ここ数ヶ月のドタバタを思い出して、この日を迎えて感無量だった。

とはいえ、ここからが本番なのだ。

ここ2ヶ月というもの、この彰の持ち島の古民家を何とか住めるように改造し、洞窟内をあちこち見て回り、写真に撮ってそれを元にシナリオをクリスに書かせ、それに基づいて洞窟内に機器を設置し、大改造をした。

村は元々あった廃村をまた作り替え、小さな畑に作物まで植え、それらしく整えた。

島の大改造と平行して、NPCとして参加する、重要な役所のキャラに成り代わる、彰の改造も手掛けていた。

彰は要の言う事ぐらいしか聞かないので、それも要の仕事だった。

またそのNPCというのが、このゲームの尺度でいうとAPP18という、かなり人間離れした美形でなければならなかった。

彰は、元が大変に良いので、磨けばかなりの美形になるはずだった。

しかし普段から自分の容姿にそう興味もない彰には、スキンケアとかヘアケアとか、そういったことは全くして来ないできたので、やっても無駄な事らしかった。

それでもそれが必要なのだととくとくと説き、美容班が日々積み重ねて来た研究の結晶の新しい美容液を惜し気もなく使い、2ヶ月掛けて肌は滑らかに、髪は艶々に整えた。

その細胞学の視点から作られた美容液が間違いないのだと要も研究員達ももろ手を挙げて喜ぶ中、彰はまだ動きなども学ばねばならなかった。

北欧出身でマナーなどを厳しく躾けられ、誰より洗練した動きのステファンに、教師の役目が与えられ、彰はブツブツ文句を言いながらそれを身につけた。

元々物覚えは嫌になるほど良いので、本人さえその気になれば問題なかった。

そうして出来上がったニクラスというキャラで、彰はここへ来たのだ。

そろそろだなと要は、部屋で待つ彰の様子を覗いた。

「彰さん?準備は良いですか、そろそろですよ。」

彰は、憮然とした顔で要を見た。

「ここまでせねばならないなら、私はTRPGなどやるとは言わなかったのに。」と、後ろで束ねた髪を叩いた。「こんな長髪、人生初だ。ちょっと切らずに放って置いただけなのに、このまま伸ばせば良いだの言って。薬で伸ばして2ヶ月で20センチは最高記録だし、治験が出来て良かったが、風呂に入るのが面倒なのだ!」

すこぶる機嫌が悪い。

要は、苦笑した。

「確かにこれをやることでたくさんの薬の治験が出来ているんですから。何かの役に立つかもしれないでしょう?彰さんは取るに足らぬ研究だとか言ってたけど、こうして役に立ってるし。それに、今の彰さんは確かに物凄く美しい容姿ですよ。眉だって整えてもらって、元はいいんですから、これまでだってちゃんとやってれば良かったのに。」

彰は、ふんと横を向いた。

「そうしてどうする。目立つではないか。私は目立つために研究をしているのではないからな。人目に付きたくないのに、ここへ来るまでどれだけの人が私を凝視していたのだ。女ももう今は興味もないし、あのままでも寄ってきたのに、もっと来たら面倒で仕方がないわ。」

確かにそうなんだけど。

要は思った。彰が好き過ぎて殺しに来る女も居るのだ。本当に面倒なのだろう。

「とにかく、今回だけなんですよ。脳神経の班が楽しみにしてるんです。洞窟でいろいろな薬を治験出来る予定なんですから。」と、船のエンジンの音がした。要は、急いで戸口を振り返った。「ああ、来た。じゃあ彰さん、完璧に演じられるって言ってたでしょう?シナリオ通りにお願いします。デニスも下で待機してますから。」

彰は、むっつりと答えた。

「…分かっている。ここまでやって失敗したらと思うとやってられない。うまくやる。」

そうして、要は一階へと降りて、小さな木の枠だけのフロントの裏の控え室へと入り、そこで出待ちをしているデニスと共に来客を待った。


「すみません、東京から来ました、田村と申しますが。」

来た。

要は、デニスに頷きかけてから、努めて愛想良く微笑んで出て行った。

「ああ、田村様ですか。伺っております、お連れ様がお待ちです。どうぞ、中へ。お部屋にご案内致しましょう。」

情報通り、50歳の男が一人、21歳の男三人と20歳の女が二人。

要は、心の中で思いながら、観光気分であちこち写真を撮ったり見回している若者達を、修三という男を先頭に、二階へと案内した。

案内を終えてから、構えていた者達がさっさと食事を座敷へと運ぶのを後目に、フロント裏へと戻った。

そこには、たくさんのモニターが設置されてあって、デニスがその前で振り返った。

「手前から男三人、女二人、男一人で入ったようだ。順調だな。後はジョンだが、大分機嫌が悪かったみたいだが、大丈夫か?」

要は、肩をすくめた。

「文句は言うけど、やることは完璧だから大丈夫だと思うけど。」と、イヤフォンを耳に挿した。「…ふーん、あの子は英語が分かるのか。好都合だな。」

デニスは、頷く。

「スペルがどうの言っているが、読む事ぐらい出来るだろう。ということは、最後の対決が面白い事になりそうじゃないか。しかしあの呪術書というのはうまいこと作ったものだな。経年劣化しているように見せ掛けるのは難しかっただろうに。誰が作った?」

要は、彰の部屋へと廊下を歩く皆を見ながら、答えた。

「クリスだよ。いきなりクトゥルフ神話のシナリオ書けとか言われて、調べまくってすっかりはまったらしいぞ。どこまでも忠実に再現したから、見付けてもらわねば困る、とか言っていた。」と、ジーッとモニターを見た。「…見ろ、みんな彰さんを見て息を飲んでる。」

デニスは、モニターを見て、苦笑した。

「まさかジョンがああなるとは。オレでも驚いたからな。作り物でない美しさ…神が作りたもうたと感じるからこその自然の美だ。美容班達、やるじゃないか。」

決して整形ではない美しさだからこその、人の心に訴える美、というのが、美容班のコンセプトだ。彼らは人の細胞を信じ、それをいかにして助けて人を美しくするのか日々研究しているのだ。それは研究所の中でも異質な目標なので、回りからはあまり評価されていなかった。それが今回の事で、思いもかけず日の目を見たのだ。

「…市販されたら売れるだろうなあ。でもあれ、開発費とか考えたら一本三千万ぐらいになるらしいから、毎日使える人は限られてるんじゃないか。」

デニスは、笑った。

「確かにな。」と、立ち上がった。「さあ、オレは座敷へ行く。君も上に呼びに行かなければならないんじゃないか?」

言われて、要は頷いた。

「そうだな。じゃあ、後は頼んだ。」

そうして、要はまた階段を上がって行ったのだった。


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