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「…必要な物を揃えよう。」ニクラスは、重くなった空気をものともせずに言った。「とにかくはあくまでも、石を戻す事が目的だ。それから、余裕があるようなら中を調べて、修三の様子のヒントのようなものがないか探す。特に変な仕掛けなどはないようだったが…よく見た訳ではないから分からない。余計な事は考えずに、無理のない程度に今日は調べよう。」

要は、今度はペットボトルが入った箱を持って来た。

「さあ、この中から取ってください。」と、黙り込む、皆を見回した。「何かありましたか?なんだか重い空気ですね。」

デニスが、答えた。

「修三が、おかしな病気にかかっているようで、意識がないし、身体中に潰瘍が出来ているんだ。」

要は、仰天した顔をした。

「え?!それって…水疱瘡とかですか。」

ニクラスは、首を振った。

「違うだろう。意識がなくなるほどなのに、熱もない。全身症状は穏やかなものだ。問題は意識がないのと、身体中にできた潰瘍。あのままでは感染して腐ってしまうだろう。三日後まで持てばいいが。」

言われて、湊は目を見開いた。そうか、今は熱がないが、あの水疱が破れた皮膚に菌がついたら全身が菌に冒されて熱が出て、腐って死ぬ。

そう思うと、自然体が震えて来るのを感じた。

要は、険しい顔をした。

「…なら、消毒をしておきましょう。でも…まさか、ですけど。修三さん、洞窟から何か持って来ませんでしたか?」

全員が、息を飲んだ。

ニクラスが、少し置いて、言った。

「…何か知っているのか。」

要は、息をついた。

「やはり。私は…少し聞いているだけですけど。ここで、村人に働いてもらってますのでね。」

美里が、驚いて言った。

「え、信仰のことを村人はあなたに話すんですか。」

要は、渋々頷く。

「長い付き合いですしね。とはいえ、詳しい事は話しませんよ。ただ三年ごとに入れ替わるから、彼らから少しずつ。私は氏子ではないし。詳細は本人に聞いた方がいいかもしれませんね。呼びましょうか。」

ニクラスが、眉を上げた。

「居るのか?」

要は頷く。

「完全に皆ここから居なくなる事はありませんよ。洞窟を守るための人員は、数名残っているんです。今、朝食の後を片付けてくれている村人が居ます。ちょっと待っててください、呼んで来ますから。」

村人が、居る。

三日は居ないから洞窟を探索出来るとニクラスも思っていたようで、それには眉を寄せて黙り込んだ。これではあからさまに探索が出来ない。

すると、要が、あの時村で話を聞いた、見覚えのある男を連れて戻ってきた。

その男は、皆の顔を見た瞬間、いきなり言った。

「なんて事をしやがった!あの洞窟に入ったのか!」

顔を真っ赤にして、怒り狂っている。

湊も皆も縮こまっている中、ニクラスは落ち着いて言った。

「入った事は謝るが、乱すつもりはなかった。ただ、我々のうちの一人が、目を盗んで中の物を持ち帰ってしまったのだ。今、意識が無くて上で横になっている。全身に潰瘍が出ているのだ。」

男は、怒りが収まらない様子だったが、それでもハアハアと息を吐いて気持ちを落ち着けようと努力して、何とか言った。

「…石を持って帰ってるんじゃないのか。」

どうして分かるんだ?

湊は、身を震わせた。ニクラスは、頷いた。

「そうだ。心当たりはあるか?」

男は、長い息を吐くと、言った。

「…だったら、そいつはもう助からねぇ。諦めな。あんたらももう帰った方がいいぞ。」

デニスが、首を振った。

「そういう訳にはいかない。仲間を助けなければならない。今から、石を返しに行こうとしていたところだ。返せば元に戻るんじゃないのか。」

男は、激しく首を振った。

「それはねぇ!あの石の山の中に、たった一つだけ、犠牲を免れる石があると、聞いちゃあいるが…症状が出てるんならそうじゃなかったんだろう。とにかく、もう関わるな!あいつを犠牲にしてお前達が助かるんでいいじゃねぇか!オレは、やっと逃れたんだ!もう関わりたくねぇ!」

要が、横からなだめるように言った。

「もうすぐ儀式だって知ってる。入れ替わりがあって最初にあるからな。もしかしたら、儀式に関係あるのか?君が逃れたってことは、犠牲にならずに済んだってことなんじゃ。」

男は、黙っている。

ニクラスは、言った。

「何か知らんが人を捧げて祈る宗教があるのも確か。もしかして修三は、知らずに自ら生贄になったということなのでは?」

重苦しい沈黙が垂れ込める。

湊は、胸がドキドキとしてくるのを感じた。生贄…人身御供…そんなことが、今の世の中にもまだあるというのか。

その沈黙は長かったが、男は、項垂れて言った。

「…やっと、逃れたんだ。」今度は、泣きそうな顔だ。「あいつは、誰を差し出すと言われた時、皆を犠牲には出来ないと言って自分から石を手に取った。そのあと…神が、神が現れた。」

要は、悲壮な顔をした。

「まさか…一人帰ったと言ってた、正樹(まさき)か?」

男は、頷いた。

「あいつはいい奴だった。だから犠牲になった。だけど三年に一度、神に捧げ物をしないと、オレ達全員が同じように死ぬ。本土に居る奴らも。子供もみんなだ。遥か昔、オレ達の先祖がそう約束して、世の中を思うがままにする呪文やらなんやらを受け取った。神は、あの皿に乗る石の数だけ三年に一度人を捧げよと言った。それを違えたら、全てを殺し、呪文も消えると。だから本土の奴らは、三年に一度必ず誰かを差し出すんでぇ。自分達だけ、呪文の恩恵を受けて裕福に暮らせたらあいつらはいいんだよ。」と、息をついた。「だが、今回はちょっと早いが生贄が見つかった。これで今回の奴らは犠牲にならずに済む。」

ニクラスは、険しい顔で言った。

「…修三をそんな奴らのために犠牲にするわけにはいかない。あの皿の石というが、まだ全く減っていなかったではないか。そんな昔からなら、とっくに山が平らになっていてもおかしくないのに。」

男は、話してしまったことでもうどうでも良くなったのか、ヘラヘラと涙を流しながら笑った。

「そうだ、減らないんだ。神は減らすつもりなんかないんだ。少し減ったように見えても、また気が付くと山と積まれてるって話だ。この事を話すなって禁忌だって、本土の奴らの脅しだよ。神は誰に知られても平気なんでぇ。本土の奴らが、こんなことを知られて阻止されたらヤバいから、知られたくないだけだ。ただオレは、自分だけが無難に逃れて普通の暮らしに戻れたら良かった。オレが来たら、嫁も子供ももう、こんな思いをせずに済むから来たんでぇ!こんな所で死ぬ訳にはいかねぇからな!」

全員が、黙った。

水を打ったように静かな中、湊はガタガタと震えた。

これは、リアルなクトゥルフ神話の中だ。

こんなことが本当だとは思いたくなかったが、しかし目の前の男はそれが確かに存在するのだと言っている。

その神が、日本の神なのかそうでないのか分からない。

しかし、本当にそんなものが、そんな信仰が、ここで昔から続いていたのだ。

ニクラスが、その沈黙を破った。

「…ならばどうにかせねばな。」皆がニクラスを見る。「誰かを犠牲にして己だけ甘い汁を吸っている輩が居ることには我慢がならないが…そもそも、呪いなど信じてはいないが、何らかの力が存在し、それの干渉で修三がああなっているのなら、どうにかせねばならないだろう。この信仰が続く続かないの問題ではなく、関係ない修三は助けたい。君達がこれを続けるのなら、私は止めない。だが、巻き込まれた修三は助ける。なので君は、知っていることは我々に話せ。我々は、その神とやらの恩恵は受けていないのだ。君達の事は、君達の中で解決してくれないか。」

男は、軽くニクラスを睨んだ。

「オレ達だって好き好んでこんなことをしてるんじゃねぇ。呪文を知ってる上の一部の人間のために、犠牲になってるんだ。だが、これが途切れたらオレ達の命も危ないのは知ってる。だからこそ、こんな状況に甘んじてるんじゃねぇか。全員が殺されるんだぞ?お前たちは、神の力を知らねぇからそんなことが言えるんだ。とにかく、あの男はもう無理だ。諦めろ。」

「ならば、君が私達にその神の力を話せばいいだろうが。その神は、口にすることを禁じていないのだろう?」ニクラスが、畳みかけるように言った。「情報を渡せ。何も君に一緒に来いとは言わない。私達が修三を助ける。何でもいい、知っていることを全て話せ。」

要も、心配そうに見守っている。

男は、重い口を開いた。

「…もう、だいぶ話した。神の事は、オレも詳しくは知らねぇ。姿は見た。」と、急に目を力いっぱい見開いた。「…あれは…神じゃねぇ。いや、オレ達が思っている神の形じゃねぇ。見てはならんと言われていたが、オレは見ちまった。あの…あの、大きな理解し難い物体を…。」

体がガタガタと震え、途端に冷や汗が大量に流れて来た。目はあらぬ方向を見ていて、見開いているが焦点が定まっていない。尋常でない怯え方だ。

「物体?」ニクラスは、少しむっとしたような顔をした。「君は、神だと言ったのではないのか。それを物体と?」

男は、話すニクラスの方を見もせずに、続けた。

「真っ黒だ。真っ黒なんだ…あああああ!」男は、頭を抱えて叫び出した。「見ちゃいけねぇ!見てはいけないんだ!!」

要が、慌てて男の肩を掴んだ。

「落ち着け!しっかりしろ、やっと最近落ち着いたのに!」と、皆を見た。「村へ連れて行きます。もう話を聞くのは無理です。儀式の後、こいつだけ暴れ回って大変だったんだが、最近やっと普通に話が出来るようになって。宿を手伝ったりできるようになってたんです。すいませんが、これで。」

要は、そう言うと、こちらの返答を待たずにサッサと男を連れて出て行った。

残された七人は、沈黙の中で固まっていた。真っ黒…黒い影でも見たのか?だが、影だけであんなにおびえるだろうか。発狂したように見えた。それを思い出すだけで、発狂するような姿だってことなのか。

「…神話生物だ。」理久が、呟くように言った。「絶対に、神話生物を見たんだ!普通の神様を見て、あんな風になるもんか!作り話なんかじゃない、クトゥルフ神話が作り話でも、どこかは本当の事が混じってるかもしれないじゃないか!現に目の前でいろいろ起こってるんだ、作り話で片付けられるもんか!」

ニクラスが、うんざりしたように手を振った。

「もういい。どちらにしろ、洞窟へ行って石を返さねばならないのだ。確かに常識では測れないことがここで起こっていたのだ。元へ戻して、対応策が無いか調べよう。この様子ではあまり長い時間をかけていたら、何が起こるが分からないから、皆で手分けして急いで行おう。日が落ちるまでに戻る。水を持って、急いで準備だ。」

全員が頷いたが、湊は気が進まなかった。確かに、そのおかしな信仰が行われていたその場所に、これから行くのだ。中を調べている間に、その神というのが出現したらどうするのだ。

だが、抑えてはいるが興奮がにじみ出ている理久と美里と、何かを決意したような大河、ただ戸惑っているような弥生を見て、湊は自分だけが行きたくないとは言い出せなくて、黙々と皆に混じって、要が持って来てくれた水や、ランタンをリュックサックへと詰めたのだった。

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