11(裏)
探せと言われて、大河は急いで修三の上着の、他のポケットをまさぐった。
すると、上着の内ポケットから、何かが勢い、転がり出て、そうして畳の上へと落ちた。
最初、何かの布だと思ったその塊は、畳へと到達するまでにひらひらと開いて、中から赤い何かが転がり出る。
…そう、それだよ。
彰は、そう思ってそちらを見た。赤い石…人造のルビーを作らせたのだが、特に真っ赤に普通ではない色になるように、細工はさせたはずだった。
暗闇の中で見たそれより、明るい場所で見るそれは、注文した通り、血のような彰には見慣れた赤だった。
どうするのかとデニスは彰に任せようと思っているようで、手を出さない。
彰は、それをゴム手袋をはめたままの手で、拾って胸のポケットへと滑り込ませた。湊と大河の二人が慄いているのが見えたが、これはただのルビーだった。
「これは、元の場所に返す。そうして、面倒がなくなるならそれも良し、そうでないなら、本土の医者に任せるしかないだろう。とにかく、洞窟へ向かおう。二人とも、懐中電灯や、洞窟探索の準備を持って、宿の前へ集まるように、皆に言ってくれ。私達も、準備が出来次第降りて行く。」
そして、ゴム手袋を手から抜くと、部屋のゴミ箱に放り込んで、次だ次だと思いながら、戸から出て行った。
デニスが、二人に何か言った後に、彰を追って来た。
「洞窟探索の準備をするように言って来ました。いよいよですね。」
彰は、頷く。
「前置きが長かった。皆待ちくたびれているのではないか。とはいえ、あれらが何を持って行くのが楽しみだな。それを使って、精々クリスのシナリオと戦って欲しいものだ。しかし、SAN値は既にいくらか減っているんじゃないか?あのゲームのシステムは面白い。能力値、生身の彼らはどんなものか見てやろうではないか。」
デニスは、苦笑した。まだ子供に見える歳だし、所詮一般人なのだ。それを、あまりいたぶるのはデニスの性格では気が進まなかった。
しかし、彰はといえばそうではないようで、あくまでもあれらが楽しむために、自分は尽力しているのだという考えなので、いそいそとリュックサックに水や食べ物を詰めて、準備を進めていた。
一方、要はモニターで見ていたので、流れは知っていた。
そろそろ、誰かが降りて来て、自分に持って行くアイテムが無いかと聞いて来るはずだ。
ここにある物なら、何でも渡していいとクリスには言われていた。かといって、それを渡したからと何かの助けになるかというと、シナリオを見ている限り、そうは思えなかった。
ただ、使い方次第でどうにでもなるような気がするので、要も彼らが楽しむためにも、何でも可能な限り出してやろうと思っていた。
すると、フロントで立つ要に、湊が降りて来て駆け寄って来た。
「要さん!ちょうど良かった、あの、洞窟に探索に行くんですけど。何か、貸してもらえるような物ありませんか。」
要は、大雑把で何が欲しいと言って来るわけでもない湊に、そんな漠然と言うのかよ、と思って顔をしかめた。
「何か、ですか。具体的に何が欲しいのか、言っていただけたらあるか無いかでお答えしますけど。」
湊は、まずかったと思ったのか慌てて考えて答えた。
「ええっと、まず、お水は絶対要ります。それから、もしかしたら要るかもしれないんで、ロープと。懐中電灯はあるし…置いて辺りを照らす、ランタンみたいなのも、あったら助かるかな。懐中電灯は手が塞がるから。」
要は、いちいち頷いた。あるある、それぐらいなら。でも、そんな普通の物でいいのかよ。
「ありますよ。ロープって、巻いてあるヤツで長いのですけどね。担いで行かなきゃなりませんけど、要ります?あと、ランタンもあります。非常用に置いている奴で、油が入っていて火を付けたら10時間ぐらいは持つかな。あるだけ持って来ますよ、待っててください。」
要は、奥へと引っ込んで言われた物を集めた。まだここには他にも、小さな斧や鎌などもある。つるはしもあった。
しかし、向こうから無いかと聞いて来ない限り、出すつもりはない。他にも、常備薬やら傘やらレインコートやらと細々置いてあるのだが、これが全て無駄になるかもと思うと、要は複雑だった。
それでも、言われた通りランタンを六つと、ロープとペットボトルの水を抱えて出て来ると、もう彰とデニスも降りて来ていて、何か話していた。
「持って来ましたよ。あれ?」と皆を見回す。「ああ、水はもっと持って来た方がいいようですね。ランタンを持って来たのでここに置いておきます。これで全部です。」
要は、六つのランタンと、大きく巻かれたロープを置いて、またいそいそとそこを出て行った。彰が居るなら、何やら込み合っているみたいだし、後は任せよう。それより、水がないとか文句を言われたら面倒だ。
要はそう思って、裏へと戻った。
すると、そこに出待ちしている博正が言った。
「おい。どうだ、オレの出番か?」
要は、首を振った。
「いや、まだみたいだよ。今は水を持って行こうと思って。でも、もしかしたら話の流れから出て行かないで済むかもしれないし。もうちょっと待ってて。」
博正は、落ち着かないように体を動かして、戸の方を見た。
「どうかなあ。いろいろ演技の練習して来たんだぞ。あいつらだってロストしないためには、いろいろ情報を持ってた方がいいと思うし。上手いことやると思うぜ。」
要は、なんだかんだ言って自分の出番が無くなるのは嫌だなあと思ってるのを知って、苦笑した。
「じゃあ、促してみますよ。無理やりは不自然になるから駄目だけど、行けそうならそれで。今回は博正さん、大活躍ですね。」
博正は、少し嬉しそうな、そうでないような、複雑な顔をした。
「よせよ、そんなんじゃないっての。」
それなりに楽しんでるんじゃないか。
要は思ったが、それは言わずに、ペットボトルの追加を持ってまた出て行った。




