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結局、集まったのは湊と理久と大河の三人と、他に教授が頼み込んだ民族学科の女生徒二人と、教授の、六人だけだった。
それでも、その海外の教授とやらが求めていたのは五人だったので、十分な人数が集まったと言えるだろう。
六人は、新幹線の中で向かい合い、自己紹介をすることになった。
席は横に四列取ってあり、湊と、理久と大河の三人が進行方向に対して左側、残りの女子二人と教授は右側に座っていた。
こちらから三人が名乗ってから三回生だということ、経済学部だということを告げて頭を下げると、向こうの二人のうち、気の強そうな美人の方が、言った。
「私は、崎原美里です。二回生です。よろしくね。」
美里っていうのか。
湊は、美里の綺麗なストレートの黒髪に見とれた。すると、隣りに座っている、おっとりとした雰囲気の、茶髪のふんわりヘアの女子が、言った。
「私は、中村弥生といいます。美里と同級生です。よろしくお願いします。」
教授が、一通り生徒たちが自己紹介したところで、満足げに頷いた。この教授は、田村修三という。言いやすいので、生徒たちに裏では修三と呼ばれているが、ここでは皆田村先生と呼んでいた。
「このまま、駅へ到着したら迎えの車を手配してくれているらしい。それに乗って、船着き場へ行ったら、そこで待ってる船に乗ってくれと。あちらの教授は先に島の宿に行ってるからと。」
湊は頷きながら、宿があるっていうことは、島といってもそう小さなものではないのかもしれないな、と思っていた。
案外に進んだ島だったら、せっかくのクトゥルフ情緒がなくなってつまらなくなるのでは。
携帯が使えないのが面倒だとか思っておきながら、そんなことを思う自分が、つくづく勝手だな、と思った。
順調に到着した駅では、修三が言う通り、ワゴン車が待っていて、迎えてくれた。
その車に乗って結構な距離を走ると、海が見えて来て、それには湊も理久も、大河もうきうきと沸き立つ気持ちを抑えるのに苦労した。しかし、海が見えて来たことには、女子達も嬉しそうにしていた。やはり、海、というのは不思議な魅力を持っていた。
その島へと渡るには、チャーターされた船しかないとの事で、普段は漁船をしているらしい、その船に六人は乗り込む事になった。
ここまで、かなりの距離を来た気がする。
途中、駅弁などを食べてここまで来たのだが、もう日が傾き始めていて、そろそろ夕飯が恋しい時刻が近づいているようだった。
その島は、大きくもなく小さくもなく、ちょうどいい感じの大きさの島だった。
もちろん、湊達が想像した大きさぐらいというちょうどいい、という感覚だ。
こんもりと繁った森が、薄暗くなって来た辺りに良い感じに不気味で、否応なしに湊達のテンションは上がった。
しかも、船着き場もいい感じに古ぼけており、さっそく理久は、スマホのカメラで写真を撮っていた。
そんな所へ置き去りにされるということに、女子達は不安そうな顔をしたが、こちらの三人は逆にはしゃぎたい気持ちでいっぱいだった。
それでも、女子達の手前子供のようにはしゃぐことも出来なくて、三人は修三の後ろを、黙って荷物を片手について行ったのだった。
その、船着き場からも見えている所には、木造二階建ての大きめの民家のようなものがあった。
灯りが漏れて来ていて、そこに人が居ることが分かる。
二階の部屋にも灯りが灯っていて、部屋数が多いようだった。
修三がその建物へと近付くと、引き戸を開いて、言った。
「すみません、東京から来ました、田村と申しますが。」
すると、中から若い男が出て来て、愛想よく言った。
「ああ、田村様ですか。伺っております、お連れ様がお待ちです。どうぞ、中へ。お部屋にご案内致しましょう。」
ここが宿なんだ。
湊は、改めてその宿を見回した。
この木造の建物の、廃れた感じはどうだ。
中は綺麗に整備されているようだったが、外から見たら灯りが漏れていないと、廃屋なんじゃないかと怖くなるような古い造りの建物なのだ。
「良い感じ…。」
理久が、呟くように言って、パシャパシャと写真を撮っている。
女子達は、顔を見合わせていたが、中へと足を踏み入れると、少しホッとした顔をした。
入り口こそは土間だったが、そこから上がると綺麗に磨かれた廊下が続いていて、脇には新しい畳敷きの囲炉裏がある座敷になっているのだ。
その正面が、今若い男が出て来たフロントらしき場所で、訪問者はここで靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて入るシステムらしい。
その若い男が、言った。
「お履き物はそのままで。こちらで靴箱に入れておきますので。」と、囲炉裏の座敷を示した。「ここで、基本的にお食事をして頂くようになっております。お部屋は二階にございますので、どうぞ。」
そうして、廊下の真ん中あたりにある、階段へと向かって行く。
遅れては大変と、六人は案内の男について、二階へと向かった。
二階へと上がると、障子が並んだ長い廊下があった。端から順番に、番号が振ってあって、ここが客室ななのだと分かる。
手前から1となっているので、向こうへ行くほど数字が大きくなっているようだ。
案内人は、言った。
「こちら、1から3までが田村様ご一行様のお部屋です。これが鍵になります。」と、大きな木の札がついた、鍵を渡された。「一見障子ですが、この白い紙に見えるところは飾りで。裏側は木の板ですので、セキュリティー上問題ありません。お連れ様は5の部屋に居られます。お風呂は、一階の廊下の突き当りに男女分かれてございます。あと30分ほどで夕食の準備が整いますので、下の座敷へお越しください。それでは、ごゆっくりどうぞ。」
修三の手には、鍵が三つ渡された。そして、1の札が付いた鍵を、湊に渡した。
「じゃあ、お前たちはここ。女子達は、2で。オレは、3を使うよ。教授に挨拶したいから、お前たちも荷物を置いたからすぐ出て来てくれないか。それから、飯に行こう。」
言われて、全員が頷き、そうして、それぞれの部屋へと入って行ったのだった。
中は、思ったより広かった。
正面に腰の高さの窓があり、裏の鬱蒼と茂った森がよく見える。
畳の数を数えたら、12枚あって、その上に床の間もあるので、かなり広く見えた。
古いが、クローゼットも押し入れも有り、反対側には、テレビも置かれてあった。思ったより良い感じなので、湊は言った。
「なあ、外は古いけど、中は綺麗じゃないか。畳も新しいし、まだ青いぞ。もっとおどろおどろしいのかと思って構えてたんだけど。」
それには、理久も同意した。
「確かに、あの外観を見たらそう思うよね。でも、実際ここで一週間も生活するのに、あんまりおどろおどろしかったら、病んで来るんじゃない?寝泊りする所はこれぐらいがいいよー。」
大河は、荷物を隅へ置きながら、頷いた。
「だな。オレも覚悟したが、中が綺麗でほっとした。腹減ったけど、これから海外の教授とやらと挨拶だろ?英語だったらどうするよ。困るんだよなーそこだけは。」
理久が、肩をすくめた。
「いいんじゃない?修三に任せようよー。修三の友達なんだしさー。」
すると、湊が言った。
「オレ、英語分かる。」
理久と大河が、仰天したように湊を見た。
「え?!」
如何にも馬鹿っぽいキャラだったのに?!
それが顔に出ていたのか、湊は途端に不機嫌な顔をした。
「お前ら、オレが馬鹿なのになんで、って思っただろ。」
大河と理久は、ハッとして慌ててブンブンと首を振った。
「いや、違う!ただ英語分かるって、それはしゃべれるってことか?」
湊は、渋々頷く。
「うん。オレさあ、見た目みんなとあんま変わんないけど、おばあちゃんがカナダ人なんだ。だから単語のスペルは間違うけど、話は出来るんだよ。だって小さい頃からおばあちゃんと話す時は英語だったし。今でもおばあちゃんとは英語。親戚がたまに来るけどそれも英語。」
湊がバイリンガルだったなんて。
軽いショックを受けた二人だったが、コンコンという戸を叩く音にハッとした。そうだ、教授に会うんだった。
「はい、すぐ行きます。」
湊が扉を開くと、修三が顔をしかめていた。
「荷物を置いたら出て来いって言っただろう。さ、早く。ここの調査費とか宿の手配とか全部やってくれたんだから、礼も言わなきゃならないんだからな。」
言われて、最初からつまづいた、と思った三人だったが、呆れたように見ている女子二人に更に小さくなりながら、その後ろを5の部屋へと、廊下を歩いて向かったのだった。




