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8(裏)

修三に向けて、次の薬が投与されていたが、本人は何も知らなかった。

逐一様子をモニターでチェックしていた要いわく、部屋へ戻った当初はポケットから出した石を眺めてニタニタと気持ちが悪かったそうだが、薬が切れて来るに従って、自分がしたことの重大さを認識し始めて、最後には見たくないというように、ハンカチでぐるぐるに巻いて、麻の夏物の上着の内ポケットに突っ込んで、項垂れていたらしい。

恐らく明日にでもソッと返しておこうと、今頃は思っているのではないかと聞いていた。

その後、しばらくして、エアコンから次の薬が投与され、そして一時間後に撤去された。

その間も修三はただ考え込んでいるようだったが、トイレに行く足取りもおぼつかなくなり、今は昏睡状態ともいえるほど、ぐっすりと深い眠りについている。

そんな状態になる前に、デニスが入って行って風土記を返して欲しいと言ったが、その時も具合が悪いので、勝手に持って行ってくれとモゴモゴと答えていたようだ。

彰は、明日からは洞窟に籠り切りになるのが分かっていたので、その日は早めに部屋へと引き揚げて、シナリオ片手に段取りを確認していた。

「ニクラス教授。」

デニスの声がする。

彰は、答えた。

「デニスか。入れ。」

デニスは、中へと入ってきた。

そして、ドイツ語に切り替えて言った。

『準備は整いました。今頃は生徒達も風土記の中を確認しているでしょう。修三は、明日からここで寝ているだけになりますが、夜の間に工作は終えておきます。』

彰は、頷いた。

『明日からは洞窟でゆっくりできんな。生徒達が優秀なら進むのも速いだろうが、今日の報告を聞いていたら一般的な生徒のようだ。あまり期待はできんな。』

デニスは苦笑した。

『ゲームで言うところの能力値が一般的なようですね。無事に出られる者が居るのかどうか…とはいえ、一人勘が鋭い子が居ます。期待出来そうですよ。』

彰は、クックと笑った。

『どうだかな。あのゲームではあまり頭が良過ぎても面倒だったのではないのか。ヘタなことを気取ってしまって、SAN値を削られて発狂したら生きては出られないだろう。どちらにしろ、楽しみなことだ。私がここまでやったのだ。少しは頑張ってくれねば甲斐のないことだ。』

クックと笑う彰に、真相を知っているデニスでも、思わず背筋が寒くなった。

とはいえ、本当に殺すわけでもないし、あちらがそういうゲームを好きだということで、楽しませてやろう、代わりに検体になれ、ぐらいの気持ちであるはずだったし、それを皆、承知していた。

それなのに、いつもの彰を見ているデニスですら、彰の様子には寒気を覚えた。

その、磨かれて常人離れしてしまっている今の容姿のせいなのか、また、この土地という舞台が出来すぎていてそう感じるのか、デニスにも分からなかった。


彰にとって、このゲームは実験の場だ。

自分の部下達が、日々精進して寝る間も惜しんで作り上げて来た作品を、披露する場所だと思っていた。

そして、検体にさえもそれを楽しんでもらおうと、力を尽くして準備した、最高の舞台だと思っていた。

彰でさえ、いつも研究で使っている能力ではなく、別の分野で自分の頭を使うのは、とても有意義で楽しみな娯楽だった。

幻覚を見せるのも、ただこんな作用の薬使い、こんな風に見えると思います、などとわざわざ説明し、検体に行うのは、その薬品を開発した者にとっても、治験に参加してくれている者にとっても、失礼なことだと思っていた。思いもかけない場所で、最高のシチュエーションで使ってそれを見て、驚いたり、感嘆したりした方が、お互いにとって刺激的な経験として、貴重な記憶となって行くと思うのだ。

だからこそ、このゲームをこよなく愛している者達をここへ揃え、その者達が見たいと思っているその醜悪で暗い、恐怖の深淵とやらを、再現して経験させてやろうと考えた。

あの検体たちは、思った通り、こんな場所に来てまであのゲームの話をして楽しそうにしている。

キャラクターの一人を模倣したこの自分の姿を見て、そのキャラの一人と重ね合わせ、それは嬉し気ではないか。

お互いにとってこれ以上のことがあろうか。

彰は、自分が間違っていないと思っていた。これだけのことをするには、それなりの金も時間もかかっているし、自分の姿一つとっても、ここまで磨くのに結構な努力をしなければならなかった。

もちろん、整形すれば手っ取り早いのだが、自分はそこまでこれに懸けているわけでもない。素地をそのままに、磨いて何とかなるならそれでいい。

彰は、この舞台の上で演じる自分に満足しながら、シャワーブースのある小屋へと入って行ったのだった。

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