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作品説明にも書きました通り、このお話は明日から「裏」と「表」の同時投稿になります。ネタバレが嫌な方は、全て終わってから「裏」バージョンをお読みいただけたらと思います。
「SANチェックです。」
湊は、叫んだ。
「駄目だって、オレもうSAN値34しかないのに!」
しかし、キーパーの声は無情だった。
「悟ってしまったんだから駄目だっての。無駄にINTが高いのが悪いの。アイディアロールに成功しちまったんだからあきらめろ。」
隣りでダイスを握り締める、友達の理久も気の毒そうに頷いた。
「ほら、湊。観念しなよ。もうオレもロストしてるしさあ。今回も無理なんだよきっと。」
キーパーをしている、大河が頷く。
「そうそう、諦めろ。待ったなし。」
湊は、仕方なくダイスを振った。
そうして、盛大に失敗し、発狂して成す術もなくロストの憂き目にあってしまったのだった。
「はあ…。」
湊が、大きなため息をついた。大河が、ダイスを片付けながら、言った。
「このシナリオは難し過ぎたみてぇだな。ま、入り口脇の部屋で呪術本を見付けてなかったから結局最後は厳しいと思ってたよ。」
理久が、頬を膨らませて抗議した。
「ほらあ、だからちゃんと細かくチェックして進んだ方がいいって言ったじゃないか。ずんずん先に行く、湊が悪いんだからね!結局一人で調べてたオレはミ=ゴにやられたしさあ。二人で進んでたら、一緒に戦えたからそこで死なずに済んだかもしれないし、湊が発狂したってオレが引きずって帰れたかもしれないのに。いっつも言ってるけど、慎重に進まなきゃヤバイよ。ニャル様をなめるな。ニャル様を讃える呪文、言えれば何とかなったかもしれないのに。」
湊は、バツが悪そうに理久を見た。理久は、ぷんぷん怒ってこちらを見ている。
確かに、もう何度もこのテーブルトークロールプレイングゲームというのに参加させてもらっているが、自分はどうも、無謀な動きをしてしまうようだ。
この二人は、長くいろいろとやって来たようで、TRPGのことを良く知っていて、どう進むべきなのかも弁えている。
だが、自分は恐怖のあまり先を急いでしまったり、逆にテンションが上がってはっちゃけて細かい所を気にせずに行って、最後に爆死してしまったりと、ロストせずに帰れた例がない。
こんな状態で、よく相手をしてくれるなとこの二人には感心するが、何度言われても同じ過ちを繰り返してしまう自分にも大概呆れていた。
「オレ…向いてないのかな。」
湊が、いつになく暗い様子でそう言う。
それを見た大河と理久は、顔を見合わせた。そうして、大河が言った。
「そう落ち込むなよ。今回のはお前にゃ難しかっただけだって。次は簡単なのを探すよ。そうだな、悪霊の家とかどうだ?みんなやってるし大体は知ってるだろ?コツコツやることを覚えるのにちょうどいいかもしれねぇ。」
理久が、いつもなら気にしない風な湊がそんな風に落ち込んでいるので気になったのか、頷いた。
「そうだよ。言い過ぎたから、そんなに気にしないで。オレ達、湊がクトゥルフやりたいって言ってくれて嬉しかったんだからな。いつも同じメンバーばっかになって飽きてたところだったから、お前の動きって新鮮だし。楽しんでくれてるのが分かると、キーパーやっても一緒にプレイしてもこっちも嬉しい。」
湊は、二人が気を遣ってくれているのが分かるので、暗い様子のまま頷く。
「うん…。次はその呪文覚えて来るよ。」
理久が、苦笑した。
「覚えておかなくても調べていたら知ってる事になるんだけどね。」
大河が、ダイスを箱にしまってから、ため息をついて、言った。
「そうだなあ…じゃあさ、ちょっと気分転換に行かねぇか?旅行だよ。もうすぐ夏休みだし、一週間ぐらいで。」
理久が、あからさまに乗り気なふりをして、言った。
「行く行く!宿でもクトゥルフ出来るよ!場所が変わると気分も変わるから、いいんじゃない?それなりの風情のある所だったらなおいいけど。」
大河が、笑って頷いた。
「風情はあるぞお?」と、スマホを出した。「うちの大学の民俗学の教授が、なんか海外の教授に頼まれたとかで。日本の土着信仰に興味があるとかで、島を見つけたから、夏休みに調査に行くんだってさ。手伝ってくれる学生を五人ぐらい探してるってメールが来てた。土着信仰、島、って、なんかクトゥルフっぽくね?ボランティアだから給料とか出ねぇけど、宿泊代と飯代は負担してくれるらしいぞ。ただ、一週間も島だから、携帯も電波届かないかもだってんで、まだ応募の学生が居ねぇみてぇだ。行ってみてもいいんじゃねぇか?」
湊は、携帯の電波も届かないかもなのか、と少し消極的な顔をした。
「え…スマホも使えないんじゃ困るんじゃないのか。しかも無給だろ?」
理久は、腰に手を当てて、言った。
「もう!でもただで泊まれるし気分転換にはなるよ?そういう島って、個人じゃなかなか行けないじゃないか。調査とかなら金積んでるし行けるけどさあ。めっちゃ興味あるけどなあ。写真いっぱい撮って、シナリオ書くのにイメージ画像にしようかなあ。オレは、行きたいけどな。」
大河が、身を乗り出す。
「だろ?オレもさ、これ聞いた時、チャンスだなって思ったんだよ。そういう雰囲気、一回味わってみたいじゃねぇか。オレも新しいシナリオの材料にするのにもいいもんな。」
湊は、確かに興味があった。自分がこのTRPGに興味を持ったのも、そういうおどろおどろしいような、重苦しい恐怖を感じられる雰囲気が、日常から離れてスリルを味わえる、絶好のツールだったからだ。何より、この二人は誰かが書いたシナリオだけでなく、自分達でも積極的にシナリオを書いて、それを仲間内で発表してプレイして楽しんでいる。新しい世界を見ることで、またもっと臨場感のあるシナリオを書いてくれるかもしれないのだ。
「…そうだな。」湊は、頷いた。「オレも直にそういうの、一回見てみたいなって思ってたし。お前たちがシナリオ書くのに必要だってんなら、オレだって行きたい。想像するのに実際に場所を見ておいた方がいいもんな。その方が、怖さも倍増するだろうし。」
「だろ?」理久が、ノリノリで言った。「じゃあ、決まりだな!大河、それ申し込んでてくれない?それで、日程は決まってるの?」
大河は、スマホを指でスクロールしながら、首を振った。
「いや、なんか7月の終わりごろからって書いてあって詳しい日程は書かれてないな。明日聞いて来るよ。」と、明るい顔を湊と理久に向けた。「楽しみが出来た。そうと決まったら、シナリオのファイルも準備しとかなきゃな。夜は部屋でTRPG、昼間は島の土着信仰の調査だ。一週間、たっぷりクトゥルフの世界に浸かれるぞー。」
大河と理久は、嬉しそうだ。
湊は、スマホが使えないのは面倒だったが、それでも三人で楽しめることを考えると、段々と楽しみになって来た。
そうして、その旅行のことを三人で話しているうちに、すっかり乗り気になっていたのだった。




