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パラレルダイバー  作者: 木林タカシ
青の商人
9/27

青の商人(1)

 大陸を東西数千キロに渡り横断する交易路の途中、西よりに位置する商業中心の小さな街ウエスディア。周辺の村落から農産物や食肉用の保存食、工芸品などが集まり、旅の行商人も立ち寄るため、大都市圏と離れている割には、人の出入りが激しい。

 カリーナの村はウエスディアへ商品を供給する名も無き村の一つだが、職人技の光る品物の数々はその美しさのみならず、耐久性、また流通量の少なさに起因する相対的な価値の高さも相まって、遠方より買い求める人間が訪れるほどの人気商品だった。 

 そんなウエスディアの街に目に見えて変化が表れ始めたのは約五年前のことだ。父親から家督を譲り受けた若き青年実業家エリック。彼の経営する店に、突如として物珍しい商品が並び始めた。

 それらは一見すると、何の変哲もない品物にしか見えない。素材も普通、デザインも普通、耐久性はどちらかと言えば良くない。

 しかし良く売れる。まさに飛ぶように売れた。店内を物色して回っていた客たちは、何かに吸い寄せられるようにして店の一角へと向かう。そして商品を一度手に取ったが最後、うっとりとした様子で買い求める。噂が噂を呼び、客足は増すばかり。売り場面積も拡大の一途を辿る。零細経営だったエリックの店は、いまやウエスディアでも有数の大型店へと姿を変えた。

「できすぎだな。まるで絵に描いた餅を喉に詰め込まれている気分だ」

「案外サクセスストーリーとはそういうものなのかもしれん」

 白々しい師匠の感想を聞き流しつつ、理一は道行く人々の姿を眺めやる。カリーナの説明からある程度予想はしていたが、街の状況は芳しくない。誰もが青い燐光を垂れ流しながら、その異常さに気づいていない。むしろ誇らしくさえ感じているようだ。エリックの店の商品を身につけることが一種のステータスとして働いているのだろう。

「で、どうする? エリックのところへ案内しようか? 実を言うと、犯人の目星も大方のところ既についている。つまりこの事件は」

「ストップ。ネタバレはやめてくれよ。師匠の言うとおりにしたら、あっという間に帰るはめになるだろ」

「私は早く帰りたいのだ。だが、理一の主体性を尊重しよう。好きにするが良い」

 師匠はさもおかしそうに笑った。理一の腕に止まり、羽を休めることに決めたようだ。

 理一は師匠に絶対の信頼を寄せている。師匠が犯人の目星がついていると言うなら、それはほぼ百パーセント的中すると思う。

 だからこそ、師匠の言葉を遮った。

 ほぼ百パーセント的中する。逆に言えば、何パーセントか、もしくはコンマ何パーセントかの確率で外れる可能性も考えられる。

 理一と師匠、二人が別々の過程から導き出した答えが同じなら、おそらくそれは正解だ。理一は常にそうやって事件を解決に導いてきた。やり方を変える必要を感じたことはこれまで一度たりとも無かった。

「それにしても酷いな」

 ベンチに腰掛け、観察を続けているが、青い燐光のうねりはいつまで経っても途切れない。犯罪者クリミナルによる環境汚染は最低でもウエスディアの街全体に広がっているようだ。理一は観察を中断して立ち上がった。

 燐光が薄く引き延ばされ、青く煙って見える視界。その濃淡に注意しながら理一は街中を闊歩する。街の外苑から中心に進むに連れて、視界が青く霞がかってくる。犯罪者に端を発する情報発信源特有の現象。同心円上に濃度分布ができあがっている。

 ほどなくして、一軒の商店が見えてきた。外観が濃青一色に染め上げられている。十中八九、エリックの経営する店に違いなかった。

「なかなか手際良かっただろ?」

「まあまあだ。六十点といったところか」

「つまりビンゴってことね」

 店内に足を踏み入れると、一瞬青い閃光に目を焼かれたような錯覚に陥り、手をかざした。理一はいったん瞼を閉じた。薄目を開けて感度を調整する。視界全体がまだ少し青みがかっているが、捜査を進めるには丁度良い塩梅(あんばい)だ。

 玄関口の一番目立つ場所には、問題の衣服が堂々と陳列されていた。

 色違い、サイズ違いのシャツが陳列ケースに所狭しと並べられているが、理一の目にはどれも同じようにしか見えない。全身上から下まで青く染められたマネキン人形が、寂しげな視線を遠くへ送っていた。

 ざっと見回した限りでは、トップスもボトムスも関係なく、どこもかしこもうんざりするほど青、青、青、青一色だ。

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