表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリナの失敗半生 ~三人のジーノと別れて~   作者: 緑谷めい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

4 三人目のジーノ 前編






 エリナは王都の隅に小さな店舗付きの家を借り、花屋を始めた。

 エリナは許婚のジーノと結婚して花屋の女将になるつもりだった為、子供の頃からずっと花や植物の勉強をしていた。そんなエリナが一人になって、自分に出来そうな商売は何か考えた時に、花屋しか思いつかなかったのである。

 一人住まいの女が大金を持っていることが知れれば危険だ。

 エリナは自分の好きな花だけを仕入れ、目立たぬように細々と商売をした。それでも少しずつ客が来るようになり、いつの間にか常連客もついた。




 店を始めて3年後、エリナはクルトという兵士と結婚した。

 クルトは、以前からよく妻と息子と3人で花屋に来てくれていた客だった。

 仲睦まじい夫婦に見えていたのに、彼の妻はある日、他の男と一緒に逃げてしまい、クルトはまだ2歳の息子と二人きりになってしまった。

 息子の名は「ジーノ」であった。

 幼いジーノを抱えて途方に暮れるクルトを励まし、彼が仕事に行っている間ジーノを預かったりしているうちに、エリナとクルトは男女の関係になり、やがて結婚した。


 ようやく幸せになれる――エリナはそう信じていた。

 だが結婚して半年も経たぬうちに、クルトは別の女と行方をくらませた。

 ジーノを残して……

 最初から、息子をエリナに押し付けることが目的で結婚したのだろう。

 ⦅ バカな私。まんまと騙されちゃって―― ⦆

 エリナはクルトを信じた自分を嗤った。

 

 近所の知り合いや花屋の常連客たちはエリナに同情し、

「その子は孤児院に預ければいいよ」

 と、口を揃えて言った。

 エリナもそうしようと思った。自分がジーノを育てる義理など、これっぽっちも無いのだから……

 明日になったら孤児院へ連れて行こう。

 今日は忙しくて行く時間が無かっただけだ。明日は連れて行こう。

 明日こそジーノを孤児院へ預けよう。

 明日こそ行かなくては。

 明日こそ。

 明日こそ。

 明日こそ――――


 


 気付けば3年が経ち、ジーノは5歳になっていた。

 2歳の時からエリナと二人で暮らしているジーノは、自分の実の父も母も覚えておらず、エリナのことを本当の母親だと思い込んでいた。

 おしゃべりなジーノは、いつも、

「母ちゃん、あのね。あのね――」

 と、にこにこ話し掛けながらエリナにくっついて来る。

 ⦅ 可愛いジーノ……私が守ってやらなくては ⦆

 

 エリナは何よりもジーノを優先する生活を送った。

 ジーノの具合がほんの少しでも悪ければ店を開けないエリナに、周りは呆れていたが「ジーノが一番! 商売なんか二の次よ!」と言って、エリナはカラカラと笑った。もっとも、そんな調子でも暮らせるのはセドリックから受け取った金があるからなのだが……


 ある日、ジーノに、

「どうしてオレには父ちゃんがいないの?」

 と、問われたエリナは、咄嗟に、

「兵士だった父ちゃんは、訓練中の事故で亡くなったんだよ」

 と、答えた。

 それからも時折、よその親子を見たりすると、

「オレも父ちゃんと遊びたかったなー」

 と、頬を膨らませるジーノ。

 エリナはそんなジーノが不憫で心が痛んだが、努めて明るく振る舞い、

「母ちゃんがいるからいいでしょ! 大好きだよ! ジーノ!」

 と、ジーノを抱きしめた。

 

 実の母親に捨てられ、その後、実の父親にも捨てられた可哀想なジーノ。

 クルトが姿を消した時、結局、エリナは独りぼっちのジーノを見捨てることが出来なかった。

 ジーノを手放せば、エリナもまた独りぼっちだったのだ。


「独りぼっちのジーノと独りぼっちの私が寄り添って生きれば、それは家族よね?」

 夜、すやすやと眠るジーノの顔を見つめながら、エリナはそっと呟いた……

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ