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入学試験 2

入学試験 1

を少しだけ加筆しました

 リザの転移魔法でやってきた場所は、物が何一つ置かれていない広い部屋だった。



「ここは私の魔法研究室だ」

「魔法研究室?」

「英傑学院の教師には一人一部屋の研究室が与えられるのさ。見ての通り、新任教師である私は、まだ何も活用してないがね」

「太っ腹だな」

「英傑学院へ国は援助を惜しまないからな。金はたくさんあるだろう」



 ここがどういう場所なのか、少し理解できた。

 だからこそ俺の中で一つの疑問が生じた。



「一つ聞きたいのだが、この研究室から出ていく俺を目撃された場合、かなり不審がられるんじゃないか?」

「大丈夫だ。入学試験のある日の朝早くから研究棟に人などいる訳がないだろう」

「そういうものなのか」



 俺がこの英傑学院について知っていることは少ない。

 本で少し語られている部分はあったが、この学院のシステムや設備について詳細には謎のままだ。



「安心して試験会場に向かうといい。研究棟の反対側にある正面玄関に向かっていけば迷う事はないはずだ。入学試験の受付を通るときは、これを渡せ」



 リザから渡されたのは『1919』と書かれた受験票。

 試験を受ける際に必要となるのだろう。



「1919って、もしかして受験者の人数か?」

「その通りだ」



 結構な人数が試験を受けるのだな。



「分かった。じゃあ失礼する」

「既に受かる奴に頑張れと言うのは変な話だが、頑張れよ」

「ああ」



 部屋を出ると、リザの言った通り確かに人のいる気配はなかった。

 しかし、万が一見つかっては問題が起きる。

 万全を期す必要があるな。


 紙と魔道ペンを取り出し、術式を書く。

 これは、《認識阻害》の魔術。

 唱えると、俺は他者から認識されなくなる。

 暗殺とかに使えそうではあるな。


 とんでもない魔術だが、実体が消えるわけではないため身体が透けるとかは無い。

 紙に魔力を流し、魔術を唱える。

 これで誰からも見られることなく、試験会場に行けるはずだ。



 ◆◆◆



 リザから言われた通り、研究棟の反対側にある正面玄関へ向かった。

 仮設された受付場があり、そこに大勢の受験生が並んでいる。

 これを並ぶのにも一苦労だな。


 受付場から少し離れた木陰で魔術を解除する。

 そして、何食わぬ顔で列の最後尾に並んだ。


 少し時間が過ぎた。

 列は長く、受付までまだ時間がかかりそうだ。

 退屈だ。


 俺がコミュニケーション能力に長けた人間なら、前に並んでいる受験生に声をかけているかもしれない。

 俺ってもしかして人見知りだったりする?

 自虐するようにそんなことを思っていたとき、



「この並んでいる時間さ、退屈だよね」



 目の前の少女がこちらに振り向き、話しかけてきた。

 ブロンドの髪をなびかせ、碧色の美しい瞳をした美少女だった。

 髪の隙間から長い耳が見える。

 エルフの女の子か。


 ここレンドベルク共和国は、人間以外の種族も共存している珍しい国だ。

 リザは人間だったが、彼女のような他種族もいるのだろう。


 よし、ここは落ち着いて対応しよう。

 そのためには素数を数えなければならない。

 2……3……5……7……11……。

 素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……俺に勇気を与えてくれる。



「どうしてゃっ」



 ……おかしいな、噛んでしまったぞ。

 素数を数えてもいいことなんか一つも無かった。

 先日読んだ本では、「素数を数えると落ちつける」と書いてあったのだが……。

 もう二度と落ち着くために素数なんか数えない。

 そう心に決めた。



「今から試験勉強なんてしても意味ないし、退屈に過ごすぐらいなら誰かと話そうかと思ってね?」



 噛んだことを気にかけず、目の前の少女は見事に流してくれた。

 なんて優しい子なのだろうか。

 しかし、列に並びながら本を読んでいた奴らは、閉じて前を向きだした。

 勉強していた奴らにはダメージがでかかったみたいだ。



「無意味かどうかは分からんが、ちょうど俺も退屈していたところだ」



 俺のフォローが心に傷を負った人達に届いて欲しいものだ。



「それなら丁度いいね! 君、名前なんて言うの?」

「テミルだ」

「テミルくんって言うんだね。あ、くんで合ってるよね?」



 エルフの少女は自信のなさそうな表情で言った。



「ああ、くんで間違いないと思うぞ」

「ほっ、よかった。テミルくんは中性的な顔立ちをしてたから本当に男の子かなって不安になっちゃった」

「あーなるほど」



 そういえば、リザも俺と初めて会ったとき美少年と言っていたな。

 一度見た自分の顔を思い出し、目の前のエルフの少女と比べてみる。

 ……うーむ、確かに女の子に見えなくもない気がした。



「自分でなるほどって言っちゃダメでしょー。あはは」



 楽しそうに笑うエルフの少女。

 ここは俺も名前を聞くべきタイミングだろう。



「お前はなんていう名前なんだ?」

「私はソフィナ。エルフだからちょっと珍しいかもしれないけど、仲良くしてくれたら嬉しいな」

「試験に受かったらな。この人数だし狭き門だろ」

「んー、そうだね。でも私は合格するつもりでいるよ」

「自信家だな。どうしてそう言い切れるんだ?」

「んー、こう言ったら申し訳ないんだけど……エルフだから、かな?」



 エルフは種族固有の力として風魔法に優れている。

 しかし、それだけではここまで自信満々にいられないだろう。

 ソフィナ、か。

 面白そうな子と出会ったな。



「なるほど、納得だ。もし俺が運良く受かったら仲良くしてくれ」

「こちらこそ!」



 長いと思っていた列は進み、俺たちの番にやってきた。



「お互い頑張ろうね!」

「ああ」



 ソフィナと軽い挨拶を交わし、受付を済ませた。

 そこから職員の指示通りに進んでいき、学力試験の会場にやってきた。

 試験が始まり、問題を見てみる。


 一通り見て全部解けるな、と分かった。

 しかし、全部解いてしまえば監視対象であるにもかかわらず目立ってしまう。

 逆に間違えすぎても怪しまれる。

 正解するのは半分ぐらいにしておこう。


 こうして入学試験一日目が終了した。

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