入学試験 1
「さて……お前が英傑学院に入学するというなら早く王都に戻った方がいいな」
「なぜだ?」
「そろそろ入学試験があるんだ。受けずに入学ってのは不自然だろ?」
確かに。
「入学試験の結果がどうであれ俺の入学は保証されているのか?」
「大丈夫だ。英傑学院の入学試験は、受験者の才能を見極める事が第一とされている。まずは学力試験、実力試験と行い、受験者の基礎能力を測る。そして次の面接試験で基礎能力からは測ることの出来ない才能を見抜く」
つまり3つの試験を受けなければならないようだ。
それにしても才能を見抜くとは大層な事を言うもんだな。
英傑学院とやらの教育理念が気になるところである。
「入学試験に受験者の身分は一切考慮されない。英傑学院に相応しい才能があると判断されれば合格。それ以外は不合格だ。そしてお前の面接試験には私が面接官を務める」
「それで、俺は無条件で才能があると判断されるわけか」
「理解が早くて助かるね。もっとも才能があるのは間違ってる訳でもない。何も不正は無いさ」
リザは葉巻を取り出し、吸い始める。
「ちなみに入学試験は3日後だ」
唐突に入学試験まで残された時間を告げるリザ。
思っていた以上に時間が無かった。
「すぐじゃないか。間に合うのか?」
「なに、魔力が全快すれば転移魔法ですぐ戻れる」
このとき、自分の魔力をリザに供給しようか迷った。
だが、そんな事をすれば俺に対する警戒レベルが更に上がることだろう。
迂闊なことはするべきじゃない。
◆◆◆
あれから俺の拠点に戻ってきて、時間を潰した。
そして夜になった。
「よし魔力が全快した。これから王都に戻るぞ」
全快まで結構時間がかかったな。
魔力の回復は思った以上に時間がかかるみたいだ。
何故か魔力が減らない俺にとって、その情報は貴重なものだった。
リザが立ち上がったので、とりあえず俺も立ち上がる。
「ここに思い残す事はない。いつでもいける」
「それじゃあ手を掴んでくれ。私に接触していなければ転移出来ないからな」
「分かった」
リザの手を掴んだ。
そして次の瞬間、景色が急速に動き出した。
様々な景色が残像として見えた。
気がつくと暗い部屋のなかにいた。
「ふぅ、帰ってきたか」
リザは歩き、壁に取り付いている魔道具を触れると部屋は明るくなった。
天井に取り付けられている照明に明かりがついたみたいだ。
「私の家だ。空き部屋があるから、入学するまでの間使わせてやる」
「ありがたい。だが、入学してからはどうすればいいんだ?」
「英傑学院は全寮制だ。住む場所はある」
なるほど。
だから入学するまでなのか。
リザは「ついてこい」と言い、空き部屋へ案内してくれた。
リザの家は豪華の一言に尽きた。
廊下は広く、床には赤い絨毯が敷かれており、壁には何枚もの絵画があった。
そして部屋がいくつもあり、大きい家なのだという事が分かる。
空き部屋は一つどころじゃなさそうだな……。
「ここだ」
案内してくれた部屋はベッドが一つあり、机と2つの本棚が置かれていた。
「これと言って何もない部屋だが、自由に使うといい。暇なら本棚の本を読めば、色々と勉強も出来るだろう」
「それは助かる。世間のことは右も左も分からない状況でな」
「そうか。だったら精々勉強するがいいさ。3日後には入学試験があるのだからな。本棚の本の内容を全部覚えれば、学力試験で良い結果が出せるかもしれないぞ」
リザは勉強が出来るだろうと思い、この部屋を選んでくれたのかもしれない。
「無条件で合格できるわけだし、あまり気乗りはしないな。やるだけやってみるが」
リザは微笑んで、
「頑張れよ。私は寝る」
そう言ったあとに欠伸をした。
「おやすみ」
「ああ」
扉を閉め、リザは部屋を出て行った。
「俺も寝るか」
勉強をするのは明日にしよう。
今日は、リザと長い間一緒にいて疲れた。
会話に華が咲いていたら、これほどまでに疲労はしていなかっただろう。
無言のまま時間が過ぎるのを待つだけ。
それに交渉を結んだとは言え、俺は監視対象にある。
緊張の糸を緩めることなく、リザを見張っていた。
だからこそ、眠れるときに寝とかなければいけない。
この状況で、すぐに何か仕掛けてくるってことは、まずありえないだろう。
ベッドに飛び込んだ。
木の上で寝るのとは違い、ふかふかな布団が俺を出迎えてくれた。
「あー、幸せだ」
幸せとは、ぐっすりと快適な睡眠がとれることを言うんだな……。
◆◆◆
リザの家での暮らしは、とても快適なものだった。
家から出ることは、試験当日以外禁止されていたが、食事は朝、昼、晩と持ってきてくれるし、外に出れなくても本が読めるので退屈しなかった。
一生ここで暮らすのも悪くないな、と思い始めていた。
いや、一生となると困るな。
流石に退屈しそうだ。
そして試験当日。
コンコン、と扉をノックし、いつものように朝食を運んできたリザ。
「ちゃんと勉強はしたか?」
「ある程度は覚えたつもりだ。10冊ぐらいの内容は覚えた」
「ほぉ、この分厚い本を10冊も覚えたか。なかなか物覚えがいいな。それなら学力試験の問題はいくつか解けるだろう」
「試験というものは受けたことがないからな。そういうものなのか?」
「ああ、試験勉強が意味をなさないというのによく勉強したな。偉いぞ」
笑顔で俺の頭を優しく撫でるリザ。
果たして、これは褒められているのか?
それともバカにされているのか?
ま、それはさておき。
分かったことが一つある。
3日間で本を10冊覚えれば、物覚えがいいみたいだ。
しかし、俺が本当に覚えたのは10冊ではない。
──ここにある本棚の本、全ての内容を理解し、覚えた。
10冊であの反応だったのだ。
全て覚えたと言ったら、目の色を変えて俺を警戒するだろう。
やはり、本当のことを言わなくて正解だった。
物覚えが良く、魔力も底知れない。
我ながら実に素晴らしい才能だと思う。
だからこそ、俺の抱いていた一つの疑問が現実味を帯びてきた。
転生魔術……か。
「……こだわる必要もないか」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
声に出ていたらしい。
良くないな。
自分を制御し切れていない証拠だ。
「そうか。では英傑学院に向かうか。手を掴め」
リザはあまり気にしていないようだった。
ただに呟きだから当たり前なのだが、少々迂闊なことをしてしまったな。
「手を掴め、ということは転移魔法を使うのか」
「ここから英傑学院まで距離がある。それに私と歩いているところを見られては注目されてしまうぞ」
「どうしてだ?」
確かにリザは美人だが、そこまで人目を惹くものでもないだろうに。
「私がちょっとした有名人なだけさ」
「それなら転移魔法を使ってくれた方がありがたいな」
そう言ってリザの手を掴むと、すぐに転移が始まった。
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