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プロローグ

『もう一度人生をやり直したい』



 そう思ったことはあるだろうか?




 桁違いな才能に出会ったとき。


 自分の努力が否定されたとき。


 自分の行いが無駄だと分かったとき。


 何か失敗を犯したとき。




 誰しもが何かに後悔し、やり直したいと思うような出来事が一つはあるだろう。

 だが、やり直すことなんて不可能。

 苦い思い出を胸に、後悔という教訓を得て人は成長していく。



 無駄な努力なんてない。


 無駄な経験なんてない。



 確かにそうだろう。

 結果だけ見れば叶わなかった夢でも過程を見れば、かけがえのない経験をしたはずだ。成長だって出来ただろう。

 それらを踏まえ夢を必ず叶えるにはどうすればいいだろうか。



 限られた時間のなかで後悔をしないような成功しかない人生を歩む。



 正しいだろう。しかし、それが出来るのは一握りの天才のみ。

 では凡人はどうすればいいのだろうか。



 人一倍努力する。


 後悔を繰り返さないよう経験を活かす。



 そんな考えが思い浮かぶ。

 しかし、これらは全て不正解。

 俺が思うにこの問いには正解が二つある。



 一つは、常識を覆すような規格外の才能を手に入れること。


 そしてもう一つは、()()()()()()()



 世の中に絶対なんてあり得ない。

 だが俺は絶対に限りなく近いものを手に入れるために二つの正解を導き、夢を叶えるために行動を起こした。



 ◆◆◆



「お前に魔法が使えたらなぁ」



 これは通っていた学院でよく聞いた言葉だった。



「才能に恵まれてるのか、恵まれてないのか、分からない奴だよ。お前は」

「魔術に関する才能は抜きん出ている。だが、魔法が使えないとなるなぁ……」

「魔術の面ではお前が学院一だ。誇りを持ちなさい」



 何を隠そう俺は魔法が使えない。

 自らの力だけで魔法を引き起こすには、第一に魔力が必要となる。

 端的に言うと、俺が魔法を使えない原因は魔力を使えないという点にあった。



 しかし、みんなが言うように俺は魔術の扱いには長けていた。自分で言うのもなんだが。


 魔法と魔術の何が違うのかって思うかもしれないが、簡単に説明するとプロセスが違う。


 自身の内包する力を使ったのが魔法に対して、魔術は外の力を利用する。

 内包する力が使えない魔術師は術式を書く。


 それを魔石などに含まれている魔力を利用して発動するのだ。



「テミル、お前が卒業したら何するんだ?」



 仲のいい友達が俺にそう聞いてきたことがあった。



「んー、適当かな。生きてさえいればいい」

「はぁ、お前らしいといえばお前らしいが……せっかくだから頭も良くて魔術の才能も凄いんだし、宮廷魔術師とかになろうと思わんのか?」

「地位や権力を気にするのは疲れるだろうからな」

「……やっぱお前変わってんな。欲が無いっていうか、なんていうか」

「そんなことないさ。俺は誰よりも欲深いよ」

「嘘つけ〜」



 この友人は剣術に長けていて、魔法もそこそこ出来る奴だった。

 学院を卒業してからは騎士団に入ったようで、団長になったという話を十数年ほど前に聞いた。

 順調に出世したみたいだ。



 一方、俺は有言実行。

 適当に生きた。



「準備は整ったが、急ぐこともないか。最終確認といこう」



 ボロい木の扉を開けて、小屋の外に出た。

 外は辺り一面、黒い焼け野原になっていて地面にはこの小屋を中心にびっしりと術式が刻まれている。



「俺が言うのもなんだが、いつ見ても不気味な景色だな」



 術式を壊されては元も子もないので、この小屋を中心に半径の100mの範囲を結界魔術が張られている。

 半透明な障壁。

 これを破るのは骨が折れるだろう。

 ここは凶暴な魔物が生息する通称「死の森」と呼ばれる深い森の中である。

 この森の中に足を踏み入れた者は生きて帰ってこれないだとか。

 結界魔術を張ってあるおかげで凶悪な魔物の心配はない。


 一通り、術式を見て回ったが不備はなさそうだった。

 あとは小屋に戻って、転生魔術を実行するだけだ。


 そう、俺がこれから唱えるは転生魔術。

 だが、転生魔術という魔術は本来存在し得ないもの。


 転生という理から外れた事象を引き起こすことなんて、魔術や魔法には不可能だ。

 理の外側にいるような存在、例えば神様とかであれば可能かもしれないが。



 ──だから、あくまで俺は転生を疑似的に再現することにした。



 身体と魂を切り離し、精巧に作られた人形を器にする。

 しかし人形に魂を移しただけでは人間とは言えない。

 そこで、この人形にはある仕掛けを施した。


 人形の細部まで精密に人間を模し、臓器を魔術で形成するための材料が組み込まれてある。


 つまりこの転生魔術は魂を人形に移し、それを人間に昇華するというものだ。


 人形をただ人間にするだけというならわざわざ転生する意味がない。

 因果律をいじり、人間が持てる最大限の才能、無尽蔵な魔力を手に入れるのだ。


 求める条件が増えれば増えるほど魔力は必要となる。


 俺が魔術を唱えるときに利用している宝石や魔石では、到底足りない。

 世界中に存在するものを集めてどうにかなるぐらいで現実的ではない。


 しかし俺には生まれつき魔力を溜める事が出来た。

 普通、大気中の魔素を身体の中に取り組み、魔力が生成される。

 だが一般の人は自身の許容量を超えた魔力を生成することが出来ない。


 幼い頃に他の人が魔力を溜められないことに気づいた。

 だからと言っては少し安直かもしれないが、せっかくなので魔力を溜めることにした。

 自分にしか出来ないことを誇りに思う幼い俺だったのだ。

 しかし、それが今となっては幸いしている。


 それから50年。


 自作の魔術回路を構築し、初めて試す転生魔術。

 成功するかは分からない。

 だが、失敗する気は微塵もない。


 小屋の中央に仰向けに置かれている人形を見る。


 転生魔術を実行するため、人形に両手をつける。


 長かった。本当に長かった。


 俺には才能がなかった。


 ある者は天才と呼び、俺の才能を褒めたたえるが、足りない。


 並の人間より優れた才能を持っていたところで、俺は満たされない。


 俺のことを無欲と言う人達。


 だが、それは全くの見当違い。


 俺は誰よりも欲深く、誰よりも強さに執着していた。


 欲しい物は力。


 この世界の誰よりも最強の存在になりたかった。




「──始めよう」




 詠唱は術式の不足している部分を補うためにある。

 一流の魔術師は詠唱を必要としない。

 なぜなら術式に全てが描かれているから。


 両手からありったけの魔力を放出する。

 小屋のなかに描かれた術式は赤紫色に輝き出し、外へと続いていく。

 放出される魔力はあまりにも膨大で、身体が耐えきれそうにない。


 全身が炎のように燃えている。


 そう錯覚するぐらい激しい痛みに襲われた。


 しかし、痛みとは裏腹に愉快でしかたがない。

 口角が吊り上がる。

 この素晴らしい感情を抑えることが出来ない。


 それでも終わりはあっけないもので、魔力全て放出すると、意識が急に途切れた。

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