最高の刀鍛冶の称号
刀の製造法などアバウトですが勘弁してください
商工業に従事する者の子は16歳になった年に専門職就職許可証を取得するために、国立もしくは私立の能力養成学校への入学試験を受けることとする。これに合格しなかった者、もしくは希望者は開拓者か農業従事者にならねばならない。
商工業者の子でなくても特定の分野に特異な能力を有する者は、試験を受け合格した場合には入学を許可される。―商工業組合法抜粋―
少年が汗を流しながら真っ赤になった鉄に向かって金槌を振り下ろす音が工房の中に響いている。少年の父親は農夫であるが祖父が刀鍛冶であったため、その工房を使い試験にそなえているのだ。国の試験は商工業者の子は筆記試験だけで合否が決まるが、それ以外の子は筆記のほかに鍛冶希望であれば自分の作った刀剣のテストがあるため、刀を一振り作る必要があるのだ。ここまでは祖父の教えに従いやってこれたのだが、この後のヤキイレという作業がうまくいかず、2、3振りダメにしていたがようやくコツをつかみうまく仕上げられるようになったところだった。油のなかからヤキイレしたばかりの刀を取り出し再び熱する作業を繰り返し、トギという作業に入ろうとしたところで
「今日はそれくらいで良いじゃろう。そこまで来たらもうすぐできあがるからのぉ」
という声とともに祖父が入ってきた。彼は祖父があまり好きでなかったが腕は確かなためそこは尊敬していたので指示に従い刀を置き、工房のカギをかけ帰り道についた。
「わしはなぁ、昔はスミスの称号を持っとったんじゃ」とから始まる祖父がいつも話している作り話に適当に相槌を打っていると
「刀につける名前は決めたんか?」と祖父が聞いてきた。
「名前?刀に?」消耗品である刀に名前を付けるなんて彼は一度も考えたことなどなかったので驚きながら祖父に聞き返した。
「そりゃそうじゃ。お前に教えた作り方はタタラというやり方で、今の主流ではないから、一度に多くの刀を作ることはできんし、長い製作期間を必要とする。そうするとそのうち刀に愛情を感じて来んか?」
今までやってきたやり方が主流ではないとあっさり言われた事に、少し怒りを感じながらも彼は、名前を付けるのも良いななんて考えていたのだった。
しかし名前を付けるというのは簡単ではなかった。彼は食事の最中も入浴中も、刀の名前を考えることになったのだった。トギも終わり鞘も作り終え、あとは名前を付けるだけという段階になっても彼は考えていた。そんなある日の食事中
「トウヨウの刀鍛冶の中でタクミと呼ばれていた者たちは自分の名前を付けていたらしいのぉ、後は年月が経つにつれ見た目などから愛称がつけられることも多かったみたいじゃな。」
と祖父は言っていたが、寂しそうな顔をしながら
「じゃが自分の名前を付けるのはやめておいたほうがいいじゃろうな」
とぽつりと言った。祖父が刀鍛冶を辞めたことに関係しているのは何となく気が付いたが彼は聞こえなかったふりをした。
「まぁ無理につけることはないじゃろうて、昔から刀に名前を付けるのもんはそんなに多くなかったからのぉ」そう言って席を立った。
大事なことを後出しにしてくる祖父の癖にイラつきながら彼は自分の名を少し変えるというやり方を思いつた。
自分の姓は黒柳だからこれを黒夜凪にして刀の名前にするという何ともいい加減な決め方で彼の最初の刀の名は決まったのだった。試験はあさってに迫っていた。
「おい、早く起きんか」と眠っていた彼を起こしたのは祖父であった。
「なに?」そう言いながら彼は外を見るがまだ暗く朝日が昇るまで時間があるだろうと思われた。
「今から最後の仕上げの作業に行くぞ」と祖父が言う。このとき彼は祖父の悪い癖が出たんだともはや怒りすら感じず冷静に判断していた。
「仕上げ?何やるの」
「マツリじゃ、一日刀を神にささげ使ってもらうんじゃよ。そうすることで神のカゴを得られるらしいからのぉ」
祖父の話を聞きながら彼は作業着に着替え祖父とともに工房へと向かった。道中に祖父が何か話していたが要するに
工房には一人で入り、大きめの紙と刀、それと酒を作業台において帰ってくるというものだった。こんなことわざわざやる必要あるのかと疑問に感じながら工房から出てくると
「これで明日の試験に受かればお前も刀鍛冶としての一歩を踏み出すんじゃなぁ」と祖父が嬉しそうに言いながら出迎えてくれた。彼は
「明日の試験に間に合うの?」と聞いてみたが
「大丈夫じゃ、試験は昼からじゃろ?それまでに取りに来て会場に向かえば余裕で間に合うじゃろうて」
試験当日
彼は緊張で朝早くに目が覚めてしまい工房に刀を取りに行った。工房の中に入ると台の上に置いていた酒がなくなっており紙に
「切れ味E 振りやすさF 見た目E 耐久性E
初めて作ったにしては良い感じに仕上がっていますね。もう少し刀身の重さのバランスを調節すればかなり振りやすくなると思いますよ。今後に期待して☆1.3です」
前半と後半の判断基準が違うとか言いたいことはたくさんあったがまずこれは何なのかということで彼の頭はいっぱいだった。とにかくこの紙と刀を持って彼は家に帰った。
家につくとちょうど父親が農作業に出かけるところだった。
「今日が試験当日だな。精一杯やってきなさい。俺は朝早くに仕事に行き夜は早く寝るから、最近はあまり顔を合せなかったが応援してるぞ。それじゃ」
そう言って歩いていく父親に彼はありがとうとつぶやき家に入っていった。