表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/32

この世界の、白と黒の狭間に

「……ごちそうさまでした」


箸が二本、きちんと揃えてある。唐揚げに添えられていたキャベツの千切りでさえ、綺麗にさらえられ、皿の上には残っていない。


ご飯茶碗にも米粒一つ、ついていない。


(すっげー、綺麗に食ったなあ)


「おそまつさまでした」


大同はニコッと笑ってから、ウォーターサーバーへ水を取りにいった。グラスに八分目まで水を入れ、二つ手に持つと、席に戻ってから置いた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


グラスを持って、口をつける。唇に冷たい温度が伝わってから、喉が潤される。唇が水滴で、しっとりと濡れた。


再度、目の前の皿を見る。綺麗になった皿と、揃えられた箸。


(あーあ、気持ちのいい)


大同はそう思うと、自分のずれた箸をそっと指で直した。


「ねえ、今度さ。新しく作り直すCMも見てくれないかな?」


ここからはナンパナンパ、と思いながら、大同はスマホを取り出した。


「連絡先、教えてくれる?」


すると、ひなたは少し考える素振りを見せてから、カバンからスマホを取り出した。


「連絡先は教えますが、CMの件は困ります」


「どうして?」


大同が画面をスライドさせる。


「私の一声で、作り直されても困るので」


真面目な顔でそう言ったのを見て、大同はぷっと吹き出してしまった。


「あはは、それはごめん」


笑いながら、スマホを差し出す。すると、ひなたもスマホを近づけた。


お互いの連絡先の登録が完了すると、ひなたはポチポチと打っている。


「俺の名前、入れてくれた?」


すると、ひなたがスマホをかざして、ずいっと見せてくる。大同が覗き込むと、『代表取締役』とある。


「あははは、これは面白いっ」


大同は腹を抱えて笑い、社食にいた周りの社員を怪訝な顔にした。


「はあああ、腹痛てえ」


「…………」


「君は変わってるねえ」


大同がそう言うと、ひなたが顔を歪ませて、少しだけ笑った。それを見て、気分が上がった大同が、グラスの水を飲む。


「この勢いで訊いちゃうけど、それってウィッグだよね?」


「はい、そうです」


「オシャレだね、可愛い。元の髪型はショートなのかな?」


少しだけでも笑った顔が見れて嬉しくなり、大同は自分が舞い上がるのを抑えられなかった。


ひなたが、無表情に戻った。


すっと、自分の髪に手を伸ばして、ぐいっと掴んだ。


「え、」


社員食堂の。周りにいた人たちの。息を呑む音。驚きの声。


ざわっと、どよめいた空気。


その世界の、白がいきなり黒になったような感覚に、大同は陥った。その衝撃に、大同も知らず知らずのうちに、驚きの声を上げていたのだ。


そして。


目をも、見開いていた。見開いた目で、ひなたを見ていた。


ひなたの頭は。


短く、短く。五分刈りほどで切り揃えられた髪。


高校野球の球児のような、ほぼ坊主に近いものだった。


「ほら、ショートですよ」


そして、ウィッグを元のように手早く被り、髪を手櫛で整えると、カバンを持って立ち上がった。


その無表情が、大同の胸に刺さった。


「今日は本当に、ごちそうさまでした。美味しかったです」


慌てて大同が立ち上がると、「ここで、大丈夫です」


そう言って、ひなたは食堂を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ