第六話 襲撃 PART-3
CULOにおいて、俺が作成し現在、憑依?転生?してしまったプレイヤーキャラクター【ジスエクス・ニゴレイアル】。職業は【ギャラクシーハンター】だ。
ギャラクシーハンターはCULOの職業における幾つかある上位職の内の一つだ。ギャラクシーハンターへ転職する為にはキャラクター作成時に選択する下位職弓兵の職業レベルを最低でも40以上まで上げ、派生する中位職の幾つかあるヴァリエーションの内の一つ野伏へと転職する。
そして野伏のジョブレベルを40以上にし、総合職業レベル80以上で晴れてギャラクシーハンターへの道が開くのだ。
ギャラクシーハンターは弓兵の遠距離物理攻撃力と野伏の追跡や狩猟採集等の強力な補助スキルを合わせ持つ。
GHならではの専用装備が【エレメンタルシューター】という弓矢の種類に分別される特殊なEF武器だ。
通常の弓矢と違い物理的な矢を使用せず、EFを消費し光芒の矢を生成し射出する。
今、俺の前から逃走したオオカミに対して射る為に構えている武器が【エレメンタルシューター】に属する弓矢だった。例のCULOのサービス終了記念イベントで、各ジョブに対応した課金装備をプレゼントしてくれた為に装備している訳だ。
ところでこの弓矢の固有名称は何という名前なんだ?あとでアイテム欄から詳細を見て確認しておこう。
それは置いておいて、今やらなければならないのは一つだ。
この身体に内在する動力?らしきものを増減して放出できる以上、どれだけの性能が秘められているか確認する必要がある。
俺は逃走するオオカミが逃げ込んだ茂みに向けてエレメンタルシューターを構え弦を引く、体内にある動力から力が供給される感覚があった。更に補助スキルを複数使う。幾つかのスキルを併用すれば、闇夜や障害物などで視界を遮られても一目瞭然だった。
俺は息を吐き一呼吸すると、光芒の矢を最大出力で放つ。
物理の法則に縛られた通常の矢ならば、オオカミに到達するまでの間にある障害物、多種多様な草木や段差のある地形、朽ちた倒木などによって止められてしまうだろう。
しかし俺がフルパワーで放った光芒の矢はそれらの障害をすべて貫通すると、オオカミを背後から貫く。
それどころか光芒の矢は、いくつかの障害物を経てもまるで威力が落ちなかったらしく。貫いた瞬間にオオカミは破裂し肉片が四散してしまった。
「うわ……ひでーなオイ」
以前、動画投稿サイトで対物ライフルで動物を撃つ映像をうっかり見てしまい嫌悪感を覚えたのだが。まさか自分がやってしまうとは。
妹が傷つけられて頭にきていたとはいえ、比較的動物好きの人間としては自己嫌悪に陥らざるをえない。
それはさておき、俺は残っているオオカミ達に向き直る。
ボス狼をはじめとするオオカミの群れは完全に戦意喪失してしまったらしく、負け犬のような声を出しながら一目散に逃げていった。ちなみに真っ先に逃げたのはボス狼だったりする。
ある程度のコトは分かった。やはりこの身体は強いということだ。そして武器の正式名称は分からないにせよ、エレメンタルシューターの威力。これはヤバい。
もし、人に向かって使う時が来るならば相当抑えなければならないだろう。あとで練習しておかなければ。
「……?!あっ?!」
何を惚けているんだろうか。俺は最も大切な事を思い出し、莉亜のもとへと駆け寄った。
「莉亜!莉亜!だぁっ?!」
駆け寄ろうと莉亜のすぐそばまで来た所で何かに遮られ弾き返された。オヤジウスが莉亜を守る為に使用し、展開した【テクノプリースト】のジョブスキル【触れられざる聖域】の効果のせいだ。
「おい、オヤジウス!これを解除してくれ。はやく!」
「え?CULOに魔法、いやEFスキルの解除なんて概念ないぞ?解除っていうのバッドステータスとかのことだろ?そもそもジ・サンクチュアリは効果時間なんて30秒だ。既に30秒経っているから消えてもいいはずだ!」
どういうことだ?さっきの異常な攻撃力の増減といい、仕様変更がされているのか?!
「おい、零司!桜野!マズイぞ!」
莉亜の治療に当たっていた高場が声を張り上げる。久々に本名で呼ばれたが今は些末なことだ。
「どうした!?」
「妹さんの出血量がやばい動脈か何かが傷つけられたのかも。傷口をTシャツの切れ端で縛って手でふさいでなんとかしているがマズイぞ。早く医者に見せないと」
莉亜の顔から血の気が失せていっているのが見て取れた。俺は胸が締め付けられるのを感じた。
「おい!オヤジウス!得意の回復スキルあるだろ?!あれで直せ!一番いいヤツでやれ早く!!」
「わかってるよ!」
オヤジウスこと桜野はスキルを使用したらしく仕様時エフェクトが発生する。オヤジウスの身体が鮮緑色の光を帯び、小さな閃光と同時に緑色の光の雨が莉亜に降り注いだ。
しかし、何も起こらなかった。莉亜の肩に生じた惨たらしい傷に何一つ変化は無かった。
「おい、何やってる!?真面目にやってんのか?!こんな時に下らないギャグかましているのか?!緊急時なんだぞ!わかってんのか?!クソキモオタが!俺の妹なんだぞ!!!」
「真面目にやってる!でもダメなんだ。ゲームならプレイヤーやNPCを回復する際、その対象を指定できるハズだろ?!できないんだ!いない扱いになっているんだ!!!」
何……なにを言っているんだ?
「い、今やっていたじゃないか?!」
「フリーカーソルでとりあえず発動しただけだ!これじゃあ何もないところにEFスキルを使用したのと同じだよ!!」
え、どういうこと?莉亜が?俺の妹が、認識されていないと?回復できないと?回復できなかったら……どうなるんだ?
「とっ、とりあえずこの邪魔な緑に光るドームをなんとかどけろよ!」
「わかってる、今試している」
桜野は試行錯誤しているようだ。俺はイラつきが止まらず耐えられそうにもなかった。
もし、このまま放置したら莉亜は死ぬ?!こんなところで?!母さんになんて言えばいいのか。いやそうじゃない、どうすればいい?そうだ医者だ。だがここは何処なんだ?!人は、人里が近くにあるのか?
「わかった、徐々にEF残量が減っているから変だと思ったんだが。やはり仕様変更されてる、同じスキルを展開している場所に重ね掛けすると、解除できるみたいだ。今やる」
桜野はジ・サンクチュアリの解除が分かったらしく次の瞬間には莉亜を中心に包んでいた、碧色に薄く発光するドーム型の障壁は消え去った。
「莉亜!!!」
俺は駆け寄ると莉亜のおでこに触れる。
「あ、れ、いにぃ……」
莉亜は呻くようにして声を絞り出す。そんな姿に俺は、いつ以来だったかの涙を流した。
そして何もできない自分に怒りと歯がゆさを覚える。
そして俺は決意する。莉亜を救って見せると。
医者を探す。妹の傷を治せる人間を見つける。
とにかく人に会わなければならない。
その為ならば、どんな障害も排除してやる……。
ありとあらゆる手段も辞さない……。
それだけが今の俺にできることだった。