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第五話 襲撃 PART-2

 まだ莉亜が幼稚園児の頃だっただろうか家族四人で、初めて動物園に行ったことがある。

 以前、()()()()()()では見たことが無い動物達を前にして、()()()()()()興奮し、はしゃいでしまった覚えがある。

 その動物の中でも特に気に入ったのがライオンだった。あの立派なたてがみは百獣の王と呼ばれるのに相応しい特徴であり、また強さを感じさせた。

 

 しかし、俺と対峙しているオオカミ達の群れの中でひときわ目立つボス狼は、ライオンを二回りは上回る程の大きさだ。眼光からは凜然さがうかがえ、禍々しい野生の殺気をこちらに叩きつけている。

 この場合、檻で飼われたペット同然のライオンなど、比較にすら値しないだろう。


 現状、9匹のオオカミが俺たちを逃がさないように扇状に囲んでいる。こちらの背後には敵はおらず森の茂みが広がっているが、逃げ込むのは愚か者がすることだ。相手にとって有利な条件にしてやる必要はない。視界が悪く隠れる場所が豊富な茂みで戦うのは、オオカミ達にとっては願ってもないことだろう。

 いま俺たちは森の中でも比較的ひらけた場所にいる。戦うなら敵を視認しやすいこの場所がいいだろう。

 中央には肩を噛まれ傷を負った莉亜が倒れていて、ブスジマは莉亜を膝枕する形で寄り添う。高場は莉亜を治療に当たっている。自身が着ているTシャツを裂いて莉亜の止血をするようだ。俺とオヤジウスとMOMOはそれぞれ三方向に向けてオオカミ達と対峙しけん制している形だ。


 本当ならばこれから起こるであろう命を懸けた戦いに、慎重にコトを進めなければならない。

 しかし、莉亜が血にまみれたのを目の当たりにして俺の心の均衡は崩れた。


「この畜生がぁぁ!!莉亜をやりやがったァッ!!!クソがっ!!!」

「オヤジウス!莉亜を優先して守りのスキルを使え!いいか優先だぞ!」


 ある意味状況的には莉亜と同等の高場を無視して命令する。


「わかってるよ!」


 オヤジウスの身体表面が鮮緑色の光を帯び始める……光が霧散するや、刹那の閃光とともに碧色に発光するドーム型の防護領域が莉亜を中心にして発生する。ドーム型防護領域は莉亜だけでなく、高場とブスジマをもすっぽりと包み込み莉亜たちを保護下に置いた。


 オヤジウスの職業(ジョブ)【テクノプリースト】のジョブスキル【触れられざる聖域(ジ・サンクチュアリ)】。指定した人や物など指定した位置を中心に、ごく一部の攻撃を除き物理攻撃およびEF(エーテルフォース)攻撃を完全無効化する防護エリアを展開させる。耐久力はスキル使用者の特殊技能(スキル)レベルに依存する。



「おい、*$#&!いや、カオティック・デス!そのエリア(触れられざる聖域)から出るんじゃないぞ!出たら死……」

「その名前で呼ぶな!高場と呼べ!恥ずかしいだろ!あ?俺?今、チマッと呼べた?!」

「いや、だってお前の本名何故か呼べないんだもーん。あ、呼べないんだフォ」


 背が高いうえにガチムチという恵体に似合いそうにもない、恥じらいの表情を見せつつ、その威名を否定する、カオティック・デス。カオティック(chaotic)デス(death)


「そんな名前つけたほうが悪い!あ、悪いフォ!」

「プレイヤーネームをチマチマ読み上げられる時が来るとは思ってたら付けてねえよボケ!今まで名前を入力するゲームなら毎回使っていたからだよ!」

「じゃあ今からカオちゃんって呼ぶからなフォ。決定フォ!」

「チマッと変な名前つけんな!」


「……。」

 

 何だろう……気が抜けてきた。

 こんな死ぬか生きるかの状況で、よもやま話ができる豪放磊落な二人に、ある意味俺は安心し感情の高ぶりが落ちついて行くのを感じた。この調子ならば、素人が実戦の空気に触れた際に陥りやすい、恐慌状態になることはないだろう。


 最愛の妹、莉亜に襲い掛かった獣の牙に俺は我を忘れそうになった。だが、二人の親友の諧謔とは遠すぎる会話に、怒り心頭に発していた俺の心は平静を取り戻せた。密かに感謝しておこう、本人たちには知らせないが。


 さて、ゲームのキャラクターになってしまうという冗談みたいな事になっているのが現状だが、妹を傷つけられたという現実と戦う為にはこの身体でやらなければならない。

 正直、不安はある。が、先ほど莉亜の肩に噛みついたオオカミの頭を砕いた時、俺は一種の確信めいたものがあった。

 この身体、CULOのプレイヤーキャラクターの肉体は強いということ。確定したわけではないが、今、俺たちに降りかかっている問題なぞ些細なことのように思えた。

 だからこそ確かめる必要がある。


 俺は徐に数歩前に出るとオオカミ達に対して威嚇する。


「どうした?来いよ畜生ども、怖いか?怖いのか?!」


 言葉は分からなくとも雰囲気を察したのだろうか、オヤジウスとMOMOと対峙してたオオカミが一匹ずつ俺の前にいたオオカミが一匹タイミングを合わせほぼ同時に襲い掛かった。


「リアちゃん兄上ぇぇぇっ!!!」


 ブスジマよ、こんな時に変な名前で呼ぶな!笑っちまうだろ。

 一匹は後ろから俺の背中に乗る形で首に噛みつく、本来ならば頸動脈ごと食いちぎられて即死だろう。

 もう一匹は俺の足首に。俺の前にいたやつは分かりやすく突進してきたため、左腕を出したらそのまま噛みついてきた。オオカミ達のプランとしては他のがオトリで首を狙ったヤツが本命だったのだろう。

 

 だが、俺の予感は当たった。普通の人間ならジエンドの状況だ。

 しかし、俺の身体にダメージは無かった。確認していないが傷すらないかもしれない。防具で守られていない箇所を攻撃されたのにもかかわらずだ。


「ガウッ?!」


 オオカミ達に動揺が走る。身長は165センチくらい体重は50キロもない細身の女が、3匹のオオカミに噛みつかれ飛び掛かられているのにもかかわらず平然としているのだから。


「さて、反撃するかね。俺は結構動物好きでね、自分からは決して好んで傷つけたりなどしない。生きていくためではなく、楽しむ為に狩猟をしている連中には嫌悪を覚えるほどだ」


「だが、お前らは俺の大切な人間を傷つけた。わかってるよな?正当防衛だよ、お前らが悪いんだ。その身で理解しろよ」


 俺は左腕に噛みついているオオカミの顔面、というよりは頭蓋を捉えると、先ほどオオカミの頭部を粉砕した時のことを思い浮かべた。

 あの時、怒りがきっかけだったのかたまたまだったのかは不明だがたしかに力が増幅したのだった。

 普段の力であれば、この見た目通りの力しかないだろう。俺がこの場所で初めて目を覚ました時、オヤジウスこと桜野の顔面を殴ったが、あれは一般的な女性が繰り出せるだろう威力しかなかった。

 だが、あのオオカミの頭蓋を粉砕したとき、己の体内にとんでもない動力が内在しているのを感じ、それに接続した感覚があったのだ。

 例えるならばマニュアル操作のバイクだろう。簡単にいうとエンジンで発生した動力にクラッチ操作を行いギアとトランスミッションと繋げアクセルを開けてパワーを調整する。


 去年、普通二輪免許を取った俺にとってはそういう理解の仕方が分かりやすかった。


 俺はオオカミの頭蓋を掴み力を入れる。生卵を握りつぶすよりも簡単にオオカミの頭が潰れる。脳漿と血肉が飛散した。

 他の二匹が驚愕したのが俺の体に伝わってくる。血まみれの手のまま右足に噛みついた畜生の首をつかむ。指が体毛と皮、皮下脂肪から筋肉をも突き抜けてえぐった形になりオオカミは逃げられなくなり完全に固定されてしまう。

 俺はそのままオオカミを右手を天に掲げる為持ち上げる。畜生は抵抗の為、必死に右足首に喰らい付くが、どういうわけか牙は通らなかった。食い込んでいるはずなのに通らない。


 哀れなオオカミの心中にあったのは、驚愕というよりは恐れだろう。理解が追い付かない状況に本能が悲鳴を上げていた。瞳がそう訴えていたようにみえたからだ。

 俺はオオカミを頭から地面に叩きつける。森の地面は水分を多く含んだ土の層になっており比較的柔らかい。だが、ありえない程のスピードで頭から地表に叩きつけられ、オオカミの命は絶たれた。


「(ちょっと今のプロレス技っぽかったな……どのレスラーの技に近かったっけ?)」


 そんな事を考えている最中、最後に残ったオオカミが俺の首に突き立てていた牙を解放するか否や、情けない鳴き声をあげて逃走した。


「(ごめんな、見逃してもいいのだけど試したいことがあるんでね……)」


 俺はイメージ操作を行う、CULOでの武器使用の操作はLTボタン1を押すのだったか?少々怪しかったが記憶の糸を手繰り寄せ、朧げにイメージすると小さな閃光とともに、左手に弓が握られていた。

 

 俺が作成したキャラクター、ジスエクス・ニゴレイアルの職業(ジョブ)は【ギャラクシーハンター】だ。たしか設定では……なんだっけ?EF(エーテルフォース)を使用し光芒の矢を生成できる特殊な弓を使いこなすとかなんとか?いかん、たかが一年前までやっていたんだが……。

 よくよく考えれば俺はあんまり設定とかに興味がなかったりする。ゲーム内のデータには興味あるが。


 それはさて置き、俺は弓を構えると逃げたオオカミに狙い定める。当のオオカミは既に俺の背後にあった茂みに逃げ込んでしまった……。だが、問題はなかった。

 月光が差し込み夜にしては明るいほうだが、茂みに隠れた敵を撃つのは無理だろう。

 ()()()()()


 俺はLTボタン2を押すイメージを行う。ショートカットメニューにあったはずのスキルを選択する。一年前から設定は変えてなかったので、お目当てのものはスグに見つかった。


 あえて今回は攻撃用のスキルは使わない。使うのは補助スキル。スキルが作用するかは大事なことだから試すのは当然だ。だが今回重要なのは通常攻撃を最大威力で射つことだ。

 この威力を増減させるのいう概念はCULOにはなかったのだ。通常攻撃はただボタンを押すだけで発生したのだから。

 

 補助スキルを次々発動させる。【サーモグラフィー】【ナイトヴィジョン】【オプティカルサイト】

 視界いっぱいに情報データウィンドウが立ち上がる逃げるオオカミの姿は丸見えだった。


 体内の正体不明な動力に意識を接続。俺は弓を引くと最終発射体制に移行する。動力を最大にするよう意識を体内動力に集中。弓の弦を力いっぱいに引くわけではなく、あくまで体内動力を最大にするのだ。

 バイクのアクセルを全開に開けるかのように。


 そして俺は弓を射る為に、張った弦を解放した……。

 

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