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第三話 鮮血

話が動きます


「さて、皆さま。落ち着かれましたかね?」


 俺は目の前にいる五人の仲間に向けて、確認するかのように告げる。


「落ち着いたのはれいにぃでしょ?」


 妹に指摘された。その通りです、ようやく冷静になりました。


「お前が夢の中に居たころに、俺たちはチマチマとやるべきことは既にやっておいたからな。お前がトロトロ寝ていたのが悪い」

「返す言葉もありませんよ」


 さて、色々話が飛んでしまった感があるが。現在の異常な状況において認識しなければならないことがある。それは、この現実感溢れる生々しい感覚はSVR(体感型仮想現実)ユニットが見せているだけではないかということだ。


「まず、異世界云々の話は忘れてくれ。しつこいようだがもう一度皆の意見を聞きたい。今、俺たちはCULOのプレイヤーキャラクターになってしまった。その上で問う」


「これはSVR(体感型仮想現実)ユニットの影響によるものではないか?ということだ」


 

 

 <SVRユニット>現在無数に存在するVR対応デジタルエンターテイメントに使用される装置全般の総称だ。

 SVRユニットの一般的な構成はゲーム画面などを投影する<(ヘッド)(マウント)(ディスプレイ)>とハードウェアから得た信号をフォースフィードバックする為の装置<センセーションパック>で構成される場合が多い。

 SVRユニットに含まれるHMDはヘルメットマウント形状のものが大半であり、ディスプレイ装置の役割を果たすだけではなく、13個の特殊な電極のような形状をしたスキャン装置が搭載されており。脳のパルス信号を読み取り、ハードウェアとセンセーションパックにフィードバックされる。

 センセーションパックはまるで心電図検査で使われる電極のような形状をしており、無線式のそれは面倒な配線を気にせず使用することができる。無線電極は簡単に取り外しが可能であり胸や腹、腕や足などに装着する。ハードウェアやHMDから得た情報をフィードバックし、人の感覚に働きかける。

 センセーションパックそのものは人体に危険のない範囲での感触しか与えないが、HMDに搭載された(パルス)(スキャニング)(コントロール)(インターフェイス)と組み合わせることによりリアリティ溢れる感覚を使用者に与えてくれるのだ。





「フォフォ、つまりお主はこのリアリティ溢れMAXなこの状況は異世界転移ではなく、あくまでもSVRの影響下にあるだけと?」

「そうだ。一応だが根拠はある」



 巨大ピンクボンテージオネエは除外するとして、俺たち五人にはちょっとした共通点がある事を思い出したからだ。



「俺たち五人には共通点があるんだよ。それはな、半年前に発売された最新型のSVRユニットを全員使用しているということだよ」


 俺たちの使用しているSVRユニット【R101型MK-Ⅳ】は約半年前に発売されたばかりの新型で、もちろんCULOにも完全対応している。


「だから何だ?最新型といってもディスプレイが目の前にあるってだけなのは変わらんぞ?なにか他と比べて飛びぬけて先進的な新機能があるわけじゃない。俺なんざ、ただ壊れたから偶々買い替えただけだぜ」

 高場が言う通りだ。VR(仮想現実)だなんだと言っても所詮は周辺機器だ。至近距離に画面があって没入感が味わえて、身体にちょっとした刺激があって。あと、ちょっとアタマで考えたらゲーム画面などのカーソルを動かせるというだけじゃないか。

 そうだ、大したシロモノじゃない。


「以前、科学雑誌か何かで読んだことがあるんだよ。新世代のVRシステム理論ってやつをさ」

「その新世代のVRってのはさ、現在主流の覚醒状態の人間の視覚や聴覚や触覚などに働きかけるのではなく、半覚醒状態の人間の脳そのものに干渉するってやり方らしい」

「半覚醒状態ってのは眠っているときのことさ、いわゆるレム睡眠という状態に科学技術的手段を用いて移行させVRを体験させるんだとさ。うろ覚えだから適当なんだがな」


「ふぉふぉ、お主が…ジスエクスが、いや呼ぶの面倒だから略してジスと今後呼ぶぞよ。そいでだがジスが何を言いたいかわかったぞよ」


 オヤジウスが察したらしい。なにかろくでもないこと言いそうだけど。


「要するに、この現状は何者かが……この場合SVRユニットの開発元か何かだが、場合によってはCULOの運営会社が結託して、我々に新技術を試したのではないか?ということだな?」


 あれ、意外にもまともなこと言ってる。オドロキだ。あ、キャラがまたブレている。というより、元のオヤジウス……もとい桜野に戻ってる?


「あ、ああ。そういうことです」


「しかし、それはどうかな?そんなチマチマしたことやってバレたら……いや、確実にバレるだろそんなの。社会的大事件だぞ。会社は潰れる訴訟されるで破滅じゃないか。素人でもわかることだ」



 高場の言うことはもちろんだ。俺自身かなりの暴論を言っているのはわかってる。荒唐無稽な理屈だ、実証に至っていない理論だけのコトが現在の技術でできるのだろうか……。


「だが、異世界転移よりは可能性あるだろうよ?」


 俺は食い下がるかのように言ってしまう。俺自身が異世界転移とやらを信じたくなかったからだ。


「ふむ、じゃあ俺が……いや、おワタクシことオヤジウス・オッサンディアが異世界転移したという根拠を提示しようではないか。あ、提示するフォ」


 いや、言い直さなくていいから。


「まず、今までのSVRで不可能だったことが可能になったということが第一の根拠だふぉ」

「例えばなんだよ?」

「そうじゃなフォ、人の五感全部が使えるようになったことフォ」

「それは根拠にはならん。夢の中で痛みや苦しみを味わったことはないか?何かの匂いを感じたことは?触った感覚だってあるだろう?脳みそに直接作用するならなんでもアリだ」


「じゃあ第二の根拠だフォ」


 オヤジウスは俺の返答に間髪を入れず次の根拠を提示する。


 オヤジウスはしゃがみ込むと、まるでゲームのコントロールパッドを握って何か操作をしているかのようなパントマイムを始めた。エアコントロールパッドだこれ。

 待つこと数十秒後。今度は星をつかむかのようにオヤジウスは手を夜空に向かって伸ばした。すると間を置かずにバレーボールくらいの大きさの漆黒の空間が生まれ、その中に腕を突っ込む。



「……いつのまにそんな操作を。いや、基本的にCULOと同じなのか?」

「そうだぞよ、いつもコントロールパッドに頼っているジス嬢では難しいかもぞよ」


 CULOのプレイヤーキャラクターになってしまった現在、SVRユニットのイメージ操作をオヤジウスは使っているようだ。エアコントロールパッドは謎だが。


「嬢とか付けるな、男だよ俺は。あと、あなたエアコントロールパッドみたいなことやってませんでしたかねえ」

「フォフォフォ、パッドを持っているようなイメージで操作したほうがスムーズにいくんだよのフォ」


 SVRユニットには脳内イメージを利用した操作機能がある。もちろんCULOも対応している。オヤジウスは以前からパッドとイメージ操作を併用していた。ちなみに俺はというと、イメージ操作は訓練が必要なこともあり、俺はまったく使ったことはなかった。俺自身、両方比べてみたがコントロールパッドやマウス、キーボードを使ったほうが速く正確で快適だった。


「フォ!あったあったゾイ!」


 オヤジウスは謎の空間から紅いお面を取り出した。天狗のお面だった。


「で、何故その天狗のお面を取り出した?なんだソレ?」

「フォフォフォ、これは【テング・ペルソナ】だぞよ。頭装備の防具だぞよ。装備すれば空中浮遊スキルを持っている場合、滞空時間が延びるぞよ」


 ああ、以前そんなのを装備していた気がする。でも飽きたのか辞めてしまったみたいだが。なんで持ってるんだ?IG(アイテムグレード)はさほど高くないアイテムだったような?とっくに拠点の倉庫に放り投げたと思っていたが。


「ふふ、俺にはひとつ夢が……いや、おワタクシにはひとつ夢がありましてのうフォフォフォフォ」


 いやだから言い直さなくていいって。キャラを作りたいのは分かったから貫徹しろよ。


「その夢とはのう!この【テング・ペルソナ】を股間に装備することだフォ!」


「「「「………………。」」」」


 異口同音に絶句した。例の一名を除いて。


「ご主人様ッツ!超ステキッツ!!ナイスベリーセンスッツ!!!」


 オヤジウスは徐に、かつ見せつけるかのようにお面を自身の股間まで持ってくると、そのまま装着した。天狗の大きく長い鼻は反りあがっており、天に向かって伸びようとしているかのようだった。


 あまりの下らなさに言葉が出てきそうになかったが、根拠を聞くため俺は絞り出すようにして質問する。


「何故、それを股間につけると異世界なんだ?」

「本来のCULOでは頭装備は股間に付けれないだろう?あ、付けれないだろうフォ?」

「ゲームの仕様含めて変更したかもしれないだろう?」

「う~む、おワタクシ的には異世界認定してもいいフォ」


「お前の異世界認識は股間に天狗つけることなのかよっ!?」

「フッフォ、このセンスを理解できない貴殿らに同情するフォ」


 『おまえには理解できない』一般的には侮蔑と捉えられる事が多い台詞だが。今回に限っては喜びを感じてしまうのは何故だろうか。



「……ほかには異世界根拠はないのかよ?」

「あるフォ、まだ確かめてないというかこのスイートメモリーを味わっていたいからやってなかったダケフォなのだがフォ」


 まだあるらしい、話を聞いているだけなのに、なんか疲れてきたような気がする。


「数ある異世界モノのラノベを読破したおおワタクシならではなのだがフォ。これはまあテンプレといわれる要素なのだがフォ」

「いや、もったいぶらなくていいから。さっさと教えてくれ」

「も~う、あせっちゃダ・メ・ダ・ゾ?」


 しなを作りながらウィンクしてくるオヤジウス。


「いいからとっとと言えコラ!タココラナニコラ!!!」


「あ、れいにぃキレた。珍しいね、レアイベントだね。」

「む、むう。わたしも同意するが、あ……いや、えーとなんていう名前だっけ?プレイヤーネーム?忘れた。リアちゃんの兄上が怒るのも無理はないな」

「いいからよう、チマチマやってねえでとっととこれからどうするか決めないか?」

「ご主人様ッッツ!素敵ッツ!!!」



「仕方ないフォ、教えてあげるフォ」

「それはフォ、【ログアウト】ができなくなる事だフォ」



 ログアウト不可だと?たしかにそれなら……いや、それも仕様かもしれんだろ?何者かが俺たちを使って新型SVRユニットのテストをしていると仮定すれば、テストが終了するまで勝手にログアウトさせないだろうしな。


「ふふふ、では確認してみましょう。ホーラ、システム項目開いて一番下項目を……」


 なにやら操作しているオヤジウス。が、しばらくするとまるで動かなくなった。屍のようだ。

 完全に動きが止まり直立姿勢で固まっている。一体どうしたのか?


「おい、どうしたんだ?」

「……」

「あ、あ、あ……ある……」

「は?」

「あ、あるんだよ、ログアウトの項目がちゃんとあるんだ……」


 ……どういうことだ?オヤジウスの根拠はハズレらしい、だが俺のもハズレか?それとも……。


「なんだ、じゃあ帰れるじゃん。れいにぃ、あたし明日クラスの友達と出かけるんだよねー早く寝ないと」

「わ、わたしは連れて行ってくれないのかっ!?わたしも遊びたい!」

「ごめーん、3歳年上で面識ない人を話通さないで連れて行ったら引かれちゃうし~」

「そ、そんな……」

「あ、おれもこんなチマチマやってる場合じゃないんだぜ、明日演武会の手伝いしなきゃならんのだ」


 どうやら皆さん忙しいようだ。俺も明日?今日?とにかく休みなのだ。熟睡するという仕事がある以上夜更かしはいけないな。ゲームをやりすぎてというのは。


「ま、まちたまへ君たち!もう少しこのスウィートメモリーを楽しもうと思わんのかね?!」

「聞いただろ?みんな忙しいのだよ。俺も熟睡したいしさ」

「そんないやだいやなのだフォ!もう少し遊びたいフォ!これは異世界だフォ!帰りたくないだフォ!」

 

 駄々をこねるばかりか、おもちゃを買ってもらえない5歳児のように地団駄するオヤジウスこと桜野圭一(17)高校生。


「あ、あたし操作できた~あとはログアウトするだけ~」

「おうチマチマやっていたらできたぞ。俺もログアウト項目を選べばいいだけだ」

「わ、わたしはイマイチ操作がわからん!リアちゃん兄上手伝ってくれ!」


 リアちゃん兄上?変な呼称はやめい。

 

 次の瞬間、リアと高場が白い光に包まれるそして光は収束し霧散した。

 眩い白光が視界いっぱいに広がった。


 これはCULOで目の前のプレイヤーがログアウトするか死亡して基本拠点である総合ステーションに帰還したなどに発生するエフェクトだ。

 やはりゲームだったのだな。そう俺は思った。次に目にした光景を見るまでは。


「え?あれ?れいにぃ?あれ?なにも起こってなくない?」

「お?なんだ一瞬目の前が光って何も見えなくなったんだが、変わってないじゃないか?」


 眩い光が嘘のように消え失せると、見知った人間が現れた。

 二人の姿はCULOのプレイヤーキャラクターではなかった。

 俺が知っている本来の姿。新瀬莉亜と高場裕次郎がそこにいたのだ。

 

 莉亜は部屋着姿だった。ピンク色のタンクトップとベージュのハーフパンツを着ており、それは俺がこの世界で起きる前に記憶していた妹の姿だ。

 高場は着古したTシャツと縒れたジーンズというラフな格好だった。


「あ?なんだ?俺じゃねえか、何故ゲームの中で俺の姿になるんだ?」

「え、なにこれ元のあたしに戻っているじゃん美少女のあたしに」


 うむ、妹よ。お前がカワイイのは認めるけど、自分で美少女というのはどうなのかな?


「え、え?なんなのだ?これは?へ?莉亜ちゃんじゃないか?いや、先ほどのもリアちゃんだけど。え?莉亜ちゃん兄上、これはどうなっているのだ?」





 このとき、俺は完全に油断していた。惚けていた。抜けていた。これは夢なんだと、またはゲームのVRSが見せている仮想の世界なのだと。俺はある意味現実逃避していたんだと思う。

 きちんと認識し対処すべき為、頭を働かせて機敏に動くべきだったんだ。


 俺はこのときうっすらと匂いを嗅いだのだ。森の草木と夜風の匂いに混じった微かな獣の匂いを。

 微かだが嗅いでいたのだ、獣独特の本能から齎される殺気を。

 獣の匂いを嗅いだ次の瞬間だった。視界を黒い影が横切った。

 




 そして俺の眼に映ったのは……俺の愛する妹、莉亜の肩に穢れた牙を突き立てる大きな狼の姿と飛び散った鮮血だった……。




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