第二話 確認
「で、こいつはどういうことなんだ?」
俺は全員に問いかける。
「お前を除く全員でチマチマやりとりがあった後、いつまでも起きないお前をどう起こすか皆で思案していたところだが?」
説明が下手な奴だ。高場君らしきガチムチな人。
「そうじゃない、ここは何処だ?何故こういう状況になっている?」
「知らない、チマッと皆でCULOやってて気が付いたらこうなった」
いや、説明になってないんですが。
「れいにぃ、ほんと起きてくれてよかったよ。ずっと呼びかけたり、揺すったりしてたのに起きなかったから……」
「ん、そ、そうか。心配かけてすまなかった。ごめん」
「いいの、れいにぃだけ無事ならあたしはそれで良かったから……」
俺の知っている妹、莉亜の姿とはまるで違う黄緑色の髪の少女。だけど……この声、仕草紛れもない俺の実妹だった。
俺は彼女を抱き寄せると後頭部のあたりを撫でた。安心したのか莉亜らしき、この少女は涙をこぼしながら嗚咽している。心配をかけていたようだ。
……。
…………?ふと、妙なことに気付く。違和感があった。
俺の視界だ。いつもより視点が低く感じる。
ここが見慣れない場所だからだろうか?
「ま、チマチマしてしまったがな。ちゃんと起きてくれて安心したぜ」
「ほほほ、ワタクシも安心したぞよ。目覚めてくれて肩の荷がおりたぞよ」
変態とガチムチが近寄ってくる。近くで見ると二人ともデカい。思わず見上げてしまった。
高場と桜野はCULOのキャラ設定において、身長と体重は自分のと同じ数値に設定したと言っていた。
俺の身長は180cm。高場と桜野は俺よりも背が高い。だが顔を見上げるほどの身長差はない。
じゃあこの違和感は何故なのか。
それは現在の俺の身長が、この二人よりはるかに低いかららしい。身長差でいえば20cm以上あるような気がする。
俺は縮んだのか?この現状と何か関係があるのだろうか?
皆に問うてみる。
「なあ、俺いつもより縮んでないか?身長が。視点がいつもより低いんだよな」
目の前の五人は互いに顔を見合わせる。すると何か示し合わせたかのようにウンウンと頷くと、納得した様子で俺のほうを見る。
「ええーっと、れいにぃ落ち着いてね。他の人が何を言おうと、あたしの態度は変わらないから。れいにぃはあたしにとってたったひとりのお兄ちゃんなんだから」
なんだ急にお兄ちゃんなんて呼び方。俺に対する妹の数年ぶりの呼称に俺は訝しむ。
「ま、男とか女とかチマチマしたことなんて関係ねえよ、どうなろうが俺にとっちゃお前は友達だからよ」
いや、なんか微かに恥じ入るようにクサイ台詞言われても。いや男とか女って何?
「ま、まあ#&%※あ、そっか本名だめだったんだ。うん!と、とにかくお前がどうなろうと私は気にしないぞ、だからお前も気にするな」
気にするわ!一体なんのことなんだよ!あと一部の言葉が何言ってるのか聞き取れないぞ!
「いやー俺がファッションホモの称号を持つ変態紳士じゃなければ、おまえ五体満足ではいられなかったぜ?」
ハゲデブオヤジは白い歯をキラリン♪と煌めかせると優し気なスマイルを俺に投げる。意味不明なオヤジの言葉に、少し苛立ちを覚える。
「ご主人様っ!素敵ッツ!!ご主人様はアタシのものよっ!わかったわねっ!このメスブタ!!」
メスブタ?この俺をメ・ス・ブ・タだとぉ?!
なに言ってんだ?このジャイアントパーバートボンテージ野郎わ。誰が雌豚だよ。雄だよ見てわからんかーこの毎日鍛え上げている胸筋がよぉ。
俺は自慢の大胸筋の感触を確かめるべく、何気に胸板に右手で触れる。
むにゅん
(え……。な、なに?)
ふにゅふにゅと柔らかい肉の感触が手のひらに伝わってくる。サーッと顔から血の気が引いていくような感じがして、俺は恐る恐る自分の体を見下ろした。
衝撃的なものが眼に飛び込んできた。
真っ先に目に入ったのは二つの大きな膨らみだった。
二つの立派な双丘は窮屈そうに胸当てらしきものに収まっていた。胸当ては、とても防具とは思えないほど薄く柔らかい素材でできているらしく、柔肉の感触を可能な限り伝えようとしているかのようだった。
え、なにコレ?俺が女になっただと!?毎日腕立てと鉄アレイで鍛えたマッシヴな厚い胸板は何処へ行った?!何故こんな脂肪の塊が付着している?!
慌てふためきながら、俺は自分の身体全体を目を皿のようにして見回した。
身体は全体的に細身だ。胸の谷間が強調された全体的に露出の多いコスチュームを着ている。手足は白くほっそりとしているが、貧相なガリガリいうわけではなく。柔らかな瑞々しい女性特有の肉感があった。
下半身はふとももが剥き出しな際どいショートパンツとロングブーツを履いている。更には白くて大きなオーバーウェアというか、どちらかと言えば中二病丸出しなマントを着用している。
頭にモゾモゾと触れてみる。長い髪の毛だった。
長いと言ってもロングヘアではない。セミロング?もっと短い。
ショートボブといったところか。もちろん俺の髪の毛は、これよりずっと短い。
しかし、ほう。ほんとにアレは付いていないらしい、なるほど。
俺は自分の体であることをいいことに、その他イロイロとこの女体をまさぐった。
女性陣がなにやら怪訝そうな表情で視線を向けてくるが、気づいてないふりをしておく。
ここまで自分の体をまじまじと見て調べ、あることに気付く。
そう、この身体、着ている服、いや装備。これはCULOにおいて俺がメインアカウントで作成し使用していたキャラクター【ジスエクス・ニゴレイアル】によく似ていた。
「…………。うむ。」
(ふむ、日本で生を受けて17年、初めて巨乳というものの感触を知ったわけだが。自分のモノだと味気ないものなのだなあ……しかし、女性の身体とはこうも脆く儚いというか、こんなにも華奢だとは。いやはや、女体は神秘というがまさか自分の肉体で知れるときが来るとは………………)
「じゃなくて!」
一瞬、現実から乖離しそうになるのを俺はやめた。
落ち着け、現状から分かっていることをまとめていこう。
目の前にCULOで、俺の仲間が作ったプレイヤーキャラクターそっくりの外観をした、人間らしきものがいる。そのキャラには、まるでそれぞれの製作者が乗り移ったかのようだ。
俺は眠ってたところを叩き起こされた。気が付いたらまったく見知らぬ場所。(ただ……この空気中に混じった独特の感覚、これは……)
俺が覚えている最後の記憶は、5人の友人知人とCULOをプレイしていたこと。
桜野から【サービス終了記念!すべてのプレイヤーにありがとう感謝祭】とかいうふざけたイベントがあることを伝えられ、あの頃の楽しかった思い出をプレイしながら語り合おうということになった。
俺と莉亜と毒島は俺の家からログイン。あとの二人はそれぞれの自宅から。
ちなみに毒島は俺たちのように以前やっていたわけではなかったりする。何処からか聞きつけたか知らないが、皆でCULOをプレイする当日に何故か莉亜と一緒に俺の家に来たのだった。
よし、とにかくやるべきは現状の把握、情報収集だな。
「まず、ここにいる全員……いや、そこのピンクのデカイ巨体のボンテージオネエを除いた上で聞きたい。正直に答えてほしい」
「なんでアタシを無視すんのよっ!?」
皆の注目が俺に集まる。あえて一人は無視しよう。意を決して全員に俺は問う。
「ここにいるのは俺の友人、知人である#$%”$#%#、*#&リア”#%>と”%$%#*‘?=~&%$”$#”%、ブスジマタケコでいいのか?」
(なに?!)
「おい!どういうことだ!おまえらの名前を呼んだのに呼べないっ!いや、違う!?名前を発した途端、音がかき消された?!」
(いや、でも莉亜の名前と毒島のフルネームは呼べたような)
「ふむ、それがどうしたね?」
キモデブオッサンがふてぶてしく言う。
「それがどうした、じゃないだろ?!どういうこったよ?」
「ま、おまえが起きない間に、皆でチマチマッと分析とか討論は既にしてあるよ。俺たちの本名はどういう訳か呼べない。名を口にした場合、音声が認識不能になるようだな」
「ふぉふぉふぉ、ただし、CULOで作成したプレイヤーキャラクターの名前で呼ぶのはオッケーみたいだがね。ふぉふぉ」
「ま、認識できないのが俺たちだけ、なのかはわからないがな」
ガチムチ男、高場とキモオタデブ桜野が説明してくれる。最初からそう言えばいいのに。あと桜野よ口調というかキャラがブレているような?そもそも普段の口調と違いすぎるだろ!
「なるほど、自分の名前とおまえらの名前を呼べないのは理解した。じゃ、お前らは俺の知っている……ええっと、CULOのぉ……あれ?俺たちのパーティギルドの名前なんていったっけ?」
「ふぉふぉふぉ、W・M・P【スウィート・メモリー・パワーズ】ぞよ」
「そんな名前だっけ?忘れてた。まぁとにかく、お前たちはWMPのメンバーだった人間でいいんだな?俺の友達二人と妹とその友人である俺の知人だよな?」
全員に問いかけると、それぞれ頷く。ただひとりを除いて。
「お、おい。私は友達じゃないのかっ!」
オレンジポニテが抗議してくる。
「え?ブスジマは……いや、オレンジポニテはリアの友人だろ?俺にとっちゃ知人という認識なんだが」
「ひ、ひどいこっちは友達と思っていたのにっ!おんなじ学園だしっ、一年のときはおんなじクラスだったのにっ!あと何故オレンジポニテと言い直したっ!私はキャラの名前に本名をそのまま付けたんだから普通によべばいいだろうっ!?」
「んん?タケコちゃん……れいにぃはタケコちゃんにとっては知人という関係だよ?勘違いしちゃだめだよ」
毒島武子こと、オレンジポニテは勘違いしているようだ。が、無視して次に進める。
そういえば莉亜がオレンジポニテへの言い方が気になるが……。
ま、気のせいだな。
「OKここまでは理解した。じゃあ……」
俺は次の話に進めようとした。そうしたら……。
「アタシを無視すんじゃないわよっ!!」
巨体のオカマちゃんがまた抗議をするが無視!無視!
「次の話に移るぞ。ここは何処だ?異常な状態だというのは理解してる。自分でも頭がおかしいことを聞くがな。ここはゲームの……CULOの世界なのか?俺たちはゲームの中に入ってしまったのか?」
「ふふふぉふぉ、もしくはCULOのキャラクターの肉体を持ったまま何処かの異世界へと誘われたという可能性もあるがね。いや、むしろそっちを推したい」
推したいって何だよ。何を希望してんだよ。現状を推察しろよ。
「ここがゲームの世界ではないという証拠は?」
「オヤジウスによるとオーバーヘッドマップに俺たちの周辺以外が表示されていないそうだ。そもそもマップ埋め達成率の表示も無くなっているとか。何せコイツはCULOのワールドマップの達成率を100%にした男だからな」
なるほど、一つの理由にはなるか。でも何らかの理由でマップ達成率がクリアにされた可能性もあるわけで……ん?ちょっとまてオーバーヘッドマップ?
「なぁ、オーバーヘッドマップって?どういうこと?」
「何?ボケてるのか?いいかオーバーヘッドマップっていうのは……」
「ああすまん、そういうことじゃない。何故そんなもんが見れるんだ?ゲーム画面なんてないんだぞ?」
互いの理解に齟齬を感じたので、詳しく聞く必要がある。一体どういうことなのかを。
「ああ、教えてなかったな。おまえの視界には現状何も表示されていないな?」
「ないよ」
「よし、ではときめく乙女のような澄み切ったグラデーションパウダーを抱いて希うんだふぉ」
オヤジウスが横やりを入れてくる。
「あ、すまんもうこの夢、限界だわ俺。寝ていいかな?寝るわ」
下らないボケにはもう付き合えない。流石に限度があるわけで。
「簡単にいうと、いつものCULOの基本情報ウィンドウをイメージするんだ。うっすらと表示されるから」
はあ?このガチムチ男はナニを言っているのだろう?
「あ、俺発見したんだわ。コントローラー持っているようなイメージだとやりやすいぞ。チマッと言うとエアコントローラーだ。コントローラー持っていつものゲーム操作をしてみろ頭の中で。マップ表示操作をイメージ内で行使しろ」
いよいよ現実離れしてきた。やっぱり現実に戻りたい。寝るしかない。
「ああ?そんなの意味あるのかよそんなことで表示されるわけが……」
(……?!)
「?!でたよ!!」
ありえない現実に背筋が寒くなる。以前は毎日のように見ていたCULOの基本ウィンドウ画面らしき情報表示およびメニューウィンドウがうっすらと視界に浮き出てくるかのように表れた。
「うそ?だろ……あ?み、みえた?!」
「イヤン、いくらこのワタクシが魅力的だからってぇ!そんなところ見ちゃダ・メ・ダ・ぞよ(はぁと)」
桜野ことオヤジウス・オッサンディアは人差し指を口に当てた後、ウィンクを飛ばしてくる。キモッ!
「チマッと気色悪いモーションはやめろ」
いつもの口癖を混ぜつつ抗議する高場。
「うわ……キモ……」
自分の心のうちをストレートに表現する我が妹。同意するぞ。
「ええと……なんと表現したらいいのか分からない。自分の中にどす黒いものが生まれてくるような気が……」
毒島よ、下らないことで心を汚してはいけないぜ。
「ご主人様に扇情的な視線を送るのやめなさいよッツ!いい加減にしなさいよッツ!このメスブタッ!!!」
くねくねと身をよじりながら抗議するお姉ビッグマン。あれ?俺だけにガンつけてる?何故俺だけ?あとメス呼ばわりやめろ。
気を取り直して視界に表示された項目にさらっと目を通す。なるほど、CULOの一人称視点の基本ゲーム画面そのままだ。これはやはり……。
「なあ俺たちはやはりゲームの世界に入り込んだということか?」
皆に問いかける。
「ふっふぉふぉふぉ、それは確定とは違うのう。ひとつ確かなことがあるのゼ。どういうプロセスを通ったかは不明だ、しかし一つだけ確かなことがある!それはっ!」
キモデブオタおじさんが声高らかに、かつ興奮を隠しきれない様子で叫ぶ。
「それわぁぁぁっ!おワタクシたちは異世界転移or転生をしたということなのだふぉぶろ!!!!!」
桜野、いやオヤジウスよ。頼む、キャラを統一してくれ……
「……転移は分かるケド、転生って?あ、ゲームのキャラに生まれ変わったってこと?」
我が妹、莉亜が腕組みをしながらオッサンに問う。
「ふぉふぉそうなのだよ。このシチュエーションは男が一生に一度は夢見るという異世界に行くというテンプレ展開そのものなのだよ!」
いや、俺は夢見たことないのですが。
「ぶひふぉふぉ、いいかね。俺は十数年前に流行った異世界転生・転移モノというラノベが好きでねえ、中古を基本にまだ在庫のある新品の異世界モノを手に入れられるだけ集めているのだよ!その多種多様な作品の中から共通している、いわゆる異世界テンプレというものに現在の状況は合致しているのだっ!おワタクシは夢見ていたっ!この展開!この状況!この果てしないワクワク感!きっとこの先美少女エルフとか美少女魔族とかがキャーオヤジウス様ーとか群がってきてケモミミ少女とかも奴隷にしてハーレム展開とかそんでもってライバルキャラが出現して死闘を繰り広げたり魔王とか倒して世界を救ったりそのあと感謝されて英雄になって貴族王族いや皇帝とかになっちゃったりしちゃったりなんかしてそんでもって領地経営とか新たな食べ物とか素材とか技術とか法律とかいろんなものを現代知識で無双とか始めてすっごい国造りとやったってそのあとハーレムがウン千人規模になっちゃって種族分け隔てのない多種族国家作って世界を完全に統一とかそれはともかく超サイコーふおっふぉーFooooooooo!!!」
ヲタク特有の甲高い声と早口でまくし立てるオヤジウス。うん、聞き流したのは正解だったね。気を取り直してもう一つ聞きたいことがあった。
「……ええとだな、信用性には欠けるがおまえはなんだかんだで無駄知識がありそうだ。その上でおまえにききたいどうすれば元の世界、日本に……俺たちの街に帰ることができる?」
この流れからオヤジウスの返答に期待はしていなかったが、とりあえず聞いてみることにする。
「フォふぉうむム、大抵は転移もしくは転生した世界を支配する魔王とかなんとか倒すとか、難しい条件をクリアして初めてそういう話が出てくる作品を読んだ気がするな。でも大抵は転移した異世界が気に入って骨を埋めるというかハーレム生活おくるようなパターンが多いのだよふぉ、元の世界に戻るパターンは少ないような気がするふぉ」
要するに知りませんということか。嗚呼頼む、超リアルな夢であってくれ。そろそろ覚めないかなあ?
「わかったよ、わからないということだな」
「そうじゃなふぉ」
「ときに、オヤジウス。純粋に気になることがあるのだけど」
「なんじゃふぉ?」
「その口調はなんだ?普段は普通……いや、変人だけど流石にそこまでキモい口調じゃなかったはず。これもこの異常事態と関係があるのか?」
そうだ、ふざけているのかと思っていたが。この状況がきっかけでそうなってしまったのかもしれない。ショックで精神に異常をきたしたとか。この異常現象が彼の肉体に影響を与えた可能性は十分にあるだろう。
「ふぉむ、いい質問じゃなふぉ。いいかふぉ、SVRMMORPGなんていっても所詮はゲーム。実際のゲームプレイにおいてボイスチャットでそんな口調で演技、つまりロールプレイをしても空しいだけじゃろ?ベテランプリーストを熱演してる後ろから、母親がご飯よぉーと声を掛けてくるのは寒すぎる!」
「そりゃ寒いな」
「そうじゃふぉろ。そんなことしててもイタいだけじゃ。それに周囲に不快感を与えるじゃろう?」
(あ、イタくて不快だってこと分かってたんだ……)
我が道を行くとばかりに人生を楽しんでいるこの男が、周囲の反応を認識していたとは。正直オドロキだった。
「ここが異世界なのかゲームの世界に入ったのかは不明だフォ。まだこの森から一歩も出てないどころか周囲の探索もろくにしてないふぉ。だけどおワタクシの直感が告げてるふぉ、このリアルな感覚は現実だふぉ。異世界転移転生小説が現実になったのなら、これはもうキャラを自分の中に作るのは当然ふぉ役柄に入り込めるふぉ!おワタシはオヤジウス・オッサンディアだふぉ!」
桜野ことオヤジウス・オッサンディアが語る、死ぬほど下らない理由に俺は絶句した。
「うーん違うな~あ、フォ。キャラを固めなければ。もっとこう、キレが欲しいフォ。何かもっとインパクトのあるキャラにしたいフォ。もっと口調にエロさを……。そうだ?!コスチュームの露出度をもっと上げるとか!」
「「「「やめろ!!!」」」」
異口同音に抗議する四人。
「ご主人様ッツ!素敵ッツ!!!」
一人の、いや一体の従者を除いて。皆がオヤジウスの向上心を制止したのだった。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
桜野こと、オヤジウスは納得いかないらしく、他の方法を思案している。大人しくて助かる
高場こと、ガチムチはリアルの特技である武術の訓練をやり出した。ローブを着た魔法使いキャラが格闘技の演武を披露しているのは違和感満載だ。
俺の妹こと、リア・ニゴレイアルはオレンジポニテことタケコ・ブスジマと楽しくお喋りしている。
「これが巨乳という感覚なんだぁ~現実的な控えめ巨乳サイズにしなきゃよかったかなあ?ま、いいかぁ」
本来のリアにはない豊満な膨らみをムニムニと揉む、我が妹。
「え、えっ?!あの…リアちゃん、その聞きたいんだけど」
「ん?なぁに?タケコちゃん」
「昨日?私がキャラクター?を作った際、わたしのキャラ設定だっけ?その、身長とか3サイズとかの数値はゲームをプレイする本人の数値を入れなきゃいけない規約があるって言っていたような?」
「ふふふ、うちのれいにぃをご覧ください」
「…………。……あっ?!」
「あははは!冗談で言ったのにぃ!タケコちゃんは純粋でカワイイなぁ~アハハハハ!」
「ひ、ひどい……。なんでいつもわたしをイジめるの?友達なのにぃ……」
「ホラ、よく言うじゃない?可愛くて好きな娘ほどイジメたくなるって(はぁと)」
「わ、わたしがカワイイ?好き?あ、ありがと。そ、そうかな……い、いやそんなことは……」
「可愛いよぉ~タケコちゃん美人だしぃ~スタイルいいしぃ~それに……デフォルトで胸おっきいしぃ~三年前の私と同じ歳の時でさえ、今のあたしより大きかったよねぇ~?」
リアはタケコの大きく膨れた右胸をムギムギと掴んでいる。いや、あれは妹の手が小さいせいでつかまっているというより、ぶら下がっているかのような印象を受ける。
「あ、あのリアちゃん……右胸がその痛い……痛いのだが」
「あっはぁ~ごっめ~ん。あたしの身体と手が小さいからさぁ~両手で掴んでもはみ出ちゃう。すっごいよねぇ~?!」
今度は両手でガッシリと右胸につかみかかっている。う~む、仲良さそうだな、いいことだ。
「いや~ほほえましい光景だな。そう思わないか?」
そう言いながら俺は一息ついたらしい高場の肩に腕を回そうと傍に寄った。しかし、今は身長差がありすぎる事を思い出し、高場の肩に手を乗せた。
あ、これ俺がぶら下がっている感じがする。
「……あのさ、俺とオヤジウスは妹さんとは今回の件で初めて会ったばかりだから、はっきりと正直に感想を述べるのは憚れるのだけどさ。」
「なんだよ、含みのある言い方だな」
高場はふぅ、と息を一息吐く。
「おまえの妹、黒いな」
「え?黒い?いやー元の姿は色白だけど?この姿だって少し小麦色っぽい肌だけどさ、そこまで黒くは……」
「あ……。そう、ならいいや」
それだけ告げると、高場は再び突きや蹴りを繰り出し。鍛錬をはじめた。
ふむ、相変わらず変な奴だ。
さて、少し落ち着いたところで俺は考える。
これからどうすべきかということだ。
いつまでもココにいるわけにはいかないだろう。移動しなければならない。
日本に、俺たちの住む街に帰らねばならないからだ。
この訳の分からない状況から果たして俺たちは元の世界に帰れるのだろうか?
不安が胸の奥からこみ上げてくる。
もし、本当にココが異世界だとしたら俺たちがココに飛ばされた理由はなんなのか?
俺に与えられた役割はなんなのだろうか?
しかし……。
「あはははっ!!おっきいよねえ?! これが本来の大きさと同じだと?! 力なき者の痛みを知れ!!」
「り、リアちゃん?! 痛い、痛いよっ……」
「うーむ、直突きから前蹴りのコンビネーションの時マントが邪魔だな。いやせっかくだし魔法と武術を合わせた何かが……」
「フォフォフォ、このおワタクシがファッションホモ界のセロニアス・モンクことオヤジウス・オッサンディア卿なるぞよ。ん~ この名乗りはイマイチだなあ? もっとこうジェントルに高貴さを兼ね備た……」
「ご主人様ッツ! 素敵ッツ!!」
とりあえず、俺は思った。しばらくの役割は引率の先生役だろうと。