第二四話 疑心
ジスエクス一行はエリスが住む実家があるという、マレク村の付近の林に降り立っていた。
既に深夜になっていたので、マレク村目指して歩く一行は、話すにしても小声である。
武装仙甲外骨格でエリスの実家に直行することはしなかった。
じいや曰く、村の門を守る立哨に顔を見せておいたほうが、のちに面倒な事が起こらないだろうから、とのことだった。
もう一つの理由が、じいやのアーマメントに搭載されている機能、ステルス迷彩だ。
じいやがジスエクスたちの前に現れた理由は、エリスを迎えに来た際にジスエクスたちに捕まったと勘違いしたからなのだが。
エリスの家から出る際、村の門を通らず、武装仙甲外骨格を使用し、家から直接迎えに行ったらしい。
その時は、当然ステルス迷彩を使用したが。
もし、ジスエクスたちを乗せたままステルス迷彩を使用すると、異物が迷彩を邪魔してしまうらしい。
当然、異物とはジスエクスたちのことだ。
ということは、先ほどみんなを乗せていた時はステルス迷彩を使っていなかったことになる。
ジスエクスは訊く。大丈夫なのか?と。
じいやは言う。飛んでいたときは、雲で月が隠れて完全な闇夜だったから見えにくいだろうと。
仮に誰かに見られたとしても、誰が乗っていたかまでは判別できないし。酔っぱらいのたわごとと取られて終わりだろうと。
いいかげんだ、とジスエクスは思う。
どうもこの【じいや】なる人物は信用できなかった。
これだけのものを運用しておきながら、用心がなさすぎる。
この世界において、アーマメントというものは驚天動地という表現では足りないかもしれない。
にもかかわらず、対応が甘いように感じていた。
ジスエクスはこの老人を見たときから、どこか納得しがたいものを感じ取っていた。紳士的で好々爺としてるが、内側から見え隠れするモノがどこか禍々しいのだ。どこがだ、と言われたらはっきりとは返答できないジスエクスではあったが。
あの漆黒の怪物の中身がこの【じいや】なる人物だというのは、ジスエクスにはひどく得心がいったのだ。
それにしても、この老執事【じいや】なる人物は、どう考えても秘匿しておかなければならないような情報を、何故ジスエクスたちに話すのか? ジスエクスは訝しげに、じいやを一瞥した。
背丈はジスエクスと同じくらいの長身で、体つきは標準体型ではあるものの、無駄な肉は付いていないようにみえる。
ダブルボタンの襟付きベストと、グレーのジャケットとスラックスという、いわゆるスリーピーススーツを着ている。
オヤジウス曰く、燕尾服でないのが残念すぎるという。
白髪まじりの灰色の頭髪は綺麗にセットされており、グレーのスーツにはシワひとつない。
年齢は50代後半から60前半といったところ。オヤジウスと同じような、と言えば失礼にあたりそうだが、モノクルを右目にはめ込んでいた。
若い頃はモテた。と自画自賛しても説得力のある顔立ちをしていた。現在でも、上流階級の社交場に連れて行けば、貴婦人にウケがいいかもしれない。
細かな所作や立ち振る舞いを見ても、この【じいや】は紛れもなく執事だった。
そして【じいや】のことで、一同の中レイジだけが気づいたことがあったのだが……。
レイジはその事を、あえて頭の隅に置いた。
今、ここで言うことではないと。
そう判断した。
何にせよ、マレク村にあるエリスの実家へ行く以上、頼りにしなければならないだろう。
ジスエクスは内側にあった薄暗い感情を、頭の奥に押し込んだ。
ふと、夜風が頬を撫でた。
今日は水月22日いや、既に日が変わっただろうから23日だろうか。
水月は地球のグレゴリオ暦に変換するならば、六月だ。つまり今日は六月二三日となる。
六月の夜風ならば、気持ちのいい風だろう。だがこのジスエクスの身体ではイマイチの感触だ。
人にそっくりの作りをしているが、中に入っている人間が感じる感触としては、ザラついているというかあいまいで鈍い感触なのである。
もちろん戦闘などで、痛みを和らげてくれるというのは有難い効果ではあるが。
ジスエクスはこのプレイヤーキャラクターという、この身体の感覚がどうも慣れなかった。
(やっぱり元の肉体のほうがいいな)
肉体、というキーワードから、ふいにジスエクスは思う。
そういえば、このプレイヤーキャラクターという肉体は、【じいや】が使用する武装仙甲外骨格に何処か似ているとジスエクスは感じた。
見た目ではなく、システム的な根幹の部分だ。
俺たちがこの世界に来たことと、これは関係することなのだろうか?ジスエクスは考える。
本人が望まないにせよ、脳筋がモットーとされてしまっているジスエクスにそれ以上考えてもあまり意味はないことだった。
(まあ、いい。身内に手を出してくるのならば、やるだけだ)
レイジは決意する。身内だけは守って見せると。昔のようにはならないと。
土系舗装で整備された道路を歩いていると、灯りが見えた。
村だ。
入口には立哨が詰めており、こちらに気付いたらしく、警戒するような目つきでこちらを伺っている。
周囲はを、切り出した石に漆喰を塗って固めた石壁で覆われており、その石壁には一定の間隔で灯りがともっていた。
灯りはかがり火ではなく、仙洸石だった。
仙洸石は純度の低い仙錬石、つまり結晶率の低い仙錬石を人為的に再結晶化して作られる。
天然の仙錬石よりは安いが、それでも高価なシロモノであることには変わりない。
それをたかが小さな村の照明用として、一つどころかこれほどの数を使っているとは。ジスエクスは素直に驚いた。
マレク村は、想像していたよりもすごい村なのかもしれないと、ジスエクスは感心するのであった。




