第二三話 アーマメント -武装仙甲外骨格
「フォフォフォ~お空は楽しいのだフォ~」
オヤジウスはぶら下がりながら、はしゃいでいる。
彼がぶら下がっているそれを見て、多くの人間はどう思うだろうか。
この世界の人間の感想はさておき、現代日本人ならば、黒い装甲をまとったロボットと答える可能性が高いだろう。
禍々しい悪魔のような外観をした、黒いロボット。
いや、違う。
ジスエクスは思う、中に人がいるのだから違う。
ロボットというのは全自動のものを指す言葉だったと、ウィキペディアで見た記憶がある。
これはどちらかというと、以前見たハリウッド映画に出てきたパワードスーツというものに似ていると、ジスエクスは思った。
この禍々しい黒き装甲に覆われた巨人は、両腕を前方に突き出して全身を伸ばし、腹部が地上と水平になる態勢で夜空を飛んでいる。
オヤジウスは その左腕にぶら下がっているのだ。よく落ちないものだと思ったが、仮に落ちたとしてもプレイヤーキャラクターの頑丈な肉体ならば、無事で済むのではないか? とレイジは思う。
オヤジウスだけじゃない、ジスエクスをはじめとする一同は、手にぶら下がったり足につかまったり背中に乗ったりして、空を飛び移動しているのだ。
エリスは莉亜を後ろから抱きかかえる態勢で背中に乗り、高場は首にまたがる態勢をとっていた。
MOMOは足にぶら下がっている。
残りのジスエクスとブスジマタケコはというと。
ジスエクスが片手で右腕にぶら下がり、反対側の手でブスジマタケコを抱きかかえていた。
ブスジマタケコはジスエクスの首に両腕を回し、しがみついていた。
時おり、ぎゅっと両腕に力を入れてジスエクスに対しての態勢を整える。
心なしか、ブスジマタケコの顔は紅潮しているようにみえた。
これから彼らが向かう先は、エリスの実家だ。自分を救ったジスエクスたちを、エリアス家に招きたいというのだ。これはエリスの提案だった。
特に断る理由もなく、それどころか身体を休めたかったジスエクスたちにとって、その申し出は救いの手だったと言っていい。
「結構速いスピードで飛んでいるのに全然風圧を感じないね。じいやさん、なんで?」
莉亜が疑問を呈する。
その質問に、じいやと呼ばれた黒く禍々しい巨人は答える。
《それは私の前方に防護フィールドを展開しておりますので》
「これはいいね。チマチマ下を歩くのがバカバカしくなるな」
高場は気に入ったらしい。普段から仏頂面がデフォルトの男が、珍しくご機嫌な様子だった。
《同感でございます。
実は私、夜空を飛ぶのがストレス解消の一つなので御座います。》
「いやはや、ストレス解消で毎回飛んでたらバレたりしないのかフォ? ヤバイフォ?」
《ステルス迷彩を使用しているので問題ありませんよ。この辺りで空中で接触して、問題のある生物はいませんので》
ジスエクス一同は、思いがけぬ夜空の空中飛行に甚くご機嫌のようだった。
例えるなら、空中を走るオープンカーでドライブをするようなものだろうか。
「ふ、ふふ。つ、つい先ほどまで殺し合いをしていたとは思えぬな? レ……い、いや新瀬よ……」
ジスエクスにしがみつき、その横顔を見上げながら問うブスジマタカコ。ジスエクスは少しそっぽを向く形で景色を眺めているようだった。
「うるせえな、こんなのがいきなり出てきて物騒な口上たれたら、そりゃあ向かっていくだろう?」
「脳筋だフォ。普通は様子見だフォ」
「そ、それでもいきなり攻撃するのはどうかと……」
《ええ、あれは予想外でした。こちらも貴方たちを試す気ではいましたが》
「うるせえな、いちいちさ……」
ジスエクスはついさっき、自分がやらかした事を思い出した。
――――――それは、さかのぼること30分前のことであった……。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「え、な、な、なんだよ……。こ、これ? へ? ロボットアニメ? ライバル機?」
自身がキャラ付けしたオヤジウス特有の口調を忘れ、呆然といった様子のオヤジウス。
エリスを除いた一同も、オヤジウスと同様だった。
予想外。それはレイジも同じことだった。
何故、こんなものがいるのか? 前世において、こんなものは見たことも聞いたことがなかった。
幸い日本で17年生きてきたおかげで、多少の知識はある。
ただし、それはフィクションで見聞きしたものだった。
何故、このような異なるモノが存在する?
泰然自若をモットーとするレイジも、流石に不安と苛立ちを覚えていた。
レイジは思案する。
日本人に転生して17年。平和な世界に生まれることができた。
故人になってしまったが、父親は政治家。母親は医者。
豊かな家に生まれ、何の不自由もなく食わせてもらってきた。
自分に出来る事は可能な限りやった。学校の成績はイマイチだが、それでも友人たちの協力を得て、それなりの学園に入学した。
自分に出来る事、それは妹である莉亜を守ることだ。
レイジは誰に言われたわけでもなく、そうしてきた。
転生した直後からかぞえて10年。
元の世界に戻る方法を模索し、渇望した。
結局、戻る方法が見つからず、失意に落ちた。
その後、昔の自分と折り合いをつけ、今の世界で生きる事を決意したのは12歳ぐらいの頃だ。
いまでは少ないが親友もできた。この世界で生きる上での目標もできた。
それなのに、目下、望んだ故郷への帰還が実現している。
あげくの果て、守ると決意したはずの莉亜は、獣に襲われひどい事になった。
自分たちと同じような存在に、自分はおろか親友も殺されかけた。
突如、レイジに沸いた怒り。
それは、目下、正体不明の漆黒の怪物が目の前にいて、殺気を放っているという状況。
どうして自分たちが、このような目にあわなくてはならないのか?という理不尽さ。
レイジのもどかしさは、やがて苛立ちとなり、そして怒りへと変わっていった。
レイジは決意する。野蛮な行為をすると。
《賊よ、そのお若い女性を解放しなさい。命だけは助けると保証してあげましょう。
ただし……その女性に指一本でも触れたら……》
突如、漆黒の怪物がしゃべり出した。少し掠れていて、悪魔とは思えぬほどに、どこか品の良い低い声だった。
声から推察するに壮年の男性に思えた。
だが、勧告を言い終わる前に、ジスエクスが先に動いた。
ジスエクスはどこからともなく、エレメンタルシューター【ゼクセルM599】を取り出し狙いを付ける。当然、標的は漆黒の怪物だ。
弓型の兵器、エレメンタルシューター。その中央部分に位置する発射口に、錬仙された仙気が集まり、いつでも光芒の矢を発射できる状態になる。
ジスエクスはEFスキルを使用する。このスキルにスキル発動までの待機時間は無い。即、EFスキルが発動する。
エレメンタルシューター【ゼクセルM599】の発射口から、一度に八本の光芒の矢が発射された。
EFスキル【ショットアロー】
弓職のメインウェポンであり、雑魚相手からボス戦まで使える為、弓職の最重要スキルの一つである。
遠距離の相手にもそれなりのダメージを与え、八本の矢が拡散するために空中などを飛ぶ相手にも当てやすい。
なによりもこの技の真骨頂が、近距離で八本すべて叩き込めば高ダメージが期待でき、連射とはいかなくとも、連発が可能なことだ。
漆黒の怪物は腕をクロスして、防御する。
八本の矢はすべて命中した。この程度の距離ならば外すことは無いだろう。
怪物の、十字に組んだ腕の部分の装甲に亀裂が生じた。
効果はあったらしい。
《むっ、これはいけませんね》
漆黒の怪物はブゥンという聞きなれない音と共に、弾かれるような勢いで上空へと避難する。
一気に数十メートルまで飛び、そのまま滞空状態へと移行した。
「おい! おりて来いよ! 殺してやっから! クソが! あったまくんだよ!
いきなり昔いたトコロに飛ばされて! 妹は死にかけて! キチガイ野郎に殺されかけて!
その上、ハリウッドのSFアクション映画に出てくるやつが襲ってくるだと?!
ふざけるなバカ野郎!!! あったまくんだよ!!! 上から見下ろされるのは!!!!」
少し錯乱しているようにも聞こえるジスエクスの口上は、その場にいた全員を唖然とさせた。
「いや、先に仕掛けたのお前だから」
高場が冷静に突っ込む。
ジスエクスはツッコミに気にも留めず、【ショットアロー】を射つ。
空中で攻撃を回避するが、拡散する光芒の矢は何本か命中し、装甲をえぐり取る。
漆黒の怪物は、これはいけませんね、と独りごちた。
漆黒の怪物は何かを発動させる。
すべての装甲、いや身体表面が鮮緑色の光を帯び始め、いったん光は収束すると。やがて怪物の身体全体を包むように、碧色に発光する球型の防護領域が発生した。
それはオヤジウスの【テクノプリースト】のスキル【触れられざる聖域】に酷似していた。
「なに!?」
ジスエクスは疾走しながら【ショットアロー】を連発する。
放たれた光芒の矢は怪物が生じさせた防御領域に阻まれる。
光芒の矢は命中こそするが、威力は明らかに弱くなっていた。
《あなたの攻撃はなかなかキツイですね。ではこちらも攻撃に転じましょう》
漆黒の怪物はジスエクス向け両手をかざす。
狙いをつけたのだろう、怪物の両手が、碧色に発光する。
刹那。碧色の光弾が超高速で飛んでくる。
ジスエクスは身体をひねり躱す。二発、三発……と結局、六発連続して撃ってきた。
六発の内、2発は命中した。結構な威力であり、それなりのHPゲージが奪われた。
それ以外は躱したが、躱すたび地面が爆発したように、土煙と舞い上がった草木などが飛び散った。
それらと似たやりとりが2回ほど行われると、お互い硬直状態になった。
互いに理解したのだ。一撃の重い大技で決めると。
怪物は感心したかのようにジスエクスに言った。
《お見事ですね。まさか、私の【アーマメント】と互角以上に渡り合えるとは!》
「アーマメント?」
《この姿ですよ! 武装仙甲外骨格と言いましてね。あなた達と似てるでしょう?!》
この漆黒の怪物は知っている。ジスエクスたちの事を知っているのだ。
何故知っているのか? まさか、先ほどのイカルガとの戦いを見ていたのだろうか?
しかし、何故この怪物はわざわざこちらに重要な情報を知らせるのか?
まあいい。そう思ったジスエクス。
ジスエクスは思う。この怒りを抑えるにはコイツをぶっ飛ばすのか一番だと。
漆黒の怪物はどこからともなく、武器を取り出した。
地球人なら理解できる兵器。
銃だ。
銃によく似たソレをジスエクスに向ける。
ジスエクスも構える。当然、別のEFスキルを選択する。
ジスエクスは思索する。バリアみたいなものが邪魔するならば、貫通力のあるアレだと。
二人の殺気が交錯する。
やがて、それが衝突へと変化しようとしたときだった。
「おやめなさい! ふたりとも!!! じいや! あなたから止めなさい! その方はわたしの命の恩人なのですよ!」
声を張り上げ、エリスは戦いを中止させようと命令する。
「すみませんお嬢様、この相手は面白いです。とても興味深い。まだまだ終わらせたくはありません」
「俺も同感だ。まだ怒りが収まらない」
改めて殺気を全開にして、殺意の意志を向けようとする二人。
そんな中、何かを決意したエリスは、一拍空けたあと、息を吸いそして絶叫するかのように言った。
「いいですか!? お二人が戦いを止めないならば! ここでわたしは全裸になりますよ?! オヤジウス様みたいになっちゃいますよ?! すっぽんぽんですよ?! 良いのですか?! 本気ですよ?!
い・い・で・す・ね!? 脱ぎますよ!! ぜーんぶっ!!!!」
予想外で頓珍漢な説得を試みるエリス。
「お?! おやめください! エリアス家の長女とあろうお方が! なんという!?
わかりました。止めます! 即刻中止! いいですね?! ジスエクスさん?!」
漆黒の怪物は発射寸前だった銃らしきものを、目に留まらぬ速さで何処かに収納した。
どうやら、戦いを止める決断をしたらしい。
それはジスエクスも同じだった。
ジスエクスはエリスのバカバカしい説得に、何故か怒りが落ち着いていくのを感じた。




