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第二十二話 治癒 

 

 レイジとオヤジウスとエリスの三人は、レイジの妹【新瀬莉亜】が待つ地点へ向かう為、全速力でラデラクの森を駆け抜けていた。


 レイジはボクサーパンツ一枚という半裸のまま。

 オヤジウスはエリスをお姫様抱っこしながら。

 エリスを抱きかかえるオヤジウスの姿は、王子様というよりは城に忍び込み、お姫様を強奪したデブ賊といった表現が適切かもしれない。

 


「それにしてもさ、プレイヤーキャラクターの肉体はスゴいな」

「同意だフォ。生まれてこの方、徒競走永久ビリのおワタクシがこれほどのスピードで走れるとはフォ。

  

 だけどスゴイのはお前もだフォ。仙気って凄いフォ。中2漫画みだいだフォ」



 オヤジウスの走行速度は人間のそれを平然と上回る。この世界の基準と比較するならば馬など目ではないほどに。仙技使いも同等だが。



「なぁ、レイジよ。あ、フォ」


「なんだ?」


「仙気って何さ?フォ?」





 オヤジウスは仙気について知りたかったらしい。

 レイジは簡潔に説明した。


 この世界において常識といっていい、人類を支える力のうちの一つだということ。

 仙気は世界創造の神【ゼ―ヴェ】が人類が地上で生活していく上で、助けとなる力として与えたと言われているということ。

 仙気は大気中に含まれていて、基本的に見えない。人が呼吸して、そのまま体に取り込んでもそのまま力として使うことはできない。


 仙気を使う為には【仙錬(せんれん)】という技法を行い、仙気を人間が扱える力【錬仙(れんせん)】に変換しなければならない。 

 基本的に錬仙された仙気は、それを行った人間の体内でのみ作用する。その為、他者へその力を作用させることはできない。

 ただし、錬仙した仙気を外部へ放出して作用させることは可能。


 その技法が【錬仙鍛(れんせんたん)】である。

 【錬仙鍛(れんせんたん)】は高度な技術であり、非常に強力な力を持つという。

 主な効果として、手持ちの武器の強化。多少乱暴な使い方をしても壊れなくなり、常識ではありえないような威力を持つようになる。


 盾のように【錬仙鍛(れんせんたん)】を一点に集中させれば、大抵の攻撃は防げるという。

 レイジ曰く、試してはいないが。恐らくは戦車の大砲やミサイルの直撃も防げると談。

 

 先の説明の通り、錬仙は体内でのみ作用する。したがって、錬仙功(れんせんこう)などの肉体を回復させたり、肉体を強化したりする技は本人のみにしか効果がない技である。

 だが【錬仙鍛(れんせんたん)】を使えば、他者の肉体を回復させることができる。



「なるほど、少し分かったよ。で、お前その【錬仙鍛(れんせんたん)】つかって自分の肉体回復してたんだろ?イカルガに燃やされた時」


「正確に言うと、とっさに錬仙鍛(れんせんたん)で肉体の保護。少し、ダメージを受けたから錬仙功(れんせんこう)で肉体の回復と体内性能のアップをやった」


「なるほど、質問なんだけどさ、【錬仙鍛(れんせんたん)】を使えば自分の錬仙した仙気を外部に持ち出せるのだろ?」

「その通りだ」


「じゃ、なんで【錬仙鍛(れんせんたん)】を使って妹ちゃんを回復しなかったんだ?」

「まず、ジスエクス・ニゴレイアルの姿じゃ使えなかった。あと、まさか新瀬零司の肉体で使えるとは思っていなかった。この身体で仙錬(せんれん)の技法を習得する修行なんてしてなかったからな。驚きだよ。


 ちなみに【錬仙鍛(れんせんたん)】を使って外部に対して錬仙功(れんせんこう)を使用するってのは、相当に高度な技術なんだよ。

 そもそも、錬仙された仙気は、指紋のように人それぞれ違う。つまり自分で発動させた錬仙功(れんせんこう)を、他者の肉体で作用させる為に調整しないとならん。

 事実、錬仙功(れんせんこう)を使い、他者を回復させる専門職があるくらいだ」



「なるほど、なんとなく予想がつくが、お前はその専門職ではないんだな?」

「ああ、俺は攻撃専門だよ。【仙技使い】という俗な言い方があるのだが、その中から更にカテゴライズすると、【仙技剣士】に【相当】するのかなぁ?」

「相当するのかな?……ねえ?」



 オヤジウスはその説明に、若干の違和感を感じた。何故、【相当】するなのか?しかも疑問を付けた上でだ。



「ま、まあお前がその【仙技使い】っていうのは100人力だフォ。最強でフォでフォ」


「いや、そうでもない」



 レイジは左手をオヤジウスに見せつける。左手はほぼ全体が焼け(ただ)れていた。



「おい?!大丈夫かよ?な、なんでそんなんに?!」


「さも余裕をぶっこいてはいたがな、実はギリギリだった。

 久々に使ったせいかな……錬仙の連続使用すると技にムラが出る。修行しねえとな……。

 これから元の世界に戻る為に()()()()やらないといけないのだから……」



 レイジの台詞に重いものを感じ、オヤジウスは思案する。

 莉亜を治療した後のこと。

 これからどうすればいいのだろうか、と。現実からは逃れられないのだから。


 少し、視線を地面に落として思考の波に飲まれそうになったとき、下からの視線に気づいた。


 それは今、オヤジウスの胸に抱かれている少女。

 エリス・エリアスからの視線だった。

 オヤジウスとエリスの視線が交差する。エリスの顔が紅潮していくのがわかる。


 オヤジウスこと桜野圭一は、あえて気付かないフリをした。

 今までの人生にない経験だった為、内心慌てふためいていたのだが……。

 

 エリスはオヤジウスについて興味が尽きないらしく、様々な質問をしてきた。

 あの戦いで見せた仙技らしきもの。好きな食べ物や、年齢や出身などだ。



「オヤジウス様、あなた様は何処から来たのでしょうか?言いにくいみたいですけど。

 たしか……異世界がどうだとか……」



 レイジが慌てて横から口を挟む。



「あ~なんていうのかな?しょ、小説というか最近帝国で出版されたとかいう……」


 

 ぴしゃり、とばかりにレイジの妄言遮り、エリスは発言する。



「あ、わたし、皆さんやあのイカルガ?でしたっけ?それらの行動や会話から類推してみたのですが、お二人はどこか別の世界からいらしたのではないでしょうか」



 レイジとオヤジウスは顔を見合わせる。

 そして……各自、()()な反応で対応する。



『ヴぁ?べづのぜかい??お、おらいながもんだがらじらねえべざ』



 レイジが記憶の彼方にあった、故郷の言語を絞り出し、あたふたと答える。


「し、しし、知らない?!え、いやち、ち、ち、ち、ちち違いますっ!!!!あ、知らないフォー!!!おワタクシはなーんにも知らないデース」


「おい!演技しろよ!バカ!隠す気すらないのかよ!!!」



 エリスはクスクスと小さく笑う。

 彼女いわく、初めてオヤジウスを見た時から只者ではないと思ったらしく(それは当然だが)、更にあの戦いと俺たちのこれまでの会話から推察して確信に至ったという。


 レイジとオヤジウスは手を合わせ、秘密にしてほしいと頼んだ。

 するとエリスは鷹揚にうなずいた。元より、誰にも口外する気はないらしく。二人はとりあえず納得することにした。

 そもそも、そんな事を喧伝しようなら、正気を疑われるだろう。


 エリス・エリアスは、基本的に好奇心旺盛で知的な少女であり、教養も高かった。年齢は15歳。父親は仙洸工学者だそうだ。

 仙洸工学者とは、天然資源である仙錬(せんれん)石を加工して、より性能の良い仙洸石を作るだけでなく。

 仙洸石を使用するアイテムなどの設計と開発、そして評価を行う学術である。


 エリスの父親は帝国をはじめとする各国が保有する研究機関などには属さず、マレクという小さな村に個人研究所をつくりその研究成果で利益を得たり、仙洸石を作成、販売したりして生計を立てているそうだ。



 そんな話をしてる間に、莉亜たちがいる地点がみえてきた。

 

 駆けてくるレイジ達の姿に気付いた、カオティック・デス(高場裕次郎)は立ち上がり、両手を上げ大きく振る。

 オレンジポニテことブスジマ・タケコ(毒島武子)が、木の幹にもたれ掛けたまま手を振る。徐々に近づくにつれ、手の振りが弱くなり顔を赤らめてしまう。

 理由はいわずもがな。




◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 




「ただいま。いま戻った。おそくなってすまない」



 レイジはボクサーパンツ一枚の姿であいさつと謝罪を済ます。

 レイジらを迎えた莉亜以外の全員が目を丸くした。



「レイジ……なんで元の姿になってるんだ?しかもパンツ一丁で」



 レイジは諸事情により、などと言葉短く説明する。

 早く、妹の傷の手当をしなければならないのだから。



「パンツ一枚って……そうか、おまえはそういう趣味が……」



 高場は腕を組み、うんうんと一人納得していた。どうやら壮大な勘違いをしているらしい。



「ちょっ、よ、嫁入り前の女子の前でなんと破廉恥な!しかもオヤジウス某の道に走るとはっ!な、情けない!!!

 でも安心しろ!わたしは理解のある嫁になれる自信がある!安心しろ!」



 壮大な勘違い其の2.ブスジマタケコも何か勘違いしているらしい。あと、嫁とはなんのことだろう?と首をかしげるレイジ。



「フン!まさか(なか)メスブタのくせに殊勝な心掛けじゃないのよ!でも勘違いしないでよね!ファッションホモの道は甘くないわよ!恰好だけでなれるものではないわ!

 いいこと?アタシが鍛えてあげるわよ!これからアタシのコトは【お姉サマ】とお呼びなさいよねっ!!!」


「なんで?!どうして俺がファッションホモを目指してます!宜しくお願い致します!みたいな扱いになってんだよ?!ナニコラタココラ!!」



 壮大な勘違い其の3。MOMOはレイジがファッションホモを志望していると思い込んでいるらしい。

 

 ふと、レイジはMOMOの言動に違和感をもつ。

 【中メスブタ】とはどういうことか?



「なあ、MOMOよ。何故、ジスエクスが俺だと分かったんだ?」



「簡単よ!あたしたち従者(サーヴァントシステム)は【カタチ】を見ているんだからねっ。

 外見だけじゃだまされないわよっ!」



 明確な答えは返ってこなかった。俺のボクサーパンツ姿を見て、完全に外見で判断いや、勝手に妄想しているじゃないか。とレイジは思う。それにしても、【カタチ】とは何なのだろうか?


 バカなやり取りをしている場合ではないことに気付き、レイジは莉亜に駆け寄る。


 莉亜は、木の幹にもたれかかったブスジマタケコに、抱きかかえられる形で寝ていた。

 身体の上には、レイジが渡した課金アイテムのマントがかけられている。

 

 ブスジマタケコに、莉亜の目下の状況を訊く。

 彼女によると、出血は落ち着いたが、身体の熱が上がってきているらしい。


 レイジは早速、エリスに治療を頼み込む。

 エリスは既に地面に降ろされており、面識の無い面々を前にしたためか、身を整えていた。

 


「みんな、紹介する。エリス・エリアスさんだ。回復術を使えるらしい」


 レイジに紹介され、エリスは改めて自己紹介する。残っていた面々は、眠っている莉亜以外があいさつを交わした。



「それよりも頼む、妹を直してほしい」


 エリスはうなずくと、口に手を当て一瞬の間をおいてから、あっ!と叫んだ。

 何事か、と皆が口々に訊く。



「あ、どうしよう!()()がないと術を使えないんです。森に落としてしまったのです!

 手帳のようなものなのですが。

 中身は厚い鏡のようなものが入っているのです」



 誰か見たものはいないか?と訊くエリス。心当りはないとそれぞれが言った。

 だが、ただ一人手を上げる。レイジだった。



「ああ、さっき拾った。イカルガと戦う前にな。そうだ……ジスエクスに戻らないと」



 立ち上がると、レイジは己が着用しているボクサーパンツに右手を突っ込む。左手にはイカルガの従者から奪った、大太刀が握られていた。

 何をしているんだ、とか。そういう趣味が、とか。そ、そういうのはそういう関係になってから、とか。ご主人様の気を引こうとしているのねっ?!この中メスブタっ!とか。

 色々な言葉が浴びせられたが、レイジは無視する。


 取り出したのは、仙錬石(せんれんせき)だった。

 レイジはイカルガから聞いた方法を試す。

 再びジスエクス・ニゴレイアルに戻る為に。


 イカルガの言葉をレイジは思い出す。

 ログイン画面を思い浮かべながら、ログインIDとパスワードを入力すると戻れる。

 たしかにイカルガはそういった。


 小石ほどの大きさの仙錬石(せんれんせき)を握り込み、レイジは唱えるように()()()()()()()()を入力した。



「ええと確か、[E・L・E・A・N・O・R・0・9・1・8]でパスが……[E・L・E・N・A・1・1・2・5]で、いいな……」


 一年前までは、ほぼ毎日入力していたIDとパスだ。忘れていなかったことに感謝した。


 突如、レイジの身体が光の粒子に包まれる。CULOでログインして、ワールドに出現した瞬間の演出と同じだった。


 閃光が収まり、中からジスエクス・ニゴレイアルが出現する。


 莉亜を除く、その場にいた全員が大なり小なりの反応を見せた。



「なにぃ?!どうやって戻った?!え?え?」



 高場が反応する。驚きを隠せない様子だ。


 レイジは、アイテム欄から先ほど拾った()()を取り出すと、エリスに手渡す。


 エリスは受け取ると、手早くそれを調べ、それを色々と()()()()()()() 。


 すると、その手帳に収まった鏡が光り出した。その中には文字や絵などが映っていて、エリスはその光った鏡を触ったり押したりしていた。

 その一連の行動から、その場にいた者たちはあるモノを連想した。


 それは地球に住む現代人ならば、ほとんどの人間が持ち使っている便利な道具。

 ――――――旧い名称ならばPDA、現代ならばスマートフォン。いわゆる携帯情報端末を連想させた。


 エリスは苦しそうに眠り、呻いている莉亜に近づくと()()をかざした。

 眩い光が発生し、莉亜を包み込む。しばらくすると光がおさまり、再びエリスは()()を操作する。

 再度、莉亜にかざすと、今度は青白い光が莉亜を包む。僅かな時間が経過した後、光は収まった。

 

 それを間近で目撃していたレイジは、この回復術にひとり違和感を覚えていた。



「ええ、はい。大丈夫です。これで治ったと思います」



 莉亜の左肩にあったはずの惨い傷は、跡形もなく無くなっていた。

 若く瑞々しい、10代の少女特有の美しい肌がそこにあった。

 


「う、う~ん?はあ、あ、れいにぃ、おはよ。あたし今日の朝はベーコンエッグね。卵は半熟で……」


「莉亜……よかった……本当によかった」



 レイジの目にうっすらと涙が浮かんだ。拭うこともせず、莉亜の頭を撫でる。



「ありがとうエリスさん。心から感謝します」



 その言葉を合図に一同は安堵する。

 ひとまず危機は過ぎ去ったのだ。




 ――――?!








 ――――――突如、一帯の空気が一変した。


 強烈な圧力が、その場にいた一同に叩きつけられる。


 レイジを除き、この場にいる人間の視線が、一か所に集まっていた。


 レイジも皆に倣い、その視線の先を確認するため、ゆっくりと振り向いた。



 それを見て、はじめに抱いた印象は、禍々しい姿をした黒い鬼だった。


 身長は二階の窓に届くほどあって、身長238センチのMOMOを余裕で超えるほど大きかった。

 外装をみてみると、ほぼ全体が頑丈そうな装甲で覆われており、頭部の角のようなモノはアンテナのようにみえた。これはレイジが日本で暮らす現代人だからこその感想かもしれない。

 背中には大きな羽が生えていた。だがこれもよく目を凝らしてみると、SF娯楽作品に登場するような飛行ユニットのようにもみえた。

 眼は赤く鈍い光を放っている。


 似たようなものを、夜18時から放送している子供向けのロボットアニメで、見た記憶があった。


 

 目下、レイジ達の前に、()()は現実として存在している。

 

 漆黒の悪魔を象ったようなロボットが。


 

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