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第二十一話 NvA(non player character)vs(Another)


 突如出現した、このスズメという名の少女は、従者(サーヴァントシステム)だとレイジは推察する。

 イカルガ・トウヤは三体の従者(サーヴァントシステム)を連れていると言っていた。

 

 うかつだった。オヤジウスだってMOMOという従者(サーヴァントシステム)を連れてきたではないか。敵だって連れてきていると何故もっと早く思いつかなかったのか。

 自身の脳筋志向を反省するレイジ。


 他にもいるのだろうか?いるならば何故同時に襲って来なかったのだ?可能な限り高速で思考を巡らせる。

 と、ひと思案していたところに黒髪ツインテ少女が、こちらに向かって突進してきた。



「死ねぇ!!!変態パンツ!!!」



 その名前で、俺を固定して呼ぶのはやめてほしい。と思いながら、黒髪ツインテ少女スズメに応対するレイジ。


 スズメは小柄とはいえ、その身長ほどある大きな日本刀……いや、大太刀を一瞬で腰の鞘から抜刀し、レイジに襲い掛かった。

 スズメの身長は、莉亜と変わらない程の150cmくらいだとレイジは推察した。

 それと同等くらいの長さがある大太刀との組み合わせは、レイジを内心笑わせてしまう。

 いかにも戦士(ウォーリア)といった格好なのに、武器は日本風なのかと再び内心笑ってしまうレイジ。

 

 その間にも、スズメは小柄な少女とは思えないほどに力強く、勢いある剣筋でレイジに襲い掛かる。

 ところがレイジは、スズメが振り下ろした大太刀を、驚くことに片手であっさりと受け止めた。

 自身の頭部を狙った刃を、親指と残りの四本指だけで挟み、つまんでしまったのだ。


 想像外の事態に、驚愕するスズメ。

 掴まれた大太刀は、彼女が押そうが引こうがビクともしなかった。




「なっ?!は、放しなさいよ!この変態パンツ!!!チカン!色情魔!えろ!!!」


「襲撃しておいて、えらい言いようだな?オイ

 それに、痴漢呼ばわりされるような部位は触ってないし」



 それに対してのスズメの反応。

 イカルガ様から下賜された武器に、変態パンツが触れたという事実だけで、痴漢どころか万死に値する行為だと説明された。



「とっとと放しなさいって!色情パンツえろ痴漢!!!」



 とんでもない呼称が完成する。

  

 エリスは茫然としている。先程までの変事と目下、上演中の滑稽な劇を見せつけられて呆れているのだろうか。

 オヤジウスは慈愛の表情を浮かべているようだ。その柔和な瞳に映っているモノを想像しかけ、悪寒が走ったのでレイジはそれをやめる。



「これ、危ないから預かっておくな」



 レイジは掴んでいた左手で大太刀の力を一瞬抜く、すると僅かな動きであったにもかかわらず、スズメの体幹は重心を崩してしまった。

 すかさず、レイジは大太刀から手を滑らせ、スズメの右手首を取りつつ、そのまま腰を回転させるとスズメに背中を向ける形になる。

 同時にスズメの手をから大太刀をはたき落とし、足を払った。

 完全に重心の安定を失ったスズメは、地面に体幹を強く打ってしまい意識に一瞬の隙を作ってしまう。すぐさまレイジは錬仙功(れんせんこう)で強化した膝でニードロップをかます。

 膝は仰向けに倒れたスズメの腹部を直撃し、スズメは悶絶した。



「ふう、久々に使ったけど上手くいったな。以前、ちょっと高場と練習していたせいかな?」



 呻きながらもがくスズメから、その腰に差してある長い鞘を奪うと、はたき落とした大太刀を納刀する。

 こうして手に持つと、随分と長い刀を腰に差していた事をレイジは実感する。

 

 そして、レイジは感心する。

 これほどまでに長い刀を、どうやって腰から一瞬で抜いたのか、と。


 

「この刀いいな。もらうよ」


 

 レイジは大太刀を携える。それは妙に堂に()っているようにみえた。

 奪い取った大太刀は、元来レイジのモノであるかに思える程、しっくりと感じられた。


 ボクサーパンツ一枚で大太刀を構える姿は、いささか滑稽ではあったが。



「か、かえしなさいよぉ……ばか!変態パンツ男ぉ……」



 スズメは涙目で返却を要求するが、レイジという泰然自若たる男は、涼し気な顔で言った。

 お前が俺に取られた時点で、俺のモノ。諦めろ、と。そして悔しければ取り返してみろと。


 スズメは上半身を起こし、悔し気な眼でレイジを睨むと目に涙を浮かべつつも堪えていた。



「おい、イカルガ某、さっきの続きだ。どうやって元に戻った?言わねえと殺す。首を落とす」



 刃渡りの長い大太刀を瞬時に、それも一動作で鞘から抜くと、レイジは刃先をイカルガ某に突き付けた。

 イカルガは鈍く輝く刀身に恐れをなしたのか、素直にその方法を吐露する。



「え、ええととととおおおお!仙練石(せんれんせき)仙洸石(せんこうせき)を使えばプレイヤーキャラクターに戻れますぅ!!!」

仙練石(せんれんせき)仙洸石(せんこうせき)だと……」



 レイジは一瞬驚くものの、手を顎に当て考え込むような仕草を一度した後、腕を組み渋い顔をして黙ってしまった。


 埒が明かないと思ったオヤジウスは、イカルガに仙練石(せんれんせき)仙洸石(せんこうせき)とやらを使い、プレイヤーキャラクターに戻る方法の詳細を訊いた。


 返って来た答えはなんとも言えないものだった。仙練石(せんれんせき)とかを持ったまま、ログイン画面を思い浮かべ、IDとパスワードを入力するのだそうだ。



「なによ、そのいい加減な方法。かついでんの?」



 オヤジウスは訝し気にイカルガを睨む。

 少し怯んだイカルガは、慌てた様子で懐から小さな石を出して見せる。これが仙練石(せんれんせき)というものらしい。

 なお、採掘した天然のものが仙練石(せんれんせき)仙練石(せんれんせき)を人工的に作製したものが仙洸石(せんこうせき)だそうだ。

 イカルガは恐る恐る、オヤジウスに仙練石(せんれんせき)を渡す。


 オヤジウスは仙練石(せんれんせき)を見つめた。大きさは女性が握って包めるほどの小さい石だ。半透明結晶石のようにみえる。

 ぱっと見たかぎりでは深い青色だが、よくよく見ると紫みがかかっていた。

 いわゆる群青色と呼ばれる色をした、美しい石だった。


 オヤジウスはレイジに仙練石(せんれんせき)を渡す、使ってみろと言わんばかりに。


 レイジはイマイチ乗り気じゃないのか、あとで使うと言った。その対応に違和感を覚えたオヤジウスだったが、それ以上深い追及はしない事にした。

 オヤジウスはウザイと評判の男だったが、実は空気を読める男なのである。どうでもいい時だけふざけるのだ。



「あのさ、こんな時にこういう事いうのも何なんだけどさ、いいかな?」



 オヤジウスが口を開く。

 レイジの顔を見つめ、先ほどのイカルガとの闘いを思わせる程の表情で問う。




「お前がさっき言ったわけだけど、改めて訊きたい。

 レイジ……お前はこの世界の人間なんだよな?いやだったんだよな?」


「ああ、そうだ。

 17年前に、この世界で死んだ。そして日本で転生した。

 新瀬零司としてな」


「マジ……なんだよな」


 オヤジウスは思う、この数時間で異世界転移という驚愕の状況を体験しただけでなく。

 ゲームのキャラになって殺し合いをするという、狂気の沙汰まで経験したかと思えば、異世界転生者までもをこの目で見ることになるとは。

 しかもその転移者のいうのは、これまで平和な日常を共に過ごしてきた親友だというのだ。



「なあ、お前って本当はいくつなんだ?」


「享年33歳。数え年で」

「マジ?オッサンじゃん」

「じゃあ、享年11歳」

「それでもオッサンじゃん」


「はっはー!!!とにかくお前はオッサンってことだ!!!下手すれば、おワタクシの父親より年上かもぉ?!」


「やっぱ気味悪いかな?」



 少し伏し目がちに、そしてどことなく、何か伺うような様子で問うレイジ。



「いやーそんなことないよ?まったく気づかなかったし、ただ……」


「……ただ、何だ?」


「いやー歳の割には常識的なことを知らなかったり、知識があるようでとんでもない勘違いしていたり。

 なるほど、合点がいったわ」



 ひとり云々と納得するオヤジウス。

 レイジの表情は変わらない。



「ま、おワタクシと友達やれる理由が分かった気がしますぞよ!」


「調子が戻って来たじゃないか?」


「とっくに戻ってるぞよ。

 ま、おワタクシはお前の親友ぞよ。

 それは変わらんし、むしろますます楽しくなったぞよ」


「ありがとうよ……」



 素直に感謝の言葉を告げるレイジ。何気にだが、その顔は晴れやかだった。



「あ、あのう……」



 遠慮がちにエリス・エリアスが会話に入る。



「どうした?エリスちゃん?おワタクシとレイジの会話に混ざりたいのかな?」


「あ、いえ聞きなれない言葉で話していらしたので……」


『エリスさ、オラとオヤジウスさのはなじ、ぎいでいながったが??わがんながっだが?』



 それにしても、何故こんな片言辺境訛りになってしまうのか。あれだけ使ってきた言葉も17年も経てば忘れるということか。レイジはバイリンガルだった人が日本で2年暮らしただけで、英語を話せなくなったという聞きかじりの事例を思い出した。



「はい、わかりませんでした」



 この世界の人間に余計な事を聞かれなかったのは、幸いだったかもしれない。

 そう考えるオヤジウスとレイジ。




『ぞが、すまんがっだ、のげものぼいべな、故郷(クニ)のごどば話しぢゃっでのは』


「あ、いえ、そうじゃなくてですね」



 エリスは何か別の事を言いたいらしい。

 察した2人は揃って、エリスに向き直る。



「フォフォ、それでどうしたのかね?」



「あ、はい。その……えっと。

 あの二人、逃げました」




「「えっ?誰が?」」





 気付いてオヤジウスとレイジは振り返る。

 目に入ったのは二人の男女。





 イカルガ・トウヤは、ツインテールの美少女従者(サーヴァントシステム)にお姫様抱っこされながら、戦場から遠ざかっていく。


 スズメの走破速度は、成人男性一人を抱えても、まるで落ちることは無かった。

 足場の良くない場所であるにもかかわらず、まるで陸上トラックを駆けるかのような快走を見せる。


 

 やがてスズメとイカルガの二人の姿は、うっそうと生い茂る木々と暗い林道の中に溶けるようにして消えていった。


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