第十八話 PvP(ランクマッチ) Part-8
「来いよ!イカルガ!!!」
タイミングは一瞬、かならずブチ当てる。
「行くぞクソデブがぁぁ!!!!」
俺たちは何者かに、望んでないのに未知の世界に連れてこられて、望まない力を与えられた。あ、いや俺は異世界には憧れていたけど。
オヤジウス・オッサンディアというデブった中年の男。
フザけて作ったキャラクターだ。いまはこのキャラクターにすべてを委ねるしかない。
オヤジウスという、こいつの力を俺は信じる。
つまりは委ねるのは自分自身。すなわち、信じる心。
あれ?違う?まあいいや。
これでこそ、俺だ。
イカルガは浮遊状態から突進してくる。既にスキルは発動しているのだろう。
いつ撃ってくるかはわからない。でもかまわない。
「いくぞぉ!!」
いいさ、来いよ。こっちに着弾、いや刃が届く瞬間に跳ね返して、お前に当ててやる。
イカルガは更に突進する。
猛き灼熱の断絶刃の間合いに入った瞬間、斬りつけてくるはずだ。
俺は構える。いつでもやれるように。
イカルガは迫ってくる、あともう少しで……10メートルもない距離に到達したときだった。
ヤツは緊急停止する。
「なーんちゃって、そんな簡単にのらないぜー近寄らせて殴るか何かするんだろ。
残念だったな!灼熱の矢!!!
くらいやがれ!!!!」
なんで槍より矢のほうが上の扱いなんだろ?と俺は思う。個人的には槍のほうが……。あ、そんなこと言ってる場合じゃねえわ。
奴はこっちに向かってくるフリをして、空中に停止したあと、貫通性能を持つ強烈な焔の飛び道具を撃ち出す。
イカルガが、これから撃つであろう灼熱の矢は上位EFスキルであり、結構な威力を持つ。
正直、まずいと思った。相手をバカにし過ぎていた。
よく考えればこっちは防御力を強化するスキルがあり、硬いのだ。エリスを無視して、自分のことだけ守れば戦いを長引かせることができる。
相手としては面倒な事この上ない。
接近を誘いたいであろう、相手の挑発に乗ったふりをして、寸前で別の強力な飛び道具を使う。
【隠遁のリング】を装備しているならではの戦術だろう。
PvP人口が極端に減ったとはいえ、腐っても最高階級であるグランドマスターなのだ。
やはり腕はそれなりにあるのだろう。いや、PvPプレイ中ならば、もっとちゃんとしているのかもしれない。
【隠遁のリング】は対人戦では非常に有効だ。
何せスキルを使用したと悟られないのは、フォルティスマギカの弱点の一つである、EFスキル準備中に攻撃を喰らうと、発動がキャンセルされてしまうという部分を補えるのだから。
相手を狂人のバカ者だと思い過ぎたこっちのミス。反省だ。
あえて接近戦を仕掛けさせるという戦術は潰された。
だけど、いいね。
この飛び道具スキル、丁度いい技だ。この技相手なら使っていいだろう。
ホント、俺のムダな知識が役に立っているな!オタクで良かった。
【聖なる一撃】はいつでも作動可能だ。
「来いよ、イキり顔!」
灼熱の矢が放たれる。
強化された火焔槍よりも弾速は速い。攻撃範囲は狭いが威力は流石にこちらのほうが上だ。
「いまだ!!!」
俺は両手を突き出し、【聖なる一撃】を作動させる!
青紫色の小さなテーブルぐらいの大きさしかない障壁が、突き出した両手のすぐ前に出現する!
灼熱の矢は障壁に激突し、凄まじい反発を引き起こす。
やがてイカルガが放った灼熱の矢は障壁と一体化し、聖なる光と溶け合い、こちらの力へと変換される。
「いくぜ、喰らいにゃお!!!」
いかん、興奮して噛んでしまった。ダサイ。
誰かにツッコんで欲しくとも、エリスは消沈状態だし、敵はアレすぎる。
まぁいいちょっと落ち着いた。
俺は打ち返す為に全身を集中させる。これが外れたら完全終了なのだから。
だが、これほど後悔したことは無かったと、俺は後々反省することになる。
打ち返す際もテクニックがいるのだ。慣れていない技は正確さに欠ける。
ターゲットマーカーをイカルガに合わせ聖なる光弾を、俺は放った。
頼む、これが外れたら終わりなんだ。
「う?!うおおおおお!!!!!!!!」
わりと近めの中距離で放たれたのと、返しの光弾のスピードが半端ない為、回避が遅れるイカルガ。
あと少し、俺が慣れていれば当たったかもしれない。
だけど、ダメだった。光弾はイカルガの左耳をカスり。輝く夜の空へと消えていった。
「ふ、ふふふふ!!!!!!!ハハハハ!!!ヒヤッとしたああ!」
失敗した。失敗してしまった……。
以前、皆でCULOをやっていた頃。覚えたての【聖なる一撃】をイベント戦闘のNPC雑魚フォルティスキャスター相手に使ったことがある。
そのとき、NPCが使ってきたのは、威力はあるが弾速が遅い攻撃魔法だった。攻撃を受けるのはもちろん容易いことだったが、跳ね返すのはもっと楽だと感じた。
そのとき俺はスピードが速い攻撃は、跳ね返すのが難しいのだろうと予測はしたが。どうせ使わないから、それ以上は技の追及をしなかったのだ。
「くそ……だめだったか……」
冷や汗を拭う仕草をしながらイカルガが口を開く。
「いやーすごかったよぉ、そんなのあるんだ?いや、今のが当たってたらやばかった」
俺は思わず膝を着いてしまう。終わったのだ……。
それと同時に、エリスを守る為に展開されていた【触れられざる聖域】が消失した。
それはすなわち、俺のEFゲージが空になったという証拠だった。
「おほほほ!!!!これってアレかな?オヤジなんとか君。EF切れかな?タマ切れということですね?!そうなんですねぇん!!!!!!!!!
あ、回復アイテム使おうとしたら即攻撃するよん?エリスたんに攻撃しちゃうよん!!だからぁ無理やり使おうとしてもダメだよん?動作発生保障なんてゲームじゃないんだし、ないからねえ!!!!」
イカルガは勝ち誇る。勝利を確信したらしい。
「すまないレイジ、俺には無理だったらしい。すまない……本当に」
「アハァ!!!すばらしい!あ、その諦めた瞳を見るとぉ、あいつらを思い出すよぉ~」
「あいつら?」
イカルガは遠い目をしながら、語り出す。
自分の世界に入り込んでいるらしい、キモい。キモイの代表格である自分がいうのは何だが。
「ボクねぇ、この世界に来る前に覚えているのはムカつくカップルの事なんだよ。サービス終了の告知が来る前にCULOを始めたらしいヌけたカップルなんだけどさぁ、オープンチャンネルチャットで堂々とバカップルやり始めたんだよねぇ。よりにもよってボクの前でさ!拠点のステーションで!ボクだけじゃなくて!みんないるところでぇ!!!」
絶叫するかのように言葉を畳みかけるイカルガ。
「アタマに来たからさぁ、チャットに割り込んで嫌な思いをさせてやろうとしたんだけどぉ。その時気を失ってさぁ。
そしたらここにいたんだよねえ。
んでさぁ、やっぱ人間協力が必要と思わない?せっかくボクのほうから一緒に頑張って解決しようと下出にでてやったんだよぉ!!!そしたらぁ!!!!」
どうやら独演会は足りないらしい。続けてたたみ掛けてきた。
「ボクのコト、気持ち悪いってぇ!!!!!!ありえないよぉ!!!!!!!下出に出てやったのにぃ!!!!!!!
あいつら!!ボクを無視して、手を繋いで何処かに行こうとしたんだよぉ!!!
だからぁ!!!あいつらの背中に大魔法ぶっぱなしてやったんだぁ!!!!
そしたら仲良く吹っ飛んで!!!無力な元の姿に戻っちゃったあああ!!!!
そんでもって彼氏君の手足ををを!!!猛き灼熱の断絶刃でぶった切ってやったんだあああ!!!!!!!!!!!!
そおしあらぁぁ!!!!!!!!
彼女ぉ!!アヤちゃんって言ったっけぇ?!泣いちゃったあああ!!!!!やめてええええ!!!!!!!てええええええええ!!!!!!!!!!!!
ってさ。アハァ」
支離滅裂な説明だったが、おぞましい内容だというのは理解できた。狂ってやがる。
今更だが、コイツはヤバイ。絶対外に出してはいけない系だ。
これまでどうやって生きていたんだ?コイツ。
「アハァ、そしてさぁ~彼氏君をころさないでぇ~ってお願いしてくるからぁ!
アヤちゃんと遊んじゃったぁぁ!!
壊れちゃうまでぇ!!!遊んだのぉぉぉ!!!!!」
不幸な目にあった二人の事は知らないが、それでも怒りが湧いてくる。クソが。
吐き出したイカルガは、とりあえず満足したらしく落ち着きを取り戻す。
それでも目には、狂気を宿したままだ。
「ふぅ~なんか落ち着いちゃった。
あ、そうだ。おまえアイテム寄越せよ。全部な。
必要なんだよぉ、ボクを強くしないといけないんだぁボクぅにくれたらあ、命だけは助けてあげるよん♪」
助けるわけないんだろう?子供でもわかるわ。ボケ
「へえ、ほう、そんなに強いのに何故、それ以上強くならないといけないんだ?この世界で強くなる必要があるのか?」
どういう訳か分からないが、イカルガはこちらに攻撃するそぶりも見せず、話を続けた。よほど誰かに話したくてしょうがないらしい。自分の武勇伝を。
「アハァ、そうなんだよぉ~きいてきいて~
ボクさ、この世界で最強だってわかったからぁ、この辺って帝国領っていうの?荒らしまわったんだぁ。村とか町をさぁ。お金とか貴重品とかぁ奪いまくってぇ、あとぉ~
ムフ!女の子とか女の子とかぁ!ボク好みの娘をさらいまくってさぁ。
んでぇ、ちょっと気に入った村があったからぁ、逆らうやつらぶっ殺してボクだけのハーレムを作ったのよねえ」
聞いているだけで吐き気がするが、いくつか貴重な情報があったので黙っておく。
腹の底から嫌悪感が湧いてくるが、なんとか堪えて相槌を打つ。
「そうか、それで?」
「そう、その後ぉ~時々さぁ、とーばつたい?とかいうのが何度も来たけど、そのたびにぶっ殺してぶっ殺してぶっ殺していたのぉ。
ある日さぁ、ゼッケン様だかゼッセン様だか言われている女が来てさぁ、赤い鎧を着た金髪の女でさぁ、すっげー美人でさぁ。痛めつけてボクのハーレムに入れようとしたんだぁ。
そしたらさぁ!!!!!!!!!!!!!」
イカルガは再び興奮し出した。感情を乱される事があったらしい。
「めちゃめちゃ強くてさぁ!!!!命からがら逃げたんだよぉ~ハーレムはあの女のせいで無くなっちゃったしぃ!むかつく!だからさぁ!ボクは強くならなきゃいけないの!
自分が初めてこの世界に出現したのがこの森だからさぁ!ここで張ってればプレイヤーに会える気がしたんだぁ!今まで3人に出会ったんだ!運命!ボク様えらい!
あ、その3人は奇襲かけて瀕死状態にして、アイテム奪ったあと、殺しちゃった!!!!」
「で?俺も殺すのか?」
「アイテムくれるなら殺さないよん」
「語るに落ちてるんじゃねえか、たった今さ、お前奪った後殺したと言っていただろ」
「アハァ、そうかぁ。じゃあ、こうしようかな?」
イカルガは 猛き灼熱の断絶刃を発動させた。
これは……まさか、そういうことをするかよ。
イカルガは浮遊を止め、地上に降下する。
そしてエリスに近づこうと歩み始めた。
「おい、無力な女相手にしかイキり顔できねえのか?!恥はないのかよ!」
イカルガは無視して、歩みを止めない。
俺は一考して、煽りを入れることにした。ヤツのこれまでの言動から察して、台詞を組み立てる。
これが何の意味があるのかは分からないが、何もしないわけには矜持が許さなかった。
「なぁ、おまえのような歪んだ人間になるにはさ?やっぱり学校行かないでヒキコモリニートになって、世間から無視されるとそうなるのか?」
「……何ぃ?」
いいね、食いついた。
「いや~学校や会社やら社会から疎外されたらそうなるのかなってさ。ママの期待に応えられなかったか?だからママに捨てられたか?」
「あ、あが……」
うん、ママっていう部分が効いたかな?かなり適当にほざいたんだけど。
「ほら、お前のママが見てるぞ?情けない息子だって、死んでお詫びしますとかなんとか……」
「あがあああああ!!!!!!殺す!ころすうう!!!!!!!!!」
イカルガは俺に向かって来ながら 猛き灼熱の断絶刃を振り回してくる。
ギリギリで回避するが、いくつかは当たってしまう。
俺はEFゲージが少し回復していたのに気づき、EF防御を使用する。CULOではEFに関しては、自動回復機能があり、一定時間の経過で徐々に回復する。
「ふざけるな!ママは!ボクを好きなんだ!これからボクは頑張るんだっ!!オマエになにがわかるんだぁぁっ!!!!!!!!」
イカルガは連続で攻撃してくる。連続攻撃というよりはただ力任せに振り回しているだけだが、それでもこちらのHPは削られていく。
ああ……マズイ……これは……もう……。
やがて俺のHPは瀕死状態に近づいていく。終わりだ。
オヤジウス・オッサンディアの身体はボロボロになっていた。
次の攻撃でオヤジウスは消滅。俺自身がコイツの前に晒される。
そして殺されるだろう。
すまん、レイジ。何もできなかったよ……。
俺は、膝を着き座り込み、うなだれてしまう。もう、ダメか……。
「ひゃはは、もう終わりだねぇ~どうするぅ?アイテムくれるぅ~?」
「やらねえよ……バカが……さっさとやれ」
「あああ?なにその態度、ふざけるなよ?!ボク様が言ってるんだぞ!ボク様の言うこときけよぉぉ!!!!」
ふと、自分の手元に視線がいく。
俺の右手は無意識のうちに拳を握りしめており。震えていた。
くそ、よっぽど悔しいのか。俺は……。
「いいわ、もうお前、殺すよぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
ごめん、皆。どうか……どうかみんなは無事でいてほしい。
誰か、こいつをなんとかしてくれ……。
レイジ……すまない。
仇を取れなかった……。
静寂が流れる。
死を前にすると、時間の流れが遅くなるような感覚に陥ると、聞いたことがある。
これが、それなのだろうか?
「…………あれ?」
おかしい、何故、何もない?何が起きた?
ふと気になり顔を上げた。
幻覚か夢でも観ているのだろうか?ヤツの、イカルガ・トウヤの腹から、もう一本の 猛き灼熱の断絶刃が突き出ていた。
「え?え?な、なにそれ……」
だが、見間違いじゃなかったらしい。目を凝らしてみると、それは炎に包まれた人間の腕だった。
燃え盛る炎に包まれた腕が、イカルガの腹を突き破って空に向かっているように見えた。
そうだ、それをやってのけた人物は、イカルガの背後に立っていた。
燃え滾る腕を、剣のようにしてそれをやってのけたのであった。
それをやりとげた人物は、先ほどイカルガに殺された少年。
新瀬零司その人だった。




