第十六話 PvP(ランクマッチ) Part-6
「俺からも頼みがあるんだ。妹を治してほしい、ケガをしているんだ」
俺はエリス・エリアスに希望を告げる。
一刻も早く、彼女に妹を治療してもらわなければならない。
オレではできないからな。
「あ、あの……」
エリスが恐る恐る絞り出すように声を出した。
「た、助けていただいてありがとうございました。危うく、筆舌に尽くし難い行為をされるところでした」
「……あ、うん。無事でよかったね」
「ああ、ホントに良かったぜ」
エリスは両腕で、自分を抱きしめるような仕草をしながら立っていた。少し震えているようだ。
緊張が解けたのか、うっすらと目には涙が滲んでいた。
ムリもないな。年齢的には莉亜くらいか?こんな少女が一人こんな森の中で……。
ん?何故この娘はこんな時間にこんな場所にいるんだ?おかしいよな?あの殺された三人はお付きの者だったのか?じゃあこの娘は結構それなりの家柄ってことか?
ん~色々聞きたいけど、今は莉亜を優先しなければ!
「すまない、話したいことは多々あるのだけど、いまはこっちの要件を済ませたい。
俺たちはアンタを助けた。その礼をしてくれ、というのは横柄だとは思う。だけど緊急なんだ!一緒に来てくれないか?」
彼女は俺とオヤジウスを交互に見て、それを数回繰り返すと、数秒考えこむ。そして答えを出した。
「わかりました、同行させていただきます。エリアス家の者が恩を返さない訳にはまいりません」
「そうか、ありがとう。本当にありがとう!」
俺は思わず笑みを浮かべ、心から感謝を述べた。
すると、何故か彼女は顔を赤らめながらモジモジしていた。何だ?何処か打ったのだろうか?
彼女の格好はお世辞にも良いとは言えない。全身に土埃や草の切れ端などが付着していて、年頃の娘がこのような姿をしているというのは、同情を禁じ得ない。
ふと、視線をオヤジウスにやると、何やら浮かない顔をしている。どうしたのだろう?
「オヤジウスよ、どうした?勝利の喜びとか何とかお前だったら踊り出すと思ったんだがな?」
オヤジウスは、心ここにあらずといった様子だ。どうしたんだろう?
「おい!聞いているのか?どうしたんだ?!」
「あ、ああ。いや、なんか腑に落ちないというか……」
「何がだよ?勝ったんだよ。なにが問題なんだ……?」
オヤジウスは問いに答えず、彼方此方に視線を投げながら腕を組み、考え込むような仕草をする、。ホントどうしたんだよ……。
「あ、そうだ。あのイカルガ某は?」
俺はあのイカルガ某の方を見る。
下半身が千切れたままの身体は両腕を身体の下に入れたまま、うつ伏せの状態になっていた。
イカルガ某は何かモゾモゾと蠢いている。
下半身が千切れたのか消失したのかは定かではないが、辺りには見あたらなかった。
腰から下が無くなった為、断面が見えていた。
肉体の中身は、青色に鈍く発光しており、骨や臓器などはみられなかった。
「おい、イカルガ某。こっち見ろオラ」
イカルガ某の顔面に蹴りを入れる。ヒッ、と反射的に顔を守るイカルガ某。
「勘弁してください。悪気は無かったんです」
悪気が無くて襲い掛かってくるのかよ、人を殺すのかよ。どういうつもりだコイツ。
俺はイカルガ某の顔を覗き込む。
唐突に俺は違和感を感じた。
妙だ……。あれほど騒ぎ、喚き散らしていた小物が、先程とは打って変わり、落ち着きを取り戻しているのだから。
プレイヤーキャラクターの肉体はダメージを感じるが、本物の肉体ほどの痛みは感じないということなのか?ヤツが大げさだっただけ?痛みは継続しない?痛みは既に引いたという事か?
俺はイカルガ某に訊く。
「おい、お前に訊きたいことは幾らでもあるんだ。殺されたくなかったら、偽りなく答えな」
イカルガは俯いたままだ。ただ、手は身体の下から外に出しており、左手には大杖が握られたままだ。
「イカルガ某よ?変な下心は考えるなよ?お前がスキルを使用した瞬間、コイツをぶち込むからな」
俺は弓の形状をした武器、エレメンタルシューター【ゼクセルM599】を構えると、イカルガに向けて威嚇する。
「や、やめてーゆるしてくださいー」
イカルガは抵抗の意志はないよとばかりに、首をぶるぶる振った。
ただ、その反応は何処か気持ちが入っていなかった。何かに落胆とか絶望したとかそういう類のでは無い。
そう、まるで別の方向に意識が向いているかのような……。
「まあ、いい。わかってるなら、いい」
俺は、にべもなくイカルガに告げた。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
何故こんなにもオレは……。あ、いや、おワタクシは不安を感じるのだろうか?
あのイキイカ君を倒して、大勝利を収めたというのに。
実のところオレはカンがいい。
先日、抜き打ちの小テストがあった時、その前日に妙な悪寒を感じたのだった。
その他にも、道を歩いていた時にそれを感じ、注意しながら進んだら。曲がり角に、悪そうな学生がたむろしていた。
そう、オレはカンがいい。悪い予感ほどよく当たる……。
「おい!聞いているのか?どうしたんだ?!」
零司、いやジスエクスの呼びかけに、意識を戻す。
「あ、ああ。いや、なんか腑に落ちないというか……」
「何がだよ?勝ったんだよ。なにが問題なんだ……?」
そうだ、何かが問題なんだ。何かを忘れているんだ……。
オレは……。何が気になるんだ……。
何気なくイキイカ君こと【イカルガ・トウヤ】に意識を向ける。
ヤツは上半身だけの姿でうつ伏せになり、何やらゴソゴソとやっていた。両腕を身体の下に入れて……。
ジスエクスはイキイカ君の顔面に軽くケリを入れようとする、イキイカ君は両手で頭を守る仕草をする。
イキイカ君の左手には大杖が握られていた。
あいつ!何かする気か?!
間髪入れず、ジスエクスがエレメンタルシューターを構えて威嚇する。俺が何か喚起する必要も無かったようだ。
なのに……なのに……。
何かおかしい……何かを見落としている……。
「オヤジウス、こいつを受け取れ。回復しろ」
「え?」
ジスはオレに向かってEFソリッドとHPメディシンを投げてくる。
オレは落としそうになりながらも、何とか受け取った。
「もったいないからいいのに」
「いいから、何があるかわからんからな。妹の件もある。さっさと使え」
俺は素直に従うことにした。
基本的に貧乏性なので、アイテム等を出来るだけ使わず、溜めこむタイプなのだが、どういう訳かそうした。
二つの回復剤を使用すると、HPとEFが回復した。
これで何か起こっても問題ないだろう。
「あのぉ、ちょっとぉ~いいですかぁ?」
イキイカ君が、間延びしたマヌケな声で訊いてくる。
俺は何故か背中に冷たいものを感じた。
「あ?なんだよ?」
「いやね、そのぉ、あなたたちぃ~今、勝利に酔いしれていたりしてますかぁ?」
妙なことを聞いてくるイキイカ。何なんだ?
「酔いしれてはいないな。高揚感はあるが」
「そうですかぁ~」
バカっぽい口調で頷くイキイカ。
「なぁ、オヤジウスよ。こいつの処遇はどうするかな?」
ジスがこちらに身体を向けて、問いかけてくる。
たしかに、どうするか。というか、身体が半分になっても生きている、こいつをどうやって他の人間に説明するのか。
どうやってこの件を片付ければいいのだろう?
オレが思考を巡らせようと、いつものように手をアゴに置こうとした時だった。
ヤツが……。【イカルガ・トウヤ】がジスエクスの背中越しに、浮かんでいるのが見えたのだ。
「え……?」
ありえない、ヤツはいつ詠唱を?いや、EFスキルを使用した?浮遊は通常操作の類ではない。スキルによる特殊操作だ。
そしてヤツの右手に握られていた大杖から、炎が膨大な動力として収束し、それは天に向かって伸びた。
大杖が膨大な威力を秘めた、炎の剣になったのだ!!
猛き灼熱の断絶刃。
ほとんど使われない。フォルティスマギカのもう一つの大魔法、EF大スキルだ。
接近戦で使用される技。紙装甲の攻撃魔法職にはリスクの高い技。
しかし、威力は凄まじい。装甲の薄い職業ならば一瞬でやられる程に……。
バカ……な。そんな?何故?どうやった?!
フォルティスマギカはスキルを使用した瞬間、必ず足元に魔法陣が展開されるハズ!
スキル発生までの待ち時間が、ほとんどない下位スキルであってもだ。
だが、何も無かった。予兆は無かったんだ!!!
何故?!どうして!?
本能がオレに絶叫させた。オレの方を向き、イカルガ・トウヤに背を向けていたジスエクス・ニゴレイアルに向かって。
オレは親友に向かって叫んだ!
新瀬零司に向かって叫んだのだ……。




