第十五話 PvP(ランクマッチ) Part-5
イテテ、クッソォ!痛いじゃないか。何が起こった?!
俺は気を失っていたらしい。
慌てて跳ね起きる。体重180キロとは思えぬほど軽やかに。
辺りはヒドイ惨状だ。ジスエクスが放った大スキルで、大地は大きく穿たれていた。
完全に森林破壊だな。
ええっと……何があったんだっけ?あ、そうそう。
浮遊してイキり顔の【イカルガ・トウヤ】君がこっちにトドメを刺そうと、EFスキルを作動させた時だ。
何かが当たった衝撃音と共にイキイカ君(イキった顔のイカルガ)の下半身が吹き飛んだ。
刹那の後、強烈な閃光が目を覆った。
あまりに強烈な光で、自慢のハゲ頭も光る暇が無かったぞ!コノヤロウ。
閃光がこっちのハゲ頭をかすめていったと思ったら刹那、背後で爆音と衝撃がこちらを飲み込み、俺は前方に飛ばされ転がった。
いくら転がりやすい体型とはいえ、いい加減やめて欲しいと思った今日この頃です。
おワタクシはセクシーなデカお尻を思い切り突き出し、おでこに手を添えるジェスチャーでキュートさをアピールしつつ、ぐるっと周囲を確認した。
お~お~派手にやったもんだ。
まるで隕石と火砕流が同時に来たような、そんな災禍の後だった。
いや、我ながらよく生きていたもんだ。
「痛ったああああああああああああいいいいいいいよぉおおおおおおお!!!!!!!!!!」
耳をつんざくような絶叫が静寂を切り裂いた。この絶叫に対して、おワタクシは不快感を表明したい。
「ママァ……ママああああああ!!!!!痛いいいい!!!!たすけてええええええええ!!!!」
おいおい、ママァ~とかさあ。テンプレなイキりキャラが心砕かれてもやらないよ?それ。
多分ね。
「ボク様のおおおおお!!!!下半身がぁあああああ!!!!!ないよぉぉぉぉぉ!!!!!」
イキイカ君の絶叫にいい加減、辟易したくなる。
うるさいし、ちょっと相手してあげよう。
「お~い、大丈夫かぁ?いきてるかぁ?」
「なおしてぇぇ!!なおしてよぉおおおママァあああああ!!!」
「ママじゃないってば。あ、フォ付けなきゃ」
俺としたことが、キャラ付けをどうしても忘れてしまうな。
シリアスだと真面目になってしまう。ん?言い回しが間違っているって?いいんだよこまけぇ事は!!!
たとえ土壇場でもキャラを忘れない。そんな男に私はなりたい。あ!フォだ。フォ。
そういえば、【ジスエクス・ニゴレイアル】こと俺のマァイフレェンドォッ!!!新瀬零司はどうしたんだろ?こっちに来ないのだろうか?
そう思った矢先、ゆっくりと踏み締めるかのような足音が近づいてきた。
「おや、誰かが近づいてくるフォ??」
足音の主の姿を見たおワタクシは、思わず手を振った。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「う……。う……あ……あう……」
身体のあちこちから訴えかけてくる痛みで、わたしは目を覚ました。
気を失う寸前に見た閃光。
その後に生じた衝撃に巻き込まれて、吹き飛ばされたらしい。
わたしは上半身をなんとか起こす。背中に反発を感じたので、後ろを見る。
ぐしゃぐしゃに茂みが潰れており、どうやらクッションになってくれたらしい。幸運だった。
私は立ち上がった。少々辛かったが、そうは言っていられない。オヤジウス様はどうされたのだろう?
衝撃が生じた方へ目をやると、まばらに火が走ったかの様な跡があり、そばからは火煙が上がっていた。
あれほどの轟音を発していた場所は、焦げた草木の香りと共に、静寂が包み込んでいた。
わたしはよろよろと歩きながら、かの場所へと歩み寄っていく。
静かだった。
戦いは終わったのだろうか?
「痛ったああああああああああああいいいいいいいよぉおおおおおおお!!!!!!!!!!」
静寂が絶叫でかき乱されてしまった。
これは……。あのローブ男の声だろうか?オヤジウス様のものでは無い気がする。
私は気が気ではなくなり、歩みを進めた。
少しマシにはなったが、身体は辛い。だけどオヤジウス様の事が気になるのだ。
気にせず歩きを速めた。
煙と焦げたにおいが立ち込める森を歩み進めると、やがて二人の姿が見えてきた。
ローブ男は下半身が千切れてしまっていて、芋虫のように呻きもがき苦しんでいた。
オヤジウス様はその傍らに立ち、何か語り掛けているようだ。
私は自然に声をかけられる位置まで近づこうと歩みを更に進める。
オヤジウス様は私に気付き、手を振ってくれた。
私もそれに笑顔で答える。
オヤジウス様、ご無事でしたか!そう声を掛けようと思った時だった。
「おう、ファッションホモ!!!生きてるな!?」
乱暴な口調で、誰かが呼び上げた。女性の声だった。
高く美しい声だった。
声のした場所はここから距離が少しあったのだろう、声の主の姿は良く見えない。
ただ、徐々に近づいているのが分かった。足音が聞こえてくるのと合わせて、闇と茂みに紛れた人影が、少しずつ浮き出てくるのが見えた。
そして月光と地に残った炎が、その女性の姿を浮かび上がらせた。
その女性が登場すると、周りの目を覆うばかりの惨状が対比となって、幻想的な空間へ変貌したかのようだった。
それはとても美しい女性だった。
月光にあてられ輝く銀髪は、遠目にも分かるほどにサラサラで艶やかであり、この世のものとは思えぬほどに美しく輝いていた。
髪型は躍動感のあるショートボブにカットされており、それはクールな印象を感じさせた。
身長はさほど高くないものの、全体的に細身でしなやかな肢体をしていた。
手足は長く、二の腕も細い。だが、決して貧相ではなく、遠目に分かるほど瑞々しい絶妙な肉付きだった。
白く透き通ったみずみずしい陶器のような肌は、古傷どころかシミや黒子、吹き出物などは一切見られない。
鮮やかな紺碧に染められた軽装のアーマーは、豊かな胸を強調するかのように押し上げ。それと反比例するかのように腰回りは折れそうな程に細かった。
美しい肢体から伸びた長い足は、健康的で程よい筋肉が付いている。
下着のようなタイツを履いている為、太ももからブーツまで肌は剥き出しだったが、不思議と扇情的な印象を与えなかった。
彼女は、ブーツまでかかる程の丈があるクロークを羽織っていて、それはとても高価な品に見受けられた。
目下、露出度の高い服装を晒しているが、クローク自体が身体全体を包めるタイプのものらしく、フードまで付いていた。
防寒効果が高そうなクロークだからこそ、肌の露出が多い服装でも大丈夫なのだろうと、私はひとり納得した。
わたしは自分が凄絶な現場にいることも忘れ、彼女に魅入られていた。
ふと、彼女がこちらを向いた。わたしに気付いたらしい。
「やっ!君が【エリス・エリアス】さんだね?初めまして、ジスエクス・ニゴレイアルという者だ」
彼女が私に語りかけてくる。
あれ?何故、わたしの名前を知っているんだろう?
そんな疑問が頭を過ぎり、わたしはつい言葉を返すタイミングを失ってしまった。
「俺からも頼みがあるんだ。妹を治してほしい、ケガをしているんだ」
わたしは何も考えず、彼女の頼みを聞き入れる事にした。




