第十四話 PvP(ランクマッチ) Part-4
本来なら、この森は何時もと変わらぬ静かな夜闇に包まれながら、明日をを迎えるはずだったのだろう。
しかし、目前に広がる光景は劇甚な災禍に見舞われたかのようだった。
実際は人の手によるもの……。いや、人に似た何かによるものか……。
地表に突如、地獄の門が開き、獄炎と共にアモンだかフラウロスだかアミーだかの炎を掌る悪魔が出現した。そんな妄言も通りそうな光景が辺り一面に広がっていた。
正直、予想以上の破壊力だ。あのフォルティスマギカこと【イカルガ・トウヤ】め!!!
CULOではEFスキルなどの影響で、地表が抉れたり草木が延焼したりなどの破壊エフェクトの類は、は容量や描画スピードの都合かは不明だが存在しなかった。
何ヘクタールかは知らないが、この森はそれなりに広い。だけど、このままほっとけば全てが焼畑になってしまう。ここに住む生物も住処を失って人里に降りてきてしまうだろう。
当然、そんなことさせる訳にはいかないが。まず優先すべきは妹の命。
こっちも急いでるんでね。早く妹を治療せにゃあならんのだ。
俺は【複合的情報解析】を使用し【エリス・エリアス】とオヤジウスの会話を初めから聞いていた訳だが。
エリスは莉亜の治療をしてくれると約束してくれた。しかしだ、もしエリスが治療に失敗した場合、更に別の人間を探さねばならなくなる。
この世界には法術を使いつつも、それでは追いつかない場合。外科手術と併用して人などを治療する職業【仙法医師】が存在する。
もし、エリスが莉亜を治せなかった場合。エリスを担いで彼女が知る限りのツテを頼りに【仙法医師】を探し出し、一刻も早く探さなくてはならなくなる。
そうだよ、クソッ!その為にも早く倒さないと!!!
最悪を想定をした結果。こういう回りくどい戦術をとってしまった訳だが、正解だった。
防御特化の支援職でなんとか耐えている状況を見るに、オヤジウスと二人で【イカルガ・トウヤ】と速攻の真っ向勝負をしていたら、一瞬で俺はお陀仏だったかもしれない。
オヤジウスには、ムリせず防御と回避に専念し。周囲の被害をヤツに拡大させるようにと事前に伝えておいた。
今のところ狙い通りだ。
オヤジウスは一対一で敵を引きつけておく。
かく言う俺、新瀬零司こと【ジスエクス・ニゴレイアル】は何をしているかというと。
目下、2人の戦闘を観察中だ。
勿論、サボっている訳ではない。
状況を見たところ、そろそろ頃合いだ。
俺は【複合的情報解析】を解除した。
あらかじめ取り出しておいた【EFリキッド】を使用。
消耗したEFゲージが全快した。
いま、俺が潜伏している場所は、枯れ気味な巨木の頂点付近だ。
丁度いい場所を探した結果、敵との距離も最適で状況を見渡せるスポットを運よく見つけ出せたのだ。これは風が俺たちに向いてるような気がした。目下、無風ではあるけど。
俺は視界に表示されているメニューからEFスキルの項目を選択。
【EF極限撃ち】をスキルショートカットスロットに登録する。
これでいちいちメニューを開き項目から選択して何やらという、面倒な作業をせずスキルが使用できる。二発目を撃つつもりは無いが、念のためだ。
正直、外したら次弾は無いと思ったほうがいい。
黙って二発目を喰らうバカはいない。やらかした瞬間、射程外などに逃げられるだろう。
俺はEFスキルショートカットから【EF極限撃ち】を起動させる。が、何も起きない。
俺は【エレメンタルシューター】を構える。すると、肉体が微妙な振動を感じると共に、体内のEFらしき動力が弓に供給されていくのを感じた。
ギャラクシーハンターの武器【エレメンタルシューター】
俺が装備している【エレメンタルシューター】の個別名称は。
【ゼクセルM599 series800 TYPE-EF】(装備アイテム欄にある詳細説明を見た)といって、件のイベント参加報酬として運営より送られてきた、複数の課金アイテムの内の一つだ。
IGは130。CULO最終シーズン最高クラスの武器だ。
CULOの課金アイテムの性能を、素材を集めて作る【クラフトアイテム】と比較した場合。
たとえ同じIGだとしても、【クラフトアイテム】のほうが上回る。
CULOで冒険をしていく中で手に入る素材を用いて【クラフトアイテム】を作成する訳だが。
たとえば武器を作るとしよう。
最高グレード130の【エレメンタルシューター】を作成すると仮定して、グレード130に該当する【エレメンタルシューター】は複数あることがザラだ。下位から最上位まで種類は豊富だ。
そのIGの内、最上位の装備となると、作成するのは非常に困難だ。 生半可な努力で素材は手に入らないからだ。
強すぎるレイドボスしか落とさない素材や。敵を倒して、超低確率でしか手に入らない素材など。
難度の高い条件でしか手に入らない素材を、鬼畜な事に大量に集めないといけないという極悪条件だったりする。運営に対する不満が噴出するのは当然のことだ。
運営が課金アイテムを買わせたい為に、こういう仕様しているのではないか?そういったウワサを耳にしたことは幾度もあった。
【イカルガ・トウヤ】は自らを廃人だと言っていた。だとしたら、ヤツが身に着けている装備品の数々がCULO最高峰の類。つまり、IG130の内の最上位【クラフトアイテム】で武装していたとしても、なんら不思議はないだろう。
俺はエレメンタルシューター【ゼクセルM599】の弦の部分をゆっくりとした動作で引く。
【ゼクセルM599】の発射口にEFらしき動力が集められていく。
全身から発していた微振動が徐々に大きくなっていき、激しく振動する。
だが、不思議な事に狙いを付けているターゲットマーカーや、手元のエレメンタルシューター【ゼクセルM599】はまるで振動の影響を受けていなかった。
当然、まだ発射はしない。最大威力になるまで溜め続けるのだ。
いつのまにか足元から生じたEFらしき動力は、白色に輝く放射体のように可視化され、やがて全身を包み込んでいった。
激しく光る放射体は、まるで天に向かって己の力を誇示するように、それを発しているかのようだった。
「おいおい……ヤツにバレないだろうなコレ……それなりに距離はあるし、枝葉が隠れ蓑になってくれるといいけど」
不安はあったがしょうがない。やるしかないのだ。
俺の親友、桜野圭一ことオヤジウス・オッサンディアは回避&防御をしつつ辛うじて耐えている。
あちこちに移動し転げまわり、イカルガの放ったEFスキルの副産物は、この森の一画を地獄の業火で焼かれた別世界へと変貌させていた。
戦場に目を向けると、爆風に吹き飛ばされたオヤジウスが地面に叩きつけられるかのように転がった。まずい状況だ。
イカルガ・トウヤは勝ち誇り、イキリ顔でオヤジウスを見下している。アイツめ!
EF極限撃ち】の溜めはもう少しで最大だ。正直このまま撃っても問題ないかもしれない。
だが、このまま撃つことはできない。今いる位置からだと、丁度ヤツの姿にオヤジウスも重なっているのだ。
このまま撃てば、巻き込んでしまう恐れがある。
クソォ!どうすれば……。溜め解除して別の位置からやるか?いやそんな時間は無い。
オヤジウスがやられてしまう!
その時だった。
突然、イカルガ・トウヤの身体がが浮かび上がり、滞空状態へと移行した。
だが、こちらとしては都合がいい。これでオヤジウスを射線上に巻き込まずに済むのだから。
浮いているイカルガの足元に魔法陣が発生した。魔法陣が宙に浮いていた。
上空からEFスキルを使用するつもりらしい。
野郎!桜野に!オヤジウスにトドメを刺すつもりか!!!
俺はエレメンタルシューター【ゼクセルM599】の敵までの距離と射角を調整する。
タイミングのいいことに、溜めも最大まで達した。
よし、もういいだろう。
【イカルガ・トウヤ】め、イキり顔もそこまでだ。
くたばれ。イキり廃人が。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
私、【エリス・エリアス】はオヤジウスさんという変態さんの指示どおりその場から逃げました。
逃げる最中、凄まじい轟音と熱波が背中に伝わってきました。
ある程度の距離を確保すると、私は近くの巨木に身を隠しました。
恐る恐る巨木から顔を出し、様子を伺うと。オヤジウスさんとあの狂気のローブ男がいた場所は、地獄の業火で焼かれたかのような苛烈な光景へと変貌していました。
私は身体を再び巨木の影へと潜め、頭を抱えて座り込みました。恐ろしくて体が動きませんでした。
でも、あの紳士であるオヤジウスさんの事を思うと、何かせずにはいられない。そんな気持ちもあったのです。
しばらくの間はその場からは動きませんでした。
でもある感情が私を動かしました。
何の所縁もない私の為に、あの殺人ローブ男と戦ってくれている紳士的な男性。あの方は何故私などを助けてくれたのか。それを知りたいと思いました。
わたしは勇気を出し。あの恐ろしい場所へと近づくことにしました。
少しでもいい、少しでも近づきオヤジウスさんの雄姿を目にする事。
それがわたしに出来る事だと思ったのです。
何かの衝撃音や地響きがするほどの爆発音。吹き飛ばされそうな衝撃波に火傷しそうな熱風。
何度も草や木に隠れたり、服が汚れるのも構わず伏せたりしながら徐々に近づきました。
身の安全と様子を伺うという、二つの目的が果たせそうな丁度いい場所を見つけた。
大きな岩だった。森の中に岩?遥か昔からあるものだろうか?それとも誰かが置いたのだろうか?
まあいいわ。今はオヤジウス様の戦いを見守らなくては。
火に包まれた彼らの戦闘領域をあちこちに視線を動かし、彼らの姿を探した。
不思議なことに、火は徐々に消えていっているようだ。雨が降っているわけでもないのに。
火の勢いが薄れていくほど、惨状が露わになっていく。
地は穿たれ。木々は薙ぎ倒され粉砕されていた。
凄まじい威力だ。
あ、あのローブ男を見つけた。
ローブ男は宙に浮いていた。この国において、滞空術を使う魔術師がいたなんて。人の身でそれを使いこなすとは。
あ、オヤジウス様は?!いた!オヤジウス様は地面に倒れ、今にも止めを刺されそうだ。
そんな!どうすれば!
私は、うっかり身を乗り出してオヤジウス様に駆け寄りそうになった。
何をしているのわたしは……。出て行ったところで何もできないのに……。
その時だった……。
宙に浮かんだローブ男の下半身が吹き飛んだのは……。
同時に、丁度ローブ男のいた場所に光の筋が刺し、それが地面に当たった瞬間。強烈な爆発と衝撃が起こった。
身を乗り出していた私は衝撃に巻き込まれ、吹き飛ばされて転がった。
そして意識を失った…………。
薄れゆく意識の中、私は思った。
オヤジウス・オッサンディア様は無事なのだろうか……と。




