第十二話 PvP(ランクマッチ) Part-2
ちょっと長いです。
「お嬢さん!身を低くしろ!!!」
オヤジウスが叫ぶ!目前にはエネルギーが凝縮された炎が視界いっぱいに広がっていた。
【イカルガ・トウヤ】の放った火焔槍がオヤジウスに迫る。
防御系EFスキルを使用できなかったのは、イカルガの言動にうろたえてしまった為に、反応が遅れてしまったからだ。
頑張れば避けることはできたかもしれない。
だが、背後にはイカルガに追われ逃げてきた少女がいた。
オヤジウスには彼女を見捨てることなどできない。
彼は紳士的精神をもった少年なのだ。
火焔槍がオヤジウスに直撃した。
強烈な爆風と熱波が彼の背後以外に叩きつけられる。
オヤジウスより少し離れて後方にいた少女は無事だ。彼女は腰を落として反射的に腕をクロスし、目を瞑って、本能的に己を守る態勢をしていた。
轟音が遠退いていくのを感じると同時に、勢いよくその眼を見開いた。
オヤジウスはどうなってしまったのか。
「────っ?!……あ、変態さん大丈夫ですか?!」
【エリス・エリアス】はオヤジウスの状態を訊いた。あの火炎魔法は見ただけで分かるほどの強烈な魔術だった。普通ならば無事では済まないからだ。
「大丈夫ぞよ。ときにお嬢さんよ、おワタクシは変態じゃないぞよ……おワタクシの名前はオヤジウス・オッサンディアぞよ。あ、ときに君の名前は?」
名を名乗っていなかったことに気付くエリス。助けてもらったのに名を名乗らぬとは無礼だと気付き、あわてて彼女は自分の名を告げた。
「え、エリスといいます。エリス・エリアスです」
「ほう、いい名前だフォ」
オヤジウスは無事だった。咄嗟のことで防御系EFスキルは使用できなかった。
だが、彼は左手をかざして己を守るような態勢をとっていた。
彼のかざした手のひら、そのほんの僅か前方に何かが浮かんでいた。
青白く輝く壁だ。約1メートル四方の青白く鈍く輝く光の壁だった。
この青白い光の障壁がオヤジウスを直撃から救ったのだった。
【EF防御】
CULOにおいてMMORPG部分における戦闘システムに、防御という概念はごく一部の職業を除いて存在しない。
ただ、PvPには駆け引きを促すための要素として【EFガード】と呼ばれる防御手段が全ての職業で使用可能となる。
【EFガード】は防御入力をし続けただけEFを消費する。消費量は比較的少ない。
【EFガード】の防御性能は、通常攻撃に該当するレベルの攻撃力までは完全に防御し、スキル攻撃に関しては若干のHPを減らしてしまう。
ただし、一部のスキル。例えば、フォルティスマギカの【灼熱の暴風】やギャラクシーハンターの【EF極限撃ち】などの大魔法や大スキルに該当する大技系は防御不可である。
「────っぶねえ!!!直撃は避けれたか」
「ちっ、ランクマ勢だったか……。クソが」
オヤジウスは過去ほとんどPvPはやっていない。EF防御についても、先ほどまで操作方法を知らなったレベルだ。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「EF防御?ナニソレ???」
「PvPでのみ使用できる動作だよ。攻撃を防げる。限度はあるがな」
「つええじゃん、それ」
「防御中は足を止めなきゃならんし、攻撃やスキルは使用不可だ。都合のいいばかりじゃない」
「ふむ」
「いいか、状況に応じて使え。頼り過ぎるなよ」
ジスエクス・ニゴレイアルは言い聞かせるように忠告する。
オヤジウスはランクマはほとんどプレイしたことは無かった。
始めたばかりの初心者ランク帯において二、三回くらい対戦したあと辞めてしまった。EF防御という手段も知らぬまま、だ。
PvPで勝利し、ポイントを溜め規定の階級に昇格することで。MMORPG部分で使用できるアイテムを入手できる。
オヤジウスこと桜野圭一的には興味があったが、PvPのネット対戦という顔の見えない相手との闘いは、あまり気乗りしないものであった。
オヤジウスは競い合いというものは、尊敬できる相手とやるものだという考えがあった。無論、現代社会においてそんな甘っちょろいことは言っていられないのは理解していた。
けれどもゲームという個人の意思が反映されやすい分野においてまで、己の思想を曲げてプレイする気にはならなかったのだ。
「ほほ、こいつはいいな。あいつの攻撃も防げるフォ。こりゃあおワタクシあいつに勝っちゃうかもぉ」
「調子にのるなバカ。こんなの基本中の基本だよ」
「わかった。ときにジスよ。ジス嬢よお」
「嬢をつけるな。なんだよ?」
「EF防御って操作はどうやるんだ?」
「コントローラーのスタート&セレクトボタンの上のタッチパネルボタンってのがあるだろう。ソレだ」
「ああ、この一生使いそうにもないアレかぁ!ん~なるほどぉ~コレねえ~」
オヤジウスはエアコントローラーを持つと何やら操作を始めた。
傍から見て裸同然のオッサンが、ゲームのコントロールパッドを持つ仕草をパントマイムしている姿は、とってもシュールだった。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「……フフ。いやいや、ジスに感謝だ。喰らってたらヤバかった」
「ハ、ハハそれがどうした?ダメージが無いわけじゃあないだろう?」
「初めてにしては上出来だろう?」
「舐めやがって」
オヤジウスはニヤリ、と白い歯を見せびらかすようにムキ出すと、不敵な笑みを浮かべる。
低位EFスキルを防御しただけでドヤるオヤジウス。
イカルガはイラつきを覚えていた。
オヤジウスが口を開く。
「おい、いきなり攻撃するとはどういう了見だ?」
「ハッ?何がだ?てめえ最初から俺を警戒していただろ?フレンドリーを装っていたみたいだがな。あの本名云々ってのは大した意味はねえ。てめえの判断を鈍らせる為さ。その反応だと分かっていたらしいがな。
あと、プレイヤーネームを名乗るやつもいるだろうよ俺みたいに現実が嫌いなヤツならな」
現実が嫌いだから、プレイヤーネームを名乗るという道理はないのでは?オヤジウスは思う。
オヤジウスは己に沸いた違和感を無視し、会話を継続する。
「嫌いなのか?現実が?」
イカルガの表情が曇る。その眼には憤りが巣くっているように見えた。
「ああ、現実はクソさ。この上なくな。
だが、この世界は違う!ココなら俺の力を存分に見せつけられるんだ!」
こいつはイタいやつだ。オヤジウスは思う。普段、日の目を見ない人間が、ちょっとしたキッカケが元でハジけてしまう。彼のオタク仲間にもそういう輩がいたことを思い出す。
そういう輩の行く先は、大抵はロクでもない結末だ。
「俺の質問にきちんと答えていないな。何故攻撃した?俺はおまえと戦うつもりはなかったんだぞ」
「決まってるだろ?プレイヤーだからさ」
「何?」
「ハッ!決まってる!オレ以外のプレイヤーがいるのは我慢ならんからさ!最強はオレだけでいいのさ!
一番はひとりでいい。そうだろ?」
「理解できねえな」
「理解はできないだろうさ、ここは俺の世界だからな。
俺ひとりが王者だ。お前は邪魔だァよ」
イカルガは破顔し、オヤジウスを威嚇した。その笑みともとれぬ程に歪んだ表情は、狂気の産物だった。
「俺がプレイヤーじゃなかったら?それならどうした?」
「殺すに決まってんだろォ?邪魔だからな」
「何故、そんなになってしまった?元の世界じゃ真っ当に暮らしていたんだろ?」
「へっ、真っ当ね。真っ当とは何を指しているんだが……」
イカルガは遠い眼差しを一瞬見せる。束の間の沈黙が流れた後、殺意はオヤジウスに向かった。
「おしゃべりはもう、いいだろ?なァ?!」
イカルガの足元に魔法陣が生成される。完全にやる気だ。
「エリス!!!安全圏まで退避!逃げろォ!!!」
エリス・エリアスは身体を翻すと、脇目も降らず駆けだした。
オヤジウスのことは気がかりだったが、何も言うこと無くその場を去った。彼女が出来ることなど殆ど無かったからだ。
エリスに出来ること。それはオヤジウスが彼女に気兼ねせずに戦える状況にすることだった。
それは分かっていたからこそ、迅速な行動ができたのだ。
「よぉ、おまえ。あの子にホントはなんて言われたんだ?」
「……お前に襲われて逃げてると。摑まればヤられちゃうとさ」
「ハハァ!事実だよォ!オイ何だ?!あの娘がお前に約束でもしたかあ?!助けてくれたらヤらせてくれるってかぁ?!」
「俺はファッションホモの変態紳士を自称している。女性には紳士なんでね。お前とは違う」
「そうかぁ、死ね!」
イカルガの足元にあった魔法陣が消失する。スキル使用時エフェクトが終了したのだ。
つまりはいずれかのスキルを使用したのだ。
オヤジウスは反射的に距離を取る。
イカルガが使用したEFスキル。発動したにもかかわらず、すぐに攻撃は来なかった。
オヤジウスは思索する。
イカルガの前方にはアレが置いてあるのだろう。
そして決断する。一度態勢を整えて防御フィールドを展開する事を。
オヤジウスはバックステップを使用し更に距離を取る。
その時だった。
彼の背中や肩の近くで、何かが破裂したような衝撃を受けた。
続けて爆発が起きる。1発、2発、更に続けて4発。
合計6発のダメージはかなりの痛手だ。
オヤジウスはたった今、自身が喰らったEFスキルについて、考えを巡らす。
それは、殺されたあの三人の男に対してイカルガが使用したEFスキルと、オヤジウスが喰らったスキルは同じだという事。
ジスと一緒に、初めてイカルガを茂みの影から観察した時。三人のうち二人の頭部を吹き飛ばし、一人の腹部を破裂させた技。
【混沌の炸裂】
射程距離は近距離から中距離。目に見えない闇属性の爆弾で、敵が接触するか任意で爆破できた。
イカルガは自身の前方に【混沌の炸裂】を設置したわけでは無かった。
オヤジウスがイカルガに突っ込んで来ない事を見越して、オヤジウスの後方。【混沌の炸裂】の射程ギリギリに設置したのだった。
「やるじゃないか、ただのキチガイじゃなかったんだな。少しはアタマが回るようだ」
「ヒャハァ!俺はグランドマスターだぜ、この程度のやり取りは基本だろ?」
まずい、とオヤジウスは焦慮する。相性が悪い、と。
遠距離を得意とする相手には近距離戦に持ち込むのは常套だ。
だが、近距離から中距離には【混沌の炸裂】が設置されている。
いや、設置されているのが問題なのではない。設置されていると思わされてしまうのが問題なのだ。
中距離以上の間合いに入った時は、否が応でもそれ意識させられてしまうだろう。
そうなると他の攻撃への注意がそれてしまう。
そして最悪な事にオヤジウスの上位職【テクノプリースト】は支援特化の防御型職業だ。
まともな遠距離攻撃手段を持っていないのである。
あるのは中距離よりは少し遠くまで届き、強化可能なEFボールという通常攻撃と【神聖なる一撃】という聖属性の遠距離攻撃だ。
有効な技は【《ホーリィストライク》】だろう。
ただ、この技は使用までの、前提条件が厳しいことがネックなのだ。
オヤジウスは諦める。
やはり防御フィールドを展開し、逃げ回るしかなかった。
自分が考えたプランだったが、ロクに戦わず。ただ逃げ回るなどとは。
不満ではあったが、しょうがない。ジスエクス嬢にお願いするしかないだろう。
「ヒャハハハハ!!!いっくぞぉ~消えちまえよぉ~」
イカルガの足元に再び魔法陣が発生、目下スキル使用まで準備中だ。
「くっそぉ~やっぱこうするしかっ」
オヤジウスもEFスキルを使用。オヤジウスの身体表面が鮮緑色の光を帯び始めるや、緑色光が飛散し小さな閃光と共に【触れられざる聖域】が発動する。
オヤジウスの身体全体を保護するため、球体型のフィールドがオヤジウスを包む。
「吹き飛びなぁハァ!!!!!!」
イカルガは絶叫しEFスキル、魔法を発動させた。
熱烈の蒸発
辺り一面が熱を帯び出し始める。それどころか地の至る所から灼熱の焔爆が起こり始めた。
オヤジウスも爆発に巻き込まれる。
吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。しかし運悪く、目の前の地表から焔が顔を覗かせるかのように、オヤジウスの目前で爆発した。
「──────ッツ!!ぐっ!──────ッアッ!!!」
また反対の方向へと飛ばされ、地表に激突した。
【触れられざる聖域】を発動させていなければ、オヤジウスの身体はとうに爆散していただろう。
本来であれば、身体へのダメージはかなりのものだったが、【触れられざる聖域】がダメージを減少させていた。
あちこち飛ばされ、叩きつけられ、その度に頭を打ったが、意識はちゃんとしている。
問題はないようだった。
オヤジウスは身体を起こすと、索敵する。辺りを見回したが、イカルガの姿は無かった。
「何処へいった?!」
消失したかのようにイカルガの姿は見えなかった。
逃走した?それともオヤジウスを無視してエリスを追ったのか?
それは有り得ないと何故かオヤジウスは直感した。
あの男、イカルガは人の命を奪う事に執心しているように思えたからだ。
このような楽しい機会を途中で止めるはずは無いと。
「ここだよォ~ヒハハハ!!!」
イカルガは空中に居た。フォルティスマギカなどの攻撃魔法職は滞空スキルがある。
短時間だが、相手より射撃地点が高いということは有利な条件が得られるのだ。
空中にイカルガの足元に魔法陣が発生する。
僅かな時間が経過した後、魔法陣が消失する。
イカルガの身体から火炎のオーラが天に伸びるや刹那。オーラの消失と共に火焔槍が発射された。
オヤジウスはどうにもならない相手に、矢も楯も堪らず逃げたくなる気持ちを必死に抑えた。
「まだ……なのかよ。そろそろじゃないのか……ジスよ……」
闇に包まれ、草木が生い茂っていた静かな森林。
いまやその姿は変貌を遂げていた。
地は穿たれ、草木は燃え、木々は薙ぎ倒されていた。
オヤジウスは弱る気持ちを抑え、願う。
親友が失敗をしないように、と。
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