第十一話 PvP(ランクマッチ) Part-1
オヤジウスは思索する、どれが最善の選択なのか?
フード男には、付け狙ってる女の子の事を諦めてもらい、回れ右をして帰宅して頂く。それから女の子を妹ちゃんの元へと連れて行き治療してもらう。
これが理想だ。争い無く丸く収まるのがベスト。
だが、それは甘すぎる理想的かつ妄想的展開。
相手は躊躇うことなく、一分の迷いもなく人を殺害できるプレイヤーなのだ。
一筋縄ではいかないだろう。
この男は何故そんなことができるのか?自分たちと同じように、この場所に来たばかりではないのか?
では、何時から此処に来ているのか?
この男が自分たちと同じプレイヤーだとしたら、現代社会の規範に沿って生きてきたはず。どういった理由があって変質してしまったのか?
いずれにせよ、ここから先は厳しい展開となるだろう。
まずは相手の出方だ。
いきなり好戦的な態度に出ることはないだろう。当然、こちらも友好的に接する。
だが、隙は決して見せてはならない。
もしも見せれば、先ほど殺された三人の後を追う事になるのだから。
「やあ、こんにちわ。あ、いやいや。こんばんわですね」
努めて明るく接するオヤジウス。何も知らないフリをする。
先ほど隠れて目撃したことは伏せる。
「おまえ、誰だ?こんなところで何をしているんだ?」
警戒してる様子が声色からうかがえた。それは当然だろう。お楽しみを行使しようと少女を追っていたら、半裸の超肥満中年男が少女の側にいたのだから。
「いやーなんていうか、訳も分からず気が付いたら森の中にいたんですよねーあ!ここって何処なんでしょ?」
男が発する訝し気な様子とは正反対な返しをするオヤジウス。
ふふっ、と男は眉間のシワを緩め警戒を解くフリをするかのように、構えていた身体から力を少しだけ抜いた。
つづいて、左中指と右中指に付けていた2つの指輪を外すと、どこかにしまい込んだ。
「成程、いまここに来たのか?」
「あ~まぁ、そんな感じですね」
男はオヤジウスを値踏みするように身体を上から下まで見ていた。
何かを理解したらしく、オヤジウスの顔へ視線を戻す。
「アンタさ、CULOのプレイヤー?」
「え?そうですけど、ひょっとして貴方もですかぁ?わ~偶然だぁ~プレイヤーさんとと会えてうれしーですぅ~ひょっとして?あなたもさっきココに来たので?」
ワザとらしく敵意が無いことをアピールしつつ、情報を引き出すオヤジウス。
「いや、ボクはここに来てそれなりになるな」
「え~そーなんですか~なんでだろ~」
「でもほんとホント~心細かったんですぅ、気が付いたら一人ぼっちだったからぁ。プレイヤーさんに会えてよかった~」
少し阿呆が過ぎる芝居が効きすぎているだろうか。オヤジウスは懸念する。
だが、これでこのフードの男がCULOプレイヤーであることは、ほぼ確定した。
同時に危険度はハネ上がる。
ふと、少女の事が気にかかる。
何気を装いながら、彼女へ視線を移すオヤジウス。
少女は場の様子を伺いながら、そろりそろりと少しずつ動き。オヤジウスの背後に隠れるように移動した。
彼女は賢い。ここでオヤジウスに助けを求めたり、喚いたりする等。よけいな行動をしていない事だ。
幸いにもフードの男は彼女に話題を移していない。
「あ、すみません。名前を名乗っていなかったですね~おワタクシの名前はオヤジウスっていいます。よろしくで~す」
「ああ、ボクの名は【イカルガ・トウヤ】だ。よろしく頼むよ」
「あ、イカルガさんですか~よろ~です」
一見、ほのぼのとした自己紹介。だが目の前の人物は躊躇なく人を殺せる殺人者だ。オヤジウスはより危険察知の警戒レベルを上げた。
「いやーあのイベントのおかげでCULOに復帰したんですよぉ。イカルガさんもそうなんですかぁ~?サービス終了イベントの【サービス終了記念!すべてのプレイヤーにありがとう感謝祭!!!】がきっかけでぇ?」
「いや、ボクは廃人だからさ、ずーっとやっていたよ」
「あ、そうなんですか~」
「ああ、正直終わると聞いて絶望したよ。CULOはボクにとってすべてだったからねえ……」
イカルガは何か語りたそうな雰囲気を醸し出していた。いいぞ、とオヤジウスは思った。これは戦闘を回避できそうな雰囲気だ。これで友好的な状況を作り出した後、彼女が人のいるところへ案内してくれる約束したとか何とか適当な理由を付けて、少女を連れだせばいい。
そして、彼女に零司の妹を治療してもらえばいい。
「え、そんなにこのゲームに思い入れがあったんですねー」
「まぁな。だが、CULOのプレイヤーキャラの身体になって異世界に飛ばされたのは、幸運だったよ。CULOの世界に入れたらという妄想をしたことはあったが、これはそれ以上だ」
「いやーたしかにワクワクしますねー」
「だよな。まるで昔流行った異世界転移ラノベみたいだからな」
「あ、おワタクシもそれ大好きなんですよー集めてるんです」
「おお、仲間だな。ボクも好きなんだよ」
いいぞ、とオヤジウスは思う。これは上手くやればニセの友好関係を築けるかもしれない。
それと同時に彼は焦燥する。こんなバカげた会話をしている場合ではないのだから。
「ところでさぁ?後ろの女の子、どうしたのさ」
来た、とオヤジウスの背中に冷たいものが流れる。ここは大事なところだ。ここでうまくやれば、理想的展開にもっていける。幸いにも後ろに隠れている少女は空気を読めそうなタイプらしく、沈黙を続けている。
だが、彼には我慢が足りなかった。オヤジウスこと桜野圭一は17歳の高校生に過ぎなかった。
焦燥感に駆られてしまったのだ。
「あ、この娘ですか?いやーさっきたまたま出会ったのですよ。おワタクシの事情を話したら、人のいるところへ連れて行ってくれるらしいのですよ」
「ほう?それはそれは」
「ははは、いやーよかったよかった。あ、そうだ。実はおワタクシ、寂しかったし人のたくさんいるところに行きたかったんですよねー。せっかく会えたのに、申し訳ないのですが。イカルガさん、そろそろ失礼しないと……」
展開が早すぎたのでは?オヤジウスは自身の選んだ行動にすぐさま後悔する。
早くここから去りたくて強引に台詞を打ち切ってしまったのだ。
しかし、やってしまったものはしょうがない。
オヤジウスは振り向き、彼女に視線を送る。
「じゃあ案内をお願いしていいかな」
「え、ええ……」
彼女は不安を隠しきれない表情だった。
見ると、手を胸の辺りで組み。こちらを見上げていた。その瞳にはオヤジウスに対する救いを求める意思が感じられた。
「なあ、ちょっと聞いていいかな?」
イカルガが呼び止める。オヤジウスは再び振り向き、イカルガと向き直る。
「いやね、不思議なことがあるんだよ」
「な、なにがですか?」
イカルガの声が低さを増した。オヤジウスに問い詰めるかのように。
「きみさぁ、何故かさっき名乗ったろ?それが不思議なんだよ」
「な、なにが不思議なんですか?オヤジウスという名前がですか?
違う違う。と、ばかりにイカルガは『ちっちっ』とばかりに指を振る。
「いや、ねえ?な~んでさぁ、本名を名乗らなかったのかな?ってどうして本名にまつわるアレについて話題を出さないのかなって」
マズイとオヤジウスは思った。こんな事態なのに、なぜわざわざプレイヤーネームを名乗るのか。そうだ、これは誰かに既に名乗った後だからだ。
本名は名乗れない。この身体では本名は言えない。ここに飛ばされたとき、寝ている零司抜きで試したのだ。
その場にいた四人のパーティプレイヤーはお互い自分の本名と相手の本名は言うことが出来なかった。まるで暗号がかかっているかのように。
「え?いや、それは……」
「それってぇ、もう既にいろいろ分かっていたからそういうふうにしたんでしょ?
ボクもね、知っているんだよ。本名言えないでしょ?」
「ねえ?ボクの言った意味わかる?ウソ、ついてるでしょう」
「あいつらだって、こういう事態になったからって本名言ったんだよ?でもさぁ君だけおかしいのだよ。
明らかにウソついている。その女の子と初めて会って、それで試したに上手くいかなかったから?
違うよねぇ、君はボクと出会った時から様子が変だったんだよ。違和感だらけ」
「え、いや、あの」
「ボクさぁ、嘘、嫌いなんだよね」
殺気がオヤジウスに向けられ、それはじわじわと増大していった。
「アハァ、死になよ」
イカルガの足元に魔法陣が展開されると。刹那、彼の身体から赤い炎のようなオーラが、天に向け放たれる。
オヤジウスに向け、かざした手から火焔槍が撃ち出された。




