第十話 対峙
さて、オヤジウスはアイツより先行する為、少し回り込むカタチで女の子を追いかけて行った。女の子を先に保護すればアイツとも出くわすことになるだろう。
ん?冷静に考えれば有無を言わさず、女の子を誘拐も同然で連れ去ってしまえば被害も少なくて済むのでは?
いやいや、アイツはプレイヤーの可能性は高いとオヤジウスも言っていたし、俺もその可能性は高いと思う。いきなり人を殺していたが、ひょっとしたら何か理由があるのかもしれない……。あるわけねえ……。殺した後、あんなに破顔してたもんなあ……
兎にも角にも戦いは避けられないだろう。
ときに、俺は何だかんだでオヤジウスのプランに乗ることしたわけだが……
俺は歩きながら少し考える事にした。昔からの癖だ。
そのほうが割といい案が思いついたり、考えが纏まり易いのだ。
一応そういう事はやっておく。ただでさえ俺は脳筋の傾向があるからな……自他ともに認めるほどに。
ちなみにPVCは切っておいた。コトが始まったら一度連絡をくれることになっている。
PVCがどこまで届くか調べる為というのもある。ま、届かなくてもコトが始まったら分かる事になりそうだが……。
思案しつつ下を向いて歩きながら、そろそろ動くかと顔を上げた時だった。【複合的情報解析】が何かを捉える。
地面に何か落ちているのだ。
俺は【複合的情報解析】が見つけた地点に足早にそれに接近する。
発見地点に到着し、俺はヒザを着いてそれを手に取った。
まじまじとそれをなめ回すように調べる。
それは一見すると厚さ2cmも無い手帳だった。
俺はその手帳を開いてみることにした。
正確にその手帳を分析するならば、手帳だと思われた中身は長方形の鏡だった。この世界の人間ならば皆そう思うのだろう。
だが、現代日本に生まれた俺には別のモノに見える。
それは現代人ならば、多くの老若男女が使っている便利な機器だ。
その手帳とほぼ同じ大きさで中に収まった長方形の鏡の側面には、突起が2か所あり、それはまるでスイッチかボタンのようだった。
「これ……スマホだよなぁ……なんでこんなところに落ちてんの?」
◇ + ◇ + ◇ + ◇
やあ、みんな!おワタクシの名前はオヤジウス・オッサンディアだフォ。ピチピチの45歳だフォ♪あ、年齢は設定だけどね。ときに、桜野圭一という名前もあった気がするが、この世界では忘れてしまってオッケーフォ。
ナヌ?おワタクシが何をしているかと聞きますか?フォフォ、これからおワタクシは囚われの姫を助け……囚われてないか。ええと、毒牙にかけられてようとしている姫を助けに行くフォ。
異世界モノの作品において、転移して来た直後に女の子を助けるのはテンプレなんだフォが。今回は少し遅れてイベントが起きるみたいだフォ。
え?何?おまえホモなんだろうって?違うフォ、ファッションホモだフォ。あえてホモ発言をしつつ周囲に安らぎのそよ風を吹かせて皆は満足!安心させたところで女の子のハートもゲットだフォ。おワタクシは女の子は大好きだフォ。
ただし、今のところ二次元に限るが。
おフォ♪でも異世界はべ・つ・ば・らフォ♪素敵な出会いがあるといいな♪あ、フォ♪
……。やばい、ふざけていれば緊張がどうにかなるかもと思うたが……そんなに上手くはいかないね。
オレは女の子とあのフード男が通ったルートより少し外れて迂回するカタチで後を追う。
フード男にはスグ追いついたが、こいつに今は用はない。先に女の子だ。
ジスエクス嬢に【スプリント】と【認識遮蔽】のスキルをかけてもらっちゃった♪
美少女にかけてもらっちゃったゾイ♪
……。
……ジスから、いや零司クンからの追加情報だが。
CULOの仕様と違う点がもう一つ追加。通常攻撃のパワー調節のように。スキルの性能も増減できると言っていた。なる、おワタクシのときは意識しないで使っていたから知らなかったワケだが。
【スプリント】と【認識遮蔽】は最大出力で使用してもらった。おかげで通常の30秒から一分以上に伸びるそうだ。
ま、それでもチンタラしてはいられない。
おワタクシは、ローブ男を茂みの影から遠くにいるローブ男を横目に、あの女の子を追跡する。
ローブ男は遊んでいるらしい。完全に悪役だな。やられ役だ。
だが、油断はできない。可能な限り戦闘は避けたいところだが、準備はしておく。
時間が無かった為、ロクにスキル性能も試せていない。だが、やるしかない。
たださぁ、なんとなくだけどゲームが現実になった場合の仕様変更の方向性が、な~んかワわかった気がするのよねえ~勘だけどさ。
……。
どのみち初めてこの世界で見つけた身内以外の人間だ。他に人を探せばリスクは軽減するかもだが、短時間に新たな出会いがある保障がない以上、やるしかない。
それに、襲われそうになっている女の子を見捨てるなんて……主人公のやるコトじゃないよな。
零司の妹ちゃんを救う為にも気合いを入れてやりとげるんだ。
普段は気合いなんてコミケとか声優アイドルとかオタク関係の部分しか入れないが。今回は別件だ。
おや、女の子の姿がみえたゾイ。
女の子は息が絶え絶えになりながらも必死に走っていた。
オレは彼女よりはるか先へと先行すると、ちょうど姿を隠せそうな木があったのでソコに隠れた。
隠れた直後だった。半透明になっていたオレの姿が明確になりだした。
【認識遮蔽】の効果が切れたらしい。ま、お役目ご苦労だな。
お、女の子がこちらに近づいてくる……あ、転んだ。ぬかるんで泥状になった地面に手から突っ込んだ。
幸い顔は無事だったようだ。よろよろと立ち上がろうとしている女の子。
再び走り出すのかな?その前に声をかけるべきだろう。時間がないのだから。
◇ + ◇ + ◇ + ◇
「フォフォフォ、こんばんわ、お嬢さん。いい夜ですね」
オレは颯爽と紳士的に気配すらなく、忍び寄るようににじり寄るように登場するとダンディに彼女に話しかけた。
いいでしょう?とっても紳士的な喋りでしょうよ?
あ、そうそう。俺たちは今、日本語で話しているつもりなわけだが。
俺たちが何かしゃべるときの口のカタチは、本来の日本語のソレじゃなかったりする。
う~む?このプレイヤーキャラの身体に翻訳機能でも内蔵されているのかな?
CULOは世界展開をしている以上、外国語音声自動翻訳機能がついていた。だけど翻訳に時間がかかり過ぎるので、あんまり使われることはなかったらしい。
ちなみに俺たちは日本サーバーを使っていたので当然一度も使わなかった。
さて、ちなみにちなみに今回のおワタクシの声はいつもとは一味違う。
666あると言われる、おワタクシのオリジナルムダスキル【ダンディズム激シブ声優の声真似】を使用した。
今回は、某ダンディなヒロシ的なあの人の声真似だ。結構似ていると評判だ。
以前、声優ヲタのクラスメートの女子にコレを披露した所『ムダに似ている分ムカつく!死ねよデブキモヲタが!』という有難い評価を頂戴した。やったね♪
そんなワケで彼女も俺のセクシーダンディズムヴォイスでイチコロさ♪
きっと前のめりにヤル気MAXで協力してくれるに違いないNE♪
「えっ?え……。……ッツ!」
おや?おかしいな?摺り足で後退しつつ完全に怯えてしまっている。なにがよくないのだろうか?
う~むやはり某ダンディなヒロシ的なあの人のが、彼女の好みでは無かったのだろうか?
よし!ここは別のあの人の声真似で行こう!【ガトーショコラよ私は還って来たぁ!】な人の声真似で行こう。これなら彼女もイチコロだぜ。
あ、そうか。彼女はあのキチガイ殺人狂ローブ男のせいで相当怯えているはずだ。
こちらに敵意が無いことをアピールする必要があるよね。
「おっと、私は暴漢などの犯罪者ではないよ?ほ~ら、私は丸腰だ」
この美しく豊満なおケツを彼女のほうへと向け敵意が無いことをアピールするおワタクシ。ウィンクも飛ばしちゃえ♪
「…………」
ふむぅ、どうやら少し落ち着いたみたいかな?やっぱこのオヤジウス・オッサンディアの魅了はハンパないってことかな?よかった。あ、フォ。
彼女はおワタクシの豊満かつ慈愛に満ちたセクシーバディを、視線を上下左右に走査しつつ見惚れていた。
照れるじゃないのぉ。
おっと、ここで彼女の視線の動きが静止した。
どうやら彼女はおワタクシの股間に釘付けのようだ。フフフォ……ムリもないさ。
この【テング・ペルソナ】が股間にあったらそりゃ見るしかないよねえ。
大抵の無礼も仕方ないね。で済ましてしまう心の広いおワタクシでも、流石に注意はしなくていけないだろう。
お若いレディが男性の股間を見つめ続けるのは、色々と倫理的に良くないからね。
そう!倫理的に!良くないZE!!!
「いやん、そんなにおワタクシの股間を見つめないでくれたまへ、照れるじゃないか」
「す、すみません!」
「フォフォフォ、安心していただこう。もう一度言うが私は暴漢でもないし犯罪者でもない。信じたまへ」
彼女は恥ずかしそうに俯くと、こちらをチラりと見ながらこちらを伺っていた。
フフ、カワイイ反応だ。ダンディが信条なおワタクシもヨカラヌ欲望が出てきてしまうじゃないか。あ、ダンディが信条ってのはたった今決めました。仕方ないね。
あ、いかんいかん。目的を忘れていた。時間がないのだ。
オレは彼女にお願いをすることにした。
「君、フード付きのローブ男……あ、いやフードを目深に被った男に襲われて、今追われているよね?よかったら私が助けようじゃないか!!!」
「え?何故それを知ってるのですか?!」
「そりゃあ君ぃ。ず~~~っと見ていたからねえ気づかれないようにぃぃ~~~~」
「ひっ!?」
あれ?おかしいな?彼女は何故かさっきよりも後ろに下がってしまったぞ?嘘偽り無く、正直に彼女に告げたのに。何がいけなかったのだろうか?
そうか!やっぱ激シブ系ダンディ声優の声真似じゃダメだったんだな。
よし、俺のレパートリーから若いイケメン主人公系をよくやってる声優を……。
…………。
まてまて、目的を忘れるな。マジメに行こう。
「すまん、冗談だ。お願いがある。人がケガをしているんだ、誰か治療ができる人を探している」
「ケガ人……ですか?」
「そうだ。オオカミに噛まれたんだ。誰か知っていたら教えてほしい、案内してくれればなお助かる。緊急なんだ」
「……わたしは治療法術が使えます。だけど……仙練……あ、いやその、使うための道具を落としてしまって……心当りはありませんか?茶色のカバーの手帳なんですが……」
「あれえ?逃げないのお?予想より早く追いついちゃったよお」
会話を強制的に打ち切ったのは、あのフード男だった。
「……だれだお前?何者だ」
フード男はおちゃらけた声から、低めの声に切り替えた。
フード男とオレオヤジウスの視線が衝突する。
普段ならば、ここでおふざけを一発ぶちかます所だ。
だがな……。
この男の眼の奥を思わず直視してしまった。
ヤバイ、こんな眼をした人間には今までの人生で出会ったことがなかった。
覚悟は決めたつもりだった。
だけど……。
怖い……。冗談なんて飛ばせない程に……。
だけど……。
だけど……。やるしかないんだ。
妹さんのためにも……。
零司のためにも……。
親友の信頼を、裏切るわけにはいかないんだ…………。




