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プロローグ

初投稿です。小説を書くのも初めてです。

可能な限り更新速度は早めでやっていきたいと思います。

最近の流行と違って、話の進み方はゆっくりだと思います。

時間が空いて手持ち無沙汰な時でもありましたら、読んでみてください。

誤字脱字、表現がおかしい等、指摘すべき点は多々あると思いますが、よろしければ感想で教えていただければ幸いです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


ゼルヴニア帝国歴1173年水月22日 20時14分__


 ラズトーリア辺境伯領北端から北西45キロ________________


   凶獣出没指定地区_ラデラクの森________________









――――――何故こんなことに……。





 後悔しても、時すでに遅し。




 少女は肩が上下するほど荒くなった呼吸を抑えながら、朽ちかけた大木の幹に身を隠していた。


 いや、違う。この場合、適切なのは遮蔽するといったほうが正しい表現だろう。完全に身を隠してしまっては、迫りつつある敵の動向を伺うことができないからだ。


 彼女は逃走者だった。自分の身に襲い掛かった脅威から逃げてきたのだ。

 身体が彼女の意志に答えて動ける限り逃げ続けるつもりだった。

 だが、限界は存在する。どこまでも続くわけではない。そして、ついに彼女の息が切れてしまい動けなくなってしまった。


 焦燥感に駆られる中。視界に入った巨樹に彼女は身を隠した。



「ハァハァ……どう……しよう……うっ……うう」



 心臓の激しい振動を必死に抑える。敵は、追跡者となったあの狂人はすぐ近くに来ているだろう。

 脅威がじわじわと迫ってくる感覚が、彼女を恐慌状態に陥らせた。


 苦しい胸の鼓動を抑えながら、幹からわずかに乗り出していた身体をよろよろと引っ込め、彼女は幹に縋るように身を潜めた。

 静寂が彼女ごと辺りを包み込み、自分はこの世でただ一人であるかのような錯覚に陥る。

 彼女は腰を地に下ろし両ひざを抱え、より小さく身を丸めた。

 彼女を害する為、現在進行形で迫りつつある敵を想像して彼女は恐怖し、自身の体を抱きしめた。

 その姿はまるで母体に宿った胎児のようだった。


 何故こんなことになったのだろう。

 そうだ、それは自分のせいだ。彼女は己を責めた。

 彼女に油断が無ければこういったことにはならなかったかもしれない。

 




「あの人もきっと殺されてしまった……」



 少女を逃がす為に、あの殺人者と戦った冒険者の事を思うと、彼女の頭は後悔で埋め尽くされた。








◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 



 ラデラクの森は辺境伯より2級危険地域指定をされている場所だ。

 昼であれば薬草採取を目的とした冒険者などの姿も珍しくないが、夜間にでもなれば人の姿は皆無となる。凶獣は夜型のものは多いとされているからだ。

 ラデラクの森はよくある天然林であり、獣道を上書きする形で簡素な道が出来上がっているものの、ほとんど人の手は入っていない

 ゆえに()()()()()()ならば夜間はあまり通らない道といえる。

  

 だが彼女【エリス・エリアス】には()()があった。

 そのおかげでこの彼女は、この世界における一般人の常識ではありえないような広い行動範囲を設定できた。そして自衛手段においても、相手が凶獣であろうと暴漢であろうと己が身に降りかかった火の粉の対処は容易に可能なはずだった。

 そのはずだった……

 

 だが、結果はこの有様だ。

 

この際、どの方向でもいい、何処でもいい、敵と距離を離さなければいけない。


 彼女が()()をすぐ使わなかったのは、彼女が人を殺傷することを恐れているから。

 だが、身を守るためにすぐにでも使うべきだった。

 脅威が迫っていると()()()()()()()


 だが、遅い。遅すぎたのだった。



「ねえ、何処へいくの」



 突如、横から生じた声とともに、ぬうっと小豆色のフードを被った頭部が、彼女の視界の死角ギリギリに映る。

 彼女は動転し、もんどりを打って地面に転がった。


 よほど慌てて派手に転んだのか、彼女は体幹を強く打ち付けた。

 右足首に痛みが走る。

 痛みを堪えて、産まれたての仔馬のように頼りなく立ち上がる。

 


「あーごめんごめん痛かった?もっと逃げなよチョット止まっててあげるからさ。君がへばってヘロヘロになっていたほうが()()()()とやりやすいからさぁ!

 

 ほぉーらぁ、もっとにげなよーそうじゃないとつかまっちゃうよー捕まえたら色々すごいことしちゃうよぉー」



 色々、とは一体何をするつもりなのか。その内容など知りたくもなかった。

 彼女は振り向きローブの男をにらみ返す。

 その瞳の中にある煌めきは彼女に内在する、ある種の気骨を感じさせた。

 彼女は前を向き再び走り出す、それは逃げる為ではない。

 覚悟を決めたからだ。


 彼女は駆けた、駆けた、駆け続けた……。

 



 ある程度の距離を走破したところで妙な懐の空きを感じた。

 そして、違和感に気付く……。




 ()()が無い……。




 

 

 ()()はいつも肌身離さず共にあるものだ。

 何処かに置き忘れたことはないし、そもそも帰途の際、無意識のうちに何度も懐に手を入れ、その存在を確かめていた。





 彼女は即座に原因に行き着く。

 ほんの少し前、派手に転倒したときではないのか、と。

 敵と距離を離す為、起き上がった後は脇目も振らず走り抜けたのだ。何か落としても気づけなかっただろう。

 

 彼女は絶望の匂いを嗅いだ。

 ()()が無いとなれば、彼女に反攻のすべはないだろう。

 敵は迫っている。

 彼女から希望が消えていく。

 目前が漆黒の闇に染まっていく気がした。夜の帳のせいではない。

 

 糸が切れた人形のように彼女から力が抜け、地に膝をついた。

 


「あら、どうしたの? さっきはきっつい眼をしてたじゃ~ん? 逃げてる途中で反撃の意志を見せた娘って珍しいと思ったんだけどなぁ~」



 男が背後に出現した。


 突如現れたその姿は森に漂う闇に紛れているため、鮮明には程遠い。

 この場には時が止まったかのように静寂が流れようとしていたが、その人物が発した言葉で再び時は動き出した。

 その人物から発せられた声質から男だということがわかる。声の感じは十代後半から二十代前半くらいの若い男性だろう。


 いつのまにか雲の切れ目から月光が差し込み、その場が照らされた。

 その光に浮き出されるかのように男の姿が明確になっていく。


 その男は小柄でローブを纏っていた。大きなフードが特徴的なデザインのローブであり、その全体色は小豆色で、金色の立派な刺繍が入っていて高価な印象を与えた。

 そして男はフードを目深に被って顔を隠していた。

 男の右手には大杖(ワンド)が握られており、恐らくは法術師か魔術師のどちらかだろう。

 男は下品にうす笑いをうかべ、口元がゆがむ。


 彼女は力なく振り向いた。



「ん~なんかイマイチのらないなぁ~どうしよう、このままヤッちゃうのもいっつもどおりだからなぁ~」



 フードの男は唇に手をあてて考える。

 何を思いついたのか、わざとらしく人差し指を立ててみせた。



「そうだ、あと10分だけここに留まってあげるよ、ハンデだよ」



 男の顔が醜く歪む。笑みのつもりなのだろう、もはや悪意を隠すつもりもないようだった。


 奇怪、不遜、異様、狂気、この男から伝わってきた感覚に対し、彼女は恐れるだけの力なき者ではなかった。

 彼女の心には恐怖が巣くっていたが、その奥底に小さな炎が灯っていた。

 怒りだ。

 このフードの男に対する怒り。

 彼女の身に降りかかった危機に対して、持っていたはずの対抗策を行使できなかった怒り。


 彼女は再び走り出す。

 大人しく殺されるつもりは彼女には無かった。

 とにかく足掻いてやると彼女は思い定める。

 

 駆けた、ただ駆け続けた……。





◇  +  ◇  +  ◇  +  ◇ 

 


 

 

 

 あれからどれくらい経ったのだろう、5分?もっと経過したのだろうか。

 完全に息を切らせてしまい動けなくなった私は身を隠せそうな大樹に寄り掛かっていた。

 

 わたしは、あの男からは逃げられないかもしれない。あの冒険者たちの命を一瞬で奪ったほどの相手だ。いや、一人生き残ってわたしを逃がしてくれた男が生きてはいたが、既に殺されてしまっただろう。

 

 わたしは大樹に寄り掛かっていたいた体を起こした。

 動悸はなんとか収まったが、再び逃げなければならない。

 意を決し、歩み出し、徐々に走り出す。

 

 少し走り出すと、細い林道らしきものが見えた。獣道だろう。

 月明りが照らしてくれているのが幸いだが、それでも視界は良くない。

 それでも走らなければならない。

 少しでも遠くへ、わずかでも遠くへ。

 

 グチュッという音と共に私はつんのめって、再び地面に突っ伏してしまった。

 どうやら泥濘に足を取られてしまったらしい。


 倒れる直前手を着いたおかげで顔に泥は付かなかったが、手のひらと身体にはたっぷりと纏わりついてしまった。

 不快だったが、気が滅入っている場合では無かった。

 

 逃げなきゃ、一歩でも遠くへ。

 ごく僅かでも遠くへ逃げれば何かが起こるかもしれない。

 

 そんなふうに、わたしは希望的観測に縋るが同時に現実がわたしの脳裏をよぎる。

 少し進んだところで、誰か助けてくれる人に会えるというのだろうか?

 あの男は今すぐに追いつくかもしれない。こんなことは意味がないかもしれない。

 わたしも集落の女性たちのように、嬲られ、凌辱されるのだろうか。


 二年前から今日までの間に、帝国領内の集落や町で何者かによる襲撃事件が発生した。集落や町の警備に当たっていた者だけでなく、一般領民たちも殺された。

 老若男女問わずだったと聞いている。

 

 当初は凶獣の群れや盗賊集団の仕業と思われたが、調査が進むうちに意外な事が明らかになった。

 それは犯行がたった一人、もしくは数人程度で行われたということだった。。


 襲われた場所からは、女性や金、武器や防具など金銭的価値のあるモノが奪われたという。

 特に女性に対する執着は異様なモノがあり。その場で蛮行に及んだあと、その女性を焼き殺すという外道極まりない行為を行ったと聞いた。


 目撃者の話には共通点があり、それを抜き出すと次の通りだった。



『目深のフード付きの小豆色のローブを着た小柄な男。恐ろしく強力な魔術を使う』




 あのフード男は()()()()()

 ()()()()()()()()。わたしは運悪く出くわしてしまったのだ。


 怖気に心が衰弱していく、わたしは恐怖を振り払うべく両頬をペチンと叩き気合いを入れる。



「エリス・エリアス頑張るのよ、しっかりしろ!あなたはまだ頑張れる!!」



 わたしは自己暗示めいた発破をかけると、また走り出そうとする。

 いま、逃げることだけが私に与えられた抵抗なのだから。







「フォフォフォ、こんばんわ、お嬢さん。いい夜ですね」




 突然、斜め後ろから誰かに話しかけられた。



 あの狂気のローブ男だと思った私は心臓が止まりそうになる。

 まだ10分経ってはいないはず。

 いえ、あの男が約束を守ると何故言えるのか?


 だけど、声の主はあのローブの男では無かった。

 その人物は暗がりから、のそっとゆっくりと歩んでくる。

 月明かりのカーテンを遮り、その男性は歩みを止めた。

 そこで初めて男性の姿がはっきりとみえた……。 





 

 その男性は全裸だった。

 いいえ、一瞬そう見えただけだ。

 私はその姿を正確に捉えようと目を凝らした。



「おっと、私は暴漢などの犯罪者ではないよ?ほ~ら、私は丸腰だ」



 男性はくるりと向きを変え、私に向けておしりを突き出すようにしてこちらにウィンクしてくる。

 

 男性は殆ど全裸と言っても過言ではない姿をしていた。衣服らしきものといえば極端に面積の少ない非常にキワドイ形状をしたピンク色の下着のようなものと、やはり面積の少ないピンク色ストールかクロークらしきもので身を隠していた。

 

 いえ、男性の身体全体を覆っているはずの布面積が少なすぎて、隠しているのか見せているのだろうか……。

 わたしにはよくわからなかった。

 

 私は慎重に品定めする商人の如く、上から下へ視線を這わせた。

 改めてこの中年男性の体型を見ると、肉の球体から手足が生えたような印象を受ける。

 年齢は四十代くらいだろうか、お父様より少し若いくらいかな?

 再び視線を上に戻すと同じく男性はまたくるりと向きを直し、私のほうに顔を向けた。視線を男性の顔に定めるとニカッと笑いかけてきた。

 小麦色の健康そうな肌と対照的な真っ白い歯が、月光に反射してキレイに輝いた……気がした。

 

 だが、月光が確実に反射したのは彼の頭頂部だった。

 見事な不毛地帯であり、頭髪の類は一切見られない。

 キレイにツルツルで月に白んだ頭頂部は彼の白い歯と比べて、より一層の輝きをみせている。

 体型はでっぷりとした肥満体系で、突き出たおなかがプルプルとふるえているようにみえた。

 

 うっ、これは美肌だ。

 

 あまり肌がキレイではない私としては、ちょっと羨ましい。

 肉体をほぼ晒しているにもかかわらず、肌荒れや生傷、古傷の類は一切見られない。

 その素肌は遠目にも美しさを感じさせる。

 すぐそばで見てみれば、その美しさを確認できるかもしれないけど正直近づきたくはなかった。

 他に目に付く所といえば、右目に高価そうなモノクルを掛けている。ちょっと紳士っぽさがある。

 

 口元にはちょびヒゲが生えている。ちょっとお父様を思い出す。

 カワイイかもしれない。

 

 左右の手には全部で8つの指輪が輝きを見せていて、それはとても高価そうだった。

 


 だが、何よりも。そう、何よりも目を引くのは非常に面積の少ない下着らしきものの上から被せた、股間に位置する、真っ赤なゴブリンのお面のようなものだった。

 そのお面は真っ赤な色をしており鼻が太く長く、天に向かって伸びているようにみえた。

 私はこの異常な状況にも係わらず、何故かそのゴブリンのお面に釘付けになった。



「いやん、そんなにおワタクシの股間を見つめないでくれたまへ、照れるじゃないか」


「す、すみません!」


「フォフォフォ、安心していただこう。もう一度言うが私は暴漢でもないし犯罪者でもない。信じたまへ」

 


 この男性は何者だろうか。不思議なことにどういう訳か、神々しさのようなものを感じさせるのだ。貴族……いや、何かもっと位の高い人物なのだろうか?


 いや、冷静に考えろ私。この格好はあまりにも異様すぎるでしょう。

 聖職者、聖騎士、賢者……。どれも当てはまりそうにない。あ、ひょっとして歓楽街にいるという踊り子さん?いや、違う気がする……。

 私は少し考えをまとめ反芻させる。ある一つの言葉にたどり着く。


 そして私は結論づけた。







 

―――――――そう、この男性は変態さんだと。





 

 

 

 

 

 

20時から22時くらいの間に投稿したいと思っています。

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