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都市伝説の謎は恋とともに  作者: 林 雅
都市伝説か現実か
8/18

第八話

 あれから六年が経った。十七歳だった俺は二十三歳になり、大学院に行かせてもらっている。あれから色々な事があった。しかし、こんなにも長い時間が経ったというのに、俺は未だに秋葉が消えたあの日の緊張感と絶望感は未だに忘れられずにいた。

 

 あの日の後、俺は大切な人を失ったのにも関わらず、何かに捕らわれたような生活を送っていた。常に秋葉が残していったイヤリングを持ち歩き、学校からの帰りの一本道を歩く時はいつも秋葉の事を思い出していた。そんな俺は失ったものを取り戻すように勉強に時間を割き、他の事には興味を示さなくなっていた。


 また、学校では国雪以外のクラスメイトには滅多に話さなくなり、暗かった雰囲気は誰も喋りかけなくなるほどに深くなっていった。そして、教室の中で話題になり続けていたエルフの都市伝説も力を失っていた。何の展開もないし、誰も見たことがない。そんな都市伝説にほとんどの人は興味を失い、今ではその都市伝説を覚えている人は少ないと思う。


 ほとんどの人というのは国雪が興味を今も持っているからだ。外では話さなくなったが、今でも色々と調べているらしい。秋葉というエルフを見たことがある俺とは違い、国雪はエルフを見たことがない。だから俺には何で国雪がそこまで執念深くなっているのかは分からなかった。


「国雪さ、何でまだエルフの事に興味持ってんの? もう誰も喋ってないじゃん」


 前に俺は国雪に聞いたことがあった。その時、国雪はこう言った。


「分からない。でも、俺はこの都市伝説の謎を解明しないといけない気がするんだ」


 まったく不思議な奴だ。まあ、国雪がいてくれたおかげで俺は高校時代に一人にならなかったんだから感謝しないといけない。


 そして、秋葉の存在は俺の進路にも影響していた。いや、俺が選んだ進路だから影響したというのは間違っているかもしれないが、秋葉と出会ったおかげで俺は将来の夢を何となくだが決めることが出来た。

 その将来になりたい職業というのが通訳者だった。元々理系の道を進むと思っていた俺は、秋葉と出会ったことで文系の道を選んでいた。これには国雪も驚いた顔をしていたのを覚えている。


「はぁ? そりゃあ、毎回お前は国語のテストではいい点とるけど、完全に理系に来るかと思ってたわ。しかも、通訳って…。一体何があったんだよ」


 国雪はお前の好きな道を行けば?という感じだったが、いきなりの事だったからか驚きを隠せていなかった。今思い出しても、笑いがこみ上げてくる。


 そんな感じで俺の高校生活は終わった。青春らしいことをしたのは秋葉といた一週間だけだったと思う。高校生活の中では他の女子とデートしたりだとか、友達と馬鹿なことをやったりだとか、そんな漫画で出てくるような青春は送らなかった。


 でも、それが普通なんだと思った。世間でいう青春を送ることは夢のようなもので、これが現実なのだと理解していた。


 勉強していただけあって、俺と国雪は日本の中でそこそこ有名な大学に入学することが出来た。家もその大学に近かったから、引越しをする必要もなかった。

 

 多くの木が葉を付けはじめ、花々も咲き始めた頃、高校の頃は全くと言っていいほどモテなかった国雪は大学に入ったら変わろう決意していた。高校の時は忘れて、多くの人と喋って、恋人を作ろう。そんな事を入学前に国雪は俺に話していた。


「俺に彼女が出来て、お前に構えなくなっても知らないからな」


 そんな事を言っていた国雪だったが今まで誰とも付き合うことは出来なかった。顔も悪くないし、かなり努力はしていた。だが、彼女の一人もできなかった国雪にはただ同情してやるしかない。


 そんな中、俺は何故か三回ほど付き合うことができた。正直言って、ラッキーだ。どの子も優しくしてくれて、俺を想っていてくれた。しかし、その関係も長く続くことはなかった。


「何で恭祐くんって私の事見てくれないの?」


 三回付き合って、三回別れた。そして、全員が別れ際にその言葉を俺に泣きながら告白した。

 彼女達の言っている意味が分からない程、俺は鈍くはない。俺は彼女達と付き合っている間でも秋葉の事を考えていたのだ。もう長いこと会っていない秋葉に。いつ会えるかも分からない秋葉に俺はいつまでも心を奪われていた。


 そして、今に至る。前の彼女と別れてから一年が経ち、それから俺は誰かに好かれても冷たい態度で未来に起こりうる悲劇を避けていた。そんな俺に国雪はかなり腹を立てているようだったが、最近になって仲良くなった女の子がいるという事でその怒りが俺に向けられることは今のところはない。


 十一月も最後の週に入り、今年も残りひと月となっていた。雲が空を覆うことは徐々に少なくなってきていて、雲一つない冬の空に近づいていた。

 空気はいつの間にかに凍り付くように冷たくなっていて、先週まで暖かいと感じていたのがまさに嘘のようだった。


 そんな日の夕方、俺と国雪は偶然にも授業が同じ時間になっていて、久しぶりに一緒に帰ろうという事になった。


 そんな帰り道、国雪が珍しいことを聞いてきた。


「なあ、恭祐。今日飲みに行かないか? ちょっと聞きたいことあるんだけど」


 普段あまり酒を飲まない国雪からは珍しい事だった。飲みに行くときはあったが、だいたいは俺からの誘いだ。それほど珍しい事だ。何か重大な事なんだろう…。


「そうだなー。明日は何の予定もないし…。よし、行くか! もちろん国雪のおごりでな」


「俺のおごりか…。んまぁいいか。それじゃあ行くか! 今日は飲むぞー!」


 午後の四時、俺達は迷いに迷って焼鳥屋へと行くことになった。

 

ーー


 店の中へと入ると、熱気とともに焼き鳥のたれと炭が混ざった何とも言えない匂いが俺達を包んだ。席に座るなり、国雪は生ビールをすぐさま頼み、前から決めていたかのように何を食うかも注文していた。


 たわいもない話をして十分くらいが経っただろうか。俺達はこの短時間に二杯目のビールを頼んでいて、もう酔う準備は出来ていた。というか、隣に座っている国雪の顔はほんのりとだが赤くなってきていて、アルコールがすでに体を巡っていることが分かった。


「それで、その本題なんだけどさ…」


 二杯目を少し飲んでから国雪は聞きたいことの本題に入ろうとしていた。


 その本題なんだけどさ…と言ったところで国雪は下を向いて黙り込んでしまった。そして、黙り込んだかと思うと、今度は肩を小刻みに揺らし始め、目元からは涙をこぼし始めていた。こんな国雪は見たことがなかった。いつもはヘラヘラして、ジョークを言っているような国雪が俺の目の前で涙を見せている。その光景は俺から一瞬だが言葉を奪っていた。

 

「おい、どうしたんだよ? まさか研究のデータが飛んだのか?」


 俺の言葉に対して、国雪は首を横に振った。


「じゃあ、何があったんだよ? 言ってみないと分からないだろ?」


 目の前にあったおしぼりで国雪は涙を拭った。そして、息を整える。


「そのな、大学で仲が良くなった子がいるって言っただろ? その子にさ、気持ち悪いって言われたんだよ…。そのさ、都市伝説の話をしたらさ、気持ち悪いって。なぁ恭祐、俺ってそんなに気持ち悪いかなぁ…」


 はぁ? と声が出そうになったが、冷静になって話を聞くと国雪が可哀想に思えた。たしかに、あれだけ心配させといて、泣いた理由が女の子に気持ち悪いって言われたのは少し腹が立つ。たしかに、国雪の都市伝説に対する執念は気持ち悪くも思える。


 だが、単純に可哀想だと思った。今までモテるために一番努力したのは国雪だと言ってもいい。そんな国雪が目の前で本気で落ち込んでいる。そんな国雪を見て、俺は静かに肩を優しく叩いてやることしか出来なかった。


 その後は飲んで、飲んで、飲みまくった。焼鳥屋だけではなく、場所を変えながら俺達は飲み続けた。その間国雪は愚痴を吐いたり、都市伝説の凄さも語り、俺はそれを永遠と聞かされた。


 最終的に国雪はまともに歩けなくなっていた。千鳥足で歩くのがやっとだ。俺は酒に強い方だったから良かったものの、俺は酔いつぶれた国雪に肩を貸してやらなければならなかった。しかし、幸いにも国雪の家は近くで、歩けなくなった国雪を家まで送るのには時間はあまりかからなかった。


 九時十五分。左腕に着けている腕時計は九時十五分を正確に指していた。


 夜空を見上げると、真っ黒な中に無数の星が輝いていた。さらに、綺麗な満月は秋の夜空を普段の何十倍にも美しくさせていた。


「俺も帰るか……」


 両手をポケットに突っ込み、夜の闇に溶け込むように静かに歩みを進めた。


 この星には誰もいないんじゃないかと思えるほど、周りには誰もいなかったし、何も聞こえなかった。昔は怖かった夜の小道だったが、今はそうでもない。怖いと思うよりも、秋の夜はあの日を思い出させる。秋葉の名を叫んで、この町を走り回ったあの夜を。


 気が付くと俺はいつもの一本道にいた。六年前と変わらない一本道に。六年前と変わらず、人気ひとけのない一本道に。

 

 しかし、今日は違った。六年前と同じ感じだった。説明するのが難しいのだが、自然と心臓の鼓動が早くなる感じ。その感じは一歩歩くごとに強くなっていく。


 そして、その一本道に立っている一本の街灯。その街灯の下で照らされる短髪の女性。その髪は綺麗な黒髪で、髪からは耳が見えた。俺の方を向いてはいないが俺はそれが彼女だと感じられた。その女性は時間を止めるようだった。俺とその女性以外は何もかもが止まっているようだったからだ。時間、虫、雲、星、空気でさえも動きを止めていた。


 長かった。実際には六年間だ。しかし、彼女を見た瞬間、俺は彼女を何百年も探していたように感じられた。

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