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都市伝説の謎は恋とともに  作者: 林 雅
都市伝説か現実か
7/18

第七話

 踊りに踊って疲れた金曜日の翌日、土曜日の朝、俺は秋葉に起こされて朝を迎えた。昨日からずっと輝かせていた目は今も変わらず輝いている。秋葉は気を使ってくれているのか、何も言わない。だが、焼き肉に行った時に、まだかまだかと網の上にある肉を見つめる子供のように俺を見つめている。


 恭祐! 早く起きて! 早く行こう!


 絶対にこう思っている。分かる! もう顔を見なくても分かる!

 俺はそんな秋葉のかもし出す雰囲気に負けて、床に敷いていた布団から体を出した。体を外に出すとともに足がひんやりと冷たくなっていくのを感じ、俺は今日が最近の中で一番の冷え込みになると直感的に悟った。


 俺は一旦洗面所に行き、顔を洗い、歯も磨く。その間、秋葉は俺の後をくっつき虫のように引っ付いて離れなかった。どんなに美人で、一目惚れをした相手であっても少し鬱陶しい…。


 トイレの中まではさすがに入ってはこなかった。まあ、小さいトイレだから入れる空間もないのだが…。

 用を足し、トイレから出ても秋葉は俺を待っていた。本当にどれだけ楽しみなんだよ。


「秋葉、服でも着替えたらどうだ? そのパジャマ姿で外に出かけるのは良くないだろうし」


 トイレの前に立っていた秋葉に対して俺は言った。


「うん、そうだね。恭祐がそう言うならそうする」


 俺がいつも通りの朝ご飯を作っている間に秋葉は俺の目が届かない場所で着替えをしていた。当然、俺は女性用の服はない…。まずは秋葉に選ばせるが、耳が見えてたり、酷い恰好だったら教えてあげよう。


「恭祐…。これどう思う?」


 そう言いながら出てきた秋葉には言葉が出なかった。悪い意味じゃない。完璧だったからだ。テレビで知ったのか、俺が持っている服で、俺がいつも着ている服で、俺よりもバランスの良いコーディネートをしていたからだ。黒色のパーカーに、濃い青色のジーンズ。シンプルではあるが、秋葉にはとても似合っていた。しかも、パーカーだ。耳を隠せるようにだろう。どう考えても、悪いことは言えなかった。


「すごくいいよ! めっちゃ似合っている」


「ホント!? すごい嬉しい! ありがとね、恭祐!」


 朝ご飯を食べている最中、秋葉はいつも向いているテレビの方向には目線をやらず、秋葉の左側にある窓を見ていた。隣との距離は狭く、空は見えない。だが、その隙間に強く差し込める光で空には雲一つないと分かった。


 朝ご飯を食べ終わると、俺もさっさと着替えて、出かける準備を済ます。小さいカバンに財布と携帯を入れて、秋葉には昔、国雪がスパイごっこに使えると言ってくれたサングラスを金色の瞳を隠すために渡した。

 

 準備は出来た。パーカーとサングラスを付けた秋葉はどっからどう見ても普通の人にしか見えない。俺も完璧だと思う。


「よし、今日のルールを確認しよう」


「うん」


 そう。俺達は昨日の夜にルールを決めていた。これも秋葉を守るために必要なものだからしょうがない。


「一つ、常に一緒に歩くこと。二つ、パーカーとサングラスは外さないこと。三つ、自分が異世界から来たというような発言はしないこと」


「分かってるよ、恭祐! 昨日あんなに聞かされたんだから」


「そうだよな」


 俺はこっちに単身で引っ越してきてから二年が経とうとしている。国雪と二人で勉強をするために、実家から少し遠い高校を選んだ。その間、俺はこの家を誰かと出たことは一度もない。だから、秋葉が俺の隣にいるという事は不思議だった。


 秋葉には俺の新しい靴を履かせて、俺は少し古くなった靴を履いた。どちらもサイズは同じくらいだが、秋葉には少し大きかったみたいだ。


「んじゃあ、行くか」


「うん」


 俺が扉を開くと、思っていた通り、凍てつく空気が部屋に入り込んできた。俺は首をすくめ、秋葉は笑顔を見せていた。

 

 今日の予定は基本的に俺が決めていた。学校に行く時と同じ駅に向かって、そこから電車で少し遠くにあるショッピングモールに向かう。だいたいの店はそのショッピングモールにあるから、俺が学校に必要なものを見て回りながら、秋葉が見たい店も回る。それが俺達の予定だ。


 秋葉と初めて会った道。一度は二人で通った道だったが、秋葉は初めてこの道を通ったかのようにあちこちを見ていた。でも、無理もない。あの時秋葉は気を失ってしまうほどに疲れ切っていたんだから。


 電車に乗っても秋葉は外を見続けた。初めて電車に乗った子供のように笑顔を見せながら、窓から見える景色を楽しんでいる様子だった。


「うわ、暗くなった。恭祐、暗くなったよ」


 トンネルの中でも外を見ている。そんな秋葉を見て、俺は少し笑ってしまった。秋葉が何も知らないからじゃない。その子供のような無邪気さに俺は自然と笑顔になっていた。少し恥ずくもなったが、周りには人が少ないし何も言わないでおこう。


 電車を降りて、歩くこと約五分。俺と秋葉の目の前には大きなショッピングモールがそびえ立っていた。土曜日だからだろうか。多くの人が買い物に来ている。

 

 その人の多さに秋葉も衝撃を受けていた。口を閉じるのを忘れ、俺の周りを見ている。

 そんな人の多さに驚いたのか、秋葉はこんな事を言い出した。


「恭祐、腕掴んでもいい?」


 腕を掴む? え、本当に? 俺の腕に?

 普段クールを気取っている俺だが、彼女がいたことのない俺にとってはかなり緊張させてくれる言葉だった。


「う、うん」


 秋葉はそっと俺の腕に掴まり、自然と俺が秋葉をリードすることになってしまった。もちろん、俺がどこに行くかを決めていたから問題はないのだが、こんな風になるとは思いもよらなかった。


 その後の俺達は色々な店を回った。

 文房具店に行ったり、雑貨屋に行ってみたり。


 秋葉のための靴や服を買うために普段行かないような女性向けの服屋にも行った。

 服屋では店員さんに声をかけられて困っていたし、試着をする前にパーカーを脱ぎだそうになったりと、秋葉はパニックになっていた。だが、試着室から出てきた秋葉は誰もがモデルだと思うほど綺麗で、可愛かった。パーカー以外を試着できなかったのは寂しいかったが、それでも女の子向けのパーカーを着るだけで秋葉の印象は格段に違っていた。

 

 他にも靴や服、全部合わせて二万円を俺は使っていた。お金の事は気にするな。そういったのは俺だったが、よっぽど高い服はさすがに俺の財布の中身がなくなってしまうので、秋葉には我慢してもらった。


 そんな中で秋葉が気に入ったのはアクセサリーを取り扱っている店で見つけた、青色の綺麗な石のついたイアリングだった。サングラスでどんな表情をしているのかは分からなかったが、何回も手に取って見てたことから俺は秋葉がそのイアリングを気に入ったことが分かった。


 二千五百円。普段こういうものを買わない俺にとっては高いのか安いのか分からない値段だ。だが、払えない額じゃない。というよりも、まだお金はある。そして、横で俺をじっと見つめてくる秋葉の事を考えると俺はそのイアリングをレジへ持っていく以外の選択肢は無かった。


「恭祐、本当にありがとう! 本当に、本当にありがとう!」


 秋葉が見せる笑顔は財布の事なんか忘れさせるほどの破壊力を持っていた。正直に言うと、恋人に貢いでしまう人の気持ちが今ならよく分かる。


 しかし、もちろん俺は秋葉の恋人にはなれない。いつかは秋葉を違う世界、秋葉の世界へと帰さないといけないからだ。俺の気持ちを取るか、秋葉の気持ちを取るか。そんな優柔不断で、何もできない俺は秋

葉の笑顔を見ると、心の中で楽しさとともににむなしさを感じていた。


ーー


 ショッピングモールからの帰りは何とも表現しづらい満足感に満たされていた。今までの秋葉を引きこもらせていたという罪悪感はなくなっていて、それが原因だったストレスもなくなっている。


 また、秋葉が屋内でもサングラスとフードを被っていたのにも関わらず、あまり人が俺達の事を見ていなかった事にも安心できた。

 

 夕日が電車の中へと差し込んでいる中で、相変わらず、帰りの電車でも秋葉は外を見ていた。感情が表情に出やすいタイプの秋葉が何を考えているかは顔を見れば大体分かる。だが、サングラスのおかげで目を見ることが出来ないせいか、俺は今秋葉が何を思っているかは分からなかった。


 秋葉の目にはこの世界がどのように映っているんだろうか? ビルが多くて汚いと思うか、それとも自分との世界とは全く違う世界にただ衝撃を受けているんだろうか。


 電車を降りて、駅を出たところで秋葉はぼそっと小声で呟いた。


「私、夕日って苦手なんです」


 同じだった。正直に言うと、俺も夕日は嫌いだ。何というか、一日がもう終わってしまうような感じがして嫌だった。特に楽しいと感じた一日の夕日を見ると寂しくなってしまう。

 駅の出口からは多くの人が家路を急いでいる。そんな中で俺達は立ち止まり、黙り込んでいた。


「もう少し歩いて行かないか? ちょっと遠回りしてさ」


 秋葉は俺の言葉に頷き、俺達は歩みを進めた。

 普段は通らない道だ。正直言って、この先の道がどうなっているかは分からない。しかし、そんなことよりも、もっと秋葉と外を歩けているという事の方が俺にとっては重要だった。もしかしたら、家につかないかもしれない。もしかしたらだ。だけど、そうなっても良いと思える俺が心の奥にはいた。


 秋葉が俺の家に来てから一週間、その一週間で多くの木はその葉を失っていた。道の上には落ち葉がたくさんあり、その木から落ちた葉は色を失っていた。そうやって何かが何かを失うことは冬が来る時の運命なんだと思う。だから、俺達が季節を変えられないように、その運命を変えることは俺達にはできない。


「あの、恭祐。この世界って良いところですね。もちろん、私と私の友達を追っている人たちは許せない。だけど、この世界は広いし、この先に何があるか分からない。だから、恭祐にも出会えた。それって、すごいと思う」


「そうだな。俺も秋葉と会ってから、この世界にはまだまだ知られてないことがあるんじゃないかって思ったよ…。ってなんか変な空気になっちゃったな。帰るか」


「はい!」


 どのくらい歩いただろうか。そんなには歩いてないと思う。だが、その短い時間、俺達はまた心を通わすことが出来た気がした。


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