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都市伝説の謎は恋とともに  作者: 林 雅
都市伝説か現実か
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第六話

 あれから一週間が経った。秋葉はゲートを通るための計画が出来るまでこの家にいることになったが、ゲートがどこにあるのか分からない俺達には何も計画らしい計画が浮かばなかった。秋葉はすっかり俺の家に慣れたようだったが、俺が学校に行っている間もずっと家にいることで少し疲れているようにも見える。だからといって、いつ、どこであの男に見つかるかわからない以上、俺は秋葉を外へ出すわけには行けなかった。


 学校でも俺は集中できない日々が続いていた。皆が話している都市伝説の真相を俺だけが知っている。その事実を隠していることが授業中に俺を上の空にさせていた。一週間前のように新しい噂に心は踊ることはなく、逆に今はこの都市伝説が語られなくなることを強く願っている。


 そんな中で最もストレスの原因になったのが俺の前の席に座っている榎戸国雪えどくにゆきだった。昔から仲が良く、特に嫌っているわけじゃない。だが、ろくに勉強もしないのに毎回定期テストで十位以内を取る国雪は怖くなるほど探求心の凄いやつで、都市伝説も信じるタイプのやつだ。


 また、こいつがエルフに関する都市伝説を妙に調べているのには単に都市伝説が好きだからじゃない。国雪は誰かが隠していることを暴きたくなるやつで、どこかの研究所が関係しているという噂があるこの都市伝説には力を入れて調べている様子だった。

 

「でさ、そのエルフってのは捕まった後には研究所で調べられてるらしいんだよ。特に何をしたわけじゃないのに可哀想だよな~」


 そう、今も先週から続く話の途中だ。


「そうだな」


「結局何のために来たのか分かんないし、気になるな~って聞いてんのか?」


「きいてるきいてる」


「でさ……」


 もうすぐで金曜日の最後のチャイムが鳴る。俺は国雪の話はほぼ流しながら、チャイムの方に神経を尖らせていた。ホームルームも終わり、教室の皆は家に帰る準備を済ませ、今か今かと待っている。俺もその一人だ。


 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴ると同時に皆ははさっさと挨拶をして、ドアへと急ぐ。俺と国雪は少しタイミングをずらし、人で溢れるドアを避けた。


「まあ、また何かあったら教えるわ! また来週な!」


「おう、じゃあな」


 国雪はそう大きな声で言いながらバッグを肩に教室を後にした。まったく嵐みたいなやつだ。そして、俺はその嵐に巻き込まれて吹っ飛ばされる家っていったところかな。


 その後はいつも通り一人で部活に行こうとしている人を横目に学校を去り、家路を急ぐ。三十分電車に揺られ、そこから十分くらい歩いたところに家がある。


「ただいまー」


「恭祐! おかえりなさい!」


 一人暮らしだった俺はこの言葉が聞けることに絶大な安心感を感じていた。帰ったところに大切な人がいる。それがこんなに幸せだとは秋葉がここに来ることがなければ気付かなかったと思う。


 しかし、心配なのは秋葉の元気がなくなってきていると感じることだ。もちろん、秋葉はそれを隠そうと笑顔で俺を迎えてくれるのだが、時々話している時に見える疲弊した表情は俺の胸を締め付けていた。


「ごめん、ずっと家にいてつまんなかったよな」


「そんなことないよ。家にいると安心するし」


「そっか……。すぐにご飯作るから待ってろよ」


「うん、じゃあ私はシャワー浴びてこようかな」


「おう」


 ……。俺は何も考えないで料理をしていた。集中していたわけじゃない。色々な事を同時に考えて、今自分が何を考えているのかを分からなくなっていたんだと思う。秋葉の故郷の事、秋葉の友達の事、秋葉が元気を失っていること……。


「痛っ」


 包丁で切ったところから血が流れているのを見て、俺は正気に戻った。幸いにも深い傷ではなくても、初めて料理で負った傷は自分がどれだけ他の事を考えていたのかを物語っていた。


「出たよ~って恭祐、その傷どうしたの?」


 後ろから秋葉が聞いてくる。


「いや、うっかりしててさ。何でもないよ…。さ、もうすぐ出来るからテレビでも見ながら待てて」


「う、うん」


 家の外に一週間も出ていないはずなのに、秋葉は口を止めることはなかった。完全に晩ご飯の時は自分の自己紹介の時間になっていて、お互いの十七年間に何があったのかを永遠と話し続けた。秋葉の親がどんな人だったとか、秋葉の一族に伝わる伝説だとか。それに合わせて、俺も遠くに住んでいる親の話をした。


 秋葉の話に比べれば、壮大でもないし、特にワクワクするような話でもない。だが、そんな話も秋葉は長い、少し垂れた耳を立てて聞いてくれた。


「恭祐はご両親に愛されているんですね…。私のお父さんなんて厳しくて…」


 秋葉が悲しむ顔を見せる時の多くは家族の話をしている時だった。泣いてはいないが、何というか、俺の方に目線があるのに、焦点は遠くにある何かを見ているようだった。そして、その度に俺達は黙ってしまう。そして、後ろの有名音楽番組を映しているテレビから流れる音楽は部屋の静けさを強調しているようだった。


「す、すいません。毎日こんな話をしてしまって」


「いや、いいよ」


 この状況、いつもなら重いままの雰囲気でご飯が終わってしまうんだが…。さすがに一週間も一緒にいてこのままってのは駄目だと思う。だから、今日は思い切ってみる。


「ふぅ~」


 俺は深く、暗い空気を吸い込むように息を整えた。


「な、秋葉…。外に行ってみないか? その、明日は土曜日だしさ…」


 その言葉を聞いてた瞬間、枯れかけた花が水を与えられた時のように秋葉の瞳には輝きが戻っていた。


「そ、そ、外ですか! いいんですか? しかも、明日に! や、やったー!」


 外に行くだけでそんなに喜ばなくても…と言いたいところだが秋葉の喜ぶ姿を見て自然と笑顔になっていた。秋葉は立ったと思いきや座って、とおかしな行動を繰り返している。そして、それが終わったかと思うとベッドに寝転がり、「外~外~」と言いながら端から端へと行ったり来たりする。



 この一週間で一番生き生きした秋葉を見たかもしれない。そんな秋葉を見ている俺に秋葉は手を伸ばし、

「踊りましょう、恭祐! さあ、手を取って!」と言った。


「えっ!? 踊るって言った?」


 戸惑う俺だったが、秋葉に言われるがままに俺は伸ばされた柔らかな手に自分の手を添えた。さっきまでは消えてほしいと思っていたポップ系の音楽は最低から最高に変わり、俺達はそれに合わせて踊り続けた。他から見たら不自然で下手な踊りに見えるだろう。だが、秋葉はそんな事を気にしなかった。ただ楽しむだけ。それ以外の事を俺と秋葉は忘れていた。

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