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(来たようです!マスター)


「来たか……行こう」


「ぴー」


(行きましょう。アキラさん!タケマツさんを助けましょう!!)



 前回、大蛇が獣を獲っていた場所が見える辺りで大蛇待ちをして二日目の事である。

湖の水面が大きくうねった。

まだ姿は見えない。

だが大蛇であろう。

ようやく大蛇との対面だ。

血気盛んなゼロ。

それに対して晶のテンションは少し下がっている模様。

色々考えたり、想像して怖くなったのかも知れない。

だが言葉と同時に立ち上がり向かう様である。

大したモノであろう。

晶のパーカー、そのフードから声を上げるぴよこ。

晶が動いたから鳴いただけだと思われる。

特に意味はなかろう。

そしてカヅキ。

カヅキも行く様である。

しかしカヅキの姿は見えない。

どうやら晶の体に取り込まれているらしい。

そうやって一緒に行くのであろう。

確かに霊体が森に残っても、戦場へ向かっても大差なかろう。

既に死んでいるのだから。

カヅキの話では湖の側でずっと辺りを見守るだけだったとの事。

地には縛られていたものの、霊体をどうこうされた事はないと。

カヅキがこれ以上悪い状態にはならないとの予想、その上での同行だ。

大蛇を待っている間に話し、戦闘に役立つかも知れない技があるのも大きかった。

戦力としてもカウントされている。

晶と一心同体?ではあるが。

そしてタケマツさんを助ける一助になれそうなのでカヅキのテンションが上がっている。

どうも彼女にとってタケマツさんは恩人である模様。



 鹿っぽい獣、後ろ足が大きい。

それが水を飲みに湖へ近寄っている。

大蛇の探知能力は高そうだ。

水面に盛り上がりが見える。

それは湖の端、鹿へ近づいていた。



(あの距離で大蛇が動き出すのですから、大蛇の探知能力は高そうです)


「じゃあ、俺達が動いたら気づかれるな。よしっ、ゼロが先ず上空から突っ込んでくれ」


(解りました。マスター)



 大蛇の探知能力についてはゼロも指摘した。

晶が作戦の指示をする。

作戦に大きな変更はない。

どうせ突っ込むしかないのである。

そして配下を先に突っ込ませるブラック上司。

いや違う。

囮作戦の一環だ。

上手く行けば湖から大蛇を引き離せる。

メガスライムの時と同じ作戦だ。

芸がないと言いたいが、打てる手がないのも解っている。


 晶は森から足場の悪い場所へ飛び出した。

湖の周りは大小様々な石で埋まっている。

川原っぽい。

飛び出した勢いのまま湖へ向かう晶。

大蛇にはどうせ気づかれる。

相手の動きで今後の展開が変わる。

晶が戦うのか、湖へ飛び込むのか……。



 ゼロが大蛇に襲い掛かった。

既に鹿っぽい獣は大蛇の口の中だ。

丸呑みである。

前回の猪の様な獣より小さかったせいであろう。


 捕食直後で警戒が緩んでいたのか、空への警戒をしていなかったのか、ゼロが奇襲した形になった。

思わぬ幸運と言っていい。

ゼロが持つ最大威力の攻撃が大蛇の頭に放たれた。

長い尻尾をしならせての攻撃である。

鞭の様であり、質量もあるのでかなりの攻撃力だろう。

その衝突音は未だ走っている晶にも聞こえた。


 大蛇の頭が大きくズレた。

しかしズレただけであった。

トゲも当たったであろうが刺さってはいない模様。

猛毒は期待出来まい。

大蛇はゼロの攻撃に怒ったのか、首をもたげて空を追いかける。

湖に浸かっていた蛇の体もシュルシュルと前へ動いていた。

やはり大きい。

いや長いというべきか。

前回見えた部分の倍の長さが見えても未だ湖へ隠れている部分がある。

ちゃんと計れば三十mくらいは見えているだろう。

怪物である。


 ゼロは素早く迫ってくる大蛇の頭より早く上空へ逃れた。

晶から指示されていた通りの動きである。

一撃離脱。

そして逃げを優先しての囮役。

まぁ、最大威力の攻撃があの程度の衝撃で済まされてしまって内心穏やかではなかろうが……。

ゼロの体並の頭を大きくずらしたのだから十分だと晶なら思うだろうけども。



 ゼロが空で反転した。

大蛇が届かない位置でだ。

囮役を全うするべく再び大蛇へ向かうゼロ。

いくら空という領域がゼロに利するとしても怖くないのだろうか?

勇敢すぎる。

そんなゼロに反応し威嚇なのか口を大きく開けている。

顎がどうなってんの!?それくらい開いている。

牙が怖い。

剣か槍かというレベルだ。

丸呑みしてやるぞという脅しなのだろうか?

ゼロですら丸呑みに出来そう……。


 ゼロがジワジワと森へ誘導している。



 しかし大蛇に縄張り意識が強いのかある場所まで誘導したら止まってしまった。

まさか囮作戦に気付いた訳ではあるまい。

威嚇が続いている事からも解る。

大蛇の全貌が晒されている。

大きく長い。

四十m以上五十m未満。

そんな所であろうか。

青黒い鱗が不気味さを増している。

今の所大きな蛇以上ではない。

少なくとも特殊能力は使っていないはず。

魔法らしきものも。

それでも硬そうな鱗、しなやかな筋肉、そして巨大な質量がある。

それはゼロにも解った。

迂闊に近寄れない。

大きいが鈍重ではないからだ。

飛び回って大蛇を警戒させるので精一杯。

そんな感じだ。



「ダメか……これ以上離れてはくれない様だな」


(ゼロ、そのまま陽動を続けてくれ……俺が殴って見る)


(こいつは強いです。お気を付けて)


(おう)



 ゼロと大蛇の様子を見て判断を下す晶。

囮作戦はこれまでらしい。

ゼロに指示をだしつつ自らの頬を両手で叩くのであった。

気合を入れなければ立ち向かえない相手。

晶にとって大蛇はそういう相手なのだろう。

相手が大きすぎる。

晶の攻撃力が高くても一部分にしか影響は出まい。

ずっと攻撃出来るならいいが、相手がそうさせてはくれないだろう。

反撃だってくるはず。


 晶は大蛇の体、その真ん中辺りを目指して走っている。

どういう計算があって真ん中を狙ったのかは判らない。

頭は口、牙、丸呑みが怖い?尻尾は可動範囲が広い?

その辺りという気はする。


 ゼロは捕食直後を狙って、上空から奇襲した。

それとは違い何も隠さずに走っている晶。

だが大蛇は晶を一顧だにしない。

ゼロを警戒して頭を上下させたりしている。

晶はアレ?っと思いながら尚も走っている。

たぶん気づかれて先に攻撃されるんじゃないかな?とか思っていたのだろう。



「なら全開でお見舞いしてやろう」



 チャンスだ。

無防備に近い胴体。

もう目の前だ。

晶は走りながら余っている魔力を右手へ集める。

それ以外の魔力は全身を覆う防御だけだ。

余力はない。

まぁ、攻撃を放っても魔力がなくなる訳ではない。

魔力は体内から出ないのだから。

強化のみである。



「っりゃぁぁぁ!!」



 既に踏み込んでいる。

振りかぶった腕も殴りにいっている。

後は攻撃が当たるだけだ。

だから気合を声に出したのだろう。

もう大蛇にばれてもいい段階という事だ。

その大蛇を間近で見た晶は驚いている事であろう。

大きいのは解っている。

だが目の前で見ると存在感が違う。

大蛇の体高は晶の倍以上である。

だから殴る場所は大蛇の胴体、その下の方になる。


 晶の体はかなりの速度で移動していた。

足場が悪かったので最高速とはいかなかったのは惜しい。

その勢いのまま拳とともに突っ込んでいる。

体は体当たりでもいいという様な攻撃だ。

頑丈な晶だから出来る攻撃とも言える。


 ゴッ!!短く重い音と共に衝撃を感じる晶。

視界は塞がれている。

何に?

赤と白、色で言えばその二つの色。

その正体は血肉であった。

衝撃は晶の体が大蛇に激突したのと爆散した血肉が晶に当たったのである。

晶がやった!!どうよ!!と叫ぶ前に更なる衝撃。




 晶は青い空を見上げていた。



(マ、マスター無事ですか?)


(……ん……)


(私では抑えられません!行動を!!)



 晶にゼロの念話が届いた。

ゼロは焦っている様子。

言葉は届いているが理解できていない晶。

ボーッと空を見上げている。

更に切羽詰まった様な声が届く。


 そして再び衝撃が晶を襲う。

体中が痛い。

そこで晶は自分が戦闘中だった事を思い出した。

しかし晶の体は飛び跳ねている。

手足を動かすが何ともならない。



(アキラさん!蛇の胴体に弾かれました!追撃は尻尾です!!)

(大蛇がアキラさんへ向かって来ています)



 晶の体内に入ってもらっていたカヅキからも報告が届く。

どうやら即、反撃が来た模様。

そして激昂して晶を追って来てると。


 晶の体は石の上を転がりようやく止まった。

晶は朦朧とした意識から脱した。

そして立ち上がる。

体は動く。

負傷の度合いを確かめる余裕はない。

何せ迫り来る大蛇が目に入ったからだ。

ゼロも見えた。

どうやら大蛇の胴体を攻撃してくれているらしい。

ゼロの事だ、晶が抉った傷を広げているのだろう。

戦いに置いて弱点を攻める大切さを知っているゼロなのだから。



「痛ってーな!にゃろう!!」



 言葉が通じるかはさて置き、文句は言いたかったのだろう。

晶が大声を上げている。

その目は大蛇を睨んでいた。

大蛇が理解していたなら言うだろう、お前が殴って来たからだと。


 大蛇の大口が晶に迫る。

晶は一瞬躊躇していた。

何か考えが頭を過ったのだろうか?いや恐怖かも知れない。

それでも地を蹴り、回避に移った。

しかし足元の石、そのせいで思った様には逃げられていなかった。

跳んでいる晶の足に大蛇の口、その端が当たった。

錐揉み状態になって吹っ飛ばされる晶。

大蛇の頭が更に追ってくるべく方向を変えた。

何とか受け身をとれた晶はその様子を見る事が出来ていた。

授業でやった柔道が役に立つなんてなぁ、と思いながらだ。

そして後方へ大きく跳んだ。



「お、おぉ!結構抉れてる!!無駄ではなかったか!」


(凄い……大きな穴になっていますよ!ゼロさんも追撃してます!)


「ぴ……」


「あ、あぁぁぁぁ!?ぴよこ!大丈夫か!?」


(ぴよこちゃん!?あぁぁぁぁ!!)


「ぴぃ」



 大蛇の全体が見える位置へ下がり傷を確認した晶。

見て判るほどの穴が開いていた。

青黒い体に白さが際立っている。

白いのは肉の部分であろう。

反撃は喰らったものの、攻撃は成功していた。

カヅキからも報告が来た。


 そして小さい声……。

晶のフードに入っていたぴよこである……。

その存在を思い出した晶とカヅキは動揺している。

ぴよこの続く声がなければ動揺したままだったろう。

一応無事らしい。

晶が転がっていた時はいいが、空を仰いでいた時には頭で潰されていた可能性が高い。

ぴよこも間違いなく魔物の一種であった。

子供でも頑丈なり。



 ホッとしたのも束の間。

大蛇が近づいていた。

種族は違っても怒っているのが判る。

ゼロには目もくれず晶のみを追ってきている頭。

口は大きく開けたり閉めたりしている。

咀嚼してやるという意思の表れかも知れない。



「攻撃は通用する……か。やっぱこれかな」


(む、無茶しちゃだめですよ?)


「ぴ」


「鱗もぶち抜けたけど、肉だけの方が効くよね」


(ま、まさか……あ、私はこれ以上酷くはならないわね)



 晶が何かやる様だ。

物騒な事を言っている。

そしてカヅキも何をするのか見当が付いたらしい。

晶の思考を読めるなんて……カヅキも晶と同レベル!?

マンガ、アニメ、ラノベ、そう言ったモノの展開を知っているのも知れない。

残念な事である。



「シャーッ!」



 大蛇の声?威嚇音?が辺りに響いた。

大きな口が晶へ迫る。

拳法の構えの様なモノで待ち構える晶。

傷を与えられた事で余裕が出たのかも……荒ぶる鷹のポーズでないのは幸いである。

調子に乗らない事を祈るばかり。



「お邪魔します!」


「シッ!?」



 迫りくる大蛇の大きな口へ自ら飛び込んだ晶。

その行動が意外だったのか大蛇が変な声を上げていた。

自ら飛び込んだため、大蛇の牙から傷を負わされる事はなかった。

そして舌の奥へ突入出来ていた。

口内の奥は自由に動き回れるほどの広さはなかったが、腕を振りかぶり打ち下ろす余裕はあった。

晶の顔はニヤリとしている。


 そして再び赤と白に塗れた。

体をのた打ち回らせ、暴れる大蛇。

両腕、両手を暴風の様に振るう晶。

さすがのゼロも巻き込まれるのを恐れて空へ逃げていた。



「影で暗いのが幸いだ。あんまり意識しないで済む。匂いは酷いけども」


(終わったら言ってくださいね。見ませんからー)


「ほいほい」



 晶の攻撃は続く。

大蛇が暴れているので晶もグラグラしながらであったが膝を付いて傷を広げている。

爆散させるのは自分にも来るので、拳を突き入れては肉を掴み抉り取っていた。

ちょっとした……いやかなりのホラーである。

狂気すら感じさせる。

攻撃が通用する。その事でテンションが上がったせいだと思いたい。

怖い。

晶の笑顔が更に恐怖を煽ってくる。


 大蛇の生命力は凄まじかった。

大量の肉、血を流しても動き回っていた。

体の内部の事なので大蛇に出来る事は暴れまわる事だけだった。

晶の攻撃は大蛇の外皮、鱗にまで到達している。



 結果、大蛇の頭と胴体が骨だけで繋がっている状態にまで追い込んでいた。

もう勝負は付いているといってもいい。

負ける、逃げる、そういった行為に縁のなかったであろう湖の主。

早い段階で湖へ逃げ込んでいれば違った結果もあったろう。

しかしそうはならなかった。

初めて負ったであろう大きな傷。

混乱して大暴れしたのも頷ける。



「硬い骨も、これだけスペースが出来れば振りかぶって殴り壊せるだろ」



 バキャッ!そんな音と共に破壊される骨。

大蛇は頭と胴体に分かれた。

頭も胴体もグネグネ動いている。

並々ならぬ生命力。



「カ、カヅキさん。出番ですよー」


(お、終わった?もう血とかない?)


「ソウダネー」


(キャーッ!有り余ってるじゃないのー!!)


「まぁ、仕事の時間です」


(ぐぬぬ)



 晶とカヅキ、結構仲良くなっている模様。

死線を乗り越えて芽生えた関係か?

それとも余裕がなせる技であろうか?



「えっと、触ればいいのかな?」


(はい。後は……終の手札(ラストカード)!)


「ぴっ!」


(おぉ……消えた)


「消えたな……聞いてはいたけど目にすると凄いな……」


(もっと褒めてもいいんですよ?)


「カ、カヅキさんの特殊能力は凄い!よっカヅキ様!」


(素直かっ!こんな霊体(わたし)で役に立てる事があって嬉しいです)



 のた打ち回っていた大蛇の胴体が忽然と目の前から消えた。

晶が触ったせい?

それも理由ではあるだろうが違う。

晶の体内に格納されているカヅキの特殊能力だった。

彼女の力は物質をカード化する力。

生命体として活動が出来ないモノは全てカードに出来るとの事。

飲食、消化吸収、交配、そういったモノが生命活動に当てはまるらしい。

蠢いていた大蛇の胴体は生命活動が出来ないと判断された模様。

動いていただけに納得し辛い。

やってみないと判らない事もあるそうだ。

あいまいシステム……誰が判断しているんだろう……いや構築したモノの方が……。

微生物とかはどうなのだろう?寄生虫も……気になります。

カードが晶の足元に落ちた。

大蛇の胴体はカードの表面に写真で残されている。

カード自体はトランプやカードゲームで使うカードと似たような大きさだ。

あの質量が……。

アイテムボックスと同系統の力だろうか?

カードという物を媒介にはするものの便利そうな力である。


 そして晶がカヅキを持ち上げている。

もちろん物理的な事ではない。

褒めているだけだ。

少し無理をしている様に見えるが晶も頑張って褒めている。

そして素直に褒められた照れからかツッコミを入れているカヅキ。

幅広そうな芸風である。

助けられてばかりでなく、助ける事も出来ると判って嬉しそうでもある。



 残るは大蛇の頭のみ。

暴れているが体を再生させたりはしていない。

もう死を待つだけだ。


 あ、ぴよこが晶のフードから飛び出した!

地面を突いている。

どうやら地に散らばった大蛇の血肉を啄んでいる模様……。

お、お腹が減っていたのかな?



「ぴ、ぴよこ!?ばっちいから止めなさい!!」



 晶の悲痛な叫びが響き渡るのであった。


 そして大蛇は晶達によって湖の主、その座から引きずり降ろされた。



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