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「カ、カヅキさん、移動に支障はない?」
(ええ。フードから時たま見えるぴよこちゃんが可愛かったです)
「いや……霊体としての移動の事でさ……」
(そちらも問題ありません。とても楽です!)
「そっか」
晶一行は再び湖の側へ来ていた。
ただしメガスライムのいない場所である。
再戦の予定は未定なのだ。
そして晶からカヅキへの質問。
対するカヅキの答え。
ずっとぴよこを見ていた模様。
晶の後ろをスーッと滑るように水平移動。
足は動いてもいなかった。
恐るべし霊体。
晶一行と言ったがゼロは空に上がっている。
何か指示を出すときは晶の念話を使うらしい。
森を進むのにゼロの体は大きすぎますもんね。
「ここら辺でいいの?」
(はい。ここで相手が見られると思います)
「解った。ここで様子を見よう」
(ゼロ、ここで待機だ。どこか安全そうで開けた場所へ向かってくれ)
(はい。ぴよこちゃーん!)
(解りました。マスター)
「ぴー」
カヅキの指定した位置へ辿り着いた。
お侍さんは大蛇に湖へ引きずりこまれて亡くなったらしい。
そしてカヅキはそれを確認する事なく湖の側で力尽きたそうだ。
既に致命傷を負っていたらしい。
その後は霊体として湖周辺を見て過ごしていたとの事。
大蛇は湖の主で未だに健在らしく、時折、水を飲みに来た獣を丸呑みにしているそうだ。
その様子を伺おうというのである。
敵を確認出来るならばしておきたい。
当然の選択であろう。
晶はフードからぴよこを出して地に降ろした。
ぴよこは地面を突いている。
何でも珍しいのか、ちょろちょろ動き回って楽しそうだ。
その様子を晶とカヅキが微笑ましそうに見ている。
ま、まぁ大蛇はかなり大きいらしいので見落としたりはしないだろう……。
ぴよこを愛でつつ晶はカヅキへ、いくつかの質問していた。
たまに言葉に詰まったりするのは仕様である。
ぴよこがいなければ間が持たなかったろう。
いい仕事をする、ぴよこであった。
ぴよこは知らないと思うけども。
▼
(あ、あれです……)
「マジかよ……あんな大きい生物がいるとか……おかしいだろ」
(本当ですよね……)
「ゼロに連絡を入れておこう」
(ゼロ、大蛇が出たぞ!空から見てみろ)
(解りました。マスター)
カヅキが指さした場所で巨大な生き物が猪の様な獣を湖へ引きずり込んでいた。
遠さを考えると相手の猪も相当でかい。
下半身は大蛇に咥えられていた。
周囲の木、その大きさが晶のいる所の木と同じくらいの大きさだと考えると……頭だけで高さ五m以上ありそうだ。
体の大半は湖の中……。
頭だけでゼロの体並とか。
その体は青黒く、日光を反射しているので艶やかな鱗を持っていそうに見える。
胴体は頭ほど太くはない。
オーソドックスな蛇。
ただ恐ろしく大きかった。
遠目で見たら湖へ流れ込む川の一つだと勘違いしたかも知れない。
「あんなのが湖にいたら潜るとか無理だろ……」
(湖のどこにいても、端から端まで直ぐいけそうですよね……)
晶がぼやいている。
無理ゲーとか思っているのだろう。
顔が引きつっている様に見える。
カヅキも大蛇を知っていたのにぼやいている。
かなり厳しい状況だと思われる。
いや晶の力ならいけるのか?
数々の魔物を爆散させてきた晶だ。
やれそうな気がしないでもない。
(マスター、あれは強そうですね)
「強そうで済ませないだろあれ……」
(私より大きいですね)
「だな。今後の相談をしよう。行くぞ」
(はい)
(解りました。マスター)
ゼロが晶達の上空へ来ていた。
晶はこの場を一旦離れるべく指示している。
ちなみにぴよこはフードの中でお休みだ。
まさに子供なのだろう。
▼
「この世界に人はいるんだよね?」
(はい)
「この近くに町とかある?」
(私とタケマツさんが、この大陸に来た時にはなかったかと……)
「ないかぁ……」
(ワイバーンの住処の反対側、移動範囲内でも見た事ありませんね)
「そっか。装備とか人員を整えるってのは無理だな」
(でも私達が死んでからかなり経っています。今なら町がある可能性も……)
「未だに獣以外には会っていないからなぁ。痕跡も見当たらない……分の悪い賭けって気がする」
(かと言って大蛇は倒せませんよね?)
「俺とゼロで威力偵察をしてみるかな」
(行きましょう。マスター)
(本気ですか?あんなのと……)
晶は悩んでいる。
身体能力は上がっている。
魔力的なモノで更に強化も出来る。
メガスライムを除けば通用してきた攻撃力。
問題は、大蛇の領域、水の側、水の中での戦闘。
そして質量の問題だ。
大蛇の体は大きい、当然重さも備わっているだろう。
体当たりなんでされたら、その場で堪えるのは無理に決まっている。
足を地面に突き刺せばその場には居られるだろうが上半身とかがどうなっているかは判らない。
回避盾、華麗に避けて勝負できるのか?
ゼロはいざとなれば空へ逃れられるので危険は少ない。
「洞窟に置いて来たワイバーンの骨でスケルトンを作ってもアレが相手じゃ無理か……オークの骨なんて言うまでもないな」
(無理でしょうね。霊体も小さい獣しか見ませんでしたし)
「そうなんだよな。大きい霊体はカヅキさんが初めてだもの」
(何も手がなさそうですね。マスター)
「逃げるのを前提に行ってみよう。俺達の攻撃が有効だったらそのまま戦ってみる」
(やって見ましょう。マスター)
(ち、ちゃんと逃げてくださいね?約束ですよ?ぴよこちゃんは私が……触れないんでした……)
打てる手もない。
大蛇とやりあうつもりの晶。
ゼロもやる気満々だ。
カヅキは危ない所へぴよこを行かせるなんてとんでもない!そんな感じで預かろうとしたが、触れない事を思い出したのか、ガッカリしている。
「置いて行きたいけど、それも危なかろう。一蓮托生だな」
(うぅ……)
「ゼロ、二手に分かれるぞ。大蛇が俺の方へ来たらぶん殴ってみる。お前の方へいったら攻撃の効き具合をみて囮作戦へ移行な」
(そのまま倒せると良いのですが。やってみます)
「ゼロの囮作戦が上手く行ったら俺が湖へ潜って見るよ。倒せなくてもお侍さんを助けられるかもだしな」
(はい)
「カ、カヅキさんはここで待機ね」
(はい……)
「よしっ!行くぞ」
晶とゼロは行動開始するのであった。
フードの中にいるぴよこは解っているのか解っていないのかコロコロ転がって楽しそう。
晶もそれに気づいて苦笑している。
そして死なせる訳にはいかないよなぁとも。
カヅキは不安そうな表情で、それを見送っている。
晶達が死んで欲しくないのと、また一人になるのを恐れているらしい。
湖の側で死んでからずっと一人だったのだ。
来る日も来る日もずっと……。
晶達と話せた事で孤独から逃れられた。
地へ縛られるという呪縛からも解き放たれた。
可愛いぴよこにも出会えた。
カヅキは可愛いものが好きだったのでとても喜んでいた。
だから無理もない事であろう。
一人になる事を恐れるのは……。
お侍さん救出作戦。
未確定部分が多いがやって見るしかない。
出たとこ勝負であった。