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5-6

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 晶は両手に金棒。

金棒は黒鉄で出来ている。

対するロバートは片手半剣、バスターソードというヤツだ。

晶に向かって構えている。

右利きのようだ。

剣を構え、腕を上げた事で金属の小手をしているのが判った。

服の下に他の防具も付けているかも知れない。



「まずは……ふっ!!」



 そのロバートが一気に晶との距離を縮め踏み込んで一閃。

晶も動きを追えていたようでロバートの左側、剣を振って空いた方へ避けた。

そして金棒を振るう。



「っし!」


「中々の反応速度だ!だが甘い!!」



 ロバートも晶の一撃を避ける。

もう剣は構えていた。

そして剣を突きこんだ。

金棒と打ち合うつもりはないという事だろう。

武器の分厚さが違い過ぎる。


 火花と金属音。

晶がロバートの突きを金棒で外へ逸らした。

自らの体も逃げつつだ。



「あっぶねっ!」


「懐の処理も出来るか……では次だ!」



 晶が後ろへ飛び距離をとった。

そのまま攻めに転じられない辺り、技量はロバートの方が上らしい。

晶が思わずといった感じで言葉を漏らす。

対するロバートは剣の先生のような口ぶり。

余裕が感じられる。


 そしてロバートが小刻みにステップを踏み出した。

剣を持っているがまるでボクサーのようである。

細かい足さばき。

大きな隙が生まれず、居場所が次から次へと変わる。

それでも晶には見えているようで腰を落とし迎撃の体勢。



「ふっ!」



 また晶の胴目掛けての突き。

速い。

晶が左に避けつつ右手の金棒で逸らしにかかる。

ちゃんと見えているようだ。


 しかし火花も金属音もしなかった。

そして晶とロバートは急接近していた。



「なっ!?」


「ほぅ……掠っただけか。やるね」



 ロバートの突きはフェイントであった。

見事に引っかかる晶。

この辺りに経験の差がありそう。

もっとも晶は後衛なのだが……。


 晶は体を捻り二度目の突きを躱そうとした。

しかし躱しきれずに左肩近くの腕に剣が掠っていた。

ローブが破れ、下に着こんでいたチェインメイルが顔を出している。


 ロバートが感心している。

そして晶を褒めてもいる。

上から目線である。



「これは真面目にやらないといけないようだ」


「マジかよ……そのまま遊んでいてもいいんだぜ?」


「はっはっ!それは君に失礼だろう?では行くぞ」



 ロバートが剣を構え晶に告げる。

それを聞いた晶が軽口を叩く。

余裕がありそうには見えない。

本気で言ってそう。

晶の軽口が気に入ったのかロバートが笑う。

しかし笑い顔はすぐに消えた。


 ロバートは小刻みに足を使い晶との距離を詰める。

前に出つつも右、左、ユラユラと幻影のような動き。

変幻自在。

そんな言葉が似合いそうな動きであった。



「前衛職かよ……」



 晶の呟きに答える者はいなかった。

返事の代わりに剣による突きが放たれた。

先ほどまでの突きより速い。

フェイントが頭に残っているのかぎこちない動きの晶。

両手の金棒を体の全面に出し、守りの体勢。

響く金属音。

ロバートの連続突きのうち、いくつかを逸らせていた。

しかし晶のローブがボロボロになっていく。

それどころかチェインメイルの破片も飛んでいた。


 大きな傷は付けられていないが、実力に差がありそう。

必死に防戦する晶。

後方へ大きく跳んだ。

跳んだがロバートとの距離は大して変わっていない。

同じだけ距離を詰めていたロバート。

晶の顔が歪む。



「うらぁっ!!」



 このままではジリ貧だと思ったのか、一転して攻勢に出た晶。

タイミングを合わせて両手の金棒を振るう。



「おっと。ふむ……それは面倒だな」



 一合も打ち合う事なく軽く下がったロバート。

ブンブンと唸りをあげる金棒の嵐。

さすがに剣で打ち合おうとは思わなかったようだ。

そして言葉を出すだけの余裕。



「当たるまでやるさ!」



 晶が更に距離を詰め金棒を振るう。



「はっ!!」



 ロバートから気合の入った声。

キンッと短くも澄んだ金属音。

晶の左手にあった金棒が半分の長さになっていた……。

ロバートが剣で切りつけていた。

振り切った剣を戻し構えなおすロバート。


 大きく跳びのいた晶。

その顔は驚きに満ちていた。

目を見開き左手に持っている金棒を見つめている。

口も半開き。

マジか!?そんな感じである。



「両手を上手く使えるほど器用ではなかったようだね」


「……」


「持っているだけじゃ据え物切りさ」


「そう、みたいだな」



 ロバートは戦いながらも分析していたようだ。

晶が両手の金棒を振るっていたが、順番に振るっていたのを見逃していなかった。

ロバートに攻撃をさせないためのタイミングで順番に金棒を振るっていたのであろうが、振るっていない時を狙われた。

晶も自覚がある様子。

それでも金棒を切り飛ばされるとは思っていなかったのだろう。

かなり硬い黒鉄で出来た金棒。

ロバートの剣がただの剣でなかったとしても、簡単に出来る事ではない。

まだ茫然としている。



「終わりかね?」


「まだまだぁっ!!」



 ロバートの態度がムカついたのか気合を入れなおす晶。

左手の金棒を捨て腰の後ろに回してあった剣鉈を持った。

両手を器用に使えないと指摘されても、数で補わないと落ち着かないのであろう。

まぁ、後衛が前衛のような事をしているのが間違っているといえば間違っている。



「おや……血が出ているね」


「かすり傷だ!」


「そうかい」



 ロバートは剣鉈の事については言わなかった。

代わりに晶の右手に持ち、下に向けている金棒から血が滴っているのを見ていた。

晶がかすり傷だと叫ぶ。


 ロバートが再びステップを踏み出す。



「はっ!」



 一瞬で距離を詰め胴体目掛けて突きを放つロバート。

晶が対処しなければ致命傷になりそうな攻撃であった。

しかしロバートの体が伸び切っているのを見た晶が後ろへ跳ぶ。



「そう来ると思ったよ!」



 ロバートは晶の行動を読んでいた。

晶の戦闘パターンを分析していたようだ。

晶は器用ではない。

そして戦い方も力押しが多かった。

玄人相手ではこうなるのも時間の問題であったろう。


 晶が跳んでいる間に、更に細かいステップで詰め寄った。

突いた剣も既に引き戻されている。

次の一手の準備が出来ていた。



「終わりだ!!」



 床に着く前の晶を襲う剣。

ロバートは確かに手を抜いていない。

勝利を確信した声。



「なにっ!?」



 ロバートの振るった剣は晶には届かなかった。

驚くロバート。

空中にいる晶の足元に青白い光。



「魔法のブーツか!?」


「当たり!お返しだ!!」



 青白い光が何なのか悟ったロバート。

晶のブーツは魔法のブーツ。

一時的に物理的な結界を張れる。

晶はそれを足場にしたのだ。

足の神力を一瞬解いて魔力を流す。

その行為も以前より慣れていた。

空中で方向転換をした晶がロバートの上に跳び金棒を振るう。

ロバートの頭を砕きそうな一撃。



「ぐっ!な、なにぃっ!?ぐぁぁぁぁっ!!」



 晶の反撃である金棒を紙一重で躱すロバート。

髪の毛が数本、舞った。

さすがと言える。

しかし、そのロバートが顔を抑えて床に転がった。

剣すら手放している。


 のた打ち回っているロバート。

そんなロバートを無慈悲に蹴り飛ばす晶。

床をボンボンッと跳ねていく。

床の魔法陣の端当たりで止まるロバート。



「がぁぁぁぁっ!?」



 ロバートの悲鳴は続いていた。

彼も頑丈だった。

しかし立ち上がる事なく転がり顔を袖で拭っている。



「なに?なんなの!?」


「ぐぅぅっ……あがぁっ!!」



 外野のダイアナが叫んだ。

壁に寄りかかって特に興味なさそうに見ていたのが、身を乗り出している。

ロバートの身に何が起こったのか、まったく理解できていない。

それもそうであろう。

まだ余裕そうだったロバートが一転して地に這いつくばっているのだから。

そのロバートが悲痛な声を上げている。



「アキラ!」


「ぴ!」



(こんな使い方があるなんて……下手したら自爆でしたよ?)

(上手く飛ばしたさ)



 いつも無表情なエルが嬉しそうにして晶の名前を呼んだ。

彼女の手にいるぴよこも嬉しそう。



 そして晶以外にロバートの身に起きた事を理解している者がいた。

カヅキである。



 未だ立ち上がる事なく、のた打ち回るロバート。

晶はロバートに追撃していない。

もう決着だと顔に書いてある。

武器を収める晶であった。






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