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「コッチ」


「しかし見えない敵なんてなぁ……」



 メジの知人であるリザードマンのヴァジェヴァの後に続く晶達。

岩蜥蜴から下りて手綱を引いて、小走りで若干湿り気のある草原を進んでいる。

ヴァジェヴァの走る速度に合わせての移動。


 他のリザードマン達は、あそこが持ち場だったらしく来ていない。


 そしてメジが走りながらぼやいている。

ヴァジェヴァ達が相手にしている敵は、姿が見えないという。

しかも一体だけではないそうで苦戦していると。



「竜人の所に出たのにリザードマンが借りだされるのか?」


「ウム」


「話を聞いているとお前さん達が横並びで盾にされてるみたいじゃないか?」


「オレタチ、ヨワイ、シカタナイ」


「ヴァジェヴァで弱いのかよ……竜人ってなぁ強いんだな……」



 晶も話に加わった。

竜人の住処近くに、その敵は現れたという。

敵を捉えきれず人海戦術要員としてリザードマン達が使われていると晶は判断。

それをヴァジェヴァに伝えるとヴァジェヴァも解っていた。

元々聞きにくい声が、更に低く聞きにくくなっていた。

それを良しとはしていないが仕方ないという諦めにも似た感情がヴァジェヴァから感じられた。

そんな言葉を聞いたメジがまたぼやいている。

オークを一対一で倒し、その後も戦える猿人族の男メジ。

西大陸のオークは別格だが中央大陸のオークは一般人では倒せない壁である。

一般人でもゴブリンは倒せる事もある、だがオークは一般人が武器を持っただけでは倒せない相手。

一体一で倒せるなら一人前以上だ、多くの場所で精鋭部隊に入れるだろう。

彼といい勝負、いや有利に戦える存在のヴァジェヴァだという。

メジが竜人、それからその竜人が手こずっているという敵を思い眉に皺を寄せている。



「オレタチ、ゴ、クライヒツヨウ」


「ん?ヴァジェヴァくらいの強さで五人いる力って事か?」


「ソウ」


「竜人の話だよな?」


「ウム」


「そりゃー……強いな。竜人てなぁ一杯いるのか?」


「ワカラナイ。オレタチ、ヨリハ、スクナイカ」


「数では負けてないのか」


「タブン」



 ヴァジェヴァの足は止まっていない。

メジと話ながら目的地へと近づいているはず。

どうやら竜人はリザードマン五人に相当する戦力らしい。

ヴァジェヴァにも竜人の事はよく解っていない模様。

借りだされたりするようだし彼らの関係が何となく見えてくる。


 一方的に使われる存在。

そこに友好的な物はあまり感じられない。

まぁ、敵対していないだけでも十分なのかも知れないが……。




 進行方向の先には雲を突き抜けている山が見える。

結構離れている。

雲の辺りは灰色や茶色。

下の方は緑色。

木の恵みは途中までだけのようだ。

その山の周りには、それほど高くない山々。

行く手を阻む連峰。

ドラゴン、竜人、リザードマン。

それらがいなくても移動は大変であろう事が伺える。









「トマレ」


「おう」



 晶達はヴァジェヴァに止められた。

メジが答える。

基本的にメジがヴァジェヴァと話す。

自然とそういう形になっていた。


 晶達の先にリザードマン達の姿。

晶達を止めたヴァジェヴァが彼らの方へ歩いて行った。




「ヒルデ様、得体の知れない相手ですが戦うので?」


「我は負けん!」


「お強いのは解っていますが……」


「みなもやる気満々じゃ!」



 離れたヴァジェヴァを見送っての会話。

メジが恐る恐るといった感じでブリュンヒルデに聞いている。

そのブリュンヒルデは腕を組んでのけぞりつつ言い放った。

威勢が良い。

しかしちびっ子が頑張っているような感じ。

実力はあるのだが見た目が合っていない。

メジは得体の知れない相手と戦うのは勘弁して欲しそう。

口には出していないが……。

得体の知れない相手だけではないのだろう。

竜人も含まれているのかも知れない。

知人であるヴァジェヴァ、その彼と同等の力を持つ者が五人ほど必要な相手、竜人。

敵対した時の事を考えてそう。

それも当然であろう。

何せ、晶達一行は好戦的だからだ。

それはここまでの道中で嫌と言うほど知ってしまっている。


 実際、ブリュンヒルデの後ろには晶達が武器を持って目をギラギラさせていた。

あー、晶はそれほどでもない。

むしろ諦めの表情。

止めても無駄。

そう思っていそう。

タケマツ、エル、ブリュンヒルデ、それから判り難いがシャルル。

みな戦闘意欲抜群であった。




「ハナシ、キイテキタ。ソレト、トオレル」



 ここを守っているリザードマン達の元から戻って来たヴァジェヴァ。

状況を聞いて来たのと、通行の許可を得ていたらしい。

ヴァジェヴァ、リザードマンの中では良い立場にいそう。


 再び走り出す晶達であった。



(ゼロ、何か解ったら教えてくれ。ドラゴンも近そうだから無理はしなくていい)


(解りました。マスター)


(ムクロは姿を隠せる位置で移動な)


(ウン)



 晶がゼロとムクロに指示を出す。

空の高い位置を飛んでいるゼロ。

ドラゴンの領域がどの程度の広さなのかは判らない。

既に踏み込んでいるのかも知れない。

そこにアークワイバーンのゼロが入ったらどうなるのか……無理はさせられまい。

ムクロは背の高い草の中を晶達に合わせて進んでいる。

晶とムクロは離れているがお互いのいる位置が大体解る。

距離を置いての追跡も余裕であった。

ムクロ、それから蜘蛛達ならリザードマンと争うような事があっても負けたりはしない。

それだけ強い。

ゼロ、ムクロ、エル、今のタケマツ、この辺りはいい勝負になる。

戦う場、時間、時期、それらで勝敗が変わったりもする。

頼りになる者達だ。




 草原、湿地、背の高い草に混じって木々が多くなって来た。




「血の匂い」



 そんな時にエルからの言葉。



「血?」


「ええ」


「戦場って事か?」


「恐らく」


(さすがヴァンパイアロード、血の匂いに敏感なんですねー)

(ワシの感知には引っかかっておらん)

(戦いの場が移ったんですかねぇ)

(そうじゃろうな)



 晶がエルの方を向いて問う。

いつもの無表情エル。

淡々と答えている。

カヅキが言うようにエルは血に敏感だ。

エルの種族はヴァンパイア。

それも上位種。

血に関しての特殊能力もあるという。

タケマツの魔力感知には誰もいなかった。

戦いがあった場というのは嘘では無かろうが、既に戦場は移っているようだった。



「何も感じられぬ」


「俺達の上を行く感知能力なのさ」


「ええ」


「ぬぅ」



 ブリュンヒルデにも解らなかった。

晶が事実を言うと、エルが答え、ブリュンヒルデは悔しそうな顔になった。

エルとブリュンヒルデは道中、特に絡みはなかった。

お互いの戦いっぷりは見ていたので力は認め合っていると思われる。

女同士、何かあるのだろう。



「チ……ダト」


「マジか……」



 ヴァジェヴァとメジがキョロキョロしだした。

足は止まっていない。

血という言葉から想像したのであろう。

リザードマンは表情が読めない。

ヴァジェヴァもそうだった。

人族のように解り易ければ、今の彼は焦っているように見えるだろう。

言葉からはそんな気持ちが読み取れた。

メジも同じらしい。

誰の血か見当がついているに違いない。



 エルが先導した先には倒れている者達がいた。

それはリザードマン多数であった。

二十はくだらない。

一見した所、リザードマン以外の存在は確認出来ない。

恐らく怪物と呼ばれた存在も、竜人とやらもいそうにない。


 ヴァジェヴァも彼らを見つけて駆け寄った。

メジもだ。

地に伏して動かない者達。

抱き起されてもそれは変わらなかった。

外傷はほとんど見当たらない。

口から青っぽい液体を流している。

どうも、それはエルが言う所の血であるらしかった。

後、焼けただれたような跡も見受けられた。

酸?毒?

何かをかけられたような跡であった。


 ヴァジェヴァが地に膝を付き、動かない仲間を抱きかかえ天を仰いだ。

そして叫び声。

意味のなさそうな声。

人の言葉でもリザードマンの言葉でもなく、慟哭。

衝動を抑えられず出たモノ。



 晶達は何も言わずにヴァジェヴァを見つめていた。





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