4-13
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「アキラ、あれらも連れていくのか?」
夕刻以降、冷え込む時期。
子供達は晶が出した毛皮や毛布にくるまれている。
たっぷり食べて、子供達は安心も手伝ってか直ぐに眠りについた。
助けた子供達が眠っているのを横目に見てエルが晶に聞いた。
馬車から助けた大人達からは事情聴取してあった。
全員が西大陸で誘拐されて輸送されていた。
誘拐犯達は西大陸の都市にも拠点を持つサンヤ王国の者達らしい。
西大陸では普通の商人に化けているとか。
それを隠れ蓑にして海峡を渡り中央大陸へ。
サンヤ王国では獣人からの反撃が過去にあったので獣人は奴隷として使い難いとも。
それで東で売ろうとしていた途中で晶達が助けた結果になった。
移動先は共和国、商業国、帝国だという。
帝国から離反したとはいえ反帝同盟にも帝国の遺産は残っている。
「まぁそうなるな」
「……」
「不服か?」
「あれだけ足手まといが増えるとな」
「エルはいつも通りにして、戦う時は前に出ればいいさ」
「……ええ」
晶が進んでではないが連れていくと返している。
エルが黙ったままなので晶が不服かと問いかけ返す。
戦えない弱い者達を大勢連れていくのが不満なエル。
晶からいつも通りでいいと言われ不承不承ながらも納得した模様。
エルはぴよこを構っている魔女っ子ナオとビクトリアの元へ歩き出した。
「いいのですか?」
「いいさ」
「ありがとうございます」
「どうせ西大陸には行くからな」
「エル様のいう事も一理ありますが……」
「そこはお前さん達に頑張ってもらうさ。やるだろ?」
「もちろんです!」
エルの次は獣人シーベルであった。
晶とエルの話を聞いていたシーベル。
子供達を連れて西大陸へ向かう。
その事に礼を言っている。
子供達の多くが獣人だからか、シーベルが頭を下げていた。
獣人と言っても狼人族だけではない、それなのにだ。
色々繋がりがあるのかも知れない。
恩着せがましい事を言いたくなかったのか、晶がニヤリと笑いながらシーベル達をこき使うと言った。
やる気に満ちた目のシーベルが気合の入った返事。
シーベルもノック達の元へ戻った。
(さて……これからどうしようかね……)
(大所帯になりましたねー)
(うむ)
(面白くなって来たじゃないですかー!)
(カヅキは前向きじゃのぅ)
(今の私は言うだけですからねー)
(札で活躍しておるではないか)
(そうかもー)
(そうだよー。で、知恵もだしておくんなまし)
(しょうがないなー)
木に寄り掛って念話を飛ばす晶。
脳内会議の開催である。
因みにゼロ、ムクロ、蜘蛛達は子供達から隠れている。
さすがに怖がらせてしまうだろう。
大人も子供も。
周囲を囲むように警戒してもらっている。
大勢の子供全てを見切れない晶達にとって、ありがたい存在の蜘蛛達。
カヅキはポジティブ。
まぁ苦労するのは晶達、体を持つものの仕事ってのは間違っていない。
参謀委員長の出番。
(そうですねぇ……まずは移動。馬車を使うか、ムクロ達しかありませんねー)
(そうだよね)
(そうじゃろうなぁ)
(馬車は日中でも使えるというメリットと、あの馬車が来た道を逆に辿る事になるので見とがめられる可能せいがあるデメリットがありますねー)
(なるほど……四台の馬車、護衛の騎馬隊……目立ってただろうなぁ)
(覚えておる者も多かろう)
(ムクロ達については言うまでもありませんねー。追加で子供達が漏らしちゃうくらいですかねー)
(森か夜の移動って事だね)
(蜘蛛達については冒険者でも漏らしそうじゃ)
カヅキが主導で考えていく。
移動方法。
さすがに子供達を歩かせるつもりはないようだ。
大きい子なら大丈夫だろうが、やっと歩けるようになったような小さい子までいた。
とてもではないが歩かせられまい。
無理過ぎる。
(休憩、宿泊についてですが……)
(うん)
(聞こう)
(村、町には基本的に寄れませんねー。奴隷商が大手を振って移動してましたし-)
(やっぱりそうか……)
(そうなるのう)
(ただ買物、情報収集を兼ねて何人かで行ってもらう事になるかとー)
(ふむ)
(買物、情報収集?)
(助けた子達は商売道具なのか。小奇麗ですし怪我なんかもしてませんが、着の身着のままですからねー)
(あー)
(確かにそうじゃな)
(馬車に食料なんかはありましたが日用品は買わないとですー)
(おう)
(うむ)
(情報収集については、奴隷商、護衛隊、あの馬車達が消えた事を知って調査する者がいないかとかですね-)
(それは大丈夫だろー)
(馬はさて置き、馬車は消えたからのぅ)
(馬車で運んでいたモノを知っていた者や気付いていた者はいると思いますー)
(可能性はあるな)
(ふむ)
(そこに大勢の獣人の子供達を連れては行けませんよー)
(ごもっとも)
(そうじゃな)
(シーベル、ジーナ、イーマを除外した者で村や町へ行ってもらいます。冒険者である鉄腕兄弟がお勧めですねー)
(そうしよう)
(うむ)
カヅキの提案は続いた。
海沿いの道、そこには港町が多くあるという。
そこでの買い物、情報収集。
子供達は表に出せない。
出しても問題ないかも知れないが、奴隷商が日中に移動出来ている現状、期待は出来ない。
人の意識だけでなく国としてもだ。
カヅキはその前提で動こうと言っている。
(……よし!移動は日中蜘蛛達に子供を乗せて移動。俺達は馬を引いて走る)
(わー)
(蜘蛛達については子供達に慣れてもらうしかない)
(おー)
(買い物、情報収集は鉄腕兄弟、場合によってはナオ、エグゼ、ヴァイに頼もう)
(パチパチー)
(忙しくなりそうだね)
(ですー)
(じゃな)
中央大陸、西への移動方針が決まった。
▼
「ぴーっ!」
「わー」
「きゃー」
「毛が生えてるー」
「足、かたい」
「カッコイイ!!」
「つぎ、わたちー」
「ぼくも乗りたい!」
「子供って凄いな……大人はドン引きなのにな……」
「怖がってる子もいますわ」
「でも他の子が連れて行ってるな。様子を見て自分から行く子もだ」
「逞しいですわね」
馬車にあった食料で作った簡素な朝食後、ムクロ達と子供達を合わせた。
事前に、うちの子達だよー、良い子達だよーとは言っていた。
そして、ぴよこがテテテッとムクロに駆け上がると子供達から歓声があがった。
朝食時にぴよこを見て興味深々だった子供達。
一瞬で大人気。
そのぴよこが蜘蛛達を順番に渡り歩いたのを見て危険はないと子供達は判断。
楽しげ、恐る恐る、手を引かれて、反応は色々であったが自分達から蜘蛛へ近づいて行った。
蜘蛛に乗れるよ。
そう教えると次々と蜘蛛によじ登っていった。
蜘蛛達もムクロに言われているので大人しい。
伏せて乗りやすくしたりもしていた。
蜘蛛達を見て固まっているのは助けた大人達。
子供達を見て青くなっていた。
しかし大人しく子供達の好きにさせている蜘蛛達を見て、次第に表情が戻っていった。
そこまで大して時間はかかっていない。
中々の適応力。
奴隷の未来よりは救いがあると思ったのかも知れない。
それでも、直ぐに蜘蛛へは近づかなかった。
子供達に手をとられてようやくであった。
「ゼム以外の大人も乗ってくださいねー」
「「はい」」
「「わかりました」」
「……はい」
移動開始。
子供達は既に蜘蛛に乗っている。
晶が助けた女性五人に声をかける。
彼女達はみな若い。
犬獣人が二人。
猫獣人が一人。
熊獣人が一人。
狸獣人が一人。
計五人の女性。
子供達は小さい子が多いので蜘蛛達に乗せても余裕はある。
彼女達は晶に言われて子供達の乗っている蜘蛛へ向かった。
狸の獣人さんだけは、まだ蜘蛛を怖がっている模様。
丸い耳が可愛らしい。
縞々尻尾もだ。
ゼムというのは助けた中で唯一の大人の男。
四本の腕を持つ元冒険者。
自称、それなりに名の通った冒険者らしい。
晶よりは大きいがノック達ほどではない。
おそらく強さも。
「出発!」
「「「おう!!」」」
「「「「おーっ!」」」」
「しゅっぱーつ!」
晶が号令をかけると呼応。
脳筋ズの返事を男の子達がマネをした。
若干名、女の子の声も。
ドキドキ、ワクワクといった表情の子達が多い。
どうしても蜘蛛がダメって子達もいた。
その三人の女の子達は馬に乗っている。
晶が申し訳なさそうに下半身を雲の糸で馬に固定していた。
道を進む訳ではないので落ちかねないからだ。
馬の高さに怖がっていたが、速さには喜んでいた。
ジェットコースターに乗った子供。
そんな感じ。
(これが見れただけでも助けた甲斐がありますねー)
(子供は笑うべきじゃ)
(ですね)
ムクロには荷物が積んである。
晶も走る事にしたが、他の者を乗せるつもりはなかった。
だから荷物持ちの蜘蛛と交代。
ムクロが先頭を切って森を進む。
その後ろに子供達を乗せた蜘蛛達が連なる。
ムクロの側には晶とヴァイ。
蜘蛛達の周囲を固めるのはエル率いるライダース。
蜘蛛達の後ろで馬を引きながら走るのはタケマツ率いる脳筋ズ。
魔女っ娘ナオとビクトリアはゼロに乗って上空。
いざという時の支援のためと蜘蛛の座席確保のためだ。
彼女達は空を気に入っているので離れても平気そう。
一般人の全力疾走並の速さで森を進む一行。
静かにねと言い含めておいた子供達だが、直ぐに忘れて嬌声をあげていた。
小さい子には無理。
楽しい事で直ぐに上書きされてしまったのであった。
時折出てくる魔物はライダースが蹴散らした。
ヴァイが見つけては晶が後方へ指示を飛ばしていた。
よっぽど珍しい魔物か良い素材になる魔物以外は捨て置いて進んだ。
一々拾っていられない。
途中で盗賊、山賊にも出会った。
一人を逃しヴァイが追跡。
その間に一行は休憩。
ヴァイが戻っては晶が脳筋ズかライダースを連れて襲撃。
お宝を根こそぎ奪った。
有名な人も言っていた。
悪党に人権はないのだと。
晶達の資産は増えるばかり。
もっとも増えたのは金、宝石、武器防具だけではなかった。
人も増えていたり……。
盗賊、山賊に拉致られていた人達だ。
女性ばかり……何のために拉致られていたかは想像に難くない。
だが殺してくれと言う女性はいなかった。
それどころか盗賊、山賊の止めを刺させてくれと。
こちらの人はタフ過ぎる。
獣人もいたが人族が多かった。
先に助けられていた者達が、後から助けられた者達の面倒を見る。
そんな体制が出来ていた。
自分の境遇、相手の境遇、思いやれる人達であった。
移動に関しては蜘蛛に乗れるスペースはまだあったが、脳筋ズが引いている馬に乗せた。
途中で子供達が馬にも乗りたいというので交代もしていたが。
脳筋ズも気を遣っていた。
子供には怪我をさせないように。
女性には男を意識させないようにだ。
経験値が違う。
ノックは天然であったが……何故か憎めない男ノック、笑うと愛嬌がある。
いつでもストレートなノック、だが不思議と人の傷を抉るような事は言わない。
助けた女性から一番頼りにされていたり。
鉄腕兄弟が馬に乗って海沿いの道へ戻り、買い物に出掛けもした。
だが買って来た衣服にセンスはなかった。
二回目の買い物からはナオとビクトリアも一緒。
自然エグゼとヴァイも付いて行った。
おかげで満足のいく買物。
助けた者達の着替えも増え、櫛、油もあり身形が格段に良くなった。
難点は宿泊。
野営ばかりで大丈夫かと晶は心配していた。
それとは裏腹に楽しげな子供達。
まるでキャンプ気分といった感じ。
しかも大勢でだ。
知らない子達もいなくなり、友達が増えている模様。
大人の女性達も、そんな子供達の世話をして、元気になりつつある。
やはりやることがあるというのは大切だ。
忙しくて考える暇がない。
もっとも寝る前にすすり泣きが聞こえる事もあった。
徐々に減っているとは思う。
そんな森の中の旅路。
着々と西へ進んでいた。