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「ゼロ!ゼロー!」



 両手で水を掬い上げる様に拾った卵を持って走る晶。

あぁ、危ない!

木の根っこに躓きましたよ、この男。

セーフ!体勢を崩した物の落としたりはしていません。

興奮しているのは解りますが壊れ物を持って走るのはどうかと思います……。


 更に、ゼロの名前を連呼して森の中を駆けています。



「ゼロ!これを見てくれ大きいだろう?」


(いえ別に)


「ん、大きくはないか。逃げたオークが持っていたんだ、何の卵だろう?判るか?」



 晶がゼロに卵を見せています。

テンションの高い晶、冷静なゼロ。

対照的である。

アキラはハイテンションのまま、矢継ぎ早にゼロへ問いかけています。



(解りません。大きい魔物の卵ではなさそうですね)


「ゼロでも判らないかー。俺、この森の生き物には詳しくないしなー」


(私もとって食べるだけでしたので、余り詳しくありません)


「戦いこそ全て……お前さん達に生き物の生態は興味ないかー」


(はい)



 晶がオークから回収した卵。

何の卵かは判らない模様。



「あっ!ピキピキいってる!!ヤバイ!オークが地面に落として脆くなっていたのか!?」


(そうだったのですね)



 拾った時に罅は入っていなかった。

そうであればさすがの晶も気づいていたろう。

慌てる晶。

淡々と返事をするゼロ。


 晶は地面に座り込んだ。

胡坐をかいて足の上に両手を乗せた。

手の上には今にも割れそうな卵。



「うわぁ、何か生まれるぞ!少し温かさが伝わって来てる!」


(ほう。温かいのですか)


「うむ。蛇とかじゃなさそう」


(あれはあれで美味いです)


「いや、味の話はしていない……」



 トカゲや蛇の卵ではなさそう。

ゼロの美味い発言で逆に冷静になる晶。

珍しい展開。



「ドキドキだぜ!」


(何が生まれるんでしょうなぁ)



 一人と一体は覗き込んでいる。

晶の手の上で卵が少し揺れた。



「おぉ!活発になって来た」


(元気な事ですな)



 ゼロも興味を持ったらしい。

興味の先が味でない事を祈るのみ……。



「ぴっ」



 卵の表面に罅が入ったかと思った瞬間、卵が割れて何か黄色いモノが顔を出した。

おやおや、鳥の雛?ひよこ?

黒目がちで嘴は濃い黄色、橙色っぽくもある。


 出会って間もなかった卵。

卵から直ぐに生まれた。

その様子を緊張しながら見ていた晶。

その晶は生まれてきたモノを見て絶叫する。

歓喜の雄叫びだ。



「おぉぉぉ!ひよこ!?か、かわいい……」


(ひよこと言うのですか、ふむ)



 ひよこは殻と格闘している。

顔は出せたものの残りの殻は割れていない。

何だか一生懸命に見える。



「頑張ってる……が、がんばれー!」



 晶はひよこを見守っている。

可愛らしさにやられているのか、目が釘づけた。

両手で大事な物を持っている、そんな感じだ。

だが発言的にはどうだろう?

幼稚園の運動会で応援しているかの様だ。

晶の場合、親心というより事案であろう。

周りに人がいなくて幸いという物である。



「ぴっぴっ」



 何とか殻の割れ目を広げているひよこ。



「ぴーっ」



 遂に殻から抜け出した。

ドヤ顔である。

きっと頑張ったのであろう。

誇らしげだ。



「黄色い毛玉……かわいい……」


「ぴよ」


(小さいですなぁ)


「おう。小さくてかわいいよな」


「ぴっ」


(何を言っているんでしょうな)


「判らん、判らんが気に入ったぞ!」


「ぴぴーっ」


「そうかそうか、お前も気に入ったか」


「ぴ」


(危険は無いようですね)


「あー、そういう心配もあったか」


 ゼロはマスターに危害を加えてくるモノが出て来ないか心配していた模様。

対して晶は仲良くなれると信じて疑っていなかったらしい。

ゼロの心配はこの世界の常識としては正しかったと思われる。

幸い危ないモノは出て来なかった。


 黄色い毛玉は小さくて可愛らしかった。

晶の両手の上で卵の殻とともに蹲っている。

嘴は短くて鋭くない。

足は良く見えないが鳥の足、その先に小さな爪が既に生えているっぽい。

うむ。

ひよこである。

ひよこなのだが、目を引く特徴が二つあった。

それが何かというと……。



「頭が尖ってるな……ツンツンヘアーだ。パンクなのかな?」


(威嚇するんですかね?)


「判らん。何だか王冠を被ってる様に見えるな」


(そうなんですか)


「キングひよこって感じだ」


(よく判りませんが大物っぽいですね)


「うちの子だもの。当然だろう」



 ひよこの頭には毛で作られた王冠が乗っている様に見えた。

天に向けて何本かのツンツンが伸びている。

長さはそれほどでもない。

王族かな?

ひよこの王族……。


 そして既に親馬鹿の片鱗を見せる晶。



(マスター……こちらから見ると尻に蛇が付いているんですが……)


「なにっ!?」



 ゼロの言葉を聞き、慌ててひよこの尻を見る晶であった。

セクハラではない。



「本当だ……蛇の胴体と頭が伸びてる……なにこれ……」


(おぉ、蛇が顔を向けてきましたぞ!)


「爬虫類同士、引き合うものがあるのか……」



 晶は動揺している。

蛇ではない。

そう予想していたが一部に蛇がいた模様。

ひよこの尻には小さい蛇が付いていた……。

パッと見では灰色の紐に見えるが蛇の頭が付いているので違うと判る。

黒く小さな目、開いた口からは可愛らしい牙が見える。


 小さな蛇はゼロに体を伸ばした。

大元であるひよこは晶を見ている。

独立した思考を持っているのだろうか?

謎生物……。



「ぴっ」


「お前何者なんだ?」


「ぴー」



 晶はひよこに問いかける。

もちろん意思の疎通は出来ていないと思う。

晶とて返事は期待していないだろう。

純粋な疑問が口に出たという感じだ。

それに対してひよこは嬉しそうにしている。

何が嬉しいのかは判らない。

癒し系だ……。



(かわいらしいですなぁ)


「蛇の方はかわいく思うのか……」


(ええ。こちらはかわいいです)


「うーむ」



 ゼロは晶の手の上から覗き込んでいる。

自分に顔を伸ばしてくる蛇を可愛いと思っている様だ。

晶は美的感覚の違いに戸惑っている。

いや、それもあるがゼロが可愛いという感覚を得ているのにも驚いているらしい。

戦う、食べるで生きて来た魔物だったと聞いているから驚くのも無理はない。

晶に連なるモノとして変わってきているのか?

知識、情報も得ているらしいので、どう変わっていくのか興味のある所である。



「ひよこ……パンクヘアー、王冠……蛇……」

「何だったかなぁ……」

「ひよこ、蛇……あっ!」


(何か判りましたか?マスター)


「コカトリスじゃないかな?王冠は知らんけども」


(コカトリスですか?)


「ゼロは知らないか?相手を石化させる鶏。鶏っていうんだから幼生ならひよこでもおかしくない」


(ほう。マスターは博識ですなぁ)



 ゼロに心当たりはないらしい。

ゼロの行動範囲外だった様だし、おかしくはない。

もっとも相手が誰であろうと倒し食べる、そういう存在であったのだから知っていると期待してはいけないのかも知れない。

負けていたら食われてここにはいまい。

まさに弱肉強食を地で行くゼロである。



「お、褒めちゃう?褒めちゃうの?」


(さすがマスターです)


「さすます、頂きましたー」


(……)


「ぴよ」


「ごほんっ、それはさて置き、コカトリスの嘴で突かれると石化するらしいぞ」


(石化ですか……そういう現象に出会った事はないです)


「そうなのか。まぁ正しいかは判らん」


(どうしますか?)


「どうしますかって、飼うかどうかって事?」


(はい)


「決まってるだろ、飼うとも!」


「ぴーっ」


(はい)


「コンゴトモヨロシクだぞ?」


「ぴ」



 黄色いひよこを飼う事になった晶。

相槌に聞こえなくもない鳴き声。

これなら独り言マスターではない様に見えるかも知れない。

残念な人という印象は拭えないが……。

いや博愛主義か動物好きと見られる可能性が無きにしも非ず。

実際、晶は動物好きっぽい。

可愛い物限定かも知れないが。


 頑張って欲しい物である。



 晶とゼロが話をしている間に卵の殻を突いていたりしたひよこ。

少し狙いが逸れて晶の手を突いていたが誰にも気づかれる事はなかった。

少なくとも晶が言う様に石化したりはしていない。

コカトリスなのか疑問である。

ひよこは晶やゼロを見ている。

感情に付いては判らない。

怒っている様な声ではないのが救いか。

キョロキョロと辺りを見回していたりもするが、一番見られているのは晶であった。

刷り込み(インプリンティング)はされているかも知れない。

晶の後ろをテテテーっと一生懸命に付いて回るひよこ……アリではなかろうか?

いやアリアリと言える。

砂糖とミルクの話ではない。

可愛らしい光景が目に浮かぶ。

晶も楽しそうなので大丈夫だろう。



 これからどうなるのやら……騒がしくなりそうな予感。


 そう言えばゼロの時の様に名前を付けるのだろうか?

晶が付けないという選択はあるまい。

気になります。



どんな名前になるんでしょうね。


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