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陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜  作者: 月輪熊1200
一章 遥か高き果ての森
6/67

六話 2日後、そしてミスリルリザード

六話があまりにも時間をすっ飛ばし過ぎたので、いくつかの話に分割させることにしました。楽しんでいただければ幸いです。

 


 ピピピピッ、ピピピピッ


「ん……」


  夢という名の檻に囚われていた意識が携帯のアラームの音により現実にだんだん浮上していく。

  俺は目をつむったまま右腕だけを動かし、頭のすぐ横に置いてあったスマホのボタンを押してアラームを止める。

  カチッという小さな音とともにアラームが止まったのを虚ろな意識で捉え、もう一方の手で布団をどかそうとする。


 スカッ


  が、それは叶わなかった。なぜならどかす布団自体がなかったから。あれ?俺、いつも布団をかぶって寝てるんだけどな…

  うっすらと目を開ければ、視界に移ったのは慣れ親しんだ和室ではなかった。

  見えるのは何も置かれていない、殺風景な部屋。しかしまだ新しい木の香りがし、同時に窓から差し込む陽光が明るく室内を照らしていた。


「…あ、そうだった」


 俺、ちょっと前から異世界に来たんだった。

  そこまで確認したところで俺はむくっと上半身を起こし、完全に目を覚ます。そして自分の体を見下ろした。

  すると、それなりに盛り上がった胸筋と六つに割れた腹筋が丸見えだった。爺ちゃんの影響か、寝るときはなぜか上半身裸じゃないと俺は落ち着かない。

  丸見えだった、ということは俺の体に何もかかっていないということで、それは先日のグレイウルフの毛皮だけでは床に敷く方の布団だけしか作れなかったことを意味する。今日掛け布団も作ろうかな。

 

《おはようございますですね、龍人様》


  唐突に、頭の中に若い女性の声が響く。抑揚がない声音だったが、どこか無愛想とは感じなかった。


「ん、おはようシリルラ」


  そう返事をし、俺はググッと慣れない場所で寝たことにより固まった体をほぐした。

  クキッと首を鳴らしながら立ち上がり、近くに落ちていた七分袖をもそもそと着こむ。

  着終わると、扉をあけて寝室から出ていった。

  新しく視界に飛び込んで来たのは、広いリビング兼ダイニング。そこには毛皮布団しかない寝室とは対照的に様々な物が置いてあり、中央に木製の縦二メートル横一メートルの机と四脚の椅子が一つ、左壁に棚付きのシンクとゴミ箱が一つ。全部俺の手製だ。

  それぞれの出来栄えに我ながら満足し、一つ頷いてから部屋の中を通過していく。

  長方形のリビングの右端、つまりこの家の正面から見れば玄関にあたるドアを開け、外に出た。

  すると眼に映るのは視界いっぱいの緑。周囲の木々は日の光を受けて薄く内側を浮かび上がらせる。

  それを見て俺はああ、やはり別の世界に来たのだな、と自覚した。




  俺が異世界ヒュリスにイザナギ様に転生させてもらってから、早2日が経過した。

  その短い期間の中で、俺は〝空波〟で倒れた倒木を中心にその周りの木を集め、携帯で構造を検索しながらログキャビンや家具を作った。

  ログキャビンの外観は一般的な住宅用の二階建てで、面積は約110平方メートル。引いて開く両開き形のドアに高床式のテラス、屋根は片流れ型。場所は最初に転生して目を覚ました場所を整備して使った。

  一階には先ほども見たがリビング兼ダイニングと肉などをさばくキッチン、トイレ、風呂。面積は約64平方メートル。

  ロフトは約45平方メートルで、吹き抜けがあるので実質は約28平方メートルくらい。

  ロフトにはまだ何も作ってない。もしかしたら住人が増えて改装するかもしれないけど、そんなことは基本的にありえなさそうなので手に入ったものを保管しておく倉庫にしてる。

  今はそのロフトにはこの2日で手に入った肉やらログキャビンを作っている途中に近寄って来たので倒したモンスターの素材などを保管していた。もちろん劣化防止のために魔術で完璧な空間にしてある。

  次に中にある家具。先ほども見たが一階はリビング兼ダイニングに木製の机、四脚の椅子、棚付きのシンク、ゴミ箱が一つ。次に洗面所には洗面台、ゴミ箱。

  最後に寝室の隣の風呂場にはヒノキ風呂もどきの風呂桶と椅子、おけ、その他諸々。といっても森の中なので石鹸やシャンプーなどあるわけもなく、あるのは倒して手に入ったグレイウルフの皮をなめして作った体を洗う時に使うタオルくらいだ。あとそれをかけとく棒。

  窓はログキャビンを組み立て終わった後壁をところどころ四角に切ってガラスの代わりに風のカーテンをはめ込んだ。

  上記の全てを作る際にはあのグレイウルフをさばいた時の短剣をもう一度作り直して西洋のロングソード型にし、それを使って作業をした。驚いたことにこの土ツール(俺命名)は土のはずなのにツルツルで、食べ物を切っても問題ない。

  ノコギリやかんななどの工具はなかったが基本的に全部周りの土から道具を作り出したり、スキル【龍鱗】を発動したら本物の龍の鱗みたいに肌が変質したのでヤスリの代用品にしたりした。

  内装で文明の利器となるもの、例えば洋式のトイレなどは中に携帯で調べた仕組みをそのまま術式にしてはめ込んだら簡単に再現できた。あ、ちなみにトイレットペーパーはないので作業中近くで見つけた紙のような長くてでかい葉っぱを代用してる。水は自分の魔術で代用セルフだ。

  腐敗を防ぐために木を炭化させるのは例の如く手の平に霊力を集中させてイメージすれば炎を起こせたので、しばらく練習して温度調整をできるようになってからやった。

  家そのものや部屋、家具の縦横の長さを測るのは視点を変えられるというシリルラに上空から手伝ってもらいながら地面を操作してやった。

  釘や木と木をつなぎ合わせる土は周りの地面から作り出して使った。もしかして土って最強の資源なんじゃね?と作業中に常々思ったのと、土から物を作り出すのが楽しすぎて作業後回復した後、また残りMPが空になるまで遊んでいたのは余談である。

  あ、あとちらほら寄ってきたグレイウルフから一つ新しいアイテムを手に入れた。


 …《灰狼のベルト》

  秘境『遥か高き果ての森』に生息するグレイウルフの魂が変質したもの。灰色の帯にグレイウルフの意匠の施されたバックルがついている。装備すると本能的な直感が研ぎ澄まされる。空腹に耐えれる時間が長くなる。


 それがこれだ。

  これを今元のベルトと差し替えて使っているのだが、わざわざ〝天日〟を使わずともつけてるだけで常に五感が研ぎ澄まされているので霊力の消費を抑えられてとても使い勝手がいい。まあ、権限レベルの関係でいくら使っても二、三分で全快するんだけど。ログキャビンをまるまる一つ作るために何度も木を運んできたりして沢山動いたのにあまりお腹も減らなかったので、それもかなり助かった。

  でも多分、この空腹に耐えれる時間が長くなるっていうのはエネルギー消費だけを抑えるという意味なんだと思う。普通に肉体の疲労は溜まっていったし。

  しかしそこは《灰狼のブーツ・疾風》の効果により、感覚では疲労も六割がた軽減できたのでプラマイゼロだ。

  さらに、ひたすら木を切る、運ぶ、切る、運ぶの繰り返しをしていると【疲労耐性】という通常スキルを手に入れた。これにより、合計で九割の疲労のカットを実現している。


 …これ、軽いチートなんじゃないだろうか。




  数度深呼吸して森の空気を取り込んだ後、中に戻って洗面所で顔を洗い、それから貯蓄しているグレイウルフの肉と捌く用の土ナイフを持ってくる。そしてテラスに積み上げてある昨日のうちに集めといた20センチくらいの長さの枝をナイフで削って鋭くし、肉を適当に切ってぶっさして、あらかじめテラスに設置してあった薪入りの土台の上で家を建てた際地面を操作した時にごろごろ手に入った手頃な大きさの石を使って火を起こす。

これを他人が見れば魔術で火を起こせばいいのではないか、と言われるかもしれないが、転生した際再確認した通り俺は元々陰道は得意ではない。

昔、修行の一環で一ヶ月ほど山の中に放り込まれた際生き残るために必死に水を作り出す方法と、小さい頃からよく土を使って霊力の操作技術の修練がてら遊んでいたのでその二つは難なくできるが、それ以外はからっきしだ。だからいちいち火を起こさなくてはいけない。

やがて火花が薪に燃え移り、数分待つと炎が大きくなってきたので肉つき枝を立てかける。


 ジュウゥ…


  肉の焼ける音があたりに響く。やがて表面が茶色になってくると、油が垂れて美味しそうな匂いもしてきた。


「よし、こんくらいでいいかな。いただきます」


  大体の感覚で中まで火が通ったのを確認し、火を消してかぶりつく。

  すると、口の中を甘い肉汁が駆け巡ってゆき非常に食欲を刺激してきた。

  俺はそれに逆らうことなく咀嚼を繰り返す。ああ、このわずかに残っている獣臭さがなんとも…


《…ごくり》


 …シリルラ、今つば飲み込まなかったか?


《さあ、なんのことでしょう》


 そうか?ならいいけど。


  それから数分後、肉を食べ終えたので手を洗い、あぐらを解いて立ち上がる。枝は焼却した。


「さて。腹ごしらえもしたことだし、張り切っていくか」

《私はナビゲーターをしっかりしますね》

 

  シリルラの言葉を聞きながら俺はテラスに取り付けた階段を降りて森の中に入っていく。

  今から何をしようとしているのか、と誰かに問われれば探索と答えよう。

  主な目的は魔物の分布と食料を調達できる場所、それと最も重要なのは川を探すことである。水分は何よりも重要かつ重宝するものだからな。ていうか主な理由はいちいち水を魔術で出すのが面倒くさいからである。

  食料にしたっていつまでも貯蓄している肉が持つわけじゃないし、さすがにずっとそれだけを食べていると飽きる。食にうるさい日本人としては、色々と食べてみたいのだ。魚とか果物とかその他諸々。

  幸いこの『遥か高き果ての森』にはほとんどのものが揃っているらしく、基本何でも手に入るとか。

  他にもポーションという回復薬の原料になる薬草とか異世界特有の未知の架空鉱石とか未知の魔物とか、考えれば考えるほど異世界での探索というものはテンションが上がっていった。


「それじゃあ、レッツゴー!」

《おー》


 ●◯●


  探索を開始してから三十分後、俺は携帯のヒュリス版マップとシリルラの的確なナビゲーションで無事大きな川を見つけることができた。できたのだが………

  俺は木の陰から、川の水面に口をつけているそれをこっそりと観察した。



「クルルルルル……」



 なんかいる。

  なんかっていうか、なんだあれ?でかい銀色のトカゲ?5メートルくらいはあるんですけど。全身の鱗が逆立ってて刺さったら痛そう。


《魔物図鑑で調べてみては?》


 それもそうだな。

  携帯のロックを解除し、インターネットから魔物図鑑を選出する。

  そしてキーワード検索を選び、『トカゲ、銀色』という文字を打ち込むと一番上にすぐそこのトカゲに酷似した写真付きの詳細が出てきた。



《ミスリルリザード》

 種族:蜥蜴種

  秘境『遥か高き果ての森』に生息する魔物。蜥蜴種系統の上位種で、名前の通りミスリルでできた鱗が全身を覆っている。

  武器は強靭な全身の筋肉と鋭い牙、同じ上位種のグレイウルフを即死させるほどの猛毒、多少の部位欠損なら即時再生するほどの回復力、そして最も軽く鋭い金属と呼ばれるミスリルの鱗の鎧で戦い、生まれつき非常に戦闘能力が高い個体が多い。

  同時に高い知力も併せ持ち、決して格上のモンスターには挑まず、自らの縄張りの中で格下か同格の魔物を狩って一生を過ごす。

  倒す方法は限られており、ミスリルより硬度の高い金属で脳を潰すか警戒心が薄れて鱗の隙間が出ている時に一瞬で首を切り落とすのみである。

  主食は主に肉で、死んだ他の魔物の死骸を漁る。

 稀に進化する個体がおり、その個体は進化した時点で『ボス』と同等の強さを誇る。

 



 …また上位種か!

  この森どうなってんだよ。上位モンスターってゲームだと終盤のステージに出てくる強いモンスターって感じだろ?なんで水を探しにきただけで出会えるんだ?


《私が説明しますかね?》


 あ、頼む。


  それからシリルラに説明されたことを要約するとこうだ。

  まず最初に、この『遥か高き果ての森』は伝説に数えられるほどの超危険地帯である。

  生息するのはほとんどが各系統のモンスターの上位種、現在森の外部では絶滅した種類の魔物、さらに『ボス』と呼ばれる通常の魔物とは比較にならないほどの強力な進化個体も何匹も跋扈しているとか。何者にも邪魔されず、弱肉強食の言葉通り強い魔物が弱い魔物を喰らい、さらに強く進化していったことで今の状態になっているらしい。

  場所は地上ではなく、浮島の中枢にある不思議な『エナジーコア』という宝玉の力で天空の遥か高い場所に浮かんでいる。

  『宝庫』の二つ名で呼ばれ、地上や『十大迷宮』と呼ばれるゲームでいうところのダンジョン的なものに存在するアイテム、資源の全てが自生や自然に作られたりしている。それらをなしているエネルギーは大気中にただよう濃密な霊力を『遥か高き果ての森』を浮かしている核が吸収し、運用、自己生成しているらしい。


  他にも色々と細かい説明がされたが、とりあえず今は必要なことだけを抜き出した。


 …なあ、シリルラ。


《なんですかね?》


 …俺、怒ってもいいよな?


《……さあ?》


  いや、マジでキレても誰も文句言わないって。

  だって考えてもみろ。自分のミスで命を吹き消しちゃって、挙句の果てに転生させたはいいけどまたミスってこんな場所に落とすとか。ステータス上昇率と魔術の力がなかったら即死してた自信がある。

  俺は必死に叫び声をあげたいのをこらえた。そんなことしたらミスリルリザードに勘付かれるし、他のモンスターも寄ってくるだろう。


  さて。じゃあ気持ちを切り替えて…ミスリルキター!

 

《すごいはしゃぎようですね》


  だってミスリルだぞ?よくライトノベルやネット小説とかでは魔法金属として扱われる有名な架空金属の一つ!この世界にもあったとは!ちょっと感動したよ。


《…ミスリルの詳細も説明しますか?》


 プリーズ。


《了解ですね》


  すると、脳内にミスリルの説明文が浮かんでくる。



…『ミスリル』

  ヒュリスの中で最も軽く鋭い金属として存在する金属。その魔力伝導率の高さから『魔法金属』とも呼ばれる。

  同時にヒュリスに存在する金属の中で6番目の硬度を誇り、火に対して強い耐性を持つため加工するのは困難を極める。

  ミスリルはとても希少な金属であり、『十代迷宮』の最下層、もしくは伝説の秘境『遥か高き果ての森』に生息するミスリルリザードの鱗を剥ぎ取る、もしくは鉱山にて稀に発掘されることで入手できる。成人女性の拳一つ分の大きさで全ての王国で平均価格千五百万リラもの超高額を誇っている。

  上記にある通りミスリルは『魔法金属』と呼ばれるほど魔力伝導率が高い。その伝導率は二百パーセント。よく王国の宮廷魔術師の杖などに装飾として使われる。



《…こんな感じですね》


  …ちょっと待って。成人女性の拳一つ分の大きで、平均価格千五百万リラ?つまり千五百万円?高すぎない?

  恐る恐るシリルラにそう聞くと、ミスリルリザードは非常に強力な魔物であり、並みの冒険者では倒せるような代物ではないらしい。更に迷宮での遭遇エンカウント率は極めて低いらしく、出会えること自体が稀ということだ。故に発見し討伐したものはある意味英雄視されるとか。

  次に採掘する方法だが、こちらも鉱山一つに3歳児の子供の平均体重と同じ量が取れれば大量だという。

  以上二つの理由により、ミスリルは人間の間ではぼったくりでは済まされないレベルの大金で取引されているらしい。

  時々金持ちや貴族、都市の領主などが蔵に眠っていたミスリルが使われたものを市場に流すことがあるらしいが、その際はすさまじい値段の上げあいによる戦争が起きるみたいだ。

 …うん、もう俺驚くの疲れたわ。



  で、今現在俺の目の前には体長5メートルはあるミスリルリザードがいるわけである。

  図鑑にはミスリルリザードの体長は3メートルで超巨大サイズと記載してあった。通常サイズはだいたい1メートル〜1メートル半。

  もう一度確認しよう。俺の目の前には、そんな常識を遥か彼方に放り投げた5メートルという規格外の怪物がいる。

  そして、ミスリルは成人女性の拳一つ分の大きさで千五百万もする希少金属。

  あのミスリルリザードから鱗を全て剥ぎ取って売ったら、いったいいくらになるのだろうか。

  もはや考えるのもバカらしい。推定では億を超えると思われる。

  しかし、金銭はこの森でレベリングを終えた後もし地上に降りる事ができた時人間の都市に行くのなら確実に必要になるだろう。俺は別に金が好きなわけではないが、ここで資金源を手に入れてもなんの損もない。むしろ命を落とすかもしれないリスク以外得しかない気がする。

  更に、ミスリルは魔力伝導率が高い。つまり霊力の伝導率が高い。その効率は二百パーセント。例えば霊力を100流せば200も武器の威力を増せるのだ。

  いったいどれほどの温度があれば加工できるのかわからないが、あの鱗で武器を作れば今後役に立つことは間違いない。


 結論、あのミスリルリザード狩ろう。

 

  そうとなれば早速あれを倒す方法を考え始める。

  たしか、倒す方法はミスリルより硬いもので脳を潰すか、一瞬で首を切り落とす、だったか。


《でしたら、ブーツの加速による特攻を提案しますね。一瞬の威力であればミスリル程度なら切断できるかと》


  なるほど。ならそれでいこう。なるべく鱗を潰したくないしな。

  俺は枝を踏んで音を立てる、なんてベタな展開を起こさないように静かに体を沈め、地面に手をつく。

  土ツールを作って遊んだ際わかったのだが、最初にグレイウルフを捌いた時のナイフを一本作るので霊力を100消費した。

  たった100であれだけの切れ味を持ったナイフを作り出せるのなら、例えば二十倍の霊力を込めて作り出したらどうなるのだろうか。

  俺は頭の中に両刃の剣を強く想像する。刀身は細く鋭く、切れ味に特化したもので。

  大体の方向性を決めて、最後に霊力を2000くらい地面に流し込んだ。


 ズズッ…


  すると、手のひらの中に拳二つぶんほどの剣の柄が飛び出てきた。

  それを一気に引き抜くと、綺麗な茶色をした二メートルほどの大太刀が姿を現す。

  持つだけでわかる…これは、かなり強い剣だ。土だけど。

  満足げに一つ頷き、軽く足に力を込めて跳躍し隠れていた木の枝の上に着地する。

  しっかりと両足でバランスをとると、剣を持つ右手を引き絞り、剣の腹を左手で支えた。

次いで、スキル【身体能力超強化Lv1】をいつも霊力を巡らせる感覚で発動する。


「シッ!!!」


  そして次の瞬間、俺はブーツの力により凄まじい速度でミスリルリザードに向かって一直線に跳んだ。

狙うは…首と胴体の繋ぎ目ッ!


「セアァッ!」


俺の声によりようやくミスリルリザードは頭をあげるが、その視線上に俺はいない。


トンッ!


なぜなら、霊力を空中で固めてそれを踏み身体ごと回転させたからだ。

回転により速度の増した大太刀の柄を両手で持ち、一気に振り下ろす!

すると、スパァンッ!!!という空気を切る音とともに、俺の斬撃によりミスリルリザードの頭が跳ね飛んだ。最初は少しだけ抵抗があったが、鱗の下はあまり固くなかったのか太い首をやすやすと切り離せた。だが勢い余ってそのまま川に墜落してしまう。


「ぷぁっ!冷たっ!」


  ゲホッ、頭から思いっきり突っ込んだから鼻に水入った…

  思わず咳き込んでいると、ふと自分の体に影がかかる。

  何事かと見上げてみれば、空高く舞ったミスリルリザードの頭部が落ちてくるところだった。

  慌ててその場から飛び退き、衝突を回避する。ミスリルリザードの頭は激しく水しぶきを撒き散らしながら川底に着地した。それでもなお下顎までしか沈んでいない。どれだけ巨大かがよくわかる。

  背後でもドッ、という重い音とともにミスリルリザードの体が地面に伏した。

  無言で頭部に近づいていき、切り口を見る。すると、なんのささくれもなく綺麗な切り口だった。


「…すげぇ」


  まさかここまで簡単に倒せてしまうとは。もうちょい面倒なことになるのを想定してたんだが。

  まあ、楽に倒せたのは悪いことではない。真正面から挑んでたらどうなってたのかわからなかった。

  早速血抜きをするために大太刀を川底に突き刺し、両腕で頭を持ち上げる。ミスリルの説明通り、見た目に反して結構軽かった。

 

「っと」


 ポウ…


  頭を縦にして一息つくと、見計らったかのようにミスリルリザードの頭部が白く輝き始める。えっ、これってもしかして…!?


  俺が動揺してる間にも光は強まっていきーーー


 カッ!!


  ーーーやがて光がおさまると、そこにはミスリルリザードの頭部の代わりに精緻な装飾の施された銀色の剣が突き刺さっていた。

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