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陰陽師の異世界騒動記〜努力と魔術で成り上がる〜  作者: 月輪熊1200
二章 神龍王国
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十六話 屋台回りとやっかみ

 

「あー、緊張した……」


  そう言って、俺は控え室の椅子に座り込む。背もたれに体重を預け、深く息を吐いた。


  俺は、演説の練習をしていた建物に戻ってきていた。今は、控え室にて体から力を抜いてるところである。


「お疲れ様でしたね。良いスピーチだと思いましたね」

「おう、ありがとなシリルラ……」


  そんな俺の前に立つ、恋人であるシリルラにそう返す。俺の脱力具合に、後ろのエクセイザーたちも苦笑していた。


  ああ、本当に疲れた。予想通り、あれだけの数を相手に演説するのはとんでもなく緊張した。


  いや、予想以上にというべきかな。それでも失敗せず終えられたのは、後ろにシリルラ達がいたのと、強靭な神の心があったからだろう。


  彼女たちはからかってきたが、好きな人たちの前で恥をかけるほど、俺は男を捨ててはいない。


  だからできる限り男らしく見えるように、堂々とした態度で臨んだ。自分的には合格点をやりたい。


  まあ、顔は女なんだけど。男装の麗人って言われてんのが聞こえて、思わずアドリブで演説の冒頭に入れちゃうくらい、マジで悩んでる。


 まあ、それはともかく。


  その二つなかったら……一体どうなっていたか、想像するのも恐ろしい。少なくとも、あそこまでうまくはいかなかった。


  特に演説を始める前の、シリルラのキス。あれのおかげで、最後の勇気をもらえた気がした。


「お役に立てたのなら、良かったですね」

「おう、本当にありがとな」

「いえ、例には及びませんね。夫を支えるのが、妻の役目ですからね」

「む、それは妾の常套句……」


  心なしか得意げな顔で言うシリルラに、エクセイザーが呟きを漏らす。俺は苦笑しながら、「ああ、そうだな」と返した。


「それはそれとして。最後のあれ、予定になかったよな?」


  胸を張るシリルラと不満そうなエクセイザーが向かい合ってるのを見てると、俺の側に座ったヴェルがそういった。


  彼女が言っているのは、『龍の鉄血(シラヌイ)』によるパフォーマンスのことだろう。確かに、あれは事前に決めた段取りにはなかった。


  あれは、シドをぶっ飛ばしたときの金棒の応用だ。俺の血を浴びたミスリルを使ったからか、『龍の鉄血(シラヌイ)』は非常に『神樹』との親和性が高い。


  『龍の鉄血(シラヌイ)』を通して、俺の中にある【神樹の子(セフィラ)】の力を操作して木を作り上げた。


  ……そういや、ここに来るまでシドの顔を見てないな。なんだか嫌な予感がするが、気のせいだと願いたい。


  そしてあれをやったのには、パフォーマンスの他に別の意味がある。


「……事前に聞いてた有力な奴らの何人かが、シリルラのことを下衆な目で見てた」

「くくっ、なるほどな。つまり、俺の女に手を出すな!って牽制したわけか」

「…ま、そういうことだ」


  たとえ誰だろうと、シリルラのことをそんな目で見るのは絶対に許さない。だから必要以上に力を示した。


  自分の彼女を邪な目で見られて、平然としてる男などいないはずだ。少なくとも、俺は警戒するし敵視する。


  先ほど皆を守ると言ったが……シリルラや、エクセイザー達に手を出した場合は別だ。その瞬間、俺はそいつを敵と認識する。


  まあ要するに、何が言いたいかっていうと……シリルラに手を出したら誰であろうとぶっ潰す。


「ふふ、愛されとるのう」

「……ありがとうございます、センパイ」

「ん?おお、聞いてたのか」


  てっきりエクセイザーと二人、いつものように対面してて聞いてなかったと思ってた。


  一人だけ首を傾げてるヴェルに、少し恥ずかしいが思ってたことを説明する。するとなるほど、と頷いた。


「まあつまり、そういうことだ。納得してくれたか?」

「おう、よく理解できたぜ。ところで…」


  ヴェルが、真剣な顔でずいっとこちらに顔を寄せてくる。いきなりの行動に、俺はたじろいだ。


「それが私でも……そう思ってくれんのか?」


 ……なんだ、そんなことか。


「…当たり前だろ。ヴェルだって、俺の大切な家族だから」

「……ふふっ、そうか。そうかそうか!」


  彼女の問いかけに答えると、突然笑顔になったヴェルは俺に飛びついてきて、膝の上に乗っかったかと思うと、俺のことを抱きしめた。


  ヴェルの両手に抱えられた俺の頭は、彼女の大きな胸に押し当てられる。ちょ、ヤバイヤバイ!なんか柔らかいしいい匂いするし!


  なんとか引き剥がそうとするものの、上機嫌な彼女はかなりの力を込めているのか、決して離そうとしなかった。


  諦めて、なされるがままになっていると、しばらくしてようやく解放される。胸の感触からも逃れられた。


「へへっ、ありがとなリュート」

「……おう」


  それでも、ヴェルのこの笑顔を見たら、多少の恥ずかしさなんてどうでもいいような気がした。



 ポスッ



「ん?」


  ヴェルの笑顔に苦笑していると、不意にそばに立てかけてあった『龍の鉄血(シラヌイ)』が足に倒れてきた。


  角度的に、事前にこちらに倒れて来ることはありえない。それに、ほんの少しカタカタと震えているような気がした。


「……ありがとう。役に立ってたぞ」


  そう言って柄を撫でると、『龍の鉄血シラヌイ』は震えるのをやめる。やっぱり、自我があるんだな。


  『龍の鉄血(シラヌイ)』の柄を撫でていると、こほん、とエクセイザーが咳払いをする。そちらに目を向ける俺たち。


「さて。改めて此度の演説、ご苦労じゃった。まことに見事じゃったぞ」

「ああ、お前らが励ましてくれたおかげだ」


  色々と言ったが、結局俺がうまくやれたのは彼女達が励まし、後ろにいてくれたから。それ以外のなにものでもない。


「ふむ。そう言うならば、妾達はお主にちょっとしたお礼を要求してもよいかの?」


  そう考えていると、待っていましたと言わんばかりに、エクセイザーはそんなことを言った。



 ●◯●



「お礼?」


  俺がおうむ返しに聞き返すと、エクセイザーはうむ、と頷いてシリルラの方を向く。

 

「妾達は後で求めるとして……最後に勇気を与え、一番の功労者のシリルラと、二人で祭りを回ってきたらどうじゃ?」


  どうだ?と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべていうエクセイザー。どうやら彼女は、最初からこれをいうつもりだったようだ。


「……なるほど、つまりデートをしてこいというわけですね?」


  エクセイザーの言葉に、静かにそう言うシリルラ。堂々とした態度を崩さず、頷いて肯定するエクセイザー。


  デートか……そういえば、地球にいた頃、瑠璃と二人で夏祭りとかいったっけ。あの時は楽しかったな。


  いろんな屋台を回って、最後に花火を見たりもした。瑠璃の浴衣姿がとても綺麗だったのを覚えている。


  ……あの時と規模はまるで違うが、もう一度体験してみるのもいいかもしれない。今は関係性も異なっていることだし。


 《……随分と片割れのことを考えているようですが、私はシリルラであって、瑠璃ではないですからね。そこをお間違えなきよう》


  頭の中に直接語りかけられる。見れば、彼女はほんのわずかに頬を膨らせていた。見慣れていなければわからないような、ごく微細の。


  …そうだよな。確かに記憶を共有しているとはいえ、瑠璃は瑠璃、シリルラはシリルラだ。


  本質的には同じで、しかし違う存在。それを失念していた。そうなると初デート、になるのか。


「それで、どうじゃ?行くのか?行かんのか?」

「そういうことなら、行かせてもらおうかな」

「同じく」


  了承の意を返した俺たちは、一旦解散して準備をすることにした。タキシードのままじゃ、目立つからな。


  そうしてシリルラ達が控え室を出て行こうとした、その時。


「……パパ」


  ひょっこりと、控え室の出入り口からウィータが顔をのぞかせた。いつからそこにいたのだろうか。


  そういえば、そんな名前の芸人がいたっけ、なんてくだらないことを考えながら手招きをすると、ウィータはトテトテと中に入ってくる。


  俺の下まできたウィータは、俺のズボンの裾を握ると、何かを訴えるように見上げてきた。


「どうした?」

「……お祭り、行くの?」

「ああ、シリルラと二人で……」


  そこまで言いかけたところで、はっとする。もしかして、ウィータは……


  もう一度ウィータを見ると、今度はその目が何を言いたいのかわかった。というか、私も行きたい!というオーラが滲み出てた。


  いつから聞いていたのかわからないが、ウィータはお祭りに行きたいのではないだろうか。


  思えば、俺が将棋を作ってる時も膝の間からキラキラとした目で見てた。ウィータは、面白そうなものが大好きなのだ。


  そんなウィータが、お祭りなんて楽しそうなものを見逃すはずがない。だからどうせなら一緒に、ということか。


  俺は、ぽんとウィータの頭に手を置く。そして自分なりに優しく笑いかけた。


「一緒に行くか?」

「……!」


  コクコク!と強く頭を縦に振って主張する。予想的中か。けどこれで、シリルラと二人ではなくなってしまった。


  彼女のほうをみれば、仕方がないですね、とでも言いたげな笑みを浮かべて肩をすくめていた。優しい(自称)奥さんに涙が出そうだ。


「ていうわけで、ウィータも連れてくけど…いいか?」

「ふむ。想定とは少し違うが、まあよい。連れていってもよいぞ。ただし、ちゃんと見ておくことじゃ」

「ああ、わかってる」


  ということで、飛び入りでウィータの参加が決まると、今度こそ解散する。


  皆が出て行くと、俺はすぐに着替えはじめた。タキシードを脱ぎ、控え室に設置されていたクローゼットの中から服を取り出す。


  着替えるのに、そう時間はかからなかつた。ユキさん製の服だけあって、すぐに肌になじんで着心地も良い。


  パーカー型に変形した〝龍女神の外套〟を着ると、さて、ととある一点を見て悩む。俺の視線の先にあるのは、真紅の剣……『龍の鉄血(シラヌイ)』。


  こいつはなかなかの頑固者だ。知っての通り、どこに置いてきてもいつのまにか側にいる。まるで転移でもしてるように、全く気配を悟らせずに。


  さらに困ったことに、〝アイテムポーチ〟に入るのも嫌がる。入れようとすると、ひとりでに手の中から吹っ飛んでいくのだ。


  そのため、常に手で持つか、先ほどのように体のどこかに携帯していなければならない、という欠点がある。


  さて。そんな中、俺はこれからシリルラとお祭りデートにいくわけだ。ここで一つ、問題が生じる。


  ウィータがいるとはいえ、彼女とのデートに刃物を持ち歩いてく馬鹿な男が、果たしているだろうか?


  答えはノーだ。大昔の武士は意中の相手といるときも刀を携帯していただろうが、俺は陰陽師とはいえ、一応現代人である。


「はあ、どうしたもんか……」


  そう呟いてため息をついたのが、トリガーになったのか。突然、『龍の鉄血(シラヌイ)』が震え始める。


  一体なんだ、そう思った瞬間、『龍の鉄血(シラヌイ)』が浮遊してこちらに飛んできた。思わず身構えてしまう。


  俺に向かってきた『龍の鉄血(シラヌイ)』は、飛翔しながらその形を変えていき、ほして俺の首に巻きつく。


  チャリン、と変形した『龍の鉄血(シラヌイ)』が音を立てる。恐る恐る、自分の首を見下ろした。


  すると、そこには真紅のチェーンに吊るされた、同じく真紅の剣の形をしたペンダントがあった。こんなことができたのか。


  ペンダントになった『龍の鉄血(シラヌイ)』に触れると、俺はよし、と気合を込めて、部屋を後にした。



 さあ、デートに向かおうか。



 ●◯●



  建物から出て、しばらく待っていると、二つの足音が建物の中から向かってきたので精神統一をやめる。


「龍人様」

「パパ」

「おう、来たかーー」


  二人の声に目を開け、寄りかかっていた壁から背中を離して目を向けた。するとーー。


「ふふ、どうしました?」


  唖然とした顔をする俺に、くすくすと楽しそうに笑うシリルラ。そんな彼女は、鮮やかな群青色の浴衣を着ていた。


  白い紫陽花の刺繍が施されたそれは、彼女の清楚な美しさをさらに引き立たせている。下駄を履き、手には巾着袋を携えていた。


  瑠璃色の髪の揺れる顔からは眼鏡が外され、美しい瞳が露わになっている。いつもと違うその姿に、心底見惚れた。


  そしてこれは……あの時、夏祭りに行った時の瑠璃と、同じ格好だった。


「お褒めいただき、ありがとうございますセンパイ」

「……えっと、なんていうか。綺麗だぞ、シリルラ。ていうか、それどこから?」

「ユキ様に頼んで作ってもらいましたね」


 ユキさんマジグッジョブ。


  どこからか、 「ん、当然」と言いながらサムズアップしてるユキさんの姿を幻視した。


「……パパ、私は?」


  くいくいっと俺のズボンの裾を引くウィータ。なんだか最近、ウィータがこうやって俺を呼ぶのが定型化してる気がする。


  ウィータに目を向ければ、我が愛しの娘もまた浴衣を着ていた。いつもと同じなのは、蘇芳色であるということ。そこに、鮮やかな花が大胆に咲き誇っている。


「ウィータも、世界で二番目に可愛いぞ」


  ちなみに一番はシリルラだ。そこは絶対に譲れない。


「ふにゃ……」


  頭を撫でると、フニャッとした顔になる。そんなウィータの脇に手を差し込むと、自分の肩に乗せた。いわゆる肩車ってやつだ。


  片手でウィータの体を抑え、しっかり俺の頭を掴んだのを確認すると、空いた手をシリルラに差し出す。


  彼女はそれをしっかりと握る。それどころか、指を絡めてきた。びっくりとするが、まあ別にいいだろうと思い直す。


「行こうか」

「はい、龍人様」


  まるでここからは瑠璃としてではなく、シリルラとして、とでも言うように呼び方を変えたシリルラの手を引いて、俺は祭りに出発した。


  建物と屋台のある場所はほど近い場所に隣接しており、少し歩くとガヤガヤという喧騒が聞こえてくる。


  程なくして、視界にも楽しげな声で賑わう人混みがみえてきた。それに、堂々と入っていく。


  人混みに入るとすぐ、俺たちをみて驚いた顔をする人間や魔物が何人もいた。そして近くにいたものの肩を叩いている。


  伝染式に俺たちに視線が向いていき、たった数十秒で皆がこちらを見るようになった。


「……パパ、ちょっと怖い」


  すると、ウィータがそう言って俺の頭をぎゅっと抱えた。それにすぐに反応した俺は、ほんの少し威圧感を放出する。


  すると、今はジロジロ見るのことは駄目だとわかったほとんどの目線が散った。それでも、多少はこちらをみてる奴がいるが。


  まあ、この程度なら大丈夫だろうと思い、ウィータの背中を撫でて進んだ。今度は視線に悩むこともなく、自由に屋台を見れる。


  祭りは、かなりの盛況だった。そこかしこから客を呼び込む声や、鉄板で食材の焼ける音、遊戯で盛り上がる声が聞こえた。


 この世界には、名前は違うが地球の食材と見た目も味も酷似したものが沢山ある。そのため、縁日や祭りでみれるようなものもちらほらみて取れた。


  例えば、焼きソヴァ(バじゃなくてヴァだ、ここ重要)やクラーケン焼き、お好み焼き等の鉄板料理。


 そしてチョコバヌヌやランガ飴、ベビーカストラなど、手軽に食べれる甘いもの。遊戯としては射的とか宝釣りもやってる。


  さて、どこから行こうかと考えていると、髪と手が同時に引かれた。どうやら二人ともご所望のものがあるみたいだ。


「二人とも、何かやりたいものあったか?」

「「あれ(ですね)」」


  二人が当時に指差したのは、ランガ飴の屋台だった。林檎っぽい果実を飴で包んだものだ。


  早速、その屋台の列に並ぶ。幸いそこまで並んでおらず、すぐに俺たちの番が来た。


「すみません、ランガ飴二つお願いします」

「へいらっしゃい、すぐに……って、す、スメラギリュウトさん!?」


  角を生やした赤鬼の屋台の店主が、俺たちをみて驚いた声を上げる。どうやら、あの一時的に店を出て広場にいたらしい。


  またさっきと同じになったらたまったもんじゃないので、しーっ!と唇に人差し指を当てた。すると手で口を覆う店主。ノリがいいな。


「それで、ランガ飴いいですか?」

「へ、へい、ただ今!」


  慌てて店主はランガ飴を包み、渡してくる。俺は〝アイテムポーチ〟になっているパーカーのポケットから銅貨を4枚取り出して渡した。


  ちなみになんで金を持ってるかというと、屋敷にもある将棋とかビリヤードを、ユキさんたちに製造して売ってもらってる。


  そして、その売り上げの一部を貰っているのだ。流石にいつまでも無一文じゃいられないからな。


  といっても、まだ俺が復活してから10日と少し。販売開始してから一週間分の売り上げしかないので、そこまで無駄使いはできない。それでもかなりの額だけど。


「二つで四百リラです!」

「ありがとうございます」

「へ、へい!今後もご贔屓に!」


  最後まで恐縮してた店主に少し申し訳なく思いながら、屋台から離れる。まさかあそこまでとは。


  屋台を後にして少し歩くと、ランガ飴をシリルラに一つ渡し、もう一つはウィータに差し出した。


「ほい、あーん」

「んむ…おいひい」


  ランガ飴をかじったウィータは、シャリシャリポリポリと音を立てながら咀嚼する。ウィータはそのまま俺の手からランガ飴を取ると、頭の上で食べ始めた。


「……ん、確かに美味しいですね。片割れの記憶にあるものとよく似てますね」

「へえ、そんなに再現度高いのか」


  ちょっと食べてみたいな、なんて考えていると、シリルラが食べますか?と言って自分のものを差し出してくる。


  ……えーと。これはつまり、そういうことになるんだよな。「はい、あーん」ってやつでいいんだよな?


  少し気が引けたものの、ずっと躊躇してるのも悪いので一口かじらせてもらう。すると、懐かしいりんご飴の味が口内に広がった。


「おお、確かに美味しい」

「ふふ、ですよね?」

「パパ、私のも」


  ペチッと鼻頭に当てられたウィータのランガ飴を、苦笑しながらかじる。うん、こっちもうまい。


  娘と彼女にランガ飴をもらうという幸せ度MAXな状態になりながら、俺たちは屋台回りを続けた。


  地球で何度もやったことのあるものや、この世界特有の珍しい出し物。色々なものを、3人で楽しんでいく。


  例えば、ウィータが射的で一発ででかいのを当てたり、シリルラがまさに神運でクジの一等賞を引いたり、俺がダーツで全発真ん中に当てたり。


  ワイワイと騒ぎながら、祭りを楽しむ。それは、地球で瑠璃といった夏祭りと同じくらい、もしくはそれ以上に楽しいものだった。



 そして……



「……銀魚すくい?」

「金魚すくい、でしょうかね?」


  『一回五百リラ!』という看板の掲げられた屋台の水槽の中には、金魚の形をした銀色の魚、そして目玉の大きな白い魚が泳いでいる。


「パパ、これやりたい」

「ん、そうか?ならやるか」

「それなら、私もやりますね」


  シリルラもやるのか……そういえば、瑠璃は異常に金魚すくいがうまかったな。ほとんどとっちまって、屋台のおじさんが冷や汗を流してた記憶がある。


  あの時と同じ結果になるかもと思いながら、屋台のイタチみたいな獣人のおじさんにお金を払ってお盆とポイを受け取る。


  俺の肩から降りたウィータに渡し、シリルラの隣に下ろした。すると、二人は横並びになって水槽の前にしゃがみこむ。


  じっと見つめる二人の背中を、俺は静かに見守る。すると次の瞬間、シュバッ!と彼女たちの手が霞んだ。


  ぽちゃん、という音が手に持ったお盆からした。覗き込めば、そこには銀魚が数匹泳いでいる。ウィータは三匹、シリルラは八匹だ。


「おお、ウィータは初めてなのにすごいな」

「……えへん」

「記憶にあっても、実際にやるのとは違うますね」

「それでも八匹はすごいと思うぞ」


  しかし、初の銀魚すくいのウィータと、物理的には同じく初めてのシリルラはどちらともポイが破れてしまったのでそこで終わりだった。


  イタチのおじさんに水入りの袋に移してもらい、銀魚すくいは終わった。ちなみに、二人とも二匹に絞っている。


「お魚、泳いでる」

「ふふ、私もですね」

「ん、同じ」


  目をキラキラさせて銀魚入りの袋を見せるウィータと、しゃがんで自分の袋を見せ笑うシリルラ。まるで母娘か、仲の良い親戚のよう見える。


 



「おうおう!誰かと思えば、開会式ででかい口叩いてたガキじゃねえか!」





  それをカメラが欲しいな、と思いながら至福の気持ちでいる俺の耳に、ひどく癪に触る声が聞こえてきた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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