三話 『深まる謎』
郡山が傷だらけで帰ってきた日、二人は光音の家に泊まった。郡山はもちろん療養だが
海斗は違う。郡山の介抱を終え花月が自宅に帰った後、海斗が盗聴器を見つけたのだ。詳しくは花月が帰ろうと立ち上がった時、ポッケトから盗聴器が落ち花月は気づかず海斗が見つけたのだ。そして海斗が『光音先輩! 俺は先輩の家来っすから護衛のために泊まるっす』そんなことを言って泊まったのだ。
そんなことがあった翌日、光音と海斗は昨日の晩から悩んでいた。このことを郡山に話すかどうか。
「やー、お二人さん。おはよー」
二人の悩みを余所に郡山が適当な調子で起きた
「あ、あぁ。おはよう」
「おはようございます」
そんな郡山とは反対に二人は緊張している様子で返答した
二人の様子がどこかおかしいと気づいた郡山は
「ん? 何かあったのかい?」
そう真剣な表情で聞いてきた
「あ、いや......実はこんなものが見つかったんだ」
光音が言った。海斗と徹夜で考えた末にたどり着いた結論が『話す』だった
「え......こ、これは」
郡山の頬を冷や汗が撫でた
そして話を進めようと海斗が口を開いた瞬間、郡山が人差し指を口の前に運び『喋るな』の合図をした。
「とりあえず、僕を病院まで送ってよ。二人とも」
柔らかい表情でそう言う郡山
「あぁ......」
「うぃっす!」
光音の自宅を出ても緊張で重苦しい雰囲気は変わらず誰も口を開こうとはしなかった。その沈黙を先に破ったのは郡山だった。
「この盗聴器について二人で話した?」
郡山は何かを考えていたらしく考えが纏まりそう言った
「なんだよいきなり」
光音が言った
「いやー、もし盗聴器がまだ仕掛けられてたら、こっちは気づいてない振りするのが一番安全かと思ってね」
これが最善だと自分に確認するかのように郡山は言った
「あーそれならたぶん大丈夫っす! 俺と先輩が盗聴器って単語を発したのは、玄関だけっすから。玄関にまで盗聴器が仕掛けられてる可能性は低いっすよね」
記憶力の良い海斗は、断言した
「そっかー。それなら良いんだけどね」
郡山は気に掛かっていたことが解消され、肩の荷がおりた様子でいた
そして二人はこの盗聴器を花月が持っていたということを、どんな状況だったかなども含め、事細かく郡山に説明した。
程なくして病院に着いた三人。郡山は縁の診察を行なうため光音と海斗にデスクで待つよう言い、二人は仕方なく待つことにした。
「そういえば盗聴器持ってたのって花月さんなんすよねー。大丈夫っすか?」
よりによって光音が今一番考えたくない質問を投げかける海斗
「んー......」
花月の動機がまったく思いあたらず唸る光音
「流石に盗聴器は無視できないっすよー」
そこで何かを思いついたのか表情が晴れる光音
「あ! 今度花月の家に行ってみるか」
ただ疑うのではなく、疑いを晴らすために動こうと考えた光音
「それで何かわかるんすか?」
半目で光音を見る海斗
「いや、盗聴してるなら受信機みたいなの見つかるだろうと思って」
手振り身振りで必死に海斗を説得しようとする光音
「まぁ、何か情報も得られる可能性あるんでそれは賛成っす」
光音の必死さに折れてそう言ったのもあるが、本心からの言葉でもある海斗
「先輩」
「ん? なんだ......!?」
海斗の疑いの眼差しに少し怯む光音
「もう一つ質問なんすけど電子レンジの時、何か誤魔化したっすよね......」
海斗が光音に質問した瞬間、郡山が診察から帰ってきた。
「やーやーお二人さんお待たせ」
「ほ、ほんとに待ったぞまったく......」
光音は『ナイスタイミングだ先生!』と言いそうになったが、それを飲み込んだ
「じー......」
海斗は相変わらず疑いの眼差しを刺すが、光音は気づかない振りをした
「ん? 何かあったのかい二人ともー」
「いや、何もないさ。それより早速話を聞かせてくれ」
「あ!俺も聞きたいっす」
海斗は諦めたのか好奇心いっぱいの表情でそう言う
「あーそうだったね。まずはどこから話そうか。少し話をまとめるから待ってておくれ」
郡山の話が終わり、二人は縁のお見舞いをして病院を後にした。
「このあと俺道場に行くんだけど海斗はどうする?」
「まじっすか!? 先輩道場通ってんすか。見てみたいっす」
「んじゃ、一緒に行くか」
「うっす!」
道場に向かう二人。そんな中光音は郡山の話を思い出していた。
「まず話す前に、言っておきたいことがあるんだ」
「なんだよ」
光音がそう答えると、郡山は軽く微笑みこう言った
「不確かな情報は伝えずにおくからね」
「なんでっすか?」
海斗がそう聞くと、郡山の代わりに光音が答えた
「不確かな情報によって無意味な混乱を招くからだろ」
「うん。せいかーい」
郡山が『よく出来ました』と小バカにするような表情で光音を見た
「グッ......いいから早く話せよ」
あまり感情を表に出さない光音が少し怒りの表情を浮かた
「おっけー。まずBCLについてなんだけど、日本に在ったのは支部だったよ」
「支部? じゃ本部がどこかに在るってことか?」
光音が質問する
「そう本部はロシアにある。だけど本部に行くには時間が掛かるから仕方なく支部から出来るだけ、情報を抜き取ろうとしたんだよ」
「潜入でもしたのか?」
「かっこいいっす」
「いやそれが......誰も居なかったんだよ」
「ん? どういうことだ?」
「正確には、ついこの前隕石落ちたでしょ? その時直撃したみたいで」
「ぜ、全滅ってことか?」
緊張した面持ちで生唾を飲み込む光音
「んーそう思ったんだけど、どうやら違うみたいで。血痕とか人が傷ついた様子がまったく無かったんだよ。壊れた大量の機械はあったんだけどね」
苦い表情でそう言う郡山
「それじゃ収穫なしか?」
光音が聞く
「いや! その大量の機械の中に無事だった物が何個か見つかってね。どうやらデータによるとトランスセルウイルスの摘出に成功したって言うログがあったんだよ」
「てことはやっぱり治療は成功してたんだな?」
笑顔でそう言う光音
「そう信じたいけど、その時になんだか怪しい写真を見つけたんだよ。ほら」
そう言いながら写真を見せる郡山。その写真には水色の液体で満たされた水槽の中に、複数のチューブで繋がれた人の姿が映っていた。
「うわ! なんすかこれ......」
「これは......なんなんだ?」
光音と海斗は不快な表情を浮かべそう言った
「うーん......患者だと信じたいが実験体の可能性が高いね」
そう言う郡山の目には悲しみの色がみえる
「そうなると詳しく調べた方がよさそうだな。次からは俺も一緒に行かせてもらう」
光音が力強い目でそう言う
「じ、じゃあ俺もっす」
光音に続いて海斗もそう言う
「いや学校はどうするの? それに危ないから」
「危ないって傷だらけで帰ってきたから説得力はあるけど、一人じゃ尚更危ないだろ」
「そういえば、あの傷はどこで負ったんすか?」
「それは支部から帰る途中に狂獣に襲われたんだよ」
「狂獣?」
二人は首を傾けた
「あぁ、二人は狂獣見たこと無いのか。トランスセルウイルスに侵された動物のことだよ。各町の安全地帯には基本的にいないから安心して」
「町から出ると危ないってことか。やっぱ一人じゃ危ないな俺と海斗が手伝う。先生に拒否権は無いからな」
「そうっす! 助け合いっす」
「わ、わかったよ。じゃ行くときは連絡するから」
渋々首を縦に振った郡山
そんな会話を思い出していると、光音の隣でなにかを叫んでいる海斗
「せ、先輩! あれなんすか?」
蒼ざめた表情の海斗
「!? あれってまさか」
海斗とは反対に警戒の色を浮かべる光音。二人の目に映るのは............